無残に横たわるペスカと冬也の体。唖然とする一同。この異常事態にいち早く動いたのは、風の女神ゼフィロスであった。
「クロノス! 直ぐに二人をセリュシオネの下に運びな!」
辺りに怒声が響き渡り、皆が覚醒していく。クロノスはハッとして、倒れたペスカと冬也の体を抱えて転移する。
「スール! 皆を連れて、逃げな!」
スールは未だ混乱中であった。それはブルやエレナ、ミューモとて同様であった。しかし怒声にも近い、風の女神の声に押される様に動きだす。
アルキエルは、スール達には一瞥すらせずに三柱の神を見据えている。
「ちっとばかり足りねぇが、仕方ねぇか」
アルキエルは、酷くつまらなそうな表情を浮かべる。それは、明らかに侮蔑にも似た表情であった。
唖然としていた山の神や水の女神にも、事態は理解が出来た。何が起きたなど、はっきりしている。邪神やペスカ達の失踪は、全て目の前に居る神の仕業である。
「お主! 何をしたのかわかっておるのか!」
山の神は、激しく声を荒げた。水の女神は、童顔に似合わぬ程に吊り上がった目で、アルキエルを睨め付けた。
「ベオログぅ~、わかってるだぁ? 当たり前だろが! 戦争だよ! あの滓じゃあ物足りねぇだろ? だから俺がやってやるよぉ! 原初も反フィアーナも関係ねぇ。俺が全てを壊してやる!」
咆哮するかの様に、アルキエルは言い放つ。
「何を言ってんだい! そんな事、させる訳ないだろ!」
「ゼフィロス! てめぇに止められんのかよ! 頼みの綱は、もう居ねえんだぜ」
風の女神は、アルキエルを睨め付ける。
確かにペスカと冬也が揃って止める事が出来ない相手に対し、何が出来ると言うのだ。
しかし、自分達はあの二人に未来を託した、夢を託した。ならば、自分達がなすべき事は一つしかあるまい。
三柱の神は神気を高める。そして互いに視線を交わした。
「随分と、物わかりが良いじゃねぇか。全員でかかって来いよ。そうじゃねぇと一瞬で終わっちまう」
アルキエルの口角が吊り上がる。そして手に持っていた折れた大剣を、投げ捨てた。
「武器を捨てても、勝てると思っとるのか? 舐められたもんじゃのぅ」
「ベオログよぅ。こいつは、冬也と戦う為に用意した特別なもんだ。お前ら相手に使うのは勿体ねぇんだよ」
「その驕りが、お主の敗北となる事を知るが良い!」
山の神が大きく柏手を打つと、大地がせり上がりアルキエルの足を固定する様に掴む。アルキエルは足を動かそうとするが、その大きな力を持ってしても、ピクリとも動かす事は出来ない。
それを合図に、多くの土地神がアルキエルを中心にした数キロに、強固な結界を張る。すかさず風の女神が、右の手に神気を集中させて強く握り絞める。するとアルキエルを中心に、空気が圧縮されていく。
空気を圧縮しきった所で、風の女神は拳を一気に開く。圧縮された空気が一気に膨張し、周囲の大気を巻き込みながら、アルキエルを凄まじい威力の爆発が襲う。
爆発の衝撃は、周囲の木々を軽々と吹き飛ばす。結界内の緑が一瞬で失われる。結界すらもビリビリと振動する。
それは、アルキエルを囲む三柱の神が力を籠めて立たねば、吹き飛ばされかねない程の破壊力であった。
爆風が収まらぬ中で、水の女神が右手を振り上げる。すると上空には、数千にも及ぶ氷の槍が現れる。水の女神が右手を振り下ろすと、豪雨の様に氷の槍がアルキエルに向かって降り注ぐ。数千の槍が尽く、アルキエルに突き刺さっては消えていく。
これだけの攻撃を防御する姿勢を見せずに、アルキエルは受け続けた。流石に無事なはずが無い。仮に倒しきれなかったとしても、致命傷は与えたはず。
しかし、爆風が収まり氷の槍も消え去った時、アルキエルは何事も無かった様な表情で立っていた。
「お終いか? 俺はただ立っているだけだぜ。ベオログのせいで動けねぇしよぉ」
ただ立っている、そんな生易しいものではない。アルキエルは自身の体の周りに神気を張り巡らせ、防御結界を作っていた。圧縮した大気の爆発や氷の槍は、尽く防御結界に阻まれて、アルキエルの体に届く事が無かった。
「あんた達、一気に行くよ!」
風の女神の掛け声で、山の神と水の女神が右手を突き出す。風の女神は両腕を大きく広げてから、強く前へ突き出した。
風の女神は、暴風を巻き起こした。その暴風はアルキエルに向かって吹き荒れる。
土の神は、巨岩をいくつも作りだして暴風に乗せる。まるで大きな大砲の様な巨岩が、アルキエルを襲う。
続いて、水の女神が大量の水を生み出す。大津波の様な水が、暴風と相まって巨大なうねりを作り出す。それは最早、都市を全て破壊し尽くす超大型のハリケーン。
三柱の神が力を合わせた技が、アルキエルに向かう。ただしこれは、単なる大型ハリケーンではない。
起こる物理現象は、全て神気が具現化したもの。三柱が渾身の力を振り絞り、籠めた神気がアルキエルとぶつかる。
巨岩が大砲の様にガンガンとぶつかり、防御結界をへこませていく。強力な渦が、アルキエルの防御結界を、ゴリゴリと削っていく。
どれだけ攻撃が続いただろうか。三柱は神気を籠め続ける。少しずつ、アルキエルの防御結界にひびが入っていく。
ひびが入っただけで、力を弱める訳にはいかない。目的は、防御結界の破壊ではなく、アルキエルを倒す事なのだから。
三柱は、更に神気を高める。ハリケーンは激しさを増し、巨岩の数は増えていく。やがてアルキエルの防御結界はひびが広がり、砕けて消えた。
それと同時にハリケーンは力を失い、巨岩も姿を消した。
「やるじゃねぇか! あんな滓ごときに、神気を使い減らした癖に、上々の結果だぜ!」
アルキエルは、自身の防御結界が破壊されたにも関わらず、嬉しそうに手を叩いていた。
「この調子なら……。いやいい、今はてめぇらだ」
これまでの戦いで、神気を使い浄化をしてきた。どの神も疲労は隠せない。元より三柱の神は、万全の状態ではない。今の攻撃で完全に神気を使い果たし、立っている事さえやっとの状態であった。
ふぅと軽く息を吐くと、アルキエルは土に埋もれていた足を引き抜く。
そして一瞬で風の女神との距離を詰めると、軽く拳を握って殴りつける。軽く殴っただけ、それでも神気の差が大きすぎる。風の女神の体は、その威力に耐えきれずに消し飛ぶ。そしてポトリと、大地に神格だけが大地に転がった。
「ゼフィロス!」
山の神が叫ぶと同時に、アルキエルは山の神との距離を詰める。そしてアルキエルの拳が再び繰り出される。山の神は懸命に避けようとするが間に合わない。アルキエルの拳が触れた瞬間に山の神は消し飛び、またしても神格だけが残された。
「許さない! 許さないよアルキエル!」
水の女神は、瞳にいっぱいの涙を溜めてアルキエルを睨め付けた。しかし、アルキエルは気にも留めずに、跳躍しながら水の女神に蹴りを放つ。水の女神の体もまた、威力に耐えきれずに消し飛び、神格だけが残された。
「後は雑魚だけか。面白くねぇし面倒だが、仕方ねぇよな」
アルキエルは神速で、周りを囲み結界を張る土地神達に近づく。そして内包した神気を解き放つ。大地がグラグラと揺れる。空気が痛い程に震える。そして尽く土地神達を消し飛ばしていった。
アルキエルは、何も残っていない事を確認する様に、周囲を見渡すと姿を消す。グロア大火山の麓には、大量の神格が残された。
ドラグスメリア大陸東部の悪夢。これは、まだ始まりに過ぎない。災厄は訪れる。地上の生物全てが望まない形で。
既に賽は投げられた。誰も止められない。英雄はもう居ない。
「クロノス! 直ぐに二人をセリュシオネの下に運びな!」
辺りに怒声が響き渡り、皆が覚醒していく。クロノスはハッとして、倒れたペスカと冬也の体を抱えて転移する。
「スール! 皆を連れて、逃げな!」
スールは未だ混乱中であった。それはブルやエレナ、ミューモとて同様であった。しかし怒声にも近い、風の女神の声に押される様に動きだす。
アルキエルは、スール達には一瞥すらせずに三柱の神を見据えている。
「ちっとばかり足りねぇが、仕方ねぇか」
アルキエルは、酷くつまらなそうな表情を浮かべる。それは、明らかに侮蔑にも似た表情であった。
唖然としていた山の神や水の女神にも、事態は理解が出来た。何が起きたなど、はっきりしている。邪神やペスカ達の失踪は、全て目の前に居る神の仕業である。
「お主! 何をしたのかわかっておるのか!」
山の神は、激しく声を荒げた。水の女神は、童顔に似合わぬ程に吊り上がった目で、アルキエルを睨め付けた。
「ベオログぅ~、わかってるだぁ? 当たり前だろが! 戦争だよ! あの滓じゃあ物足りねぇだろ? だから俺がやってやるよぉ! 原初も反フィアーナも関係ねぇ。俺が全てを壊してやる!」
咆哮するかの様に、アルキエルは言い放つ。
「何を言ってんだい! そんな事、させる訳ないだろ!」
「ゼフィロス! てめぇに止められんのかよ! 頼みの綱は、もう居ねえんだぜ」
風の女神は、アルキエルを睨め付ける。
確かにペスカと冬也が揃って止める事が出来ない相手に対し、何が出来ると言うのだ。
しかし、自分達はあの二人に未来を託した、夢を託した。ならば、自分達がなすべき事は一つしかあるまい。
三柱の神は神気を高める。そして互いに視線を交わした。
「随分と、物わかりが良いじゃねぇか。全員でかかって来いよ。そうじゃねぇと一瞬で終わっちまう」
アルキエルの口角が吊り上がる。そして手に持っていた折れた大剣を、投げ捨てた。
「武器を捨てても、勝てると思っとるのか? 舐められたもんじゃのぅ」
「ベオログよぅ。こいつは、冬也と戦う為に用意した特別なもんだ。お前ら相手に使うのは勿体ねぇんだよ」
「その驕りが、お主の敗北となる事を知るが良い!」
山の神が大きく柏手を打つと、大地がせり上がりアルキエルの足を固定する様に掴む。アルキエルは足を動かそうとするが、その大きな力を持ってしても、ピクリとも動かす事は出来ない。
それを合図に、多くの土地神がアルキエルを中心にした数キロに、強固な結界を張る。すかさず風の女神が、右の手に神気を集中させて強く握り絞める。するとアルキエルを中心に、空気が圧縮されていく。
空気を圧縮しきった所で、風の女神は拳を一気に開く。圧縮された空気が一気に膨張し、周囲の大気を巻き込みながら、アルキエルを凄まじい威力の爆発が襲う。
爆発の衝撃は、周囲の木々を軽々と吹き飛ばす。結界内の緑が一瞬で失われる。結界すらもビリビリと振動する。
それは、アルキエルを囲む三柱の神が力を籠めて立たねば、吹き飛ばされかねない程の破壊力であった。
爆風が収まらぬ中で、水の女神が右手を振り上げる。すると上空には、数千にも及ぶ氷の槍が現れる。水の女神が右手を振り下ろすと、豪雨の様に氷の槍がアルキエルに向かって降り注ぐ。数千の槍が尽く、アルキエルに突き刺さっては消えていく。
これだけの攻撃を防御する姿勢を見せずに、アルキエルは受け続けた。流石に無事なはずが無い。仮に倒しきれなかったとしても、致命傷は与えたはず。
しかし、爆風が収まり氷の槍も消え去った時、アルキエルは何事も無かった様な表情で立っていた。
「お終いか? 俺はただ立っているだけだぜ。ベオログのせいで動けねぇしよぉ」
ただ立っている、そんな生易しいものではない。アルキエルは自身の体の周りに神気を張り巡らせ、防御結界を作っていた。圧縮した大気の爆発や氷の槍は、尽く防御結界に阻まれて、アルキエルの体に届く事が無かった。
「あんた達、一気に行くよ!」
風の女神の掛け声で、山の神と水の女神が右手を突き出す。風の女神は両腕を大きく広げてから、強く前へ突き出した。
風の女神は、暴風を巻き起こした。その暴風はアルキエルに向かって吹き荒れる。
土の神は、巨岩をいくつも作りだして暴風に乗せる。まるで大きな大砲の様な巨岩が、アルキエルを襲う。
続いて、水の女神が大量の水を生み出す。大津波の様な水が、暴風と相まって巨大なうねりを作り出す。それは最早、都市を全て破壊し尽くす超大型のハリケーン。
三柱の神が力を合わせた技が、アルキエルに向かう。ただしこれは、単なる大型ハリケーンではない。
起こる物理現象は、全て神気が具現化したもの。三柱が渾身の力を振り絞り、籠めた神気がアルキエルとぶつかる。
巨岩が大砲の様にガンガンとぶつかり、防御結界をへこませていく。強力な渦が、アルキエルの防御結界を、ゴリゴリと削っていく。
どれだけ攻撃が続いただろうか。三柱は神気を籠め続ける。少しずつ、アルキエルの防御結界にひびが入っていく。
ひびが入っただけで、力を弱める訳にはいかない。目的は、防御結界の破壊ではなく、アルキエルを倒す事なのだから。
三柱は、更に神気を高める。ハリケーンは激しさを増し、巨岩の数は増えていく。やがてアルキエルの防御結界はひびが広がり、砕けて消えた。
それと同時にハリケーンは力を失い、巨岩も姿を消した。
「やるじゃねぇか! あんな滓ごときに、神気を使い減らした癖に、上々の結果だぜ!」
アルキエルは、自身の防御結界が破壊されたにも関わらず、嬉しそうに手を叩いていた。
「この調子なら……。いやいい、今はてめぇらだ」
これまでの戦いで、神気を使い浄化をしてきた。どの神も疲労は隠せない。元より三柱の神は、万全の状態ではない。今の攻撃で完全に神気を使い果たし、立っている事さえやっとの状態であった。
ふぅと軽く息を吐くと、アルキエルは土に埋もれていた足を引き抜く。
そして一瞬で風の女神との距離を詰めると、軽く拳を握って殴りつける。軽く殴っただけ、それでも神気の差が大きすぎる。風の女神の体は、その威力に耐えきれずに消し飛ぶ。そしてポトリと、大地に神格だけが大地に転がった。
「ゼフィロス!」
山の神が叫ぶと同時に、アルキエルは山の神との距離を詰める。そしてアルキエルの拳が再び繰り出される。山の神は懸命に避けようとするが間に合わない。アルキエルの拳が触れた瞬間に山の神は消し飛び、またしても神格だけが残された。
「許さない! 許さないよアルキエル!」
水の女神は、瞳にいっぱいの涙を溜めてアルキエルを睨め付けた。しかし、アルキエルは気にも留めずに、跳躍しながら水の女神に蹴りを放つ。水の女神の体もまた、威力に耐えきれずに消し飛び、神格だけが残された。
「後は雑魚だけか。面白くねぇし面倒だが、仕方ねぇよな」
アルキエルは神速で、周りを囲み結界を張る土地神達に近づく。そして内包した神気を解き放つ。大地がグラグラと揺れる。空気が痛い程に震える。そして尽く土地神達を消し飛ばしていった。
アルキエルは、何も残っていない事を確認する様に、周囲を見渡すと姿を消す。グロア大火山の麓には、大量の神格が残された。
ドラグスメリア大陸東部の悪夢。これは、まだ始まりに過ぎない。災厄は訪れる。地上の生物全てが望まない形で。
既に賽は投げられた。誰も止められない。英雄はもう居ない。