三百年をかけて、心血を注いで国を作り上げた。その間に、何度も理不尽を感じた。信じていた人間に裏切られ、欲に溺れた人間に国を攻められ、神の手により、戦をさせられた。
クロノスは、許せなかった。
神の勝手で戦争を起こされて、愛する民を失いたく無かった。人間達の勝手な暴力で、愛する民達が傷つくのを、見ていられなかった。
だから、自国の民から自我を奪い、自ら考える事を放棄させた。そしてクロノスの命令しか聞かない、感情の無い人間達を作り出した。
クロノスの巨大なマナと、魔法の知識が有れば、神の意志に支配はされない。自らが盾となり、自国の民を守る事をクロノスは選んだ。
何も奪う事が無い世界、何も奪われる事が無い世界。人間は等しく国の為に尽くし、子を成して次の世代を作り出す。自由は無いかも知れない。その代わり安全が保障された国、それが魔道大国メルドマリューネである。
だが、一番愛する家族が、自分の下から離れていった。ただの小娘の下に走って行った。クロノスが本当の意味で、変わった瞬間だったのかも知れない。
ペスカが憎い。その想いは、邪神ロメリアに利用された。抵抗をしていたつもりでも、少しずつ侵食されていた。
二十年かけてゆっくりと、クロノスに気がつかれない様に、邪神ロメリアの侵食は進んでいた。それこそ、蝸牛の歩みと言ってもいいだろう。
気がついた時には、取り返しがつかない。
思考自体に、自らの意志が有ったのか。
囁かれる声に、身を任せているだけではないのか。
この怒りはいったい誰の物なのか。
何に怒り、何を守ろうとしてきたのか。
何の為に、命を賭して抗って来たのか。
もう何もわからない。
もう何も感じない。
気がついた時には、戦争が始まっていた。
気がついた時には、終わりが始まっていた。
そう、気がついた時には、取り返しはつかないのだ。
「もう、堕ちちゃいなよ、クロノス! 一緒に世界を滅ぼそうよ」
邪神ロメリアの一言は、僅かに残ったクロノスの自我を消し去るキーワード。神すらも干渉するのは厄介であろうクロノスを、手に入れる為の最後のきっかけ。
クロノスは頭を抱え込み、大声で悲鳴を上げる。悲鳴が上がってから、数分が経過する。やがて悲鳴が収まり頭を上げたクロノスの目は、濁った色になっていた。
二十年の時を経て、クロノスの洗脳は完成した。そしてクロノスは、立ち上がり呪文を唱えた。
魔道大国メルドマリューネでは、軍隊だけが戦力では無い。国民皆兵であり、全ての住民が等しく戦う力を持つ。
その呪文は、終焉の鍵である。
「立ち上がれ、我が戦士達よ。その命を持って、敵を屠れ」
全ての国民がモンスターになった訳ではない。王都に住まう民は、瘴気に巻き込まれない様に避難させていた。その住民にさえ、戦う命令を出した。それは、最悪の命令でもあった。大切にしてきた者達が、自ら命を対価に敵を倒す命令を下したのだ。
メルドマリューネ領内で破竹の勢いで連勝を続け、先行を続ける三将は、最初の危機に遭遇する。その異変に、いち早く気が付いたのはモーリスであった。
一般人と思われる者達が戦場に現れ、それが全て異常な程にマナを溜め込んで突撃してくる。敵兵はマナを膨れ上がらせ、モーリスの傍に近寄る。自分の体ごと、モーリスを巻き込む様にして爆発した。
咄嗟に魔法で障壁を張って難を逃れたモーリスだが、次々と襲い来る敵兵に対し、いつまでも持ち堪えられる訳が無い。
モーリスは、力の限り叫んだ。
「サムウェル! ケーリア! 奴ら自爆するぞ!」
モーリスは剣にマナを込めて、敵兵のマナを切り裂こうとした。しかし剣が、敵兵のマナに触れた瞬間に、爆発が起こる。モーリスは、そのまま剣を振り回して、爆発ごと切り払い難を逃れる。
やむを得ずモーリスは、剣から光刃を飛ばして、敵兵が近づく前に爆発させた。それとて、焼け石に水である。
マナを切る事や、剣から光刃を飛ばす等は、限られた者しか出来ない高等技術である。次々と自爆目的で突撃してくる敵兵に、三将は足止めを喰らう
東西の国境沿いでも、その事態は起きていた。
魔攻砲で遠距離攻撃するエルラフィア軍に、直接の被害は無かった。しかし砲撃が敵軍に着弾すると、敵兵は爆発していった。
「くそっ、何が起きている」
「ルクスフィア卿。グラスキルス側から、連絡がありました。あれは、自爆攻撃のようです」
「マナの異常を感じたかと思えば、とんでもない事をする。兄貴がやらせたのか? 信じられん!」
「あれでは、犠牲者を出さない訳にはいきませんよ」
「いや、マナキャンセラーを撃たせろ。それで、あれば効果が有るはずだ」
「わかりました、ルクスフィア卿」
エルラフィア軍は、マナキャンセラーと記憶強制リセットくんを駆使して、メルドマリューネ軍に対抗する。クラウスは急いで通信を開き、三国連合、ペスカ達に情報を共有した。
「何て事すんの、あいつ。よりによって自爆特攻なんて」
「ペスカ様。マナキャンセラーは、有効のようです」
「そっか、サムウェル聞いてる? ゾンビ用に作らせた兵器を、早く現地に運ばせなさい」
「わかった、ペスカ殿。急いで運ばせる。それまで、こっちは一次撤退だ」
だがその時に、乾いた様な笑い声が、通信回線から聞こえて来る。ペスカと冬也が良く知る笑い声は、通信回線が繋がっている、全ての箇所で響いていた。
「ハハハハハ。パーティーは楽しんでくれているかな? もっと遊んでくれないと、困るなぁ。早くおいでよ、ペスカに冬也。潰してやるのを、楽しみにしてるんだからさぁ」
「ロ゛メリア゛~! あんた、何してんのよ!」
「遊びだよ。君達が遊んでくれないから、人間で遊んでるんだ。早くおいでよ。殺されにさぁ」
「あんたねぇ!」
車内には、通信の声が響いている。その声に反応する様に、神気が膨れ上がる。
「上等だてめぇ! 直ぐにぶっ殺してやるから、待ってろ糞野郎!」
冬也の怒鳴り声と共に、神気で車がビリビリと震え、通信回線は耐えきれずに途絶えた。
「ちょっと、お兄ちゃん。落ち着いて。そんなに神気出さないで。通信が切れちゃったでしょ」
「ごめん、ペスカ。でも、許せるのか?」
「許せないよ。でも、戦う場所は、ここじゃ無いでしょ」
ペスカは、冬也を宥めた。だが、ペスカとて怒りのピークは、とうに越えている。しかし、ロメリアを倒す為に、怒りを静めていた。
ラフィスフィア大陸中央部の人々をゾンビに変えて、更にミサイルで各地の人々を殺していった。これが許せるはずが無い。
更にはメルドマリューネの民まで巻き込んでいる。奴にとっては遊びに過ぎない。人の命など、ただのおもちゃに過ぎない。
クロノス・メルドマリューネの洗脳完了と共に、完全に魔道大国メルドマリューネは、邪神ロメリアの手に落ちた。そして、ようやく邪神ロメリアが、表舞台に姿を現す。だがその登場は、世界を最悪へと導くものであった。
明日の未来を勝ち取る為、真の戦いが始まろうとしていた。
クロノスは、許せなかった。
神の勝手で戦争を起こされて、愛する民を失いたく無かった。人間達の勝手な暴力で、愛する民達が傷つくのを、見ていられなかった。
だから、自国の民から自我を奪い、自ら考える事を放棄させた。そしてクロノスの命令しか聞かない、感情の無い人間達を作り出した。
クロノスの巨大なマナと、魔法の知識が有れば、神の意志に支配はされない。自らが盾となり、自国の民を守る事をクロノスは選んだ。
何も奪う事が無い世界、何も奪われる事が無い世界。人間は等しく国の為に尽くし、子を成して次の世代を作り出す。自由は無いかも知れない。その代わり安全が保障された国、それが魔道大国メルドマリューネである。
だが、一番愛する家族が、自分の下から離れていった。ただの小娘の下に走って行った。クロノスが本当の意味で、変わった瞬間だったのかも知れない。
ペスカが憎い。その想いは、邪神ロメリアに利用された。抵抗をしていたつもりでも、少しずつ侵食されていた。
二十年かけてゆっくりと、クロノスに気がつかれない様に、邪神ロメリアの侵食は進んでいた。それこそ、蝸牛の歩みと言ってもいいだろう。
気がついた時には、取り返しがつかない。
思考自体に、自らの意志が有ったのか。
囁かれる声に、身を任せているだけではないのか。
この怒りはいったい誰の物なのか。
何に怒り、何を守ろうとしてきたのか。
何の為に、命を賭して抗って来たのか。
もう何もわからない。
もう何も感じない。
気がついた時には、戦争が始まっていた。
気がついた時には、終わりが始まっていた。
そう、気がついた時には、取り返しはつかないのだ。
「もう、堕ちちゃいなよ、クロノス! 一緒に世界を滅ぼそうよ」
邪神ロメリアの一言は、僅かに残ったクロノスの自我を消し去るキーワード。神すらも干渉するのは厄介であろうクロノスを、手に入れる為の最後のきっかけ。
クロノスは頭を抱え込み、大声で悲鳴を上げる。悲鳴が上がってから、数分が経過する。やがて悲鳴が収まり頭を上げたクロノスの目は、濁った色になっていた。
二十年の時を経て、クロノスの洗脳は完成した。そしてクロノスは、立ち上がり呪文を唱えた。
魔道大国メルドマリューネでは、軍隊だけが戦力では無い。国民皆兵であり、全ての住民が等しく戦う力を持つ。
その呪文は、終焉の鍵である。
「立ち上がれ、我が戦士達よ。その命を持って、敵を屠れ」
全ての国民がモンスターになった訳ではない。王都に住まう民は、瘴気に巻き込まれない様に避難させていた。その住民にさえ、戦う命令を出した。それは、最悪の命令でもあった。大切にしてきた者達が、自ら命を対価に敵を倒す命令を下したのだ。
メルドマリューネ領内で破竹の勢いで連勝を続け、先行を続ける三将は、最初の危機に遭遇する。その異変に、いち早く気が付いたのはモーリスであった。
一般人と思われる者達が戦場に現れ、それが全て異常な程にマナを溜め込んで突撃してくる。敵兵はマナを膨れ上がらせ、モーリスの傍に近寄る。自分の体ごと、モーリスを巻き込む様にして爆発した。
咄嗟に魔法で障壁を張って難を逃れたモーリスだが、次々と襲い来る敵兵に対し、いつまでも持ち堪えられる訳が無い。
モーリスは、力の限り叫んだ。
「サムウェル! ケーリア! 奴ら自爆するぞ!」
モーリスは剣にマナを込めて、敵兵のマナを切り裂こうとした。しかし剣が、敵兵のマナに触れた瞬間に、爆発が起こる。モーリスは、そのまま剣を振り回して、爆発ごと切り払い難を逃れる。
やむを得ずモーリスは、剣から光刃を飛ばして、敵兵が近づく前に爆発させた。それとて、焼け石に水である。
マナを切る事や、剣から光刃を飛ばす等は、限られた者しか出来ない高等技術である。次々と自爆目的で突撃してくる敵兵に、三将は足止めを喰らう
東西の国境沿いでも、その事態は起きていた。
魔攻砲で遠距離攻撃するエルラフィア軍に、直接の被害は無かった。しかし砲撃が敵軍に着弾すると、敵兵は爆発していった。
「くそっ、何が起きている」
「ルクスフィア卿。グラスキルス側から、連絡がありました。あれは、自爆攻撃のようです」
「マナの異常を感じたかと思えば、とんでもない事をする。兄貴がやらせたのか? 信じられん!」
「あれでは、犠牲者を出さない訳にはいきませんよ」
「いや、マナキャンセラーを撃たせろ。それで、あれば効果が有るはずだ」
「わかりました、ルクスフィア卿」
エルラフィア軍は、マナキャンセラーと記憶強制リセットくんを駆使して、メルドマリューネ軍に対抗する。クラウスは急いで通信を開き、三国連合、ペスカ達に情報を共有した。
「何て事すんの、あいつ。よりによって自爆特攻なんて」
「ペスカ様。マナキャンセラーは、有効のようです」
「そっか、サムウェル聞いてる? ゾンビ用に作らせた兵器を、早く現地に運ばせなさい」
「わかった、ペスカ殿。急いで運ばせる。それまで、こっちは一次撤退だ」
だがその時に、乾いた様な笑い声が、通信回線から聞こえて来る。ペスカと冬也が良く知る笑い声は、通信回線が繋がっている、全ての箇所で響いていた。
「ハハハハハ。パーティーは楽しんでくれているかな? もっと遊んでくれないと、困るなぁ。早くおいでよ、ペスカに冬也。潰してやるのを、楽しみにしてるんだからさぁ」
「ロ゛メリア゛~! あんた、何してんのよ!」
「遊びだよ。君達が遊んでくれないから、人間で遊んでるんだ。早くおいでよ。殺されにさぁ」
「あんたねぇ!」
車内には、通信の声が響いている。その声に反応する様に、神気が膨れ上がる。
「上等だてめぇ! 直ぐにぶっ殺してやるから、待ってろ糞野郎!」
冬也の怒鳴り声と共に、神気で車がビリビリと震え、通信回線は耐えきれずに途絶えた。
「ちょっと、お兄ちゃん。落ち着いて。そんなに神気出さないで。通信が切れちゃったでしょ」
「ごめん、ペスカ。でも、許せるのか?」
「許せないよ。でも、戦う場所は、ここじゃ無いでしょ」
ペスカは、冬也を宥めた。だが、ペスカとて怒りのピークは、とうに越えている。しかし、ロメリアを倒す為に、怒りを静めていた。
ラフィスフィア大陸中央部の人々をゾンビに変えて、更にミサイルで各地の人々を殺していった。これが許せるはずが無い。
更にはメルドマリューネの民まで巻き込んでいる。奴にとっては遊びに過ぎない。人の命など、ただのおもちゃに過ぎない。
クロノス・メルドマリューネの洗脳完了と共に、完全に魔道大国メルドマリューネは、邪神ロメリアの手に落ちた。そして、ようやく邪神ロメリアが、表舞台に姿を現す。だがその登場は、世界を最悪へと導くものであった。
明日の未来を勝ち取る為、真の戦いが始まろうとしていた。