回収を終わらせた俺は、処分場へとやって来た。入場ゲートをくぐり、計量器に車を乗せると、事務所から職員が出てきた。
「内容物の検査をするから、投入ステージの指定された場所でゴミをすべて出してくれるか?」
抜き打ちだ。処分場では、月一ぐらいのペースで、こうして回収物の抜き打ち検査を実施している。
可燃ゴミとして不適切なものが積み込まれていないかのチェックだ。もちろん人の目に万全はないから、ある程度の混入は仕方がない。だから向こうも大目に見てくれるが、明らかにこれは? というものは言い逃れが出来ない。
そういったもの――鉄骨だったり、コンクリートの塊だったり、過去には自転車や原付きバイクが出てきたこともある。
捨てる方も捨てる方だが、それ以前に、ついつい間違えましたレベルでパッカー車に放り込めるようなものじゃない。空から降ってきた原付が、たまたま停車中のパッカーの巻き込み口に偶然落ちたとか、通りすがりの誰かが担ぎ上げて放り込んだとかか? ないな。つまりは故意――わかってて積みましたってことだ。
さっきも言ったように俺たちは市の許可を受けて仕事をしている立場だ。だからそんなことがバレれば、会社の信用は失くなり、許可取り消し処分になりかねない。社員全員、職を失うリスクがある。仲間をそんな危険に晒すわけにはいかないからこそ、俺たちは回収するゴミにも気を回さなきゃならないんだ。
つまり、こういった抜き打ち検査は、俺たちみたいなだらけた連中に、毎日サボらずしっかりやれよ! っていう抑止力になるという訳だ。と、ここまでは優等生の回答。当然大幅に時間を奪われ、外れくじを引かされた気分になるだけだ。マジでやめてくれ。
検査をパスし、処分場を出る。
「おい、皆、処分場で検査やってるから気をつけろよ」
『あぁ! やっぱり!』
みんなも俺と職員のやり取りに耳を澄ませていたのか、ある程度は予想していたみたいだ。
『まぁ、よっぽど大丈夫だと思うけどな……』
アトラスが呟くと、すかさずハンサムが得意げに言った。
『俺も今日は大丈夫だよ。変なものは回収してないから』
『ハンサムの場合、ゴミよりも、パッカー車に引っ掛けた女を乗せてるのが問題なんだよ』
イケモトがつっこむ。
「はぁ⁉ マジか? ハンサム」
『マジかよ、どういうことだ』
俺とアトラスが問い正すと、ハンサムは慌てて声をどもらせた。
『な! なんで知ってるんだよ⁉』
『俺の情報網を舐めるんじゃないよ』
イケモトが笑いながら答えた。
『本当なのか……うらやましいな……ちくしょー、俺も……』
アトラスがぶつぶつと寂しそうに呟くと、ゲラゲラと笑いが起こった。本当にハンサムだけは、仕事に来てるのか、ナンパに来てるのか、実際わかったもんじゃないぜ。
車庫に戻り、事務所へ寄る途中でふと社員用駐車スペースに目をやると、すでにハングマンとB.F.の自家用車はなかった。
まぁ、普段はジャスティスが一人でやってるコースを――慣れてないからとは言え――二人掛かりでやった訳だから早く終わるのは当然と言えば当然だが、まったく、楽しやがってと、軽く苛立った。
事務所に入ると、中では、キャプテンが一人、事務所仕事をしていた。
俺は、イヤホンのミュートボタンにそっと手を当て、ボタンを押す前に皆に囁いた。
「なあ、皆、俺キャプテンと話があるんだ、今日はもうこれで通話を切るぞ。じゃあ――」
『止めとけ』
察しの良いイケモトが俺を制した。
『ジャスティスのことだろ? マジでやめとけよ、D.J.。どうせあの人じゃ何も変えられない。逆にお前がジャスティスを庇おうとしたってのがハングマンに伝わって、今度はお前までジャスティスの二の舞になりかねないぞ」
こればかりはハンサムやアトラスも同意見なのか、こぞって俺を止めた。
『D.J.止めてくれよぉ。お前までいなくなっちゃったら、俺らどうなっちゃうんだよぉ』
「ハンサム、大丈夫だって。俺はいなくなりはしないよ」
『D.J.わからないぞ、あいつら何するか。気を付けてくれよ』
今回の件でジャスティスがコースを降ろされる程度ならまだしも、いきなりクビを宣告されたのが、どうしても納得がいってなかった。
「忠告ありがとな、じゃあ、お疲れ」
皆の制止も聞かずに、俺は電話を切った。
「キャプテン、話があるんだけどいいか?」
俺が声をかけると、キャプテンは仕事の手を休めて席を立ち、珍しく側まで歩み寄って来て言った。
「佐伯のことだろ? 丁度タバコでも吸いたかったところだ。外で話そう」
俺を外の喫煙スペースに誘導し、タバコに火をつける。
「どうしてジャスティスはいきなりクビ喰らったんだよ? あんまりじゃないか」
キャプテンは深くタバコを吸うと、ゆっくりと横に吐き出してから言った。
「あれは佐伯が言い出したことなんだよ……」
「なんだって? じゃああいつが自分から辞めるって言い出したって言うのか?」
イケモトから聞いた話と食い違う。俺は面喰らった。
「売り言葉に買い言葉だったんだ。長谷部と宮下の二人が佐伯を煽って、キレた佐伯が自分から辞めてやると言い出したんだ」
ジャスティスの性格を考えれば、ありそうな話だが……。
「じゃあ、別にジャスティスは、どうしても辞めなきゃいけないっていう訳じゃないのか?」
「あぁ、だけど、もう復帰は難しいと思うよ」
含みのある言い方で、キャプテンは俺を見た。
「どうしてだ? 辞める必要がないなら、本人に戻る意思があれば戻れるだろう?」
「俺にはどうすることも出来ない。後は長谷部と交渉してくれ」
何をハングマンに話せっていうんだ。
キャプテンはタバコを灰皿に捩込むと、事務所へと戻っていった。
「内容物の検査をするから、投入ステージの指定された場所でゴミをすべて出してくれるか?」
抜き打ちだ。処分場では、月一ぐらいのペースで、こうして回収物の抜き打ち検査を実施している。
可燃ゴミとして不適切なものが積み込まれていないかのチェックだ。もちろん人の目に万全はないから、ある程度の混入は仕方がない。だから向こうも大目に見てくれるが、明らかにこれは? というものは言い逃れが出来ない。
そういったもの――鉄骨だったり、コンクリートの塊だったり、過去には自転車や原付きバイクが出てきたこともある。
捨てる方も捨てる方だが、それ以前に、ついつい間違えましたレベルでパッカー車に放り込めるようなものじゃない。空から降ってきた原付が、たまたま停車中のパッカーの巻き込み口に偶然落ちたとか、通りすがりの誰かが担ぎ上げて放り込んだとかか? ないな。つまりは故意――わかってて積みましたってことだ。
さっきも言ったように俺たちは市の許可を受けて仕事をしている立場だ。だからそんなことがバレれば、会社の信用は失くなり、許可取り消し処分になりかねない。社員全員、職を失うリスクがある。仲間をそんな危険に晒すわけにはいかないからこそ、俺たちは回収するゴミにも気を回さなきゃならないんだ。
つまり、こういった抜き打ち検査は、俺たちみたいなだらけた連中に、毎日サボらずしっかりやれよ! っていう抑止力になるという訳だ。と、ここまでは優等生の回答。当然大幅に時間を奪われ、外れくじを引かされた気分になるだけだ。マジでやめてくれ。
検査をパスし、処分場を出る。
「おい、皆、処分場で検査やってるから気をつけろよ」
『あぁ! やっぱり!』
みんなも俺と職員のやり取りに耳を澄ませていたのか、ある程度は予想していたみたいだ。
『まぁ、よっぽど大丈夫だと思うけどな……』
アトラスが呟くと、すかさずハンサムが得意げに言った。
『俺も今日は大丈夫だよ。変なものは回収してないから』
『ハンサムの場合、ゴミよりも、パッカー車に引っ掛けた女を乗せてるのが問題なんだよ』
イケモトがつっこむ。
「はぁ⁉ マジか? ハンサム」
『マジかよ、どういうことだ』
俺とアトラスが問い正すと、ハンサムは慌てて声をどもらせた。
『な! なんで知ってるんだよ⁉』
『俺の情報網を舐めるんじゃないよ』
イケモトが笑いながら答えた。
『本当なのか……うらやましいな……ちくしょー、俺も……』
アトラスがぶつぶつと寂しそうに呟くと、ゲラゲラと笑いが起こった。本当にハンサムだけは、仕事に来てるのか、ナンパに来てるのか、実際わかったもんじゃないぜ。
車庫に戻り、事務所へ寄る途中でふと社員用駐車スペースに目をやると、すでにハングマンとB.F.の自家用車はなかった。
まぁ、普段はジャスティスが一人でやってるコースを――慣れてないからとは言え――二人掛かりでやった訳だから早く終わるのは当然と言えば当然だが、まったく、楽しやがってと、軽く苛立った。
事務所に入ると、中では、キャプテンが一人、事務所仕事をしていた。
俺は、イヤホンのミュートボタンにそっと手を当て、ボタンを押す前に皆に囁いた。
「なあ、皆、俺キャプテンと話があるんだ、今日はもうこれで通話を切るぞ。じゃあ――」
『止めとけ』
察しの良いイケモトが俺を制した。
『ジャスティスのことだろ? マジでやめとけよ、D.J.。どうせあの人じゃ何も変えられない。逆にお前がジャスティスを庇おうとしたってのがハングマンに伝わって、今度はお前までジャスティスの二の舞になりかねないぞ」
こればかりはハンサムやアトラスも同意見なのか、こぞって俺を止めた。
『D.J.止めてくれよぉ。お前までいなくなっちゃったら、俺らどうなっちゃうんだよぉ』
「ハンサム、大丈夫だって。俺はいなくなりはしないよ」
『D.J.わからないぞ、あいつら何するか。気を付けてくれよ』
今回の件でジャスティスがコースを降ろされる程度ならまだしも、いきなりクビを宣告されたのが、どうしても納得がいってなかった。
「忠告ありがとな、じゃあ、お疲れ」
皆の制止も聞かずに、俺は電話を切った。
「キャプテン、話があるんだけどいいか?」
俺が声をかけると、キャプテンは仕事の手を休めて席を立ち、珍しく側まで歩み寄って来て言った。
「佐伯のことだろ? 丁度タバコでも吸いたかったところだ。外で話そう」
俺を外の喫煙スペースに誘導し、タバコに火をつける。
「どうしてジャスティスはいきなりクビ喰らったんだよ? あんまりじゃないか」
キャプテンは深くタバコを吸うと、ゆっくりと横に吐き出してから言った。
「あれは佐伯が言い出したことなんだよ……」
「なんだって? じゃああいつが自分から辞めるって言い出したって言うのか?」
イケモトから聞いた話と食い違う。俺は面喰らった。
「売り言葉に買い言葉だったんだ。長谷部と宮下の二人が佐伯を煽って、キレた佐伯が自分から辞めてやると言い出したんだ」
ジャスティスの性格を考えれば、ありそうな話だが……。
「じゃあ、別にジャスティスは、どうしても辞めなきゃいけないっていう訳じゃないのか?」
「あぁ、だけど、もう復帰は難しいと思うよ」
含みのある言い方で、キャプテンは俺を見た。
「どうしてだ? 辞める必要がないなら、本人に戻る意思があれば戻れるだろう?」
「俺にはどうすることも出来ない。後は長谷部と交渉してくれ」
何をハングマンに話せっていうんだ。
キャプテンはタバコを灰皿に捩込むと、事務所へと戻っていった。