「シルビア。議会の決着は?」
「我々がワイブ少将率いる帝国軍の傘下に入る事で決着しました」
「ワイブ少将? ペスカ様と共に戦った方か」
「えぇ。今回の議会で奮闘なされたとか」
「それは頼もしい」
「では、ルクスフィア卿。総大将殿と作戦会議といきましょう」
「近衛隊長殿との連絡も取らねばならんしな」
「彼の御仁の事です。無茶をしなければ良いのですが」
「卿ならば、無茶をするだろう。その無茶の結果、帝都は未だ落とされていないのだろう」
「彼の三将と対等に渡り合えるのは、我らが近衛隊長くらいでしょうし」
「三将といえば、サムウェル殿は何をしておられる。グラスキルスの睨みが効いているからこそ、彼の三国は帝国へ攻め入れなかったろうに」
「あちらでも何かが起こっていたとか?」
「それでは、グラスキルスからの応援は期待出来そうにないな」
帝国に攻め入った三国の更に東には、帝国と協定を結んでいるグラスキルス王国が存在する。帝国と戦線を開けば、瞬く間にグラスキルス王国が戦争に介入する。それ故に、三国は帝国への侵略を出来ずにいた。
しかし、現在の状況は何かがおかしい。
三国は、恐らく全軍を持って帝国を侵略しているだろう。東側の守りも気にせずにだ。そんな事は、二十年間も無かった事だ。
無論、賢帝の平和政策が功を奏したのも事実だろう。しかし国と国との関係など、そう単純なものではあるまい。
そんな話しをしながら歩いていると、城の方角から息を切らせて走って来る男が見えた。その男はキョロキョロと辺りを見回して、何かを探している様だった。
それから直ぐにシルビアを見つけたのだろう。クラウス達の方角へ真っ直ぐ向かってきた。
「シルビア殿、お久しぶりです。皆様がエルラフィア王国からの方々ですね? 私はトール・ワイブ。此度の戦で総指揮を任された者です」
「貴殿がワイブ殿か。私は、クラウス・フォン・ルクスフィア。英雄ペスカ様の弟子にして、エルラフィア軍の指揮を任されております」
「私はシリウス・フォン・メイザー。参謀として罷り越しました。英雄ペスカの義弟でございます」
「トール殿、おひさしゅうございます。力不足なのは重々承知しておりますが、帝国の為に身を粉にする所存です」
ペスカの名前が上がった瞬間、トールの表情がぱあっと明るくなった。そして、トールは三人を会議室へと足早に案内する。
会議室に入り三人を席に着かせると、トールは時間を惜しむかの様に、早口で切り出した。
「時間が有りません。どの様に三国と対抗するか会議を行いたい」
「落ち着いて下さい、ワイブ少将。時に、三国の様子はどの様な感じでしたか? 内戦の時と同じでしょうか?」
「いや、違う。奴等は目がはっきりとしている」
「洗脳された様子は無いと……」
「しかし、シグルド殿の話しでは何か違和感が有ると」
「そうでしょうな。此度の戦は恐らく神が関与しておられる」
「な、今回も、ですか!」
「メイザー卿、やはり実弾を容易して来て正解だったな」
「えぇ。どうせ神に唆されたか何かされたのでしょう。しかし、これは一方的な侵略です」
「奴等は三方から攻めて来ております。我が軍を三つに分け、それぞれに貴国の軍を配置したいと考えているのですが」
「いえ、それには及びません。敵兵を国境まで押し戻す役目は、我等にお任せを」
「それは、流石に!」
「ペスカ様と内戦を戦われた貴殿なら、見た事もあろう。その兵器を我等は持参した。シルビア、案内して差し上げろ」
「畏まりました」
クラウスの言葉でトールが思い浮かべたのは、戦車と呼ばれていた動く鉄の塊と、魔法を放つ鉄の筒だ。
その威力のすさまじさは、トールが身を持って体験している。しかも、それは内戦を僅か一日で終結させてみせたのだ。
それが有るならば、敗色が濃厚に見えた戦況が一変する。それこそ、シリウスの言葉通りにエルラフィア王国の援軍だけで、決着が着いてしまうかもしれない。
トールの胸は期待で高まる。そして、途中からシルビアを追い抜かんとするかの様に、走りだす。
エルラフィア軍が集結しているのは、城壁の外だ。そこまで行けば、希望が見える。
「お待ちください、トール殿」
「早く、早くだ。シルビア殿。あの兵器があるなら!」
トールはシルビアを急かす様に走る。そして城門を潜り抜ける。すると、見えてくる。戦車と呼ばれた鉄の塊が六台も。それも、内戦で使用された物よりも一回りほど大きく見える。
そして戦車の周辺には、ざっと百名ほど整列している。その隣には見た事も無い、小さな乗り物らしき物が多く置かれてる。
「シルビア殿。流石に兵の数が少なすぎる!」
「いえ、これで充分です。今ご覧頂いているのは、ペスカ様が乗っておられた戦車を改良した物です」
「改良? あれを更に改良したのか?」
「えぇ。先の内戦で使用したのは、あくまでも鎮圧が目的です。これは、完全なる殺戮兵器と呼べましょう」
確かに一回り大きくなっている分、詰んでいる魔攻砲も大きくなっている様に見える。
「それと、二人乗りにはなりますが、小型の戦車も用意しております」
「あれが?」
「えぇ。戦車に搭載されているよりは小さいですが、魔攻砲も詰んで有ります。小回りが利く分、戦場では戦車と同様に活躍してくれます」
「機動力も有るならば、戦線まで直ぐに辿り着けるか」
「はい。一日もかからないでしょう」
「そうなのか、素晴らしいな!」
トールが感心しきり眺めていると、遅れてクラウスとシリウスも駆けつける。そしてキラキラと目を輝かせているトールに向かい、シリウスが口を開く。
「如何ですか? ワイブ少将。戦車を二台ずつ三方から敵を挟撃します」
「メイザー卿? 確かにこれならば。ですが……」
「これで、我等は北の小国連合を打ち破りました。それに、前線には鬼神とも呼ばれた男がいます」
「シグルド殿が? 確かに、彼のおかげで戦線は崩れきっていない」
「合わせて、連れて来たのは彼が鍛えた近衛隊です」
「ワイブ少将。近衛は一騎当千だ。心配には及びません」
「ルクスフィア卿。それでも、貴国に頼る一方というのは」
「ワイブ少将は、全軍を持って帝都の守備に当たって頂きたい」
「それは何か意図が有っての事でしょうか?」
「万が一の為と言えば、お分かりになるだろう?」
そうだ。この戦に神が関与しているなら、またあの時の様な事が起こってもおかしくない。それよりも、もっと酷い事が起きるかもしれない。
神の力は計り知れない。これだけの兵器を揃えた所で、役に立たない事が起こり得るかもしれないのだ。
「そうは言え、こちらが劣勢の内は神も顔をだすまい」
「えぇ。侵攻を阻止した後は、我が軍を北、中央、南の三つに分け追撃、国境付近まで後退させます」
「それぞれを指揮するのが、ルクスフィア卿、シグルド殿、メイザー卿という事か?」
「えぇ。国境まで追い返した後に、講和に移る事が出来れば完全な勝利と呼べましょう」
「しかし、神が関与しているとなると」
「仰る通り、そこからが本番です。その為に、帝国軍は帝都の防衛に専念してい頂きたい」
「わかった。では、その作戦でいこう」
「では、我等は作戦通りに進行致します」
「シルビア。其方は、ワイブ少将の補佐をして差し上げろ」
「畏まりました。トール殿、何なりとお申し付け下さいませ」
話しが終わると、クラウス、シリウスがそれぞれ戦車に乗り込む。そして隊列は、馬より遥かに早く進んでいく。
これならばシルビアの言葉通り、一日も経たずに援軍は到着するだろう。敵軍を国境まで押し返すのも時間の問題かもしれない。それならばと、トールは城へと歩みを進める。
自分がやるべき事は守備を固める事と、敵軍を後退させた後の三国との交渉だ。
「シルビア殿。シグルド殿との連絡は?」
「既に行っております」
「では、援軍が到着する事も?」
「えぇ。勿論です」
「では、行こう! 帝国を守る為に! この戦争を終わらせる為に!」
「はい!」
「我々がワイブ少将率いる帝国軍の傘下に入る事で決着しました」
「ワイブ少将? ペスカ様と共に戦った方か」
「えぇ。今回の議会で奮闘なされたとか」
「それは頼もしい」
「では、ルクスフィア卿。総大将殿と作戦会議といきましょう」
「近衛隊長殿との連絡も取らねばならんしな」
「彼の御仁の事です。無茶をしなければ良いのですが」
「卿ならば、無茶をするだろう。その無茶の結果、帝都は未だ落とされていないのだろう」
「彼の三将と対等に渡り合えるのは、我らが近衛隊長くらいでしょうし」
「三将といえば、サムウェル殿は何をしておられる。グラスキルスの睨みが効いているからこそ、彼の三国は帝国へ攻め入れなかったろうに」
「あちらでも何かが起こっていたとか?」
「それでは、グラスキルスからの応援は期待出来そうにないな」
帝国に攻め入った三国の更に東には、帝国と協定を結んでいるグラスキルス王国が存在する。帝国と戦線を開けば、瞬く間にグラスキルス王国が戦争に介入する。それ故に、三国は帝国への侵略を出来ずにいた。
しかし、現在の状況は何かがおかしい。
三国は、恐らく全軍を持って帝国を侵略しているだろう。東側の守りも気にせずにだ。そんな事は、二十年間も無かった事だ。
無論、賢帝の平和政策が功を奏したのも事実だろう。しかし国と国との関係など、そう単純なものではあるまい。
そんな話しをしながら歩いていると、城の方角から息を切らせて走って来る男が見えた。その男はキョロキョロと辺りを見回して、何かを探している様だった。
それから直ぐにシルビアを見つけたのだろう。クラウス達の方角へ真っ直ぐ向かってきた。
「シルビア殿、お久しぶりです。皆様がエルラフィア王国からの方々ですね? 私はトール・ワイブ。此度の戦で総指揮を任された者です」
「貴殿がワイブ殿か。私は、クラウス・フォン・ルクスフィア。英雄ペスカ様の弟子にして、エルラフィア軍の指揮を任されております」
「私はシリウス・フォン・メイザー。参謀として罷り越しました。英雄ペスカの義弟でございます」
「トール殿、おひさしゅうございます。力不足なのは重々承知しておりますが、帝国の為に身を粉にする所存です」
ペスカの名前が上がった瞬間、トールの表情がぱあっと明るくなった。そして、トールは三人を会議室へと足早に案内する。
会議室に入り三人を席に着かせると、トールは時間を惜しむかの様に、早口で切り出した。
「時間が有りません。どの様に三国と対抗するか会議を行いたい」
「落ち着いて下さい、ワイブ少将。時に、三国の様子はどの様な感じでしたか? 内戦の時と同じでしょうか?」
「いや、違う。奴等は目がはっきりとしている」
「洗脳された様子は無いと……」
「しかし、シグルド殿の話しでは何か違和感が有ると」
「そうでしょうな。此度の戦は恐らく神が関与しておられる」
「な、今回も、ですか!」
「メイザー卿、やはり実弾を容易して来て正解だったな」
「えぇ。どうせ神に唆されたか何かされたのでしょう。しかし、これは一方的な侵略です」
「奴等は三方から攻めて来ております。我が軍を三つに分け、それぞれに貴国の軍を配置したいと考えているのですが」
「いえ、それには及びません。敵兵を国境まで押し戻す役目は、我等にお任せを」
「それは、流石に!」
「ペスカ様と内戦を戦われた貴殿なら、見た事もあろう。その兵器を我等は持参した。シルビア、案内して差し上げろ」
「畏まりました」
クラウスの言葉でトールが思い浮かべたのは、戦車と呼ばれていた動く鉄の塊と、魔法を放つ鉄の筒だ。
その威力のすさまじさは、トールが身を持って体験している。しかも、それは内戦を僅か一日で終結させてみせたのだ。
それが有るならば、敗色が濃厚に見えた戦況が一変する。それこそ、シリウスの言葉通りにエルラフィア王国の援軍だけで、決着が着いてしまうかもしれない。
トールの胸は期待で高まる。そして、途中からシルビアを追い抜かんとするかの様に、走りだす。
エルラフィア軍が集結しているのは、城壁の外だ。そこまで行けば、希望が見える。
「お待ちください、トール殿」
「早く、早くだ。シルビア殿。あの兵器があるなら!」
トールはシルビアを急かす様に走る。そして城門を潜り抜ける。すると、見えてくる。戦車と呼ばれた鉄の塊が六台も。それも、内戦で使用された物よりも一回りほど大きく見える。
そして戦車の周辺には、ざっと百名ほど整列している。その隣には見た事も無い、小さな乗り物らしき物が多く置かれてる。
「シルビア殿。流石に兵の数が少なすぎる!」
「いえ、これで充分です。今ご覧頂いているのは、ペスカ様が乗っておられた戦車を改良した物です」
「改良? あれを更に改良したのか?」
「えぇ。先の内戦で使用したのは、あくまでも鎮圧が目的です。これは、完全なる殺戮兵器と呼べましょう」
確かに一回り大きくなっている分、詰んでいる魔攻砲も大きくなっている様に見える。
「それと、二人乗りにはなりますが、小型の戦車も用意しております」
「あれが?」
「えぇ。戦車に搭載されているよりは小さいですが、魔攻砲も詰んで有ります。小回りが利く分、戦場では戦車と同様に活躍してくれます」
「機動力も有るならば、戦線まで直ぐに辿り着けるか」
「はい。一日もかからないでしょう」
「そうなのか、素晴らしいな!」
トールが感心しきり眺めていると、遅れてクラウスとシリウスも駆けつける。そしてキラキラと目を輝かせているトールに向かい、シリウスが口を開く。
「如何ですか? ワイブ少将。戦車を二台ずつ三方から敵を挟撃します」
「メイザー卿? 確かにこれならば。ですが……」
「これで、我等は北の小国連合を打ち破りました。それに、前線には鬼神とも呼ばれた男がいます」
「シグルド殿が? 確かに、彼のおかげで戦線は崩れきっていない」
「合わせて、連れて来たのは彼が鍛えた近衛隊です」
「ワイブ少将。近衛は一騎当千だ。心配には及びません」
「ルクスフィア卿。それでも、貴国に頼る一方というのは」
「ワイブ少将は、全軍を持って帝都の守備に当たって頂きたい」
「それは何か意図が有っての事でしょうか?」
「万が一の為と言えば、お分かりになるだろう?」
そうだ。この戦に神が関与しているなら、またあの時の様な事が起こってもおかしくない。それよりも、もっと酷い事が起きるかもしれない。
神の力は計り知れない。これだけの兵器を揃えた所で、役に立たない事が起こり得るかもしれないのだ。
「そうは言え、こちらが劣勢の内は神も顔をだすまい」
「えぇ。侵攻を阻止した後は、我が軍を北、中央、南の三つに分け追撃、国境付近まで後退させます」
「それぞれを指揮するのが、ルクスフィア卿、シグルド殿、メイザー卿という事か?」
「えぇ。国境まで追い返した後に、講和に移る事が出来れば完全な勝利と呼べましょう」
「しかし、神が関与しているとなると」
「仰る通り、そこからが本番です。その為に、帝国軍は帝都の防衛に専念してい頂きたい」
「わかった。では、その作戦でいこう」
「では、我等は作戦通りに進行致します」
「シルビア。其方は、ワイブ少将の補佐をして差し上げろ」
「畏まりました。トール殿、何なりとお申し付け下さいませ」
話しが終わると、クラウス、シリウスがそれぞれ戦車に乗り込む。そして隊列は、馬より遥かに早く進んでいく。
これならばシルビアの言葉通り、一日も経たずに援軍は到着するだろう。敵軍を国境まで押し返すのも時間の問題かもしれない。それならばと、トールは城へと歩みを進める。
自分がやるべき事は守備を固める事と、敵軍を後退させた後の三国との交渉だ。
「シルビア殿。シグルド殿との連絡は?」
「既に行っております」
「では、援軍が到着する事も?」
「えぇ。勿論です」
「では、行こう! 帝国を守る為に! この戦争を終わらせる為に!」
「はい!」