女神を乗っ取った邪神は、四体の魔獣に再び邪気を与える。しかし冬也は、四体の魔獣を一刀の下に切り伏せた。四体の魔獣は浄化され倒れる。そして邪神は、乗っ取った美しい女神の顔を、悔し気に歪めた。
邪神は憎しげに冬也を睨め付る。対して、悲し気な冬也の眼差しが女神に注がれる。
また、神気が繋がったせいで、冬也にはスールの状態が手に取る様にわかる。スールは既に限界を迎えようとしている。それでも、邪気が避難した巨人達に届かない様に、懸命に耐えている。
ペスカは直ぐに立てる状況にはない。この瞬間に戦えるのは自分だけ。だが充分だ。冬也は神剣に光を灯し、闘志を燃やした。
「こんな事を何回繰り返すつもりなんだよ、てめぇは!」
「これで終わりだよ。きさまを殺してねぇ~!」
冬也は一瞬で邪神との間合いを詰める。そして神剣を袈裟懸けに振り下ろした。
邪神は咄嗟に避ける、しかし、冬也は返す刀で逆袈裟に斬り上げる。冬也の神剣が女神の体を掠める。冬也の神剣は悪意を切り裂く。掠めただけでも、邪気が体から消えていく。
高速の攻防は続く。
冬也は神剣を上段から振り下ろす。邪神がギリギリで避けると、すぐさま冬也は中段からの突きに切り替えた。冬也の神剣は再び女神を掠める。そして邪気が消えていく。
突きからの横薙ぎ。冬也の神剣が、女神の胴を掠めて邪気を消す。
邪神は冬也の攻撃を避けきれない。体が重い、思う様に動かせない。冬也の剣を掠める毎に力を失っていく。
苛立ちが増す。憎しみが増す。邪神の怒りは、美しい女神の顔を更に醜く歪めていった。
「本気が出せねぇか? そりゃそうだろ。それはお前の体じゃねぇからな。女神を乗っ取ったら、その力も使えるとでも思ったか? 甘すぎだろ! 優秀? お前が? 優秀なのはそこの女神だろ!」
冬也の言葉で邪神の怒りは頂点に達した。
「糞が! 僕に出来ない事なんて無いんだよ! 殺してやる。八つ裂きにして、首を晒してやる。お前も後ろにいる連中も全てだ! 殺して殺して殺しぬいて、魂も全て僕が取り込んでやるよ!」
そして悪意が膨らむ。邪気が大地を汚していく。邪神の周囲から大地や大気、全てが腐っていく。強い臭気が辺りを包む。淀んだ悪意が全てを飲み込もうと、ドロドロと溶けていく。
「だから、あめえって言ってんだよ!」
冬也は神剣に神気を集めて、一振りする。大気に溢れた臭気は一瞬で消え去る。そして、冬也は大地に神剣を突き刺した。
汚泥と化した大地から穢れが払われ、元の姿に戻っていく。
本来なら女神を取り込んだ時点で、邪神の勝利は確定していたはずだった。
風の神ゼフィロス。原初の神の一柱であり強い力を持つ女神。邪神は大陸東部で、その力を奪う為に女神へ取り付いた。そして、女神の内部から浸食する為に、力を尽くした。
女神は内側から攻撃される事に耐えきれず、邪神ごと自分を封印する様に、大地に結界を張った。
封印されては、邪神の目的を果たせない。邪神は封印される間際に、大陸西部でも大きな力を持つ四体の魔獣を操る事に成功した。四体の魔獣に暴れさせて、大地を破壊尽くさせ、封印を壊す算段であった。
邪神の計略は思い通りに運んだ。
エンシェントドラゴンの眷属を倒し、援軍に現れた巨人を倒しミューモをも倒した。
更にミューモを取り込めば、結界を破壊できるかもしれない。力が足りなければ、倒れた巨人をも取り込めば良い。
しかしペスカ達が現れた時、計略に狂いが生じた。ミューモを悪意から目覚めさせた挙句に、四体の魔獣から悪意を消し飛ばしたのだ。
それでも、邪神の優位は変わらないはずだった。
四体の魔獣を使って破壊を繰り返した結果、邪神の力は強まり、女神の力は弱まっている。結界の中で女神を侵食し続け、完全に支配するまで後少しであった。
そして、冬也が女神の結界を破る。
邪神は高笑いした。自分の敵であるはずの混血が、事も有ろうか自分を助けたのだ。邪神の胸は躍った。全ての終わりがこれから始まるのだと。
しかし、何故か体が思う様に動かない。女神の力が使えない。混血風情から攻撃を受けて、自分の力が少しずつ消滅させられていく。
女神を取り込んだのだ、そんなはずは無い。強大な力を手にしたはずなのだ、何故こんな半端者にやられる。
邪神は、懸命に頭を働かせる。だが理解は出来ない。当たり前だ、邪神は肝心な事を見落としているのだから。
「悩んでるようだね、偽ロメ二号! 教えて上げよっか? 女神は消えて無いよ! あんたはお兄ちゃんに気を取らせ過ぎたんだよ!」
遠くから声が聞こえる。それは、自分を苛立たせる声。声の主は、邪神ロメリアの記憶に鮮明に残る、ペスカという名の小娘。苛立ちと共に、邪神は更に邪気を解き放った。
先程よりも、遥かに早い速度で大地が穢されていく。しかし、冬也の前では児戯にも等しく、あっさりと穢れは払われる。
「ご苦労様、スール。もう良いよ、後は任せて休みな」
回復を図ると共に、神気を練り上げていたペスカが、ゆっくりと立ち上がる。そしてスールの体をポンと叩き休息を促す。そして、歩みを進めながら、神剣を取り出した。
「さて、あんたも終わりだね。偽ロメ二号!」
「何だ! 何だと言うんだ! 僕が、この僕がぁ! 貴様らの様な半端な神にやられるはずが無いんだよ!」
「まだわかってないの? 馬鹿だね、偽ロメ二号! 三対一だって言ってんの!」
その瞬間だった、女神の体に光が戻る。邪神は呻き声を上げた。
「ガァァァァア! なぁぁあなああんだぁああ、これわぁぁあああ!」
邪神の叫びと共に、ペスカが神剣を振るい光の刃を飛ばす。同時に、冬也の神剣が振り下ろされる。そして、女神の内部から光が膨れ上がる。
邪神は動けない。女神の体から抜け出る事が出来ない。逃げる事が出来ない。何も出来ない。
ただ剣を受ける、光の刃を受ける、内側から壊される。悲鳴すら上げられない。憎むことさえ、もう出来ない。
そして邪神は消滅した。
☆ ☆ ☆
「所詮は分体か。あわよくば一柱でもと思ったがな」
「仕方あるまい。まだ手は残っている」
「どの道、これだけ増えればどれが本体だかわかるまい」
「躍起になればなる程な。ははっ、手の平の上で踊らされているとも知らずに」
「それにしても、よくやってくれた。新たな同胞よ」
「この位は造作もない。それより、我等を迎えてくれて有難く思う」
「反フィアーナ同盟よ。やはり、我等と同じ志を持つ者は、いつの時も現れる」
「そうだ。正しいのは、我等の方だ!」
「ただ、奴らは我等の足取りを追っている。くれぐれも気取られるなよ」
「わかっている。ここでミュールの力を削ぐ。あの巨大な力は我等の物だ」
「フィアーナの力は大半を奪った」
「あぁ、我等は強くなっている」
「そうだ。我等は原初の神すら凌駕する」
「皆にも伝えよ。決起の時は近い」
「あぁ。世界は我等の手に!」
「世界は我等の手に!」
邪神は憎しげに冬也を睨め付る。対して、悲し気な冬也の眼差しが女神に注がれる。
また、神気が繋がったせいで、冬也にはスールの状態が手に取る様にわかる。スールは既に限界を迎えようとしている。それでも、邪気が避難した巨人達に届かない様に、懸命に耐えている。
ペスカは直ぐに立てる状況にはない。この瞬間に戦えるのは自分だけ。だが充分だ。冬也は神剣に光を灯し、闘志を燃やした。
「こんな事を何回繰り返すつもりなんだよ、てめぇは!」
「これで終わりだよ。きさまを殺してねぇ~!」
冬也は一瞬で邪神との間合いを詰める。そして神剣を袈裟懸けに振り下ろした。
邪神は咄嗟に避ける、しかし、冬也は返す刀で逆袈裟に斬り上げる。冬也の神剣が女神の体を掠める。冬也の神剣は悪意を切り裂く。掠めただけでも、邪気が体から消えていく。
高速の攻防は続く。
冬也は神剣を上段から振り下ろす。邪神がギリギリで避けると、すぐさま冬也は中段からの突きに切り替えた。冬也の神剣は再び女神を掠める。そして邪気が消えていく。
突きからの横薙ぎ。冬也の神剣が、女神の胴を掠めて邪気を消す。
邪神は冬也の攻撃を避けきれない。体が重い、思う様に動かせない。冬也の剣を掠める毎に力を失っていく。
苛立ちが増す。憎しみが増す。邪神の怒りは、美しい女神の顔を更に醜く歪めていった。
「本気が出せねぇか? そりゃそうだろ。それはお前の体じゃねぇからな。女神を乗っ取ったら、その力も使えるとでも思ったか? 甘すぎだろ! 優秀? お前が? 優秀なのはそこの女神だろ!」
冬也の言葉で邪神の怒りは頂点に達した。
「糞が! 僕に出来ない事なんて無いんだよ! 殺してやる。八つ裂きにして、首を晒してやる。お前も後ろにいる連中も全てだ! 殺して殺して殺しぬいて、魂も全て僕が取り込んでやるよ!」
そして悪意が膨らむ。邪気が大地を汚していく。邪神の周囲から大地や大気、全てが腐っていく。強い臭気が辺りを包む。淀んだ悪意が全てを飲み込もうと、ドロドロと溶けていく。
「だから、あめえって言ってんだよ!」
冬也は神剣に神気を集めて、一振りする。大気に溢れた臭気は一瞬で消え去る。そして、冬也は大地に神剣を突き刺した。
汚泥と化した大地から穢れが払われ、元の姿に戻っていく。
本来なら女神を取り込んだ時点で、邪神の勝利は確定していたはずだった。
風の神ゼフィロス。原初の神の一柱であり強い力を持つ女神。邪神は大陸東部で、その力を奪う為に女神へ取り付いた。そして、女神の内部から浸食する為に、力を尽くした。
女神は内側から攻撃される事に耐えきれず、邪神ごと自分を封印する様に、大地に結界を張った。
封印されては、邪神の目的を果たせない。邪神は封印される間際に、大陸西部でも大きな力を持つ四体の魔獣を操る事に成功した。四体の魔獣に暴れさせて、大地を破壊尽くさせ、封印を壊す算段であった。
邪神の計略は思い通りに運んだ。
エンシェントドラゴンの眷属を倒し、援軍に現れた巨人を倒しミューモをも倒した。
更にミューモを取り込めば、結界を破壊できるかもしれない。力が足りなければ、倒れた巨人をも取り込めば良い。
しかしペスカ達が現れた時、計略に狂いが生じた。ミューモを悪意から目覚めさせた挙句に、四体の魔獣から悪意を消し飛ばしたのだ。
それでも、邪神の優位は変わらないはずだった。
四体の魔獣を使って破壊を繰り返した結果、邪神の力は強まり、女神の力は弱まっている。結界の中で女神を侵食し続け、完全に支配するまで後少しであった。
そして、冬也が女神の結界を破る。
邪神は高笑いした。自分の敵であるはずの混血が、事も有ろうか自分を助けたのだ。邪神の胸は躍った。全ての終わりがこれから始まるのだと。
しかし、何故か体が思う様に動かない。女神の力が使えない。混血風情から攻撃を受けて、自分の力が少しずつ消滅させられていく。
女神を取り込んだのだ、そんなはずは無い。強大な力を手にしたはずなのだ、何故こんな半端者にやられる。
邪神は、懸命に頭を働かせる。だが理解は出来ない。当たり前だ、邪神は肝心な事を見落としているのだから。
「悩んでるようだね、偽ロメ二号! 教えて上げよっか? 女神は消えて無いよ! あんたはお兄ちゃんに気を取らせ過ぎたんだよ!」
遠くから声が聞こえる。それは、自分を苛立たせる声。声の主は、邪神ロメリアの記憶に鮮明に残る、ペスカという名の小娘。苛立ちと共に、邪神は更に邪気を解き放った。
先程よりも、遥かに早い速度で大地が穢されていく。しかし、冬也の前では児戯にも等しく、あっさりと穢れは払われる。
「ご苦労様、スール。もう良いよ、後は任せて休みな」
回復を図ると共に、神気を練り上げていたペスカが、ゆっくりと立ち上がる。そしてスールの体をポンと叩き休息を促す。そして、歩みを進めながら、神剣を取り出した。
「さて、あんたも終わりだね。偽ロメ二号!」
「何だ! 何だと言うんだ! 僕が、この僕がぁ! 貴様らの様な半端な神にやられるはずが無いんだよ!」
「まだわかってないの? 馬鹿だね、偽ロメ二号! 三対一だって言ってんの!」
その瞬間だった、女神の体に光が戻る。邪神は呻き声を上げた。
「ガァァァァア! なぁぁあなああんだぁああ、これわぁぁあああ!」
邪神の叫びと共に、ペスカが神剣を振るい光の刃を飛ばす。同時に、冬也の神剣が振り下ろされる。そして、女神の内部から光が膨れ上がる。
邪神は動けない。女神の体から抜け出る事が出来ない。逃げる事が出来ない。何も出来ない。
ただ剣を受ける、光の刃を受ける、内側から壊される。悲鳴すら上げられない。憎むことさえ、もう出来ない。
そして邪神は消滅した。
☆ ☆ ☆
「所詮は分体か。あわよくば一柱でもと思ったがな」
「仕方あるまい。まだ手は残っている」
「どの道、これだけ増えればどれが本体だかわかるまい」
「躍起になればなる程な。ははっ、手の平の上で踊らされているとも知らずに」
「それにしても、よくやってくれた。新たな同胞よ」
「この位は造作もない。それより、我等を迎えてくれて有難く思う」
「反フィアーナ同盟よ。やはり、我等と同じ志を持つ者は、いつの時も現れる」
「そうだ。正しいのは、我等の方だ!」
「ただ、奴らは我等の足取りを追っている。くれぐれも気取られるなよ」
「わかっている。ここでミュールの力を削ぐ。あの巨大な力は我等の物だ」
「フィアーナの力は大半を奪った」
「あぁ、我等は強くなっている」
「そうだ。我等は原初の神すら凌駕する」
「皆にも伝えよ。決起の時は近い」
「あぁ。世界は我等の手に!」
「世界は我等の手に!」