根源に近付いて、ペスカはようやく理解する。自分のマナには、異質なものが含まれている事を。正確には、自分のマナを何かが守る様に包み込んでいる事だ。
これって?
ペスカは心の中で呟き、マナの周りを包む何かに触れ様とした。その時だった、それを急激に理解させられた。
それは、冬也の体が輝いた時の光に似ていた。それも当然の事だった。包み込む何かはフィアーナの加護、いわば女神の神気だったのだから。
そっか。だから私の攻撃が、ロメリアに通じたんだ
その光はペスカの光明にも見える。フィアーナから加護を受けていたのは知っていたけれど、それがどんなものかまでは理解していない。
こうして実際に目の当たりにすれば、神の力が如何に凄いかがわかる。
私の力をここまで上げろって言っても、しょせん無理よね。
人間と神とでは、本質が異なって来る。似た様な力だったとしても、マナと神気ではその本質も異なる。だから、人は神に害をなす事は適わない。
しかし、同じ神の力に守られているならば、話は別であろう。その力を持ってすれば、ロメリアを倒す事も出来る。
そう信じて、ペスカはフィアーナの加護に触れた。だが、その力は強すぎた。
「わぁ!」
ペスカは弾かれる様にして集中を途切れさせ、目を開ける。その声に反応して、冬也もまた目を開けペスカを見つめた。
「どうした、ペスカ?」
「いや~、フィアーナ様の加護まで辿り着いたんだけどさ、触ろうとしたら弾かれちゃった」
「何が有った?」
「フィアーナ様の加護が強すぎて、私には触れなかったみたい」
「そっか。神様ってすげぇんだな」
「なに他人事みたいに言ってんの?」
「いや、だってさ。神気ってのか? あれを扱うのは大変なんだよ」
互いに目を合わせて、溜息をつく。それだけ、無理難題に挑戦しようとしているのだ。しかし、やり遂げねば先は無い。今度は東京が終わるかも知れない。東京だけじゃない、日本、そして地球すら終わってしまうかも知れない。
考えすぎであればいい。そうであれば、どれだけ良いか。
そうならないのがロメリアだ。土地神の言う事をそのまま解釈するのなら、この世界の神はこの事態に不干渉を貫く方針とも考えられる。
勿論、いざとなったら助け船くらいは出してくれるかもしれない。もしかしたら、積極的に協力してくれる神もいるかもしれない。でも、それを期待して待つのは得策ではない。
自分達が、ここで止めなければならない。
ただ、無理して何かが掴めるものでもない。焦れば焦るほど遠くなっていくものだ。それに夜も更けている。日が昇るまで六時間程度といった所だ。だから、冬也は優しく声をかける。
「まぁ、糞野郎が出張ってくるのも、今日明日って事じゃねぇだろ? 今日の内は終わりにして休もうぜ」
「う~ん、消化不良感がたっぷりだけど。そうだね、寝よっか」
「悪いが、今日は俺と雑魚寝だ」
「わ~い! くっ付いて良いの?」
「駄目に決まってんだろ!」
それまでずっと集中して来たのだ、感覚は研ぎ澄まされている。直ぐに寝られはしない。しかし頭と体を休める為に、二人はリビングの電気を消し、横になると目を閉じた。
翌朝、日の出と共に冬也は体を起こす。そして、朝食の準備に取り掛かった。
「おに~ちゃん、おはよ」
「まだ横になってても良かったんだぞ」
「あ~、一応さ。ボコボコにされた翔一君の治療をしてやんないとね」
「悪いな、ペスカ」
「良いって事よ。ついでに、空ちゃんにマナをちゅ~っと注入しておくよ」
「そっか。ありがとう」
「それは、言いっこ無しでい!」
「江戸っ子か!」
「所でお兄ちゃん。あの二人を本当に連れて行かないつもり?」
「あぁ。お前はどうなんだよ?」
「私も巻き込むのは嫌。でも、空ちゃんが着いて来てくれるのは嬉しいよ。お兄ちゃんもそうでしょ?」
「あぁ。俺だって翔一が来てくれるのは嬉しい。だけど、やっぱり……」
「あの二人なら大丈夫だよ。いざとなったら私達が守ればいいんだし」
「それもそうなんだけどな……」
「迷うがいいさ、若者よ! それじゃ、私は翔一君の治療に行くね」
「何目線なんだよ」
頭でわかっていても割り切れるものではない。だから、冬也はそれを頭の片隅においやり、料理を続ける。そして、翔一と空が起きて来たのは、それから暫く経ってからの事だった。
ペスカの治療が功を奏したのか、顔の腫れは無くなっている。空も心なしか元気を取り戻した様にも見える。冬也は少しほっとし、料理の配膳を行った。
「遼太郎さんを待たなくて良いのかい?」
「パパリンはほっといて良いよ。電話してたし」
「ペスカちゃんのお父さんって、私達の修行に付き合ってて良いの?」
「良いんじゃねぇのか?」
「そうそう。パパリンにも部下がいるんだろうしね。それより、二人は今日もキツイよ」
「わかってる。食らいついてみせるよ」
「私も! もう少しでコツが掴めそうだし」
「お~頼もしいね。頑張れ、若者よ!」
「だから、誰目線なんだよペスカ!」
そして、修行が始まる。
誰もが懸命だった。翔一はボロボロになりながらも、遼太郎に向かっていく。徐々にでは有るが、一方的ではなくなり組手らしくなっていく。
空のオートキャンセルも少しずつ強度が上がっていく。次第に冬也が本気でマナを籠めないと、壊せない様になっていく。
ペスカもフィアーナの加護に触れられる様になり、神気の正体を掴もうと探り始める。
そうして二日が過ぎる頃には、翔一は遼太郎に一撃を与えられる様になる。空は、神気を籠めた冬也の一撃を初めて防げる様になる。そしてペスカは、フィアーナの加護を理解し操れる様にまでなっていた。
「まだまだって言いてぇ所だが、取り合えず修行は終わりだ」
「じゃあ!」
「逸るな翔一。まだまだって言ったろ」
「それなら、私達はこれからどうするんです?」
「俺のいる組織が、ロメリアの潜伏場所を探してる」
「実戦って事か」
「おっ! 珍しく冴えてるじゃねぇか、冬也」
「でも、私とお兄ちゃんが手を出したら、二人の実戦にならないよね」
「そうだ。だから、翔一、空、お前ら二人で能力者を取り押さえろ!」
「二人で?」
「安心しろ、空ちゃん。サポートはする」
「そうだよ。どーんと構えて、行ってみよう!」
「簡単に言うけど。ペスカちゃん、能力者を捕まえるってどうするの?」
「そりゃ、便利な能力を持ってる人がいるでしょ?」
「僕が探すって事だね?」
「そうそう。お兄ちゃんの美味しいご飯を食べてから、ゆっくり探そう」
「能力者を捕まえたら、俺に連絡しろ。今の警察じゃ、対応しきれねぇからな」
「わかりました。遼太郎さん」
ここが分水嶺なのは、二人共に理解したのだろう。修行が終わってホットした表情が再び引き締まる。そしてペスカと冬也は、逸る気持ちを抑え込む様にしていた。
「まぁ頑張れ、青少年達!」
そう言うと、遼太郎は食事に手を付けずに家を飛び出していく。残された四人は今後について話し合いを行った。
当座の目標は、都内で暴れている能力者の騒ぎを止める事。出来れば、事件を起こす前に取り押さえられたら、それに越した事はない。
しかし、事件どころか何かを起こす気すらない能力者を、無暗に取り押さえる必要はない。だからこそ、翔一の能力が必要になる。
「う~ん。僕のマナも少しは大きくなったからね。多分、悪意の有無は判別出来ると思うんだよね」
「お~。流石は無駄天才の翔一君!」
「無駄は余計だろ!」
「そうしたら、工藤先輩が見つけた能力者をやっつけるんで良いの? 移動は?」
「近場からで良いんじゃないかな? 流石に都心の方まで行くと、移動だけで時間がかかるし」
「そっちの方は、親父達がなんとかするんじゃねぇのか?」
「こっちでも、車に乗れればな~」
「流石に止めとけ、無免許で捕まる!」
「じゃあ、準備は良い? 始めるよ!」
そして、四人の能力者探しが始まる。それが、大事件へと繋がっていくとは、未だ誰も知らなかった。
これって?
ペスカは心の中で呟き、マナの周りを包む何かに触れ様とした。その時だった、それを急激に理解させられた。
それは、冬也の体が輝いた時の光に似ていた。それも当然の事だった。包み込む何かはフィアーナの加護、いわば女神の神気だったのだから。
そっか。だから私の攻撃が、ロメリアに通じたんだ
その光はペスカの光明にも見える。フィアーナから加護を受けていたのは知っていたけれど、それがどんなものかまでは理解していない。
こうして実際に目の当たりにすれば、神の力が如何に凄いかがわかる。
私の力をここまで上げろって言っても、しょせん無理よね。
人間と神とでは、本質が異なって来る。似た様な力だったとしても、マナと神気ではその本質も異なる。だから、人は神に害をなす事は適わない。
しかし、同じ神の力に守られているならば、話は別であろう。その力を持ってすれば、ロメリアを倒す事も出来る。
そう信じて、ペスカはフィアーナの加護に触れた。だが、その力は強すぎた。
「わぁ!」
ペスカは弾かれる様にして集中を途切れさせ、目を開ける。その声に反応して、冬也もまた目を開けペスカを見つめた。
「どうした、ペスカ?」
「いや~、フィアーナ様の加護まで辿り着いたんだけどさ、触ろうとしたら弾かれちゃった」
「何が有った?」
「フィアーナ様の加護が強すぎて、私には触れなかったみたい」
「そっか。神様ってすげぇんだな」
「なに他人事みたいに言ってんの?」
「いや、だってさ。神気ってのか? あれを扱うのは大変なんだよ」
互いに目を合わせて、溜息をつく。それだけ、無理難題に挑戦しようとしているのだ。しかし、やり遂げねば先は無い。今度は東京が終わるかも知れない。東京だけじゃない、日本、そして地球すら終わってしまうかも知れない。
考えすぎであればいい。そうであれば、どれだけ良いか。
そうならないのがロメリアだ。土地神の言う事をそのまま解釈するのなら、この世界の神はこの事態に不干渉を貫く方針とも考えられる。
勿論、いざとなったら助け船くらいは出してくれるかもしれない。もしかしたら、積極的に協力してくれる神もいるかもしれない。でも、それを期待して待つのは得策ではない。
自分達が、ここで止めなければならない。
ただ、無理して何かが掴めるものでもない。焦れば焦るほど遠くなっていくものだ。それに夜も更けている。日が昇るまで六時間程度といった所だ。だから、冬也は優しく声をかける。
「まぁ、糞野郎が出張ってくるのも、今日明日って事じゃねぇだろ? 今日の内は終わりにして休もうぜ」
「う~ん、消化不良感がたっぷりだけど。そうだね、寝よっか」
「悪いが、今日は俺と雑魚寝だ」
「わ~い! くっ付いて良いの?」
「駄目に決まってんだろ!」
それまでずっと集中して来たのだ、感覚は研ぎ澄まされている。直ぐに寝られはしない。しかし頭と体を休める為に、二人はリビングの電気を消し、横になると目を閉じた。
翌朝、日の出と共に冬也は体を起こす。そして、朝食の準備に取り掛かった。
「おに~ちゃん、おはよ」
「まだ横になってても良かったんだぞ」
「あ~、一応さ。ボコボコにされた翔一君の治療をしてやんないとね」
「悪いな、ペスカ」
「良いって事よ。ついでに、空ちゃんにマナをちゅ~っと注入しておくよ」
「そっか。ありがとう」
「それは、言いっこ無しでい!」
「江戸っ子か!」
「所でお兄ちゃん。あの二人を本当に連れて行かないつもり?」
「あぁ。お前はどうなんだよ?」
「私も巻き込むのは嫌。でも、空ちゃんが着いて来てくれるのは嬉しいよ。お兄ちゃんもそうでしょ?」
「あぁ。俺だって翔一が来てくれるのは嬉しい。だけど、やっぱり……」
「あの二人なら大丈夫だよ。いざとなったら私達が守ればいいんだし」
「それもそうなんだけどな……」
「迷うがいいさ、若者よ! それじゃ、私は翔一君の治療に行くね」
「何目線なんだよ」
頭でわかっていても割り切れるものではない。だから、冬也はそれを頭の片隅においやり、料理を続ける。そして、翔一と空が起きて来たのは、それから暫く経ってからの事だった。
ペスカの治療が功を奏したのか、顔の腫れは無くなっている。空も心なしか元気を取り戻した様にも見える。冬也は少しほっとし、料理の配膳を行った。
「遼太郎さんを待たなくて良いのかい?」
「パパリンはほっといて良いよ。電話してたし」
「ペスカちゃんのお父さんって、私達の修行に付き合ってて良いの?」
「良いんじゃねぇのか?」
「そうそう。パパリンにも部下がいるんだろうしね。それより、二人は今日もキツイよ」
「わかってる。食らいついてみせるよ」
「私も! もう少しでコツが掴めそうだし」
「お~頼もしいね。頑張れ、若者よ!」
「だから、誰目線なんだよペスカ!」
そして、修行が始まる。
誰もが懸命だった。翔一はボロボロになりながらも、遼太郎に向かっていく。徐々にでは有るが、一方的ではなくなり組手らしくなっていく。
空のオートキャンセルも少しずつ強度が上がっていく。次第に冬也が本気でマナを籠めないと、壊せない様になっていく。
ペスカもフィアーナの加護に触れられる様になり、神気の正体を掴もうと探り始める。
そうして二日が過ぎる頃には、翔一は遼太郎に一撃を与えられる様になる。空は、神気を籠めた冬也の一撃を初めて防げる様になる。そしてペスカは、フィアーナの加護を理解し操れる様にまでなっていた。
「まだまだって言いてぇ所だが、取り合えず修行は終わりだ」
「じゃあ!」
「逸るな翔一。まだまだって言ったろ」
「それなら、私達はこれからどうするんです?」
「俺のいる組織が、ロメリアの潜伏場所を探してる」
「実戦って事か」
「おっ! 珍しく冴えてるじゃねぇか、冬也」
「でも、私とお兄ちゃんが手を出したら、二人の実戦にならないよね」
「そうだ。だから、翔一、空、お前ら二人で能力者を取り押さえろ!」
「二人で?」
「安心しろ、空ちゃん。サポートはする」
「そうだよ。どーんと構えて、行ってみよう!」
「簡単に言うけど。ペスカちゃん、能力者を捕まえるってどうするの?」
「そりゃ、便利な能力を持ってる人がいるでしょ?」
「僕が探すって事だね?」
「そうそう。お兄ちゃんの美味しいご飯を食べてから、ゆっくり探そう」
「能力者を捕まえたら、俺に連絡しろ。今の警察じゃ、対応しきれねぇからな」
「わかりました。遼太郎さん」
ここが分水嶺なのは、二人共に理解したのだろう。修行が終わってホットした表情が再び引き締まる。そしてペスカと冬也は、逸る気持ちを抑え込む様にしていた。
「まぁ頑張れ、青少年達!」
そう言うと、遼太郎は食事に手を付けずに家を飛び出していく。残された四人は今後について話し合いを行った。
当座の目標は、都内で暴れている能力者の騒ぎを止める事。出来れば、事件を起こす前に取り押さえられたら、それに越した事はない。
しかし、事件どころか何かを起こす気すらない能力者を、無暗に取り押さえる必要はない。だからこそ、翔一の能力が必要になる。
「う~ん。僕のマナも少しは大きくなったからね。多分、悪意の有無は判別出来ると思うんだよね」
「お~。流石は無駄天才の翔一君!」
「無駄は余計だろ!」
「そうしたら、工藤先輩が見つけた能力者をやっつけるんで良いの? 移動は?」
「近場からで良いんじゃないかな? 流石に都心の方まで行くと、移動だけで時間がかかるし」
「そっちの方は、親父達がなんとかするんじゃねぇのか?」
「こっちでも、車に乗れればな~」
「流石に止めとけ、無免許で捕まる!」
「じゃあ、準備は良い? 始めるよ!」
そして、四人の能力者探しが始まる。それが、大事件へと繋がっていくとは、未だ誰も知らなかった。