ゴブリン達に、マナのコントロール方法を教えた翌朝の事である。日課の早朝ランニング前に、ペスカはゴブリン達に瞑想をさせていた。勿論、マナのコントロールとマナの総量を上げる為だ。
ただの腕力ではどうにもならない事も、肉体強化魔法を駆使すれば可能になる事を目の当たりにしたゴブリン達は、目の色を変えて訓練に取り組んでいた。
そしてペスカは、続くランニングや筋力トレーニングでも、マナを意識する様に伝えた。
マナをコントロールするだけなら、そう時間はかかるまい。しかし、ゴブリン達は圧倒的にマナの総量が低い。人間の平均と比べてもだ。
これが、魔獣の当たり前だとは思わない。頂点に存在しているのは、エンシェントドラゴンなのだ。マナを多く持つ種族だって、ゴロゴロ居るはずだ。
マナの総量を上げるには、二つの方法が有る。一つは瞑想、二つ目はマナを使い続ける事。一つ目の方法は、冬也にやらせていた修行だ。
冬也の場合、生まれ持ったマナが大きかった。しかし、長年に渡り瞑想を続けたから、冬也のマナ総量は『神に匹敵する程に増えた』と言っても過言では無かろう。
今回に関しては、瞑想だけでは足りない。だから、訓練中にもマナを使わせる様に仕向けた。
マナの扱いに慣れない段階で使い続ければ、疲労感は増すだろう。事実、一日終えた段階でゴブリン達は、ぐったりとしている様子だった。
食事も改善された。筋肉も出来て来る頃だ。体力的にも訓練に耐えられる様になる頃だろう。
そしてゴブリン達は、体全体から力が抜ける様な感覚を覚えていた。それは、マナを使用した為の疲労だ。
たった一日では、明確な手ごたえは掴めない。ただ、これを続ければ間違いなく、マナの総量は増えていく。それに伴って、身体強化の効果も高まる。
それは、単純に戦闘能力が向上する事を意味している。ゴブリン達は実感するのは、より効率良く狩りを行う事が出来る様になる頃だろう。「もしかすると、自分達は強くなってるのかもしれない」と。
ただし、エレナの場合は別だ。
エレナの場合は、今迄が適当過ぎたのだ。感で何となく肉体の強化が出来る様になった。敢えて訓練と言うならば、常時肉体の強化が出来る様にしただけ。特にマナの総量を多くする訓練はしていない。
それで、キャットピープル随一の実力者なのだとしたら、天才と呼ばずに何と呼ぶ。そんなエレナがちゃんと訓練をすれば、計り知れない効果を齎すだろう。
「ん? 何か言ったニャ?」
「言ったよ。エレナは天才かも知れないって」
「そうニャ。よく言ったニャ。私は天才なのニャ」
「それでどう? マナの扱う感覚を、ちゃんと頭で理解出来た?」
「当然ニャ。それに私は気が付いたニャ。目にマナを集めたら、遠くまで見える様になるニャ」
「へぇ~。良い所に気が付いたね」
「そうニャ。でも、不思議ニャ。足にマナを集めると、走るのが楽になるニャ。でも、足が速くなる訳じゃないニャ」
恐らく、ゴブリン達がこの感覚を掴める様になるには、相当の訓練が必要になるだろう。それだけ、エレナが言ったのは高度な事なのだ。
「いい、エレナ? 神経にマナを流すと良いよ」
「神経? それは何ニャ?」
「体を動かす時って、脳から神経を通じて命令を送ってるの」
「凄いニャ……」
「その神経にマナを流せば、体を動かすのも楽になるの」
「よくわかんないニャ……。もう少し、簡単に説明するニャ……」
せっかくとばかりに説明したが、兄と同じ様な反応をされ、ペスカはがっくりと肩を落とす。この二人は似ているのだ。感覚的に物事を捉える所とかが。
少なくとも、目にマナを纏わせると『目が良くなる』のではない。視神経を含む中枢神経にマナを通すから感覚が鋭くなるのだ。しかし、これ以上は神経系統の説明をしても仕方あるまい。
兄だって、感覚的にマナを捉えて強くなったのだ。エレナもきっとそうなる。例え、ゴブリン達に質問されて答えられなかったとしてもだ。「知らないニャ」で済ませればいい。
「エレナは、それでいいよ」
「わかったニャ!」
エレナは明るい表情で手を上げる。それは、エレナの長所であろう。挫ける事も有ったろう、悔しさに涙する事も有ったろう。それでも、彼女は明るく笑って乗り越えて来たのだろう。
実際にドラグスメリアへ説明も無く送られて、途方に暮れただろう。先日においては、ペスカにコテンパンにやられて悔しかったろう。それでも、直ぐに気持ちを切り替えて笑うのだ。
「だから、エレナは強いんだね」
「ん? 何か言ったニャ?」
「エレナは凄い子だって言ったんだよ」
「そうニャ。私は凄いニャ」
「それより、エレナ」
「それよりじゃなくて、もっと褒めるニャ」
「それはもう良いんだよ。それよりさ、ゴブリンの訓練に実戦訓練を加えてよ」
「それはちょっと急ニャ。どうしたニャ?」
「こっちにも事情が……。いや、それ以前に時間が有って無い様な気がしてるんだよ」
「ちょっとよくわからないニャ。でも、実戦訓練はわかったニャ」
「実戦訓練と言っても、狩りを通じてかな?」
「狩りニャ? それで実戦形式ニャ? う~ん、なんとか考えてみるニャ」
この日以降、ゴブリン達は身体能力向上と共に、狩りが実戦訓練の様相を呈していく。
エレナはゴブリン達を少数の班に分け、偵察や哨戒、遠距離狙撃、近距離攻撃、後方支援と役割を分担して行動させた。
索敵班は、身を潜めて獲物を探し、位置を仲間に知らせるのが役割である。仲間に知らせる際のジェスチャー等、伝達手段等が整えられる。密林の中で小動物を相手に、索敵と伝達の訓練を続けた。
遠距離狙撃班は、ペスカが数時間で拵えたクロスボウを用いる。素人でも扱いやすいクロスボウはゴブリン達にも有用で、短時間で武器の特性にも慣れていった。
近距離攻撃班は、遠距離狙撃班が撃ち漏らした獲物に、駆け寄って止めを刺す。鉄製の武器が無い為、木を尖らせた槍や、石を鋭く削ったナイフを用いている。これは、既に戦闘訓練で慣れている為、比較的にゴブリンの習熟度は高かった。
無論、これは只の狩りではない。訓練だ。ゴブリン達は全身にマナを巡らせたまま、全ての行動を行う事になる。それは、彼等にとって過酷な訓練の始まりだった。
そして後方支援班は、更に過酷だった。マナの扱いに慣れない上に、体の構造も禄に理解していない。そんな中での集中スパルタコースが、ペスカ指導の下で行われた。
そして、エレナの指示と仲間達の賛同により、ゴブリン軍団のリーダーがズマに決まり、各班のリーダーも決まる。
ズマと各班のリーダー達は、実戦訓練以外にも、戦術指導をペスカから受ける事となった。
益々、密林での実戦を想定した狩りが繰り返され、ゴブリン軍団の戦闘能力は日増しに向上していった。
ただの腕力ではどうにもならない事も、肉体強化魔法を駆使すれば可能になる事を目の当たりにしたゴブリン達は、目の色を変えて訓練に取り組んでいた。
そしてペスカは、続くランニングや筋力トレーニングでも、マナを意識する様に伝えた。
マナをコントロールするだけなら、そう時間はかかるまい。しかし、ゴブリン達は圧倒的にマナの総量が低い。人間の平均と比べてもだ。
これが、魔獣の当たり前だとは思わない。頂点に存在しているのは、エンシェントドラゴンなのだ。マナを多く持つ種族だって、ゴロゴロ居るはずだ。
マナの総量を上げるには、二つの方法が有る。一つは瞑想、二つ目はマナを使い続ける事。一つ目の方法は、冬也にやらせていた修行だ。
冬也の場合、生まれ持ったマナが大きかった。しかし、長年に渡り瞑想を続けたから、冬也のマナ総量は『神に匹敵する程に増えた』と言っても過言では無かろう。
今回に関しては、瞑想だけでは足りない。だから、訓練中にもマナを使わせる様に仕向けた。
マナの扱いに慣れない段階で使い続ければ、疲労感は増すだろう。事実、一日終えた段階でゴブリン達は、ぐったりとしている様子だった。
食事も改善された。筋肉も出来て来る頃だ。体力的にも訓練に耐えられる様になる頃だろう。
そしてゴブリン達は、体全体から力が抜ける様な感覚を覚えていた。それは、マナを使用した為の疲労だ。
たった一日では、明確な手ごたえは掴めない。ただ、これを続ければ間違いなく、マナの総量は増えていく。それに伴って、身体強化の効果も高まる。
それは、単純に戦闘能力が向上する事を意味している。ゴブリン達は実感するのは、より効率良く狩りを行う事が出来る様になる頃だろう。「もしかすると、自分達は強くなってるのかもしれない」と。
ただし、エレナの場合は別だ。
エレナの場合は、今迄が適当過ぎたのだ。感で何となく肉体の強化が出来る様になった。敢えて訓練と言うならば、常時肉体の強化が出来る様にしただけ。特にマナの総量を多くする訓練はしていない。
それで、キャットピープル随一の実力者なのだとしたら、天才と呼ばずに何と呼ぶ。そんなエレナがちゃんと訓練をすれば、計り知れない効果を齎すだろう。
「ん? 何か言ったニャ?」
「言ったよ。エレナは天才かも知れないって」
「そうニャ。よく言ったニャ。私は天才なのニャ」
「それでどう? マナの扱う感覚を、ちゃんと頭で理解出来た?」
「当然ニャ。それに私は気が付いたニャ。目にマナを集めたら、遠くまで見える様になるニャ」
「へぇ~。良い所に気が付いたね」
「そうニャ。でも、不思議ニャ。足にマナを集めると、走るのが楽になるニャ。でも、足が速くなる訳じゃないニャ」
恐らく、ゴブリン達がこの感覚を掴める様になるには、相当の訓練が必要になるだろう。それだけ、エレナが言ったのは高度な事なのだ。
「いい、エレナ? 神経にマナを流すと良いよ」
「神経? それは何ニャ?」
「体を動かす時って、脳から神経を通じて命令を送ってるの」
「凄いニャ……」
「その神経にマナを流せば、体を動かすのも楽になるの」
「よくわかんないニャ……。もう少し、簡単に説明するニャ……」
せっかくとばかりに説明したが、兄と同じ様な反応をされ、ペスカはがっくりと肩を落とす。この二人は似ているのだ。感覚的に物事を捉える所とかが。
少なくとも、目にマナを纏わせると『目が良くなる』のではない。視神経を含む中枢神経にマナを通すから感覚が鋭くなるのだ。しかし、これ以上は神経系統の説明をしても仕方あるまい。
兄だって、感覚的にマナを捉えて強くなったのだ。エレナもきっとそうなる。例え、ゴブリン達に質問されて答えられなかったとしてもだ。「知らないニャ」で済ませればいい。
「エレナは、それでいいよ」
「わかったニャ!」
エレナは明るい表情で手を上げる。それは、エレナの長所であろう。挫ける事も有ったろう、悔しさに涙する事も有ったろう。それでも、彼女は明るく笑って乗り越えて来たのだろう。
実際にドラグスメリアへ説明も無く送られて、途方に暮れただろう。先日においては、ペスカにコテンパンにやられて悔しかったろう。それでも、直ぐに気持ちを切り替えて笑うのだ。
「だから、エレナは強いんだね」
「ん? 何か言ったニャ?」
「エレナは凄い子だって言ったんだよ」
「そうニャ。私は凄いニャ」
「それより、エレナ」
「それよりじゃなくて、もっと褒めるニャ」
「それはもう良いんだよ。それよりさ、ゴブリンの訓練に実戦訓練を加えてよ」
「それはちょっと急ニャ。どうしたニャ?」
「こっちにも事情が……。いや、それ以前に時間が有って無い様な気がしてるんだよ」
「ちょっとよくわからないニャ。でも、実戦訓練はわかったニャ」
「実戦訓練と言っても、狩りを通じてかな?」
「狩りニャ? それで実戦形式ニャ? う~ん、なんとか考えてみるニャ」
この日以降、ゴブリン達は身体能力向上と共に、狩りが実戦訓練の様相を呈していく。
エレナはゴブリン達を少数の班に分け、偵察や哨戒、遠距離狙撃、近距離攻撃、後方支援と役割を分担して行動させた。
索敵班は、身を潜めて獲物を探し、位置を仲間に知らせるのが役割である。仲間に知らせる際のジェスチャー等、伝達手段等が整えられる。密林の中で小動物を相手に、索敵と伝達の訓練を続けた。
遠距離狙撃班は、ペスカが数時間で拵えたクロスボウを用いる。素人でも扱いやすいクロスボウはゴブリン達にも有用で、短時間で武器の特性にも慣れていった。
近距離攻撃班は、遠距離狙撃班が撃ち漏らした獲物に、駆け寄って止めを刺す。鉄製の武器が無い為、木を尖らせた槍や、石を鋭く削ったナイフを用いている。これは、既に戦闘訓練で慣れている為、比較的にゴブリンの習熟度は高かった。
無論、これは只の狩りではない。訓練だ。ゴブリン達は全身にマナを巡らせたまま、全ての行動を行う事になる。それは、彼等にとって過酷な訓練の始まりだった。
そして後方支援班は、更に過酷だった。マナの扱いに慣れない上に、体の構造も禄に理解していない。そんな中での集中スパルタコースが、ペスカ指導の下で行われた。
そして、エレナの指示と仲間達の賛同により、ゴブリン軍団のリーダーがズマに決まり、各班のリーダーも決まる。
ズマと各班のリーダー達は、実戦訓練以外にも、戦術指導をペスカから受ける事となった。
益々、密林での実戦を想定した狩りが繰り返され、ゴブリン軍団の戦闘能力は日増しに向上していった。