これはペスカに取って一世一代の賭けだった。
仲間割れに見せかけて隙を作る。この作戦には、冬也に恋慕する空が一番適任だった。だが、空を囮にする訳にはいかない。王都へ向かう途中、空と打ち合わせし作戦を立案した。入れ替わるタイミングも、二人で図った。
それでも相手は神。容易に引っ掛かるとは限らない。
失敗すれば被害は大きい。正に綱渡りの作戦である。故に、城から全員退去させていた。だがペスカは綱渡りをしてでも、敵の戦力を削いでおきたかった。
ロメリアだけで手一杯なのだ。更に一柱の神を相手には出来ない。しかもその一柱は、大陸全土を破壊しかねない、嫉妬の神メイロードである。暴走する前に、抑えて起きたい。
ただ、たとえ罠に嵌っても、冬也の神気がメイロードの神気を、上回っていなければ失敗に終わる。
メイロードが起こした爆発は、冬也の神気で張られた結界をビリビリと揺らす。爆風はペスカを吹き飛ばさんと吹き荒れる。部屋の家具は既に粉々に吹き飛んでいる。壁や柱でさえ、後欠片もない。
ペスカは、二柱の加護を最大限に利用し、それに耐える。
しかし、依然として爆風は収まらない。寧ろ、強まっていく。それは、メイロードが溜め込んだ嫉妬の力によるものだろう。それは、徐々に冬也の結界を蝕んでいく。
ゆっくりと、ゆっくりと、爆風そのものが嫉妬の闇に変わり、辺りを浸食していく。
ペスカに頭を撃ち抜かれて、蠢くだけの存在だったメイロードの体は、元の美しい肢体に戻っていく。そして、神気は膨れ上がっていく。
冬也の神気によって守られている空間だ。それにも関わらず神気を使えるという事は、メイロードの力は冬也に勝るという事だ。
そう、作戦は失敗したのだ。
既に、冬也の結界は所々にひびが入り、崩れ去ろうとしている。そう、作戦は失敗に終わった。そして、メイロードはほくそ笑む。
「我の力を、混血如きが抑え込む? 笑わせるでないぞ!」
そう言うと、冬也の結界を完全に崩そうと、メイロードは更に神気を高める。その時だった。
「それなら、俺も本気でてめぇを抑えりゃ良いって事だよなぁ!」
「そうです。冬也さん、ここからは私も全力です! 神の力さえ弾き返す私の能力を見せてやります!」
「空ちゃん、僕のマナを存分に使ってくれ」
翔一が空にマナを渡し、城を包み込む様に空がオートキャンセルで冬也の結界を強化する。更に、冬也がそれに神気を上書きする。
脆くも崩れ去ろうとしていた結界から、ひび割れが消えていく。メイロードの力を抑え込まんと強固になっていく。
「まだまだ、こんなものかと思うてかぁ~!」
それに対抗しようと、メイロードはありったけの神気を結界にぶつける。既に爆風は、城全体を吹き飛ばそうと、暴れまわっている。
メイロードの眼前にいるペスカは、自身の身体を守る為にマナを張り巡らせていた。しかし、一番の最前で嫉妬の力を受け続け、身体を支えるだけで精一杯のペスカは、上手く呼吸が出来ていない。このまま均衡状態が続けば、ペスカは酸欠で倒れるだろう。
「このまま、何も出来ずに死ぬが良い! 我を貶めようとした罰だ!」
「ならば、我が大剣で禍々しい嵐を吹き飛ばしてみせよう!」
女神との戦いに駆けつけたのは、冬也達だけではなかった。ケーリアもまた、アーグニールの将軍として城に残っていた。
「建物ならば建て直させばよい。しかし、人の命はそうは行かん。そして、お前の様な者を神とは認めん!」
そして、ケーリアは大剣を振るう。振るった勢いは凄まじく、風を起こし暴風と完全に対抗する。
それだけではない。ビシっビシっと音を立てて拮抗した風は、嫉妬の力で染められた闇を打ち払っていく。それは、ペスカに呪文を唱える隙を与えた。
「我が力、澱みを消す光となれ。我が力、悪意を払う希望となれ。その力を持って、我が敵を打ち滅ぼせ! 清浄の光よ来たれ、エラーリア!」
僅かな隙を突いて発動したペスカの魔法は、ケーリアが起こした風の力を増幅させて、嫉妬の闇を払っていく。徐々に闇は収まり、暴風は完全に消え去る。
そしてメイロードを待っていたのは、更なる敵の援軍だった。
「さて、子供達だけに戦わせるのも何ですし。私も少しは力を貸しましょうかね」
「其方がなぜここに!」
「妙な事を言いますね。貴女を捕まえる命が出てるんですよ?」
「原初ともあろう者が、地上の者に手を貸すのか! それこそ三法を冒していると思わんのか!」
「思いませんね。それに、私は腹が立っているんですよ」
「何を言っている! それは我の方じゃ!」
「生ける死者を作り出すなんて、言語道断です。死の領域を侵害してまで、やるべき事なんですか? それとも、私を敵に回す事も想定内でしたか?」
「当たり前であろう! 我が君の敵は原初の全て! 我が君に刃を向けるなら、其方とて例外ではないぞ!」
「それなら話しは早い」
そう言うと、女神セリュシオネは指をパチリと弾く。その瞬間、結界内の空間に亀裂が走る。その亀裂は瞬く間に結界内に広がっていき、別の空間を作り上げる。
それは只人が立ち入る事の叶わぬ、女神の領域。
城に残っていたケーリアは、女神の領域から弾き出される。結界を張っていた空と翔一もまた、同じ様にはじき出された。
「まぁ、これでも私は優しいんです。だから、貴女に機会を与えましょう!」
「何をほざいておる!」
「ここに残った小娘と半神を殺せば、貴女を見逃して差し上げます。良い提案だと思いませんか? ここならば存分に力を発揮出来ます。それに憎いんでしょ? 小娘共が。殺せるチャンスですよ」
「其方ごと皆殺しにすれば良いだけじゃ」
「それが出来るんなら、やって見て下さい。貴女の様な雑魚に傷一つ付けられはしませんがね」
「言わせておけば、好き勝手に言いおって!」
ペスカとケーリアによって鎮められた嫉妬の闇が、再びメイロードから溢れる様にして漏れていく。それは、切り離された空間を全て呑み込もうと広がっていく。
それは、『地上での影響を恐れ神気を抑える』という神の本質から抜け出し、タガが外れたメイロードの本領なのだろう。
しかし、セリュシオネの領域に居たのは、只人ではない。英雄と神の子だ。それも、戦いの中で力を増し続けている。抗えない道理はない。
冬也は神剣を取り出すと、ケーリアを真似る様にして振るう。剣が軌道に沿って、闇が払われていく。
「我が力、澱みを消す光となれ。我が力、悪意を払う希望となれ。その力を持って、我が敵を打ち滅ぼせ! 清浄の光よ全ての闇を打ち払え、エラーリア!」
ペスカの魔法は、周囲に広がった闇を一瞬にして消し去る。
メイロードは、この時初めて真に理解を得たのだろう。今、殺さなければいけないのは、誰なのかという事を。
それは、女神の領域を作り上げたセリュシオネではない。輝くばかりの才能を持った、妬ましい小娘共なのだ。
「あぁ憎らしい。あぁ恨めしい。なぜ、お前達はこうも我の邪魔をするのか。我が君に刃を向け様とするのか」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで、かかって来いよ」
「地上で力を抑えなきゃいけないのは、別に神様の特権じゃないんだから」
「あぁ妬ましい、妬ましい、妬ましい。下賤の分際で我が力に抗うその力、実に妬ましい」
そしてメイロードからは、これまでよりも更に濃厚な瘴気が溢れ出す。神ならざる者ならば、触れるだけで気が狂ったまま死に至る嫉妬の力。その力が、ペスカと冬也を襲おうと牙を剥く。
仲間割れに見せかけて隙を作る。この作戦には、冬也に恋慕する空が一番適任だった。だが、空を囮にする訳にはいかない。王都へ向かう途中、空と打ち合わせし作戦を立案した。入れ替わるタイミングも、二人で図った。
それでも相手は神。容易に引っ掛かるとは限らない。
失敗すれば被害は大きい。正に綱渡りの作戦である。故に、城から全員退去させていた。だがペスカは綱渡りをしてでも、敵の戦力を削いでおきたかった。
ロメリアだけで手一杯なのだ。更に一柱の神を相手には出来ない。しかもその一柱は、大陸全土を破壊しかねない、嫉妬の神メイロードである。暴走する前に、抑えて起きたい。
ただ、たとえ罠に嵌っても、冬也の神気がメイロードの神気を、上回っていなければ失敗に終わる。
メイロードが起こした爆発は、冬也の神気で張られた結界をビリビリと揺らす。爆風はペスカを吹き飛ばさんと吹き荒れる。部屋の家具は既に粉々に吹き飛んでいる。壁や柱でさえ、後欠片もない。
ペスカは、二柱の加護を最大限に利用し、それに耐える。
しかし、依然として爆風は収まらない。寧ろ、強まっていく。それは、メイロードが溜め込んだ嫉妬の力によるものだろう。それは、徐々に冬也の結界を蝕んでいく。
ゆっくりと、ゆっくりと、爆風そのものが嫉妬の闇に変わり、辺りを浸食していく。
ペスカに頭を撃ち抜かれて、蠢くだけの存在だったメイロードの体は、元の美しい肢体に戻っていく。そして、神気は膨れ上がっていく。
冬也の神気によって守られている空間だ。それにも関わらず神気を使えるという事は、メイロードの力は冬也に勝るという事だ。
そう、作戦は失敗したのだ。
既に、冬也の結界は所々にひびが入り、崩れ去ろうとしている。そう、作戦は失敗に終わった。そして、メイロードはほくそ笑む。
「我の力を、混血如きが抑え込む? 笑わせるでないぞ!」
そう言うと、冬也の結界を完全に崩そうと、メイロードは更に神気を高める。その時だった。
「それなら、俺も本気でてめぇを抑えりゃ良いって事だよなぁ!」
「そうです。冬也さん、ここからは私も全力です! 神の力さえ弾き返す私の能力を見せてやります!」
「空ちゃん、僕のマナを存分に使ってくれ」
翔一が空にマナを渡し、城を包み込む様に空がオートキャンセルで冬也の結界を強化する。更に、冬也がそれに神気を上書きする。
脆くも崩れ去ろうとしていた結界から、ひび割れが消えていく。メイロードの力を抑え込まんと強固になっていく。
「まだまだ、こんなものかと思うてかぁ~!」
それに対抗しようと、メイロードはありったけの神気を結界にぶつける。既に爆風は、城全体を吹き飛ばそうと、暴れまわっている。
メイロードの眼前にいるペスカは、自身の身体を守る為にマナを張り巡らせていた。しかし、一番の最前で嫉妬の力を受け続け、身体を支えるだけで精一杯のペスカは、上手く呼吸が出来ていない。このまま均衡状態が続けば、ペスカは酸欠で倒れるだろう。
「このまま、何も出来ずに死ぬが良い! 我を貶めようとした罰だ!」
「ならば、我が大剣で禍々しい嵐を吹き飛ばしてみせよう!」
女神との戦いに駆けつけたのは、冬也達だけではなかった。ケーリアもまた、アーグニールの将軍として城に残っていた。
「建物ならば建て直させばよい。しかし、人の命はそうは行かん。そして、お前の様な者を神とは認めん!」
そして、ケーリアは大剣を振るう。振るった勢いは凄まじく、風を起こし暴風と完全に対抗する。
それだけではない。ビシっビシっと音を立てて拮抗した風は、嫉妬の力で染められた闇を打ち払っていく。それは、ペスカに呪文を唱える隙を与えた。
「我が力、澱みを消す光となれ。我が力、悪意を払う希望となれ。その力を持って、我が敵を打ち滅ぼせ! 清浄の光よ来たれ、エラーリア!」
僅かな隙を突いて発動したペスカの魔法は、ケーリアが起こした風の力を増幅させて、嫉妬の闇を払っていく。徐々に闇は収まり、暴風は完全に消え去る。
そしてメイロードを待っていたのは、更なる敵の援軍だった。
「さて、子供達だけに戦わせるのも何ですし。私も少しは力を貸しましょうかね」
「其方がなぜここに!」
「妙な事を言いますね。貴女を捕まえる命が出てるんですよ?」
「原初ともあろう者が、地上の者に手を貸すのか! それこそ三法を冒していると思わんのか!」
「思いませんね。それに、私は腹が立っているんですよ」
「何を言っている! それは我の方じゃ!」
「生ける死者を作り出すなんて、言語道断です。死の領域を侵害してまで、やるべき事なんですか? それとも、私を敵に回す事も想定内でしたか?」
「当たり前であろう! 我が君の敵は原初の全て! 我が君に刃を向けるなら、其方とて例外ではないぞ!」
「それなら話しは早い」
そう言うと、女神セリュシオネは指をパチリと弾く。その瞬間、結界内の空間に亀裂が走る。その亀裂は瞬く間に結界内に広がっていき、別の空間を作り上げる。
それは只人が立ち入る事の叶わぬ、女神の領域。
城に残っていたケーリアは、女神の領域から弾き出される。結界を張っていた空と翔一もまた、同じ様にはじき出された。
「まぁ、これでも私は優しいんです。だから、貴女に機会を与えましょう!」
「何をほざいておる!」
「ここに残った小娘と半神を殺せば、貴女を見逃して差し上げます。良い提案だと思いませんか? ここならば存分に力を発揮出来ます。それに憎いんでしょ? 小娘共が。殺せるチャンスですよ」
「其方ごと皆殺しにすれば良いだけじゃ」
「それが出来るんなら、やって見て下さい。貴女の様な雑魚に傷一つ付けられはしませんがね」
「言わせておけば、好き勝手に言いおって!」
ペスカとケーリアによって鎮められた嫉妬の闇が、再びメイロードから溢れる様にして漏れていく。それは、切り離された空間を全て呑み込もうと広がっていく。
それは、『地上での影響を恐れ神気を抑える』という神の本質から抜け出し、タガが外れたメイロードの本領なのだろう。
しかし、セリュシオネの領域に居たのは、只人ではない。英雄と神の子だ。それも、戦いの中で力を増し続けている。抗えない道理はない。
冬也は神剣を取り出すと、ケーリアを真似る様にして振るう。剣が軌道に沿って、闇が払われていく。
「我が力、澱みを消す光となれ。我が力、悪意を払う希望となれ。その力を持って、我が敵を打ち滅ぼせ! 清浄の光よ全ての闇を打ち払え、エラーリア!」
ペスカの魔法は、周囲に広がった闇を一瞬にして消し去る。
メイロードは、この時初めて真に理解を得たのだろう。今、殺さなければいけないのは、誰なのかという事を。
それは、女神の領域を作り上げたセリュシオネではない。輝くばかりの才能を持った、妬ましい小娘共なのだ。
「あぁ憎らしい。あぁ恨めしい。なぜ、お前達はこうも我の邪魔をするのか。我が君に刃を向け様とするのか」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで、かかって来いよ」
「地上で力を抑えなきゃいけないのは、別に神様の特権じゃないんだから」
「あぁ妬ましい、妬ましい、妬ましい。下賤の分際で我が力に抗うその力、実に妬ましい」
そしてメイロードからは、これまでよりも更に濃厚な瘴気が溢れ出す。神ならざる者ならば、触れるだけで気が狂ったまま死に至る嫉妬の力。その力が、ペスカと冬也を襲おうと牙を剥く。