北側沿岸から山の神が浄化を進める。東部沿岸からクロノスが浄化を進める。南側からは、風の女神と土地神達がモンスターを駆逐する。西側からは、水の女神と土地神達がモンスターを駆逐する。
ドラグスメリア大陸の四方向から、浄化が行われていく。それは邪神の領域を、減らしていく事に他ならない。
そして中央の深部では、ペスカが大規模な浄化を行った。
追い立てられるようにモンスター達は、北西部の隙から逃げ出そうとする。しかし、そこに待ち構えているのは、スールとブル、それにミューモとエレナであった。
上空ではスールが、膨大な数の黒いドラゴンを仕留める。新たに冬也の眷属となったブルは、巨体と有り余る膂力で多くのモンスターを屠っていく。
そしてミューモは、エンシェントドラゴンという種族の枠を超え、更なる高みへ昇ろうとしていた。
一度目は洗脳された四大魔獣を止めきれず、巨人達を瀕死の状態に追い込んだ挙句、邪神の魔の手に落ちかけた。
二度目は、溢れるモンスターから魔獣達を守れなかった挙句、邪神の襲撃をくらい多くの仲間を失った。
仲間を守れなかった後悔、地上最強の生物でも役に立たない現状。冬也に大見得を切ったが、結果は惨憺たるものだった。
次は無い。尽きる事がない悔恨の念は、ミューモの力を何段階にも上げていく。
ミューモは、己の甘さを噛みしめた。不甲斐なさを受け止めた。
スールやブルと自分は違う。簡単に力を得る事など以ての外だ。ペスカは言った、地道に努力しろと。冬也は言った、自分の役目は自分で探せと。
ミューモは生を受けてから、神の命だけをただ熟していればよかった。しかし、それだけでは、本当に守りたいものは守れない。ミューモの中には、己の力で未来を切り開く覚悟が芽生えていた。
「もう沢山だ! 失うのも壊れるのも! 俺は守護者、全てを守る! 冬也様、必ずあなたの下に辿り着いて見せます!」
ミューモはブレスを吐いた。しかし、どれだけ全力でブレスを吐いても、今までと変わらない。今までも全力だったのだから。
ミューモはスールを観察した。そして、全てを模倣した。浄化の技、邪気をマナに変える技。拙いながらも使い続ける内に、ミューモは技術として昇華させていく。
ミューモは次にブルを観察した。腕力にものを言わせ、ただ殴り蹴るだけの戦い方。しかし、そのシンプルな力の使い方を模倣した。
最後にミューモはエレナを観察した。スピードで相手を翻弄する戦い方を模倣した。
ミューモの中には、エンシェントドラゴンの高慢なプライドは欠片も無かった。何度もどん底を味わい、屈辱と後悔を噛みしめて、それでも這い上がろうとする真の強者であった。
ミューモは速度を上げて飛ぶ。モンスター達は、ミューモを目で追う事が出来ない。そして猛烈な速度のまま、モンスターの群れに突進する。スピードに乗った強靭な体は、まさに巨大な砲弾である。
前方に群がるモンスターを、瞬く間に蹴散らしていく。
続けざまに放たれるブレスは、過去の全力を遥かに超えていた。眼前に広がるモンスターの軍勢は、強大な熱量を浴び一瞬で蒸発する。覚醒したミューモを前に、最早モンスターは敵では無かった。
「なんか、凄いんだな。流石ドラゴンなんだな」
「負けないニャ。私だってやるニャ!」
「エレナも充分凄いんだな。小さいくせに、やるんだな」
「何度も小さいって言っちゃ駄目ニャ! 今度言ったら容赦しないニャ!」
エレナはこの中で、唯一の只人だった。
スールとブルは冬也の眷属である。ミューモは覚醒したといえ、エンシェントドラゴンである。エレナは唯の亜人、単に兵士として鍛えられただけの亜人である。
しかし、エレナは持ち前のスピードを活かした戦い方で、自分の何倍も大きいモンスターを、一撃で倒していく。
元々エレナは強かった。しかし、それはゴブリンを始め力の弱い魔獣達よりはという意味で、ドラゴンと肩を並べる程の力を持ち合わせていた訳ではない。
ズマが大陸南部で、最強と呼ばれる存在になった様に、エレナもまた過酷な戦いの中で鍛えられてきた。
自分を教官と慕うズマやゴブリン達を前に、恥ずかしい真似が出来やしない。そのプライドが、エレナを強くしていった。
警戒心が強い割には、一度認めた者に対しては優しい。心優しいが臆病。臆病な割には正義感に溢れ、怯えながらも弱者を守る為に強者に立ち向かう。
慎重かと思えば、時に大胆な行動を取る。自由気ままに思えて、その行動には必ず意味がある。
エレナを表すには、言葉では語りきれないだろう。
ブルはエレナを気に入っていた。志を同じくする親友の様に思っていた。冬也は口で言うほど、エレナの事を心配して無かった。エレナなら何とかなるんじゃないか、そんな淡い期待を持っていた。
ペスカは、エレナに対して期待をしていた。エレナがサムウェルやモーリス達の様に、達人と呼ばれる存在になり得ると思っていた。
現在エレナは、サムウェルやモーリス、ケーリアといった名だたる達人と比べても、何ら遜色のない働きをしている。
キャットピープルの中でも、エレナが実力者であった事は間違いない。しかし達人と呼ばれる程の域に、エレナがどうして達する事が出来たのか。もしエレナが、単身でこの場に居たとしたら、恐らく逃げていただろう。
これまでの戦いにおいて、エレナの傍には仲間が居た。己が身を挺して守らねばならない仲間。そして今、背を預けられる仲間が居る。
その存在こそが、エレナの力を爆発的に上昇させていた。
長い戦いの中で疲れ果てても、闘志が萎える事は無い。スピードで翻弄し、一体ずつ確実にモンスターを倒していく。
スールやブル達と違い、倒す量の差こそあれど、エレナは紛れもない強者であった。
「やりおるのぅ。エレナと言ったか、あの娘。あんな娘が頑張っているんじゃ、儂も負けてはおれんのぅ」
スールはエレナの戦いを見て、改めて闘志を漲らせた。
ミューモはエンシェントドラゴンである。そこそこ戦えて当たり前。ブルは自分と同じく冬也の眷属である。目の前のモンスターが敵になる事すらあるまい。
しかし、亜人であるエレナは違う。様々な苦難の末で、高みに辿り着いた強者である。
エレナの戦いは、スールだけでなくミューモやブルにも影響を与える。
触発される様に、スール達の動きが良くなっていく。影響し合い、いつしか連携が生まれ、モンスターを駆逐していく。大陸東部から溢れ出るモンスターの波を、押し返していく。
幾多の犠牲を生み、引き返せざるを得なかった。撤退した魔獣達の雪辱を晴らす様に、スール達はモンスターを滅ぼし尽くした。そして、とうとう東部境界線まで、スール達は辿り着いた。
「お主ら、ここからが本番じゃ。決して油断はするなよ」
「わかっているスール。俺はまだこれからだ」
「大丈夫なんだな。冬也と会いたいんだな」
「冬也は余裕が無いニャ。だからあんなにつんけんしてたニャ。弱っちい冬也を助けてやるニャ」
三体と一人は、邪神の領域に足を踏み入れる。生物が生きられない地獄へ。それでも止まる事は無い。
それは勇者の歩みであった。
四か所から神々の軍勢が、深部に向かっている。魔獣と亜人が、猛烈な勢いでモンスターを駆逐し、侵攻を続けている。
大陸東部は完全に囲まれ、邪神の領域が狭まっていく。そして深部では、ペスカと冬也が邪神に迫る。
戦いは大詰めを迎えようとしている。
ただ、火の神の神格を持つ邪神が、このまま手をこまねいている筈がない。大陸東部に足を踏み入れた者が皆、己を戒める。何が起きても、不思議ではない。それが邪神なのだから。
ドラグスメリア大陸の四方向から、浄化が行われていく。それは邪神の領域を、減らしていく事に他ならない。
そして中央の深部では、ペスカが大規模な浄化を行った。
追い立てられるようにモンスター達は、北西部の隙から逃げ出そうとする。しかし、そこに待ち構えているのは、スールとブル、それにミューモとエレナであった。
上空ではスールが、膨大な数の黒いドラゴンを仕留める。新たに冬也の眷属となったブルは、巨体と有り余る膂力で多くのモンスターを屠っていく。
そしてミューモは、エンシェントドラゴンという種族の枠を超え、更なる高みへ昇ろうとしていた。
一度目は洗脳された四大魔獣を止めきれず、巨人達を瀕死の状態に追い込んだ挙句、邪神の魔の手に落ちかけた。
二度目は、溢れるモンスターから魔獣達を守れなかった挙句、邪神の襲撃をくらい多くの仲間を失った。
仲間を守れなかった後悔、地上最強の生物でも役に立たない現状。冬也に大見得を切ったが、結果は惨憺たるものだった。
次は無い。尽きる事がない悔恨の念は、ミューモの力を何段階にも上げていく。
ミューモは、己の甘さを噛みしめた。不甲斐なさを受け止めた。
スールやブルと自分は違う。簡単に力を得る事など以ての外だ。ペスカは言った、地道に努力しろと。冬也は言った、自分の役目は自分で探せと。
ミューモは生を受けてから、神の命だけをただ熟していればよかった。しかし、それだけでは、本当に守りたいものは守れない。ミューモの中には、己の力で未来を切り開く覚悟が芽生えていた。
「もう沢山だ! 失うのも壊れるのも! 俺は守護者、全てを守る! 冬也様、必ずあなたの下に辿り着いて見せます!」
ミューモはブレスを吐いた。しかし、どれだけ全力でブレスを吐いても、今までと変わらない。今までも全力だったのだから。
ミューモはスールを観察した。そして、全てを模倣した。浄化の技、邪気をマナに変える技。拙いながらも使い続ける内に、ミューモは技術として昇華させていく。
ミューモは次にブルを観察した。腕力にものを言わせ、ただ殴り蹴るだけの戦い方。しかし、そのシンプルな力の使い方を模倣した。
最後にミューモはエレナを観察した。スピードで相手を翻弄する戦い方を模倣した。
ミューモの中には、エンシェントドラゴンの高慢なプライドは欠片も無かった。何度もどん底を味わい、屈辱と後悔を噛みしめて、それでも這い上がろうとする真の強者であった。
ミューモは速度を上げて飛ぶ。モンスター達は、ミューモを目で追う事が出来ない。そして猛烈な速度のまま、モンスターの群れに突進する。スピードに乗った強靭な体は、まさに巨大な砲弾である。
前方に群がるモンスターを、瞬く間に蹴散らしていく。
続けざまに放たれるブレスは、過去の全力を遥かに超えていた。眼前に広がるモンスターの軍勢は、強大な熱量を浴び一瞬で蒸発する。覚醒したミューモを前に、最早モンスターは敵では無かった。
「なんか、凄いんだな。流石ドラゴンなんだな」
「負けないニャ。私だってやるニャ!」
「エレナも充分凄いんだな。小さいくせに、やるんだな」
「何度も小さいって言っちゃ駄目ニャ! 今度言ったら容赦しないニャ!」
エレナはこの中で、唯一の只人だった。
スールとブルは冬也の眷属である。ミューモは覚醒したといえ、エンシェントドラゴンである。エレナは唯の亜人、単に兵士として鍛えられただけの亜人である。
しかし、エレナは持ち前のスピードを活かした戦い方で、自分の何倍も大きいモンスターを、一撃で倒していく。
元々エレナは強かった。しかし、それはゴブリンを始め力の弱い魔獣達よりはという意味で、ドラゴンと肩を並べる程の力を持ち合わせていた訳ではない。
ズマが大陸南部で、最強と呼ばれる存在になった様に、エレナもまた過酷な戦いの中で鍛えられてきた。
自分を教官と慕うズマやゴブリン達を前に、恥ずかしい真似が出来やしない。そのプライドが、エレナを強くしていった。
警戒心が強い割には、一度認めた者に対しては優しい。心優しいが臆病。臆病な割には正義感に溢れ、怯えながらも弱者を守る為に強者に立ち向かう。
慎重かと思えば、時に大胆な行動を取る。自由気ままに思えて、その行動には必ず意味がある。
エレナを表すには、言葉では語りきれないだろう。
ブルはエレナを気に入っていた。志を同じくする親友の様に思っていた。冬也は口で言うほど、エレナの事を心配して無かった。エレナなら何とかなるんじゃないか、そんな淡い期待を持っていた。
ペスカは、エレナに対して期待をしていた。エレナがサムウェルやモーリス達の様に、達人と呼ばれる存在になり得ると思っていた。
現在エレナは、サムウェルやモーリス、ケーリアといった名だたる達人と比べても、何ら遜色のない働きをしている。
キャットピープルの中でも、エレナが実力者であった事は間違いない。しかし達人と呼ばれる程の域に、エレナがどうして達する事が出来たのか。もしエレナが、単身でこの場に居たとしたら、恐らく逃げていただろう。
これまでの戦いにおいて、エレナの傍には仲間が居た。己が身を挺して守らねばならない仲間。そして今、背を預けられる仲間が居る。
その存在こそが、エレナの力を爆発的に上昇させていた。
長い戦いの中で疲れ果てても、闘志が萎える事は無い。スピードで翻弄し、一体ずつ確実にモンスターを倒していく。
スールやブル達と違い、倒す量の差こそあれど、エレナは紛れもない強者であった。
「やりおるのぅ。エレナと言ったか、あの娘。あんな娘が頑張っているんじゃ、儂も負けてはおれんのぅ」
スールはエレナの戦いを見て、改めて闘志を漲らせた。
ミューモはエンシェントドラゴンである。そこそこ戦えて当たり前。ブルは自分と同じく冬也の眷属である。目の前のモンスターが敵になる事すらあるまい。
しかし、亜人であるエレナは違う。様々な苦難の末で、高みに辿り着いた強者である。
エレナの戦いは、スールだけでなくミューモやブルにも影響を与える。
触発される様に、スール達の動きが良くなっていく。影響し合い、いつしか連携が生まれ、モンスターを駆逐していく。大陸東部から溢れ出るモンスターの波を、押し返していく。
幾多の犠牲を生み、引き返せざるを得なかった。撤退した魔獣達の雪辱を晴らす様に、スール達はモンスターを滅ぼし尽くした。そして、とうとう東部境界線まで、スール達は辿り着いた。
「お主ら、ここからが本番じゃ。決して油断はするなよ」
「わかっているスール。俺はまだこれからだ」
「大丈夫なんだな。冬也と会いたいんだな」
「冬也は余裕が無いニャ。だからあんなにつんけんしてたニャ。弱っちい冬也を助けてやるニャ」
三体と一人は、邪神の領域に足を踏み入れる。生物が生きられない地獄へ。それでも止まる事は無い。
それは勇者の歩みであった。
四か所から神々の軍勢が、深部に向かっている。魔獣と亜人が、猛烈な勢いでモンスターを駆逐し、侵攻を続けている。
大陸東部は完全に囲まれ、邪神の領域が狭まっていく。そして深部では、ペスカと冬也が邪神に迫る。
戦いは大詰めを迎えようとしている。
ただ、火の神の神格を持つ邪神が、このまま手をこまねいている筈がない。大陸東部に足を踏み入れた者が皆、己を戒める。何が起きても、不思議ではない。それが邪神なのだから。