遼太郎の言葉に、冬也は激高したかの様に声を荒げた。それもその筈、よりにもよってペスカを切れと言うのだから。
しかし、実際は違う。続く「能力で切れ」との言葉に、冬也は少し混乱した。そんな冬也を横目に、ペスカは目を輝かせた。遼太郎の真意を読み取ったのだろう。
これで『失われた記憶』とやらが戻るのならば、遼太郎が言う事が真実だと証明される。
小学校に上がる頃には既に、漢字が多い書物を読み漁っていた。機械をバラシて組み立てた事も有る。自分が特殊なのだと自覚したのは、冬也が中学に入り別々の学校に登校する事になってからだ。
恐らく冬也が、周囲の目線から守ってくれていたのだろう。それからは、クラスメートに溶け込む努力をして来た。
それが、自分の記憶だ。しかし、同時に違和感も感じている。自分がラノベ主人公の様に、異世界に旅立ったとは信じ難い。だけど、それを考える度に苛々は増してくるのも事実だ。
しかし、それも解消される。遼太郎の言葉通りに冬也の母が神ならば、その能力は神に届き得る。そして、この苛々の正体が遼太郎の言う『ロメリア』とやらならば、その思惑ごと冬也は切り裂く事が出来るはず。
「お兄ちゃん、やってみようよ」
「でもよ、ってやるしかねぇか」
冬也が首を縦に振ったのは、ペスカの目を見たからだ。誰よりも信用しているペスカが言うなら、間違いないと思ったからだ。
「但しだ。冬也、信じろ。思い込め。自分は切れるってな」
「具体的には何を切るんだよ!」
「ペスカじゃなくてもいい。お前自身を切ってもいい。要するに、ロメリアの糞が歪めた色んなのを、ぶった切れ! 絶対に出来るって信じろ!」
「わかった」
「なら、目を瞑れ。そして、お前の切る力ってのに集中しろ」
そして、冬也は言われた通りに目を瞑り、自信の中に流れる力に触れ様と集中し始める。五分、十分と時間が経過する毎に、冬也の集中力は研ぎ澄まされていく。
冬也は覚えていないが、これはペスカが行ったマナを高める修行に似ている。冬也からすれば、日頃から行ってきたルーティーンみたいなものだ。自身のマナに触れるのもそう時間はかからない。
「何か有る。確かによくわからない力? いや、何かが体中を巡ってるのがわかる」
「そうだ。それがマナだ。そして、お前は女神の子供だ。もっともっとすげぇ力を持ってるんだ」
「これよりもか?」
「あぁ。もっと集中しろ。俺の言葉に答えなくていい。ひたすら、マナと向き合え」
冬也は、遼太郎の言葉通りに口を噤む。そして、更に集中力を高めていく。マナの流れを感じ、その奥にある何かを探そうとする。
「いいぞ。もっと奥に有る、神気に触れろ。それがお前の力だ」
神気と言われてもピンと来ない。しかし、マナの奔流には源とも言える場所が有る。冬也はそれにゆっくりと触れ様とする。
怖くはない。怖いはずもない。自分の力なのだから。そして、それに触れた瞬間だった。冬也の体から眩い光が溢れた。
「それだ冬也! その力で自分に纏わりついている悪意を切り裂け!」
そして冬也は手を振りかざし、手刀を自分の心臓辺りに目掛けて振り下ろす。バキッと激しい音が家中に響き渡る。光は更に輝きを増していく。
一瞬、冬也はふらつき倒れかける。しかし、自身の足でしっかりと立ち直る。そして、ゆっくりと目を開けた。
「あの糞野郎! とんでもねぇ事をしやがって。今は何処に居るんだ? 直ぐにぶちのめしてやる!」
冬也の表情を見た瞬間、記憶が戻ったのだと理解したのだろう。遼太郎は、ほんの一瞬だけ破顔した後に元の表情に戻る。
「戻った様だな」
「あぁ、親父。糞野郎の事もはっきり覚えてる。あいつにぶっ飛ばされた事もな」
「じゃあ、今度はペスカの記憶も戻してやれ」
「あぁ」
目を凝らして見れば、ペスカを包み込む様に嫌な気配が纏わりついている。そいつを切ればいい。
そうして冬也はもう一度、集中力を高めていく。神気に触れた事は、今が初めてだ。やり方はわかっても、そう簡単に同じ事が出来るわけじゃない。
ゆっくりと確実に、冬也は自分の内に有る神気へ触れる。そして、自らの手にそれを移していく。
マナで身体を強化するのと同じ方法だ。そうすれば、自分の手刀は神の意志すらも切れる刃と化す。
冬也の手が輝きを増していく。これが、神の力だと言わんばかりに。そして、ゆっくりと手を振りかざす。狙うのは、ペスカに纏わりついている嫌な気配だ。それに向かって、冬也は手刀を振り下ろした。
次の瞬間、バキりと大きな音が響き、部屋は光に包まれた。
冬也ほど単純ならば別だろうが、如何に天才と呼ばれようがペスカは普通の人間だ。大量の情報が頭に流れ込んで来る中、それを整理するには少し時間がかかろう。
光が収まるまでの間、ペスカはずっと目を瞑っていた。そして、光が晴れると同時に顔を真っ赤にして言い放つ。
「あ゛~! 糞ロメ~! 今直ぐぶっ飛ばしたい!」
「ペスカも戻った様だな」
「うん。パパリン」
「で? 思い出してどうよ?」
「糞ロメがむかついてしょうがない! あいつをぶっ飛ばさなきゃ収まんない!」
「そりゃあそうだろうな。お前ら、散々なやられ方をした様だしな」
「あの糞野郎! 俺らだけじゃなくて、帝国の奴等も。って帝国ってどうなったんだ?」
「そうだよ。シグルドは助かったんだよね? パパリン、フィアーナ様に何か聞いてない?」
「その辺りは、詳しく聞いてねぇな」
「どの道、あいつをぶっ飛ばさないとね」
「いや、待て待て。気持ちはわかるけどよ。お前らはロメリアの糞にやられたばっかりだろ?」
「じゃあ、どうしろってのさ!」
「次に相手をしたなら、勝てるとでも思ってんのか?」
「だって、糞ロメだって弱ってるんでしょ?」
「甘くみんな! 相手は神だぞ!」
「親父! やってみなきゃわからねぇ!」
「やって駄目ならどうするって聞いてんだよ」
「そりゃあ、この神気ってのでぶった切れば良いんだろ?」
「それを発動させられるまで、ロメリアの糞が待ってくれるとでも?」
確かにそうだ。神気をまともに扱えないのなら、戦っても帝国の時と同じ様になるだけだ。しかし、そんな時間は有るのだろうか?
ただでさえ、能力者が増えている。ロメリアの悪意がこのまま広がれば、被害は東京だけに留まらない。そうなれば、日本中で争いが起こる事になる。
「だからよ。神気をちゃんと扱える様になるまで、俺が修行をつけてやる」
「修行って何をだ?」
「お前がさっきやったのと同じ事だよ」
「あぁ、ペスカの謎修行みたいなやつか」
「謎って言うな! ちゃんと、マナが活性化したでしょ!」
「それをやるのは、翔一と空もだ」
「僕もですか?」
「私はちょっと」
「待て、親父! 俺は二人を巻き込むつもりはねぇぞ!」
「何度も言わせんな! 二人共、既に巻き込まれてんだよ! それと翔一、お前だけなら選択肢をやれる」
遼太郎の一言で、冬也を含む四人は目を丸くした。「既に巻き込まれている」という意味は、『二人共、戦え』と同義だと思っていたからだ。
しかし、それは全くの勘違いであると直ぐに知る事になる。
「修行はしなくていいと?」
「修行はしてもらう。だけど、ロメリアとの戦いには参加しなくていい」
「それは、僕の能力が探索系だからですか?」
「勘が良いな。お前みたいな奴は大歓迎だ。俺の部下になれ」
「そうは、言われても」
「直ぐには答えを出せねぇだろ。この一件が片付くまで、少し考えてみろ」
神と戦うなんて、考えられない。まだ、遼太郎の言葉を信じられない位なのだから。それでも、冬也とペスカを見れば語られた事が真実なのだと理解が出来る。
それでも、やはり神と戦うなんて無理だ。止められるものなら、冬也達を止めたい。しかし、そうはいかないのも何となくだがわかる。
翔一は葛藤していた。直ぐには出せない答えだ。行方不明にでもなったかと思った親友とその妹が帰って来たのに、今度は修行して戦えなど現実的だとは思えないだろう。
それが当然なのだ。故に、翔一はそれ以上の言葉を発しなかった。
「それなら私は?」
「空、お前は駄目だ」
「え~!」
「今回に限っては、冬也よりお前の力が切り札になる」
「どういう事ですか?」
「あ~、空ちゃん。残念だけど、空ちゃんの能力は糞ロメの力を跳ね除けちゃったんだよ」
「意味がわかんないよ、ペスカちゃん」
「すっきりしねぇな、親父。翔一の事も空ちゃんの事もだ。でも、空ちゃんが自分で自分の身を守れる様になるってなら、俺も付き合ってやる」
「まぁ、冬也の言う通りだ。諦めろ、空」
しかし、実際は違う。続く「能力で切れ」との言葉に、冬也は少し混乱した。そんな冬也を横目に、ペスカは目を輝かせた。遼太郎の真意を読み取ったのだろう。
これで『失われた記憶』とやらが戻るのならば、遼太郎が言う事が真実だと証明される。
小学校に上がる頃には既に、漢字が多い書物を読み漁っていた。機械をバラシて組み立てた事も有る。自分が特殊なのだと自覚したのは、冬也が中学に入り別々の学校に登校する事になってからだ。
恐らく冬也が、周囲の目線から守ってくれていたのだろう。それからは、クラスメートに溶け込む努力をして来た。
それが、自分の記憶だ。しかし、同時に違和感も感じている。自分がラノベ主人公の様に、異世界に旅立ったとは信じ難い。だけど、それを考える度に苛々は増してくるのも事実だ。
しかし、それも解消される。遼太郎の言葉通りに冬也の母が神ならば、その能力は神に届き得る。そして、この苛々の正体が遼太郎の言う『ロメリア』とやらならば、その思惑ごと冬也は切り裂く事が出来るはず。
「お兄ちゃん、やってみようよ」
「でもよ、ってやるしかねぇか」
冬也が首を縦に振ったのは、ペスカの目を見たからだ。誰よりも信用しているペスカが言うなら、間違いないと思ったからだ。
「但しだ。冬也、信じろ。思い込め。自分は切れるってな」
「具体的には何を切るんだよ!」
「ペスカじゃなくてもいい。お前自身を切ってもいい。要するに、ロメリアの糞が歪めた色んなのを、ぶった切れ! 絶対に出来るって信じろ!」
「わかった」
「なら、目を瞑れ。そして、お前の切る力ってのに集中しろ」
そして、冬也は言われた通りに目を瞑り、自信の中に流れる力に触れ様と集中し始める。五分、十分と時間が経過する毎に、冬也の集中力は研ぎ澄まされていく。
冬也は覚えていないが、これはペスカが行ったマナを高める修行に似ている。冬也からすれば、日頃から行ってきたルーティーンみたいなものだ。自身のマナに触れるのもそう時間はかからない。
「何か有る。確かによくわからない力? いや、何かが体中を巡ってるのがわかる」
「そうだ。それがマナだ。そして、お前は女神の子供だ。もっともっとすげぇ力を持ってるんだ」
「これよりもか?」
「あぁ。もっと集中しろ。俺の言葉に答えなくていい。ひたすら、マナと向き合え」
冬也は、遼太郎の言葉通りに口を噤む。そして、更に集中力を高めていく。マナの流れを感じ、その奥にある何かを探そうとする。
「いいぞ。もっと奥に有る、神気に触れろ。それがお前の力だ」
神気と言われてもピンと来ない。しかし、マナの奔流には源とも言える場所が有る。冬也はそれにゆっくりと触れ様とする。
怖くはない。怖いはずもない。自分の力なのだから。そして、それに触れた瞬間だった。冬也の体から眩い光が溢れた。
「それだ冬也! その力で自分に纏わりついている悪意を切り裂け!」
そして冬也は手を振りかざし、手刀を自分の心臓辺りに目掛けて振り下ろす。バキッと激しい音が家中に響き渡る。光は更に輝きを増していく。
一瞬、冬也はふらつき倒れかける。しかし、自身の足でしっかりと立ち直る。そして、ゆっくりと目を開けた。
「あの糞野郎! とんでもねぇ事をしやがって。今は何処に居るんだ? 直ぐにぶちのめしてやる!」
冬也の表情を見た瞬間、記憶が戻ったのだと理解したのだろう。遼太郎は、ほんの一瞬だけ破顔した後に元の表情に戻る。
「戻った様だな」
「あぁ、親父。糞野郎の事もはっきり覚えてる。あいつにぶっ飛ばされた事もな」
「じゃあ、今度はペスカの記憶も戻してやれ」
「あぁ」
目を凝らして見れば、ペスカを包み込む様に嫌な気配が纏わりついている。そいつを切ればいい。
そうして冬也はもう一度、集中力を高めていく。神気に触れた事は、今が初めてだ。やり方はわかっても、そう簡単に同じ事が出来るわけじゃない。
ゆっくりと確実に、冬也は自分の内に有る神気へ触れる。そして、自らの手にそれを移していく。
マナで身体を強化するのと同じ方法だ。そうすれば、自分の手刀は神の意志すらも切れる刃と化す。
冬也の手が輝きを増していく。これが、神の力だと言わんばかりに。そして、ゆっくりと手を振りかざす。狙うのは、ペスカに纏わりついている嫌な気配だ。それに向かって、冬也は手刀を振り下ろした。
次の瞬間、バキりと大きな音が響き、部屋は光に包まれた。
冬也ほど単純ならば別だろうが、如何に天才と呼ばれようがペスカは普通の人間だ。大量の情報が頭に流れ込んで来る中、それを整理するには少し時間がかかろう。
光が収まるまでの間、ペスカはずっと目を瞑っていた。そして、光が晴れると同時に顔を真っ赤にして言い放つ。
「あ゛~! 糞ロメ~! 今直ぐぶっ飛ばしたい!」
「ペスカも戻った様だな」
「うん。パパリン」
「で? 思い出してどうよ?」
「糞ロメがむかついてしょうがない! あいつをぶっ飛ばさなきゃ収まんない!」
「そりゃあそうだろうな。お前ら、散々なやられ方をした様だしな」
「あの糞野郎! 俺らだけじゃなくて、帝国の奴等も。って帝国ってどうなったんだ?」
「そうだよ。シグルドは助かったんだよね? パパリン、フィアーナ様に何か聞いてない?」
「その辺りは、詳しく聞いてねぇな」
「どの道、あいつをぶっ飛ばさないとね」
「いや、待て待て。気持ちはわかるけどよ。お前らはロメリアの糞にやられたばっかりだろ?」
「じゃあ、どうしろってのさ!」
「次に相手をしたなら、勝てるとでも思ってんのか?」
「だって、糞ロメだって弱ってるんでしょ?」
「甘くみんな! 相手は神だぞ!」
「親父! やってみなきゃわからねぇ!」
「やって駄目ならどうするって聞いてんだよ」
「そりゃあ、この神気ってのでぶった切れば良いんだろ?」
「それを発動させられるまで、ロメリアの糞が待ってくれるとでも?」
確かにそうだ。神気をまともに扱えないのなら、戦っても帝国の時と同じ様になるだけだ。しかし、そんな時間は有るのだろうか?
ただでさえ、能力者が増えている。ロメリアの悪意がこのまま広がれば、被害は東京だけに留まらない。そうなれば、日本中で争いが起こる事になる。
「だからよ。神気をちゃんと扱える様になるまで、俺が修行をつけてやる」
「修行って何をだ?」
「お前がさっきやったのと同じ事だよ」
「あぁ、ペスカの謎修行みたいなやつか」
「謎って言うな! ちゃんと、マナが活性化したでしょ!」
「それをやるのは、翔一と空もだ」
「僕もですか?」
「私はちょっと」
「待て、親父! 俺は二人を巻き込むつもりはねぇぞ!」
「何度も言わせんな! 二人共、既に巻き込まれてんだよ! それと翔一、お前だけなら選択肢をやれる」
遼太郎の一言で、冬也を含む四人は目を丸くした。「既に巻き込まれている」という意味は、『二人共、戦え』と同義だと思っていたからだ。
しかし、それは全くの勘違いであると直ぐに知る事になる。
「修行はしなくていいと?」
「修行はしてもらう。だけど、ロメリアとの戦いには参加しなくていい」
「それは、僕の能力が探索系だからですか?」
「勘が良いな。お前みたいな奴は大歓迎だ。俺の部下になれ」
「そうは、言われても」
「直ぐには答えを出せねぇだろ。この一件が片付くまで、少し考えてみろ」
神と戦うなんて、考えられない。まだ、遼太郎の言葉を信じられない位なのだから。それでも、冬也とペスカを見れば語られた事が真実なのだと理解が出来る。
それでも、やはり神と戦うなんて無理だ。止められるものなら、冬也達を止めたい。しかし、そうはいかないのも何となくだがわかる。
翔一は葛藤していた。直ぐには出せない答えだ。行方不明にでもなったかと思った親友とその妹が帰って来たのに、今度は修行して戦えなど現実的だとは思えないだろう。
それが当然なのだ。故に、翔一はそれ以上の言葉を発しなかった。
「それなら私は?」
「空、お前は駄目だ」
「え~!」
「今回に限っては、冬也よりお前の力が切り札になる」
「どういう事ですか?」
「あ~、空ちゃん。残念だけど、空ちゃんの能力は糞ロメの力を跳ね除けちゃったんだよ」
「意味がわかんないよ、ペスカちゃん」
「すっきりしねぇな、親父。翔一の事も空ちゃんの事もだ。でも、空ちゃんが自分で自分の身を守れる様になるってなら、俺も付き合ってやる」
「まぁ、冬也の言う通りだ。諦めろ、空」