グラスキルス王国から齎された情報は、ペスカ達に衝撃を与えた。
アーグニール王国の首脳陣を、震撼せしめた。しかし、滾り始めた熱い血は、簡単に固まりはしない。王都民全員が、団結して戦いの準備を始めた。
未だ、アーグニール王国には、数多くのモンスターが街を襲い続けている。北からモーリスが、東からはグラスキルス軍が、それぞれアーグニール王国内のモンスターを駆逐しながら、王都を目指している。
人々は救いを信じて、抗い続ける。兵士達は人を守る為に、モンスターを駆逐する。
家族、恋人、友人、多くの大切な者を失った。戦場では、人の尊厳すら奪われた。諦めた。諦めたかった。だが、諦めさせてくれなかった。
大丈夫か? 声が聞こえる。
助けてやる! 声が聞こえる。
生きろ! 声が聞こえる。
抗え! 生きろ! その声は、命を投げ出す事を許さなかった。
たとえ泥を啜っても、岩を齧っても、両腕を失っても、両足を失っても、死んで終わりにするな! 生きて戦え、最後は必ず勝て!
最初は、たった数人の勇気だった。それが波紋を呼び始めた。波紋は渦となり、国中を巻き込んでいった。
負けない。ここでは死ねない。何もかも失っても、自分の命が残ってる。
諦めない。死んで堪るか。誰にもこの命を奪わせはしない。
無駄にはしない。救われた命だ。次は自分が救う番だ。
再び、あの平和な時間へ。再び、あの和やかな時間へ。再び、あの温かい場所へ。
人が人に勇気を与え、人が人を守る。人が人によって救われ、人が人の為に戦う。人は抗う。人は生き足掻く。
平和な世界を求めて、アーグニール王国全体が一つになりつつあった。
ペスカ達は一晩を車で明かした後、ケーリアとグラスキルスの間諜部隊を集めて、作戦会議を行った。そして、戦争で数を減らしたアーグニール軍に、幾つかの指示を与えた。
一つは、南下しつつあるモーリスとの連携。二つ目は、グラスキルス軍との連携。三つ目は議会でも決まっていた脱走兵の集結を軸にした、アーグニール軍の再編成。戦争で疲弊している三国が連携する事は、残るモンスターを一掃する上で必須となる。
また、サムウェルから引き継いた間諜部隊も、重要な役割を担う。各国の中継役となる事で、情報の連携を密にする。それは、旧帝国の広大な土地で阻まれた、東と西で連携を取るのに、欠かせない役割であった。
ケーリアが戦力を集め、モンスターを掃討する間、ペスカ達はサムウェルを追う。グラスキルスを越えて、そのまま西に向かう。単独で戦力となるキャンピングカーであるから、可能となる作戦である。
そしてケーリアから要望を受けると、ペスカはその場でモンスター感知器の改良を加え、設計図を修正した。
「ペスカ殿、メルドマリューネの件は如何致しますか?」
「今は警戒を強化する位しか出来ないよ。割ける人員が少なすぎる。エルラフィアも主戦力を帝国で失っているしね」
「では俺の役目は、早く残りのモンスターを掃討して、グラスキルスに合流する事ですね」
「そうだね。よろしく、ケーリア」
ペスカは、皆を見渡すと話を続けた。
「何とか国の体裁を保ってるのは、西の四国と東の三国を残すだけ。その内、まともな軍が残っているのはグラスキルス。エルラフィアは、南部三国の援軍を受けて何とかって感じだろうね」
「厳しい状況ですね」
「この状況で帝国から溢れるゾンビ達に気を取られれば、メルドマリューネが一気に仕掛けて来る。エルラフィアとグラスキルスが崩れたら、一気に瓦解するね」
「二十年前と違い帝国が壊滅、エルラフィアや我等東国三国も、戦力を落としている。ともすれば、特権階級が支配する奴隷大陸になりますか……」
ケーリアがポツリと呟いた言葉に、冬也が目を丸くして反応した。
「さらっと、とんでもねぇ事を言わなかったか? 何とかって国は、そんなやべぇ所なのか?」
「メルドマリューネね、お兄ちゃん。あそこの王様はね、魔法による世界の均衡を願ってるの」
「難しく言うなよ。もう少し優しく教えてくれ、ペスカ」
「魔法による統治、完全な平等、人は等しく魔法の燃料として生きるって感じ」
「まだ難しいけど、つまり共産主義だか社会主義だかって感じか?」
「お兄ちゃんにしては、おしい所だね。地球みたいに人道的な考え方じゃ無いよ。役立たずは奴隷になるか、魔法の燃料にされて殺される。あそこに住んでいるのは、人じゃ無くて都市機能を動かす機械みたいなもんだよ」
「自由に生きようとする奴はいねぇのか?」
「いないよ。そういう教育をされているからね。マインドコントロールに近いけど」
「そんな国と今まで良く戦争が起きなかったな」
「そりゃあ、エルラフィア、ライン帝国、東の三国が同盟を組んでいたからね。不戦協定も、その同盟を盾に強制させたんだよ」
「その抑止力が、今は崩れたって事か?」
「そうだよ、お兄ちゃん。けっこう不味い状況なんだよ」
「糞野郎と、その何とかって国が手を組んだら最悪だな!」
「おおぅ! お兄ちゃんってば、偶に鋭いね! それは最悪のシナリオだけどね」
「糞野郎が潜んでるのも、案外その国だったりするんじゃねぇか?」
「可能性は有ると思うよ、面倒だから違って欲しいけどね」
ペスカは大きな溜息をつく。しかし、少し声のトーンを上げて、話しを続けた。
「そこで、お兄ちゃんには重大な役目があります!」
「何だよ」
「お兄ちゃんの神気を込めた魔石を、大量に作って!」
「おぅ! で、何に使うんだ?」
「都市の結界に使うんだよ。お兄ちゃんの神気なら、たとえミサイルでも耐えるでしょ」
「わかった。何個くらい作るんだ?」
「今夜中に三百個は作ってね。ケーリアは、手分けして各都市に設置。シュロスタインにも設置するんだよ。明日には出発するからね。皆準備急ぐ事。解散!」
ペスカ、空、翔一が眠る間、冬也は徹夜で魔石作りに取り組んだ。翌朝、眠い目をこする冬也だったが、作業はそれだけでは終わらなかった。
魔石用のラフィス石を、ペスカは大量に車に積み込ませていた。
「グラスキルスに到着するまで、お兄ちゃんは魔石作り! その代わり、運転は免除してあげる。お兄ちゃんが頑張った分だけ、都市が救われるんだからね。頑張って!」
ペスカにそう言われては、頑張らずにはいられまい。冬也は、眠気を堪えて車に乗り込み、魔石作りを開始する。
ペスカは、冬也が作った魔石をケーリアに渡し、シュロスタイン王国とアーグニール王国の全ての街や村に設置する様に命じた。
グラスキルスの間諜部隊を案内係に、ペスカ達は王都を後にする。ただひたすらに、西へ向けて。
アーグニール王国の首脳陣を、震撼せしめた。しかし、滾り始めた熱い血は、簡単に固まりはしない。王都民全員が、団結して戦いの準備を始めた。
未だ、アーグニール王国には、数多くのモンスターが街を襲い続けている。北からモーリスが、東からはグラスキルス軍が、それぞれアーグニール王国内のモンスターを駆逐しながら、王都を目指している。
人々は救いを信じて、抗い続ける。兵士達は人を守る為に、モンスターを駆逐する。
家族、恋人、友人、多くの大切な者を失った。戦場では、人の尊厳すら奪われた。諦めた。諦めたかった。だが、諦めさせてくれなかった。
大丈夫か? 声が聞こえる。
助けてやる! 声が聞こえる。
生きろ! 声が聞こえる。
抗え! 生きろ! その声は、命を投げ出す事を許さなかった。
たとえ泥を啜っても、岩を齧っても、両腕を失っても、両足を失っても、死んで終わりにするな! 生きて戦え、最後は必ず勝て!
最初は、たった数人の勇気だった。それが波紋を呼び始めた。波紋は渦となり、国中を巻き込んでいった。
負けない。ここでは死ねない。何もかも失っても、自分の命が残ってる。
諦めない。死んで堪るか。誰にもこの命を奪わせはしない。
無駄にはしない。救われた命だ。次は自分が救う番だ。
再び、あの平和な時間へ。再び、あの和やかな時間へ。再び、あの温かい場所へ。
人が人に勇気を与え、人が人を守る。人が人によって救われ、人が人の為に戦う。人は抗う。人は生き足掻く。
平和な世界を求めて、アーグニール王国全体が一つになりつつあった。
ペスカ達は一晩を車で明かした後、ケーリアとグラスキルスの間諜部隊を集めて、作戦会議を行った。そして、戦争で数を減らしたアーグニール軍に、幾つかの指示を与えた。
一つは、南下しつつあるモーリスとの連携。二つ目は、グラスキルス軍との連携。三つ目は議会でも決まっていた脱走兵の集結を軸にした、アーグニール軍の再編成。戦争で疲弊している三国が連携する事は、残るモンスターを一掃する上で必須となる。
また、サムウェルから引き継いた間諜部隊も、重要な役割を担う。各国の中継役となる事で、情報の連携を密にする。それは、旧帝国の広大な土地で阻まれた、東と西で連携を取るのに、欠かせない役割であった。
ケーリアが戦力を集め、モンスターを掃討する間、ペスカ達はサムウェルを追う。グラスキルスを越えて、そのまま西に向かう。単独で戦力となるキャンピングカーであるから、可能となる作戦である。
そしてケーリアから要望を受けると、ペスカはその場でモンスター感知器の改良を加え、設計図を修正した。
「ペスカ殿、メルドマリューネの件は如何致しますか?」
「今は警戒を強化する位しか出来ないよ。割ける人員が少なすぎる。エルラフィアも主戦力を帝国で失っているしね」
「では俺の役目は、早く残りのモンスターを掃討して、グラスキルスに合流する事ですね」
「そうだね。よろしく、ケーリア」
ペスカは、皆を見渡すと話を続けた。
「何とか国の体裁を保ってるのは、西の四国と東の三国を残すだけ。その内、まともな軍が残っているのはグラスキルス。エルラフィアは、南部三国の援軍を受けて何とかって感じだろうね」
「厳しい状況ですね」
「この状況で帝国から溢れるゾンビ達に気を取られれば、メルドマリューネが一気に仕掛けて来る。エルラフィアとグラスキルスが崩れたら、一気に瓦解するね」
「二十年前と違い帝国が壊滅、エルラフィアや我等東国三国も、戦力を落としている。ともすれば、特権階級が支配する奴隷大陸になりますか……」
ケーリアがポツリと呟いた言葉に、冬也が目を丸くして反応した。
「さらっと、とんでもねぇ事を言わなかったか? 何とかって国は、そんなやべぇ所なのか?」
「メルドマリューネね、お兄ちゃん。あそこの王様はね、魔法による世界の均衡を願ってるの」
「難しく言うなよ。もう少し優しく教えてくれ、ペスカ」
「魔法による統治、完全な平等、人は等しく魔法の燃料として生きるって感じ」
「まだ難しいけど、つまり共産主義だか社会主義だかって感じか?」
「お兄ちゃんにしては、おしい所だね。地球みたいに人道的な考え方じゃ無いよ。役立たずは奴隷になるか、魔法の燃料にされて殺される。あそこに住んでいるのは、人じゃ無くて都市機能を動かす機械みたいなもんだよ」
「自由に生きようとする奴はいねぇのか?」
「いないよ。そういう教育をされているからね。マインドコントロールに近いけど」
「そんな国と今まで良く戦争が起きなかったな」
「そりゃあ、エルラフィア、ライン帝国、東の三国が同盟を組んでいたからね。不戦協定も、その同盟を盾に強制させたんだよ」
「その抑止力が、今は崩れたって事か?」
「そうだよ、お兄ちゃん。けっこう不味い状況なんだよ」
「糞野郎と、その何とかって国が手を組んだら最悪だな!」
「おおぅ! お兄ちゃんってば、偶に鋭いね! それは最悪のシナリオだけどね」
「糞野郎が潜んでるのも、案外その国だったりするんじゃねぇか?」
「可能性は有ると思うよ、面倒だから違って欲しいけどね」
ペスカは大きな溜息をつく。しかし、少し声のトーンを上げて、話しを続けた。
「そこで、お兄ちゃんには重大な役目があります!」
「何だよ」
「お兄ちゃんの神気を込めた魔石を、大量に作って!」
「おぅ! で、何に使うんだ?」
「都市の結界に使うんだよ。お兄ちゃんの神気なら、たとえミサイルでも耐えるでしょ」
「わかった。何個くらい作るんだ?」
「今夜中に三百個は作ってね。ケーリアは、手分けして各都市に設置。シュロスタインにも設置するんだよ。明日には出発するからね。皆準備急ぐ事。解散!」
ペスカ、空、翔一が眠る間、冬也は徹夜で魔石作りに取り組んだ。翌朝、眠い目をこする冬也だったが、作業はそれだけでは終わらなかった。
魔石用のラフィス石を、ペスカは大量に車に積み込ませていた。
「グラスキルスに到着するまで、お兄ちゃんは魔石作り! その代わり、運転は免除してあげる。お兄ちゃんが頑張った分だけ、都市が救われるんだからね。頑張って!」
ペスカにそう言われては、頑張らずにはいられまい。冬也は、眠気を堪えて車に乗り込み、魔石作りを開始する。
ペスカは、冬也が作った魔石をケーリアに渡し、シュロスタイン王国とアーグニール王国の全ての街や村に設置する様に命じた。
グラスキルスの間諜部隊を案内係に、ペスカ達は王都を後にする。ただひたすらに、西へ向けて。