ペスカのかけ声で会議が始まる。
 わからない事だらけなら、何が不明点なのかをはっきりさせるべき。空とペスカ達が抱える食い違いも、明確になるだろう。そして、ペスカは進行を始めた。

「状況が掴めて無いから、現状の整理から行こう。先ずは空ちゃん、どうぞ」
「ふぇえ、私? 何で、私?」

 不意を突かれた空が素っ頓狂な声を上げる。顔を赤くし軽く口を押える空を、ペスカはじっと見つめて呟いた。

「あざとい、実にあざとい。男共は、これにやられるのか!」
「ペスカ! 話が進まねぇよ!」

 冬也の苦言に、ペスカが頬を膨らませる。空は二人のやり取りを見て、少し微笑む。そしてゆっくり確認する様に話し始めた。

「先ず、一か月位前にペスカちゃん達が、突然いなくなったの。次に三日前に変な能力者が現れて、それが増え続けているの。それと、ペスカちゃん達を憶えている人がいなくなったの。ちゃんと記録には残っているのは変でしょ?」
「ホラーだな」
「取り敢えず、お兄ちゃんは静かにしてよっか」

 ペスカは冬也に黙れと、人差し指を口の前に立てる。続いて空に、怪訝な顔を向ける。

「最初のいなくなったって所が、良くわかんないだよね」
「なに言ってるの? さんざん探したのに! じゃあペスカちゃんは、昨日は何してたの?」
「数学の小テスト受けたよね。空ちゃんが体育のマラソンで、転んだところ見て笑ったかな。帰ったらゲームしてた」

 ペスカの答えに空は眉をひそめる。そして声を上擦らせる様に言い放つ。

「ペスカちゃん! それは一か月も前の事じゃない? 今日は何月何日だと思う?」
「九月八日?」
「もう十月の半ばを過ぎてるんだよ!」

 空の言葉に、ペスカと冬也は顔を見合わせて、スマートフォンの表示を見る。表示を見た二人は、目を丸くする。そして、空とスマートフォン交互に見て叫んだ。

「え~!」
「マジかよ!」

 空はテーブルに肘をつくと、頭を押さえる様な仕草をした。そして、空は深い溜息をつくと押し黙る。既に大きな記憶の齟齬が有るのだ、溜息もつきたくもなるだろう。
 ペスカは無言の圧力に耐えきれず、冬也に視線を送る。ペスカの視線を感じた冬也は、少し考える様な仕草をした後、二人に話し始めた。

「そう言えば、覚えて無いって台詞は、親父も言ってたな」

 冬也の言葉にペスカが反応し、大声で叫んだ。

「パパリン? パパリンが帰って来てたの? 何でそれを先に言わないのよ、お兄ちゃんの馬鹿!」
「馬鹿って、今思い出したんだよ」
「あのIQ二千を超えるスーパー天才がいれば、全部解決したも同然じゃない!」
「ペスカちゃん、IQ二千なんて存在しないよ!」
「そうだぞ、あの脳筋親父が天才な訳ねぇだろ!」

 興奮して喚きたてるペスカを、空と冬也が抑えようとする。しかしペスカの勢いは止まらない。

「お兄ちゃん。早くパパリンに連絡して。やっぱ私がする」

 ペスカはスマートフォンを手に取り、父へと電話をかける。何度か呼び出し音が鳴り、通話口から明るい声が聞こえてきた。

『もしもし、パパリン?』
『おぉペスカか! 元気になって良かったなぁ。俺は仕事中で手が離せないから、今晩ゆっくり話そうな。じゃあな』
『ちょっと待ってパパリン、パパリン! 切れちゃったよ』

「ペスカ、親父は何か言ってたか?」
「今晩話そうだって」

 スマートフォンをテーブルに置くと、冬也の問いにペスカは首を横に振る。
 通話時間は、数分もかかっていない。一見、淡泊とも言えそうなやり取りである。だが、平日の昼間であれば、そんなものかも知れない。
 しかし、何度も自宅へ来ているが、二人の父親に有った事がない。それは、かなり不自然な気がする。そして空は、二人に向かいおずおずと問いかけた。

「普通の社会人は仕事してる時間だし、仕方ないよ。そう言えば、二人のお父さんは、何の仕事をしてるの?」
「知らない!」
「聞いた事ねぇな」
「何で二人共知らないの! 普通、親の仕事くらいは知ってるよね!」
「だって、出張ばっかりで滅多に話す事ねぇしな」
「私は、結構連絡してたけどね」

 ペスカの言葉に、驚いた様な顔した冬也が視線を向ける。対してペスカは微笑みを返す。呑気な二人の様子に、空は再び深い溜息をついた。

「話が脱線してると思うの。元に戻そうよ。どこまで話したっけ?」
「そうだね。私達の事情は、一旦おいとこう。パパリンが何か知ってるかも知れないからね」
「その方が良いかも。私も話しを聞きたい」
「なら空ちゃんは、今夜は泊ってけ!」
「そうだね。空ちゃん、そうしなよ」

 空が軽く頷くと、ペスカが話を戻そうと切り出した。

「今残ってる疑問は、変な能力を持った人が増えた事と、私達の事を忘れた人がいる事かな?」
「それと土地神が言ってた、異界の神だな!」
「土地神って、私が気絶してた時の事?」

 ペスカは軽く頷き、神社での委細を空に説明する。冬也が土地神に喧嘩を吹っ掛けた事を聞いた空は、テーブルに突っ伏した。

「冬也さん! シスコンも大概にしないと、いつか命を落としますよ!」

 迫力の有る空の言葉に、冬也は委縮し背を丸める。二人のやり取りに、ペスカは苦笑いを浮かべる。しかしこのままでは、話しがまとまらない。ペスカは、手を叩き皆の視線を集めた。

「私は、この変な能力と異界の神って言うのが、関係していると思うんだよ!」
「どういう事だ?」
「空ちゃんの説明だと、三日前急に変な能力者が現れたんでしょ?」
「それで?」
「神様って存在は、滅多に人の前に姿を現さないよ」
「だから?」
「わざわざ警告しに現れた土地神様。異界の神。現れた能力者達。これに関係性が無いと思う方がおかしいでしょ!」
「おかしいのか?」

 二人のやり取りに、空は深くため息をつく。そして誰にも聞こえない様な小声で、「お馬鹿さんが無ければ、冬也さんは完璧なのに」と呟く。それと同時に空は、ペスカの言葉に疑問を促す。

「ペスカちゃんに概ね賛成だよ。でもそうすると、ペスカちゃん達も異界の神に関わってる事になると思うけど、どうなの? その神様は何をしにここにやって来たの? なんでみんなが、ペスカちゃん達を忘れたの?」
「空ちゃん。その目的までは、流石に推測出来ないよ。でも、関係しているのは事実だと思うよ」

 訴えかける様な目線で言葉を続ける空に対し、ペスカは宥める様に静かに話した。続いてペスカは声のトーンを高くし、二人に話しかける。

「神様の事は一先ず置いといて、私は他に気になる事が有るんだよ!」

 冬也と空は二人で顔見合わせると、ペスカに視線を向ける。そして、ペスカは冬也に視線を向けて、質問を始めた。

「お兄ちゃんも能力持ってたよね。いつ目覚めたの?」
「朝も言ったろ、覚えてねぇよ。昔から持ってた気がするし、そうで無い気もする」
「はっきりしないんだね。空ちゃん、これは他の人達と一緒?」
「うん。一緒だよ」
「空ちゃんは、能力は無いの?」
「わかんないよ」

 ペスカは考えをまとめる様に、腕を組み少し目を瞑る。問題を洗い出しても、釈然としない事が多い。
 一か月近くに及び記憶に空白が有る。一部の者以外は、自分達を忘れている。そして異界の神の出現と共に発生した、異能力を持つ者達。もし自分達が、異界の神とやらに関係していたとしても、何が目的でこんな事態になっているだろうか。自分達を貶める、悪意ある行動にも思える。

 問題ばかりで判然としないが、光明も存在している。一部の者は、自分達を覚えている事だ。そう、一人は父である遼太郎。もう一人は空。何が共通しているのかまでは、理解が及ばない。だが、空に関してだけならば、確認する術は有る。

 ペスカは目を開けると、次は空に視線を向けて声をかける。

「私の予想が正しければ、空ちゃんも能力を持ってるね。恐らくチート級のやつ」

 あまりに突飛な発言に、冬也と空は椅子から転げ落ちそうになる。その仕草を見てペスカはニヤリと笑い、椅子から立ち上がって拳を掲げる。

「ちょっとこれから実験をしよう!」
「はぁ? 何言ってんだ?」
「そうだよ。実験ってどうするの?」

 ペスカは少し間を置いてから二人を見やり、声を上げる。

「お兄ちゃんが、空ちゃんの腕をちょこっと切るの!」
「馬鹿言ってんじゃねぇよペスカ!」

 冬也が顔を真っ赤にして怒鳴ると、ペスカは少し目に涙を浮かべる。空は呆気にとられた様に、二人のやり取りを見つめていた。

「お兄ちゃん、怒らないで。空ちゃんの腕が切れる事は無いから」
「もし切れちゃったらどうすんだよ!」
「その時は、私が責任持って空ちゃんをお嫁に貰うよ」

 何度目の溜息であろうか。空は呆れた顔をしていた。しかし、ペスカの提案自体は悪くない。実験をしてみる価値はある。

「冬也さん。実験してみましょう。だけど何かあった時は、冬也さんが責任を取ってくれると嬉しいです」
「駄目だよ! どさくさに紛れてお兄ちゃんを奪おうとしないでよ!」

 顔を真っ赤に染めて、手で顔を隠しながら俯く空に、ペスカは怒声を上げる。冬也はペスカの頭を軽く叩き、空の顔をじっと見つめる。空は冬也の視線を感じ、顔を上げて冬也と視線を合わせるが、直ぐにまた俯く。続いて冬也は、ペスカに視線を送る。
 ペスカは冬也の視線を受け、大きく頷いた。

「わかった。やろう空ちゃん。責任取るどうのは置いといてな」

 冬也の言葉に、空は少し残念な顔を浮かべる。対して、ペスカは満足げな笑顔を浮かべた。念の為にと薬箱を用意する冬也に、ペスカは簡単な注意を促した。

「軽くで良いからね、チョロっとだよ。でもちゃんと切ろうと思ってね、実験にならないから」
「わかったよ。難しい事言いやがって」
「空ちゃん、準備は良いか?」
「はい、何時でもどうぞ!」

 空の腕を取って、斬りつけ様と冬也は意識を集中させる。冬也の能力は、『自分の意志で何でも斬れる』と言う物だ。能力が発動しやすい為、刃物を利用する事は有る。しかし手刀や指でも、斬る事自体は可能である。

 冬也が斬ろうと、指を空の腕に這わせる。しかし、空の腕は何も起こらなかった。不思議に思った冬也は、テーブルに乗っているテーブルクロスの端を、同様に指を這わせる。テーブルクロスは容易く切断される。

 冬也は空に視線を送る。空が軽く頷くと、再び意識を集中し空の腕に指を這わせる。やはり、空の腕には何も起こらない。
 その結果に、ペスカはドヤ顔で胸を張る。冬也と空は、首を傾げてペスカを凝視した。

「私はね、皆が私達の事を忘れているのに、空ちゃんだけ覚えている事に引っ掛かったんだよ!」
「それがどうした?」
「解らない? 空ちゃんの能力!」
「あっ!」
「空ちゃんは気が付いた様だね!」

 ペスカは更に胸を張る。そして、右手の人差し指で空を指さした。ペスカの仕草に、冬也と空にはビシッと言う効果音が聞こえた様な気がした。

「空ちゃんの能力は、事象の改変を打ち消す能力だね! 名付けてオートキャンセル!」

 冬也と空は圧倒された様に、歓声と拍手をペスカに送る。ペスカは賛美を心地よく受け止め、言葉を綴り始める。

「変な能力者が増えたのと、私達の事を忘れた原因は、恐らく異界の神だね。多分この能力のおかげで、空ちゃんは私達の事を憶えていたって事だよ」
「流石ペスカちゃん。話が繋がった様な気がする」
「ま、能力については、実証事件が足りないから断定はできないけどね。起きている事態はほぼ間違いないと思うよ」
「って事は、その異界の神をぶっ飛ばせば良いって事だな!」
「そう言う事だね。ただ情報が圧倒的に足りない。パパリンの話しを聞いたら、明日は学校に行ってみよう」

 冬也は空を見ると、空は少し震えながらも軽く頷く。空の頭を軽く撫でて、冬也はペスカに視線を送る。
 ペスカは朝から抱えていたモヤモヤが少し消えた様で、爽やかな笑みをこぼしている。

「さて、ここから反撃開始だ!」

 ペスカを中心に、一同の目には闘志の炎が燃え始めた。