アトラスのナビに従って、俺はすぐに問題の店までたどり着いたが、その頃にはすでに事態は収束しそうな状況だった。
「ジャスティス! 平気か?」
俺がパッカーを停めて駆け寄ると、ジャスティスは驚いた顔をした。
「D.J.? 一体どうしたんだよ。ここはお前の担当じゃないだろ?」
「あぁ、イケモトから話を聞いて心配になって様子を見に来た」
イヤホンからはしばらく黙っていたイケモトとアトラスが、しきりに「どうなってる? おい、大丈夫か?」と訊いてくる。
苦情を訴えに外に出てきていた中年の男は、笑いながら、
「いや、こっちもいきなり怒鳴り散らして悪かったよ。だ少しだけ気にかけといてくれよな」
と背を向けて帰っていった。
『おい、D.J.どうなんだ? やばそうか?』アトラスが心配して訊ねる。
「いや、どうやらジャスティス一人で収めたみたいだ」
『流石だね』イケモトが再びヒュウーっと口笛を鳴らした。
「まさか、お前ら俺が相手と喧嘩するんじゃないかって心配して来やがったな?」
ジャスティスはあっけらかんと笑いながら俺のイヤホンマイクに顔を近づけて声を張った。
なんにしても、大事にならなくてよかったよ。
俺は車に戻って、自分のコースを再開した。少し走ると、ジャスティスが複数通話に偉ぶった口ぶりで参加してきた。
『よぉ諸君、心配かけて済まなかったな。だけどこの通り、俺だって紳士的に対応出来るんだぜ?』
『やれば出来るじゃないか。お前にしては上出来だよ』アトラスがジャスティスを褒める。
『まったく、ハンサムの一件で俺たち可燃組はハングマンとB.F.に目をつけられてるからな。今はおとなしくしておくに限るよ』
イケモトがいう。
確かに俺たち可燃班は、今ハングマンたちに目をつけられている。B.F.のように媚びてへつらわない俺たちをハングマンは気に入らないんだ。だが俺たちの仕事は、ある程度の体力さえあれば誰にでも出来る内容である反面、率先してやりたがる人はいない。
募集は一年中出しているらしい。それなりに応募もある。面接で落とされるような奴はいない。免許があって日常会話ができれば、会社としては誰だっていいんだ。
しかし面接を受けにくる大抵の連中は、市がやってるようなやり方ーー昼間から一台の車に数人乗り込み、ゆったりとゴミを回収するーーそんなイメージで応募してくる奴ばかりだ。実情がえらく違うその差に驚くのか、入社しても研修期間中に消えていくのがほとんどだ。
熟練の長距離ドライバーや、長年設備系の仕事をやってきた根気のありそうな奴もわんさか来る。変わり種では元AV男優だった男もいた。研修を受けるまでは、皆自信ありげにやる気を見せる。給料がいいからな。
しかしほとんどは、
「イメージと違った」
こう告げて消えていく。
「まぁ~た、新人君が、ダメだったみたいだよぉ~? まったく、ガッツのある奴はどこぞにいないのかね」
そうやって尻尾巻いて逃げていく連中のことを、うちの会社の奴らはこぞって呆れたように笑い蔑みながら馬鹿にした。
「こないだ来たおっちゃんも、変わり者だったね~。電話しても、出ないんだろ? いきなり? 三日しか持たないってひどいね」
辞めていく奴は変わり者、続かない奴は変わり者――だけど本当にそうなのか?
果たして尻尾巻いて逃げた連中が本当に変わり者なのか、それともこんな環境の中でこんな仕事をやっていられる俺たちが変わり者なのか? 三日続かない、連絡もなしに、とんずらしてしまう、そんな仕事――もしかしたら、そんな仕事から逃げ出す奴らがまともで、この仕事を『天職』のように続けていられる俺たちの方がどうかしてるのかもしれないな。
結局のところ、この業界は万年人手不足状態。だから、目をつけられたからといっても、そう簡単にコースを降ろされるなんてことにはならない、普通はな。しかしうちの職場に至っては、そんな常識がまるで通用しない。
なんてったって、現場の副主任であるハングマンが、自分に媚びへつらわない奴は容赦なくコースから引きずり降ろす大馬鹿野郎だからだ。後先ってものをまるで考えてない糞野郎だよ、まったく。
現場の主任はどうなのかって?
もちろん、いることはいる。
だが『キャプテン』と呼ばれる主任は、まるで覇気がなく、小心者で、自分の主張というものがまるで見えてこないお飾り主任だ。
実質、現場を仕切ってるのはハングマン。
俺たちも、過去に何度かハングマンの横暴を抑えてもらおうとキャプテンに掛け合ったことがあるが、返事はいつも一緒。
「言っておくよ」
こう言えば俺たちが納得すると思ってやがる。
結局のところ、飾りは所詮飾り。俺たちは自分の身は自分で守らなきゃならないのさ。
「ジャスティス! 平気か?」
俺がパッカーを停めて駆け寄ると、ジャスティスは驚いた顔をした。
「D.J.? 一体どうしたんだよ。ここはお前の担当じゃないだろ?」
「あぁ、イケモトから話を聞いて心配になって様子を見に来た」
イヤホンからはしばらく黙っていたイケモトとアトラスが、しきりに「どうなってる? おい、大丈夫か?」と訊いてくる。
苦情を訴えに外に出てきていた中年の男は、笑いながら、
「いや、こっちもいきなり怒鳴り散らして悪かったよ。だ少しだけ気にかけといてくれよな」
と背を向けて帰っていった。
『おい、D.J.どうなんだ? やばそうか?』アトラスが心配して訊ねる。
「いや、どうやらジャスティス一人で収めたみたいだ」
『流石だね』イケモトが再びヒュウーっと口笛を鳴らした。
「まさか、お前ら俺が相手と喧嘩するんじゃないかって心配して来やがったな?」
ジャスティスはあっけらかんと笑いながら俺のイヤホンマイクに顔を近づけて声を張った。
なんにしても、大事にならなくてよかったよ。
俺は車に戻って、自分のコースを再開した。少し走ると、ジャスティスが複数通話に偉ぶった口ぶりで参加してきた。
『よぉ諸君、心配かけて済まなかったな。だけどこの通り、俺だって紳士的に対応出来るんだぜ?』
『やれば出来るじゃないか。お前にしては上出来だよ』アトラスがジャスティスを褒める。
『まったく、ハンサムの一件で俺たち可燃組はハングマンとB.F.に目をつけられてるからな。今はおとなしくしておくに限るよ』
イケモトがいう。
確かに俺たち可燃班は、今ハングマンたちに目をつけられている。B.F.のように媚びてへつらわない俺たちをハングマンは気に入らないんだ。だが俺たちの仕事は、ある程度の体力さえあれば誰にでも出来る内容である反面、率先してやりたがる人はいない。
募集は一年中出しているらしい。それなりに応募もある。面接で落とされるような奴はいない。免許があって日常会話ができれば、会社としては誰だっていいんだ。
しかし面接を受けにくる大抵の連中は、市がやってるようなやり方ーー昼間から一台の車に数人乗り込み、ゆったりとゴミを回収するーーそんなイメージで応募してくる奴ばかりだ。実情がえらく違うその差に驚くのか、入社しても研修期間中に消えていくのがほとんどだ。
熟練の長距離ドライバーや、長年設備系の仕事をやってきた根気のありそうな奴もわんさか来る。変わり種では元AV男優だった男もいた。研修を受けるまでは、皆自信ありげにやる気を見せる。給料がいいからな。
しかしほとんどは、
「イメージと違った」
こう告げて消えていく。
「まぁ~た、新人君が、ダメだったみたいだよぉ~? まったく、ガッツのある奴はどこぞにいないのかね」
そうやって尻尾巻いて逃げていく連中のことを、うちの会社の奴らはこぞって呆れたように笑い蔑みながら馬鹿にした。
「こないだ来たおっちゃんも、変わり者だったね~。電話しても、出ないんだろ? いきなり? 三日しか持たないってひどいね」
辞めていく奴は変わり者、続かない奴は変わり者――だけど本当にそうなのか?
果たして尻尾巻いて逃げた連中が本当に変わり者なのか、それともこんな環境の中でこんな仕事をやっていられる俺たちが変わり者なのか? 三日続かない、連絡もなしに、とんずらしてしまう、そんな仕事――もしかしたら、そんな仕事から逃げ出す奴らがまともで、この仕事を『天職』のように続けていられる俺たちの方がどうかしてるのかもしれないな。
結局のところ、この業界は万年人手不足状態。だから、目をつけられたからといっても、そう簡単にコースを降ろされるなんてことにはならない、普通はな。しかしうちの職場に至っては、そんな常識がまるで通用しない。
なんてったって、現場の副主任であるハングマンが、自分に媚びへつらわない奴は容赦なくコースから引きずり降ろす大馬鹿野郎だからだ。後先ってものをまるで考えてない糞野郎だよ、まったく。
現場の主任はどうなのかって?
もちろん、いることはいる。
だが『キャプテン』と呼ばれる主任は、まるで覇気がなく、小心者で、自分の主張というものがまるで見えてこないお飾り主任だ。
実質、現場を仕切ってるのはハングマン。
俺たちも、過去に何度かハングマンの横暴を抑えてもらおうとキャプテンに掛け合ったことがあるが、返事はいつも一緒。
「言っておくよ」
こう言えば俺たちが納得すると思ってやがる。
結局のところ、飾りは所詮飾り。俺たちは自分の身は自分で守らなきゃならないのさ。