いつの間にか、ジャスティスは酒が回って眠ってしまった様子で、呼びかけても反応がない。気が付けば、そろそろ日の出という頃合いだった。
『今頃、ハングマンとB.F.は競技場辺りか? あそこはキツイからな。でも二人なら楽勝か?』
 アトラスが言うと、イケモトが否定した。
『きっと、ハングマンは車から降りないだろう。B.F.一人にやらせてると思うよ』
 確かにハングマンはガツガツ動くタイプじゃない。運転は自分で、回収作業はきっとB.F.にやらせてるだろうと俺も思った。
「あそこは一人じゃキツイからな……。近々、ハンサムとかに現場を振るんじゃないか? まがいなりにも、B.F.はリーダー権限があるからな」
 そういって俺が軽く脅すと、ハンサムは怯えた声で必死に抵抗した。
『嫌だよ! あんなとこ、俺一人じゃ絶対無理だよぅ! 無理、無理、無理ぃ!』
 冗談で言った俺の発言に、全力で抵抗するハンサムに、また笑いが起こる。
『でも、お前のルートなら行けない距離でもないだろう?』
 アトラスがさらに突っ込む。
『確かに行けない距離じゃないけど、あんな過酷なとこ! 華奢な俺じゃ絶対無理だ!』
 堂々とヘタレ自慢をするハンサムが、逆に男らしくすら感じた。

 ハングマンとB.F.が今の地位に上がる前までは、可燃回収のコースは、全員分俺が作っていた。
 その頃はまだリーダーなんて役職はなく、キャプテンから指示された新規回収先のリストを、俺が皆に振り分けていたんだ。
 パッカーでの回収業務がすべて終わってから事務所でやるデスクワークだ。もちろん俺たち用の机なんてないから、トイレの前のベンチと小さな丸テーブルでだが、缶コーヒーを飲みながらのサービス残業みたいなもんさ。本来ならキャプテンの仕事だろと突っ返したいところだが、現場をよく知りもしないキャプテンにコースをいじられて痛い目見るのは自分たちだから、仕方なく俺がやっていた。
 適当に振り分けるといっても、俺なりに頑張っていた。皆のコースを見比べながら、地図を何枚も並べ、自分で言うのもなんだが、結構必死に割り振った。
 誰からも文句は出たことがないから、それなりに納得のいく割り振りができてたんじゃないかと自分では思っている。
 競技場の案件が新規にあがってきたときも、俺は初め、ハンサムのコースに付けようと思っていた。が、今とまったく同じ台詞を吐いたハンサムに不安を覚えて考え直した。可燃のメンバーで一番ガッツのあるやつといえばジャスティス以外にいない。で、ジャスティスに競技場担当になってもらった。
 代わりといってはなんだが、ジャスティスのコースから、比較的楽そうなコンビニを十数件抜いて他の奴らに少しずつ振った。その作業もやはり大変だった。あのときほど市街地図を読み込んだことはない。
『華奢ってなんだよ。明日からスカートでも履くか?』
『競技場行かなくていいならスカートでもなんでも履いていいよ! だけどせめてキュロットにしてくれ!』
『キュロットって古すぎだろ! せめてガウチョって言えよ』
『ハンサムなら、スカンツでも似合いそうだ』
『ガウチョとか、スカンクとかなんだよぉ? その臭そうな名前? もうほんと、俺カタカナわかんねえんだよぉ』
『じゃあスカーチョだ』
『なにそれ、スナック?』
「ハンサム、安心しろ。わかってるのはイケモトだけだ! 俺もわからん!」
 俺たちはそんな冗談を言い合って、笑いあった。
 けど、そんな冗談が翌日には本当になってしまったんだ。