悪意に包まれ、黒く体を染めた四体の魔獣達は、何れも強力だった。その力は、エンシェントドラゴンのミューモであっても、容易に止める事は出来なかった。
そして大陸の大事に、ドラグスメリア大陸でも有数の力を持つ、巨人達が集まる。しかし四体の魔獣の前に成す術無く敗れ去り、生死不明の状況に追い込まれた。
「テュホン! ユミル! スルト! アトラス! アルゴス! サイクロプスの一族まで! くそっ! もっと力が有れば……」
違う。神に最も近いとされたエンシェントドラゴンより強力な魔獣は、この世に存在しない。魔獣の中でも強大な力を持つ四大魔獣とて、巨人達が力を合わせれば鎮める事も容易かったろう。
それが、巨人達は成す術なく倒され、眷属のドラゴン達も次々と倒れていく。そんな中、エンシェントドラゴンであるユミルでさえ、彼等を相手に苦戦を続けている。
そんな状況自体が、異常なのだ。
眷属達が無事であったなら、巨人達を安全な場所に運ばせる事も出来ただろう。治療も可能だったはず。だが今は、眷属すら意識が戻っていない。
ミューモは、巨人達が無事で有る事を信じるしか無かった。「彼らの勇気に応える為にも、一早くこの状況を治めよう」。そしてミューモは、ブレスを吐いて四体の魔獣に応戦した。
四体の魔獣は、依然として猛威を振るう。
ヒュドラが吐く毒のブレスを少しでも吸えば、ミューモとて深いダメージを食らう。毒のブレスを避ける為に高度を上げて飛ぶと、上空からはベヒモスの魔法で作られた黒い塊が降り注ぐ。
黒い塊を避けた先には、グリフォンが待ち構えており、鋭いかぎ爪が迫る。時折、まるで地上から放たれたミサイルの様に、勢い良くフェンリルがジャンプし、尖った牙と爪が身体を掠める。
ミューモは、四体の魔獣から繰り出される攻撃を躱しつつ、輝くブレスを吐く。しかし、四体の魔獣は巧みな連携で、ミューモのブレスを容易く躱し攻撃を繰り返した。
神々が作った最初の生物、原始のドラゴン。全ての生物の頂点とも言える力を持ち、世界の守護者として生きてきた。生を受けてより此の方、ミューモは追い込まれる事は一度とて無かった。
「神よ、どうか力をお貸しください」
神の気配を探ろうとしても、妨害されているかの様に何も感じない。そして、連携が取れた攻撃は、ミューモを徐々に追い詰めていく。
魔法と飛行による、ベヒモスとグリフォンの連携が巧みに活きる。ミューモの飛ぶ高度は、気付かぬ内に落ちていく。そして、大気に紛れた毒の霧が、ミューモの内臓を蝕み、動きが徐々に遅くなる。
遂にミューモは、魔獣達の攻撃を躱せなくなる。並みの生物では傷を付けられない黄金の鱗は、少しずつ剥がれ落ち、翼には穴が開く。それでもミューモは空を駆けた。
ミューモは、完全に防戦一方になっていた。
世界で最も硬いドラゴンの鱗を、容易に貫通する黒い塊に牙やかぎ爪。痛みに呻く暇すら与えない、四体の魔獣の連続攻撃。失いそうになる意識を懸命に取り戻し、ミューモはブレスを吐く。だがミューモの攻撃は、尽く避けられる。
行動を予測でもされているのか。そんな錯覚さえ起こす程に、ミューモは追い込まれていった。
助けは来ないだろう。ミューモは本能的に悟っていた。
大陸西部でこれだけの事が起きている。北部や南部が無事なはずが無い。東部は、スールの眷属の言葉からして、もう手遅れなのだろう。
他のエンシェントドラゴン達も無事でいるかどうか。神とも繋がらない様な事態で、自分が倒れる訳にはいかない。
ミューモは己を奮い立たせる。そして、膨大なマナを擦り減らし飛び続けた。
痛みが全身を駆け抜ける。それでも魔法を放つ。それでもブレスを吐く。だが、ミューモの攻撃は当たらない。そして、魔獣達の攻撃はミューモの身体を貫く。
絶望がミューモの頭に過った。その瞬間に、黒い闇がミューモの眼前を遮り、幻聴が聞こえる。
お前には倒せない。お前は何も出来ない。
何も守れない。全て失う。
大地は荒廃する。生物は全て死に絶える。
お前は使命を果たせない。神から与えられた大切な役目はここで終わる。
その幻聴にミューモは、抗おうとする。
止めろ!
違う!
俺は守れる!
まだ戦える!
まだやれる!
頭に響く幻聴は、ミューモの精神を押しつぶしていく。どれだけ抵抗しようとも、幻聴はミューモを苛み続けた。
終わりだ。もう終わりだ。
お前はここで終わるんだ。
うるさい!
ふざけるな!
終わるものか!
負けはしない!
俺は原初のドラゴンだ!
違う、お前は違う、お前はもう死んだ。
お前の肉体はもう無い、全ては闇の中だ。
死んでない、俺はまだ死んでない。
戦える、お前らを倒す。
囁くな、俺の中で囁くな。
「ロメリア! 俺の中で囁くな!」
ミューモは発狂した様に叫んでいた。
この時、ミューモはようやく悟った。東の地で何が起きたのかを。そして、ラフィスフィア大陸で邪神がどうやって力有る者達を取り込んで言ったのかを。
悪意は、ミューモの精神を苛み続ける。魔獣は、ミューモの体を壊し続ける。既に体はボロボロで、飛ぶ事さえ出来ない。叫んだ直後に意識を失い、ミューモの体は静かに地上へ落ちていく。
黒い闇がミューモの全身を包む。そしてゆっくりとゆっくりと、悪意がミューモを取り込んでいく。そして魂の輝きが光を失う。
何も救えない。誰も救われない。お前自身が救われない。
神の為に尽くしたお前に、神が何をした。お前は捨てられた。お前は見放された。
神を恨め。ミュールを憎め。お前を利用し、使い捨てた神に復讐しろ。
目に映るものは、全てが敵だ。誰もお前を守らない。お前しかお前は守れない。だから潰せ。目の前の敵を潰せ。神を潰せ。
もういいだろう。そうだ堕ちて来い。こっちに来い。こっちに来い。こっちに来い。さあ、さあ、さあ。
お前を歓迎しよう。お前は幸福になる。お前の幸せはこれから始まる。嘘に塗り固められた世界は終る。これからお前の生が始まる。
さあ来い。こっちに来い。堕ちて来い。
やがて、ミューモのマナが消えていく。ミューモの意思が消えていく。黄金の体は、どす黒く塗り替えられる。ミューモの体に、淀んだマナが流れ込んでいく。
全てが闇に呑まれ様としていた。四体の魔獣に続き、エンシェントドラゴンが闇に落ちる。それは、大陸西部の終焉を意味していた。
しかし、終焉を訪れさせまいと、雄々しい叫び声が響き渡る。
「簡単に終わってんじゃねぇよ、糞ドラゴン!」
闇に落ちたミューモ。倒れ伏す巨人達。暴れ続ける四体の魔獣。その声は、悪化を続ける状況を照らす光明と鳴る得るのか。
そして大陸の大事に、ドラグスメリア大陸でも有数の力を持つ、巨人達が集まる。しかし四体の魔獣の前に成す術無く敗れ去り、生死不明の状況に追い込まれた。
「テュホン! ユミル! スルト! アトラス! アルゴス! サイクロプスの一族まで! くそっ! もっと力が有れば……」
違う。神に最も近いとされたエンシェントドラゴンより強力な魔獣は、この世に存在しない。魔獣の中でも強大な力を持つ四大魔獣とて、巨人達が力を合わせれば鎮める事も容易かったろう。
それが、巨人達は成す術なく倒され、眷属のドラゴン達も次々と倒れていく。そんな中、エンシェントドラゴンであるユミルでさえ、彼等を相手に苦戦を続けている。
そんな状況自体が、異常なのだ。
眷属達が無事であったなら、巨人達を安全な場所に運ばせる事も出来ただろう。治療も可能だったはず。だが今は、眷属すら意識が戻っていない。
ミューモは、巨人達が無事で有る事を信じるしか無かった。「彼らの勇気に応える為にも、一早くこの状況を治めよう」。そしてミューモは、ブレスを吐いて四体の魔獣に応戦した。
四体の魔獣は、依然として猛威を振るう。
ヒュドラが吐く毒のブレスを少しでも吸えば、ミューモとて深いダメージを食らう。毒のブレスを避ける為に高度を上げて飛ぶと、上空からはベヒモスの魔法で作られた黒い塊が降り注ぐ。
黒い塊を避けた先には、グリフォンが待ち構えており、鋭いかぎ爪が迫る。時折、まるで地上から放たれたミサイルの様に、勢い良くフェンリルがジャンプし、尖った牙と爪が身体を掠める。
ミューモは、四体の魔獣から繰り出される攻撃を躱しつつ、輝くブレスを吐く。しかし、四体の魔獣は巧みな連携で、ミューモのブレスを容易く躱し攻撃を繰り返した。
神々が作った最初の生物、原始のドラゴン。全ての生物の頂点とも言える力を持ち、世界の守護者として生きてきた。生を受けてより此の方、ミューモは追い込まれる事は一度とて無かった。
「神よ、どうか力をお貸しください」
神の気配を探ろうとしても、妨害されているかの様に何も感じない。そして、連携が取れた攻撃は、ミューモを徐々に追い詰めていく。
魔法と飛行による、ベヒモスとグリフォンの連携が巧みに活きる。ミューモの飛ぶ高度は、気付かぬ内に落ちていく。そして、大気に紛れた毒の霧が、ミューモの内臓を蝕み、動きが徐々に遅くなる。
遂にミューモは、魔獣達の攻撃を躱せなくなる。並みの生物では傷を付けられない黄金の鱗は、少しずつ剥がれ落ち、翼には穴が開く。それでもミューモは空を駆けた。
ミューモは、完全に防戦一方になっていた。
世界で最も硬いドラゴンの鱗を、容易に貫通する黒い塊に牙やかぎ爪。痛みに呻く暇すら与えない、四体の魔獣の連続攻撃。失いそうになる意識を懸命に取り戻し、ミューモはブレスを吐く。だがミューモの攻撃は、尽く避けられる。
行動を予測でもされているのか。そんな錯覚さえ起こす程に、ミューモは追い込まれていった。
助けは来ないだろう。ミューモは本能的に悟っていた。
大陸西部でこれだけの事が起きている。北部や南部が無事なはずが無い。東部は、スールの眷属の言葉からして、もう手遅れなのだろう。
他のエンシェントドラゴン達も無事でいるかどうか。神とも繋がらない様な事態で、自分が倒れる訳にはいかない。
ミューモは己を奮い立たせる。そして、膨大なマナを擦り減らし飛び続けた。
痛みが全身を駆け抜ける。それでも魔法を放つ。それでもブレスを吐く。だが、ミューモの攻撃は当たらない。そして、魔獣達の攻撃はミューモの身体を貫く。
絶望がミューモの頭に過った。その瞬間に、黒い闇がミューモの眼前を遮り、幻聴が聞こえる。
お前には倒せない。お前は何も出来ない。
何も守れない。全て失う。
大地は荒廃する。生物は全て死に絶える。
お前は使命を果たせない。神から与えられた大切な役目はここで終わる。
その幻聴にミューモは、抗おうとする。
止めろ!
違う!
俺は守れる!
まだ戦える!
まだやれる!
頭に響く幻聴は、ミューモの精神を押しつぶしていく。どれだけ抵抗しようとも、幻聴はミューモを苛み続けた。
終わりだ。もう終わりだ。
お前はここで終わるんだ。
うるさい!
ふざけるな!
終わるものか!
負けはしない!
俺は原初のドラゴンだ!
違う、お前は違う、お前はもう死んだ。
お前の肉体はもう無い、全ては闇の中だ。
死んでない、俺はまだ死んでない。
戦える、お前らを倒す。
囁くな、俺の中で囁くな。
「ロメリア! 俺の中で囁くな!」
ミューモは発狂した様に叫んでいた。
この時、ミューモはようやく悟った。東の地で何が起きたのかを。そして、ラフィスフィア大陸で邪神がどうやって力有る者達を取り込んで言ったのかを。
悪意は、ミューモの精神を苛み続ける。魔獣は、ミューモの体を壊し続ける。既に体はボロボロで、飛ぶ事さえ出来ない。叫んだ直後に意識を失い、ミューモの体は静かに地上へ落ちていく。
黒い闇がミューモの全身を包む。そしてゆっくりとゆっくりと、悪意がミューモを取り込んでいく。そして魂の輝きが光を失う。
何も救えない。誰も救われない。お前自身が救われない。
神の為に尽くしたお前に、神が何をした。お前は捨てられた。お前は見放された。
神を恨め。ミュールを憎め。お前を利用し、使い捨てた神に復讐しろ。
目に映るものは、全てが敵だ。誰もお前を守らない。お前しかお前は守れない。だから潰せ。目の前の敵を潰せ。神を潰せ。
もういいだろう。そうだ堕ちて来い。こっちに来い。こっちに来い。こっちに来い。さあ、さあ、さあ。
お前を歓迎しよう。お前は幸福になる。お前の幸せはこれから始まる。嘘に塗り固められた世界は終る。これからお前の生が始まる。
さあ来い。こっちに来い。堕ちて来い。
やがて、ミューモのマナが消えていく。ミューモの意思が消えていく。黄金の体は、どす黒く塗り替えられる。ミューモの体に、淀んだマナが流れ込んでいく。
全てが闇に呑まれ様としていた。四体の魔獣に続き、エンシェントドラゴンが闇に落ちる。それは、大陸西部の終焉を意味していた。
しかし、終焉を訪れさせまいと、雄々しい叫び声が響き渡る。
「簡単に終わってんじゃねぇよ、糞ドラゴン!」
闇に落ちたミューモ。倒れ伏す巨人達。暴れ続ける四体の魔獣。その声は、悪化を続ける状況を照らす光明と鳴る得るのか。