神とは何か。それは、信仰の対象である。
地上に生きる者の願いや希望等が集まり、力を持ったのが神である。故に、神は信仰無くしては、存在し得ない。
但し、例外も存在する。それは混沌勢と呼ばれる神々だ。彼等は憎しみ、恨み、嫉妬等の悪意が集まった物が力を持ち、神へと昇華した者達である。
故に、彼等の存在する為に必要なのは、信仰ではなく生物の悪意となる。
そして、ロイスマリアでは混沌勢を除き、神は大きく二分される。原初の神とそれ以外の神である。
原初の神はロイスマリア創生より存在した神々で、文字通り世界を創り上げた神である。それ以外の神は、ロイスマリアが繁栄する中で自然的に発生、若しくは神によって産みだされた。
無論、新たに生まれた神々の中にも、原初の神と同様に多くの信仰を集める神も存在する。しかし、それは極少数だろう。
何故なら台地を創り、海を創り、風を創り、生物に実りを齎せたのは、原初の神々なのだから。多くの信仰が原初の神々に集約されるのも、自然の節理なのだろう。
また、彼等が定めたロイスマリア三法にも、問題は有る。例えば戦いの神の様に、その存在故に、三法へ抵触する神も存在する。
故に、神々は一枚岩の様に団結している訳ではない。それこそが、虚飾の神グレイラスの狙いだった。
「貴殿らは、このままで良いとは思っておるまい」
「突然、我らを集めたと思えば、何を語っておる? 何が狙いだ、グレイラスよ」
「そうだ! 協議会であれだけの事をほざいておいて!」
「我らが連絡すれば、お前は捕縛され神格を奪われるのだぞ!」
「連絡するまでもない! 我らで捕まえてしまおう!」
「いや、貴殿らはそうはしまい」
「何故そんな事を言える!」
「貴殿らもまた、原初の神々に不満を持っているからだ」
「いけしゃあしゃあと!」
「そうだ! グレイラスの戯言など聞く必要はない!」
「あぁ、ここで捕らえてしまえ!」
グレイラスは、敢えて危険を冒して神々との接触を図っていた。集めた神は十数柱、それも全て原初以外の神々であった。
集まった神々は、グレイラスを糾弾する。当然だ、これから混乱を引き起こそうとしているのだから。
しかし、グレイラスは彼等に対して反発するのでは無く、静かに宥める様に話していた。
「我らとて、本気で戦争等と考えている訳ではない」
「ならば、何故あの様な暴言を吐いた!」
「ああでも言わなければ、あの場は収まらん」
「馬鹿も休み休み言え! 貴様ら混沌勢はいつもそうだ! 争いの火種しか生まん!」
「わかっていないようだな。我らはタールカールで四柱も仲間を失った。あの様な悲劇は、二度と繰り返したくない」
「だから、戦争は起こさないと? しかし、貴様らの神格の剥奪は決まった事だ!」
「それは、フィアーナが勝手に決めた事だ」
「勝手ではない! 三法に乗っ取り決めたのだ!」
「では、貴殿らに問う。三法は正しいのか?」
「当たり前だ。原初の神々が決めた事が、間違っているはずもない」
「アルキエルの様な例が有ってもか? 三法が正しいなら、アレは存在している事だけで罪になる」
「そ、それは……」
思う所が有るのだろう。多くの神が言葉に詰まる。
これまでロイスマリア三法に従って来た。しかし、それで問題が起こらなかった訳ではない。タールカールでは、混沌勢以上に自分達は同胞を失った。
それに考えてみれば、三法に抵触する神はアルキエルだけではない。同胞にもそんな神は居る。無論、混沌勢も同じだ。
存在するだけで罪になるのなら、なぜ神と成り得たのか?
この時のグレイラスは、集まった神々に疑念を植え付けるだけで良かった。原初の神々と彼らが定めたあやふやな法を、盲信的に信じる者達に目を覚まさせるきっかけを与えるだけで、寝返らせるのには充分だった。
「三法が間違っているのだ。それを正さねばならない」
「間違っているだと!」
「そうだ。我々が混沌勢と蔑まれ迫害されて来たのは、三法のせいだ」
「それは違う!」
「違う? いいや、違わない。我らは元々、地上の悪意を自らの体に集め昇華し、それをマナに変えて星に返す為に生まれた神だ」
「そ、そうだったのか?」
「当然だ。寧ろ、大地母神等と連携して、地上をよりよくする為に存在する神と言える」
「そんな! 詭弁だ!」
「いいや、詭弁ではない。真実だ」
「では、貴様らは常に反乱を起こしている?」
「言葉は正しく使う事だ。我らは反乱を起こしていない。弾圧されたから、抵抗しているだけだ」
「それが真実なら、タールカールの事はどう説明する!」
「一方的に、原初の神々が戦いを仕掛けて来た。我々はやむなく応戦した」
「それは、本当なのか? なら、これまで信じていたものはいったい……」
「いや、騙されるな! グレイラスの語る事が真実とは限るまい!」
「そうだ! それに貴様らは地上で戦争を起こそうとしている。これは、どう説明する?」
この論争は明らかに、グレイラスが支配し始めている。しかし集まった神々は、それに抵抗しようとする。
それも当然なのだろう。突然、今まで信じていた事が嘘だったと知らされても、直ぐには納得出来まい。だからこそ、嘘じゃなかったと自分に言い聞かせるのだ。そうしないと、心の平穏は保てまい。
それは、人間も神も同じだ。ただ、それもグレイラスの狙いとは知らずに。
当然だが、真実や正義等は見方を変えれば、どうとでも変わる。グレイラスの言っている事は、混沌勢から見た真実で有り、決して嘘は言っていない。
だからこそ、騙される。
「いいか? 貴殿らも覚えが有ろう?」
「な、何がだ?」
「原初の神が存在しているせいで、碌な役職も与えられない。だから信仰を集める事は出来ずに、神気も高まらない」
「そ、それは……」
「仮に、地上で英雄の様な存在が出てみろ。そいつは現人神として地上の信仰を集める。そうなったら、貴殿らの信仰は全て奪われる」
「そ、そんな事は……」
「無い、と本当に言えるのか?」
「い、いや」
「だから、古い体制は壊さねばならない!」
「その為に、地上に戦火を撒いたというのか?」
「そうだ。原初の神々から力を奪う。そして、我らで新しい秩序を創る」
「そんなの不可能だ!」
「いいや、可能だ。貴殿らが協力さえしてくれれば」
集まった神々は、口を閉ざし考え始める。もう、彼等はグレイラスの掌で転がされている人形と同じだ。あと一息で、全てがグレイラスの思い通りになる。
「さあ、貴殿らには明るい未来が待ち受けている」
「明るい未来?」
「これまで過ちを犯し続けていた老害は居なくなり、次は貴殿らの出番だ!」
「お、おお!」
「我の手を取れ、同士諸君! 共に未来を掴み取ろう!」
「おう!」
一柱が賛同すれば、後は芋づる式に賛同者は増えていく。
決して今までの事が、全て嘘だと納得出来た訳では無い。だとしても、潜在的に不満を持っていた神が多かったのも事実だ。
それを上手くグレイラスに突かれた。そして、希望と言う名の虚飾を与えられてしまった。
やがて、集まった神々全てが立ち上がり、熱狂し始めた。新たな秩序を創る。その中心に自分達がいる。それは、どれだけ素晴らしい事だろうと。
「同士諸君。貴殿らは仲間を集めて欲しい」
「わかった。我々こそが正義なのだと知らしめて来よう」
そうして神々は去っていく。グレイラスの意図にも気が付かずに。
「まぁ、こんなものか。それにしても愚かな連中だ。全て壊すというのに、新たな秩序など有るまい」
そうして、グレイラスは口角を釣りあげて、いやらしい笑みを浮かべる。
この場に集められた神々は、密かに仲間を増やしていく。それは、静かなる革命の始まりでも有った。
地上に生きる者の願いや希望等が集まり、力を持ったのが神である。故に、神は信仰無くしては、存在し得ない。
但し、例外も存在する。それは混沌勢と呼ばれる神々だ。彼等は憎しみ、恨み、嫉妬等の悪意が集まった物が力を持ち、神へと昇華した者達である。
故に、彼等の存在する為に必要なのは、信仰ではなく生物の悪意となる。
そして、ロイスマリアでは混沌勢を除き、神は大きく二分される。原初の神とそれ以外の神である。
原初の神はロイスマリア創生より存在した神々で、文字通り世界を創り上げた神である。それ以外の神は、ロイスマリアが繁栄する中で自然的に発生、若しくは神によって産みだされた。
無論、新たに生まれた神々の中にも、原初の神と同様に多くの信仰を集める神も存在する。しかし、それは極少数だろう。
何故なら台地を創り、海を創り、風を創り、生物に実りを齎せたのは、原初の神々なのだから。多くの信仰が原初の神々に集約されるのも、自然の節理なのだろう。
また、彼等が定めたロイスマリア三法にも、問題は有る。例えば戦いの神の様に、その存在故に、三法へ抵触する神も存在する。
故に、神々は一枚岩の様に団結している訳ではない。それこそが、虚飾の神グレイラスの狙いだった。
「貴殿らは、このままで良いとは思っておるまい」
「突然、我らを集めたと思えば、何を語っておる? 何が狙いだ、グレイラスよ」
「そうだ! 協議会であれだけの事をほざいておいて!」
「我らが連絡すれば、お前は捕縛され神格を奪われるのだぞ!」
「連絡するまでもない! 我らで捕まえてしまおう!」
「いや、貴殿らはそうはしまい」
「何故そんな事を言える!」
「貴殿らもまた、原初の神々に不満を持っているからだ」
「いけしゃあしゃあと!」
「そうだ! グレイラスの戯言など聞く必要はない!」
「あぁ、ここで捕らえてしまえ!」
グレイラスは、敢えて危険を冒して神々との接触を図っていた。集めた神は十数柱、それも全て原初以外の神々であった。
集まった神々は、グレイラスを糾弾する。当然だ、これから混乱を引き起こそうとしているのだから。
しかし、グレイラスは彼等に対して反発するのでは無く、静かに宥める様に話していた。
「我らとて、本気で戦争等と考えている訳ではない」
「ならば、何故あの様な暴言を吐いた!」
「ああでも言わなければ、あの場は収まらん」
「馬鹿も休み休み言え! 貴様ら混沌勢はいつもそうだ! 争いの火種しか生まん!」
「わかっていないようだな。我らはタールカールで四柱も仲間を失った。あの様な悲劇は、二度と繰り返したくない」
「だから、戦争は起こさないと? しかし、貴様らの神格の剥奪は決まった事だ!」
「それは、フィアーナが勝手に決めた事だ」
「勝手ではない! 三法に乗っ取り決めたのだ!」
「では、貴殿らに問う。三法は正しいのか?」
「当たり前だ。原初の神々が決めた事が、間違っているはずもない」
「アルキエルの様な例が有ってもか? 三法が正しいなら、アレは存在している事だけで罪になる」
「そ、それは……」
思う所が有るのだろう。多くの神が言葉に詰まる。
これまでロイスマリア三法に従って来た。しかし、それで問題が起こらなかった訳ではない。タールカールでは、混沌勢以上に自分達は同胞を失った。
それに考えてみれば、三法に抵触する神はアルキエルだけではない。同胞にもそんな神は居る。無論、混沌勢も同じだ。
存在するだけで罪になるのなら、なぜ神と成り得たのか?
この時のグレイラスは、集まった神々に疑念を植え付けるだけで良かった。原初の神々と彼らが定めたあやふやな法を、盲信的に信じる者達に目を覚まさせるきっかけを与えるだけで、寝返らせるのには充分だった。
「三法が間違っているのだ。それを正さねばならない」
「間違っているだと!」
「そうだ。我々が混沌勢と蔑まれ迫害されて来たのは、三法のせいだ」
「それは違う!」
「違う? いいや、違わない。我らは元々、地上の悪意を自らの体に集め昇華し、それをマナに変えて星に返す為に生まれた神だ」
「そ、そうだったのか?」
「当然だ。寧ろ、大地母神等と連携して、地上をよりよくする為に存在する神と言える」
「そんな! 詭弁だ!」
「いいや、詭弁ではない。真実だ」
「では、貴様らは常に反乱を起こしている?」
「言葉は正しく使う事だ。我らは反乱を起こしていない。弾圧されたから、抵抗しているだけだ」
「それが真実なら、タールカールの事はどう説明する!」
「一方的に、原初の神々が戦いを仕掛けて来た。我々はやむなく応戦した」
「それは、本当なのか? なら、これまで信じていたものはいったい……」
「いや、騙されるな! グレイラスの語る事が真実とは限るまい!」
「そうだ! それに貴様らは地上で戦争を起こそうとしている。これは、どう説明する?」
この論争は明らかに、グレイラスが支配し始めている。しかし集まった神々は、それに抵抗しようとする。
それも当然なのだろう。突然、今まで信じていた事が嘘だったと知らされても、直ぐには納得出来まい。だからこそ、嘘じゃなかったと自分に言い聞かせるのだ。そうしないと、心の平穏は保てまい。
それは、人間も神も同じだ。ただ、それもグレイラスの狙いとは知らずに。
当然だが、真実や正義等は見方を変えれば、どうとでも変わる。グレイラスの言っている事は、混沌勢から見た真実で有り、決して嘘は言っていない。
だからこそ、騙される。
「いいか? 貴殿らも覚えが有ろう?」
「な、何がだ?」
「原初の神が存在しているせいで、碌な役職も与えられない。だから信仰を集める事は出来ずに、神気も高まらない」
「そ、それは……」
「仮に、地上で英雄の様な存在が出てみろ。そいつは現人神として地上の信仰を集める。そうなったら、貴殿らの信仰は全て奪われる」
「そ、そんな事は……」
「無い、と本当に言えるのか?」
「い、いや」
「だから、古い体制は壊さねばならない!」
「その為に、地上に戦火を撒いたというのか?」
「そうだ。原初の神々から力を奪う。そして、我らで新しい秩序を創る」
「そんなの不可能だ!」
「いいや、可能だ。貴殿らが協力さえしてくれれば」
集まった神々は、口を閉ざし考え始める。もう、彼等はグレイラスの掌で転がされている人形と同じだ。あと一息で、全てがグレイラスの思い通りになる。
「さあ、貴殿らには明るい未来が待ち受けている」
「明るい未来?」
「これまで過ちを犯し続けていた老害は居なくなり、次は貴殿らの出番だ!」
「お、おお!」
「我の手を取れ、同士諸君! 共に未来を掴み取ろう!」
「おう!」
一柱が賛同すれば、後は芋づる式に賛同者は増えていく。
決して今までの事が、全て嘘だと納得出来た訳では無い。だとしても、潜在的に不満を持っていた神が多かったのも事実だ。
それを上手くグレイラスに突かれた。そして、希望と言う名の虚飾を与えられてしまった。
やがて、集まった神々全てが立ち上がり、熱狂し始めた。新たな秩序を創る。その中心に自分達がいる。それは、どれだけ素晴らしい事だろうと。
「同士諸君。貴殿らは仲間を集めて欲しい」
「わかった。我々こそが正義なのだと知らしめて来よう」
そうして神々は去っていく。グレイラスの意図にも気が付かずに。
「まぁ、こんなものか。それにしても愚かな連中だ。全て壊すというのに、新たな秩序など有るまい」
そうして、グレイラスは口角を釣りあげて、いやらしい笑みを浮かべる。
この場に集められた神々は、密かに仲間を増やしていく。それは、静かなる革命の始まりでも有った。