車はアーグニール王国をひた走る。モンスターを駆逐し続けるその姿を、人々は英雄の御車と呼んだ。モンスターからその身を守られ、命を救われた人は涙ながらに感謝する。
その戦う姿は人々に勇気を与えた。その勇気は、アーグニール中に派生する様に、大きく渦巻いていた。呼応する様に王都でも変化が起きる。
数日前から、王都は数十万を超えるモンスターに囲まれていた。高い城壁も頑丈な城門も今にも壊れそうになっていた。
陸上だけでは無い。高い城壁の上を越えて飛翔するモンスターが襲っている。
神に洗脳され、戦争にかまけていた王や王を守る兵は、民を守ろうとしない。助けを求める声は届かない。王都の民は次々と死んでいく。止む事無く襲い来るモンスター達に住民達は絶望する。
だがその絶望の淵で、何処からか声が聞こえる様な気がした。
抗え! 必ず守ってやる。だから生きろ!
「死んで堪るか~!」
それは、たった一人の声だった。だが、その叫び声は派生する。人から人へと伝播する。やがて王都中から雄叫び聞こえる様になった。
王都民達は、武器を手に取り始める。飛来するモンスターに対し、果敢に立ち向かい始めた。
戦う力を持たぬ一般人の命をかけた抗い。それは力強いモンスターに対し、余りにも無謀な戦い。無謀な戦いに住民達は、次々と蹂躙されて行く。だが必死の抵抗は続く。助けが来ると信じて戦う。
抵抗は無駄だったのか?
違う。その声は、その想いはしっかりと届いていた。神に深く洗脳された王達を目覚めさせた。その王によって、アーグニール王国を守る最強の盾が蘇った。
投獄されていた、ケーリアが釈放され将軍職に返り咲く。そして王都に残った兵をかき集めて、王都中心でモンスター退治を始めた。
多勢に無勢。確かに数十万を超えるモンスター。地を埋め、空を覆い尽くすモンスターの大軍に、たった数十名の兵で何が出来る。
何よりも、変わり果てたケーリアの姿に、王都民は一様に驚いた。かつて剛腕で知られたその腕や足はやせ細り、頬は瘦せこけている。
そんな体で何故立てる。
そんな体で何が出来る。
だがその目は戦う意志に溢れ、体は闘気に満ち溢れる。その背中は熱く語る。
全て俺が守ると。
戦うのはケーリアだけか? それとも数十名の兵なのか? 違う。王都に住まう民、兵、王。全てが果敢にモンスターに立ち向かった。
王が先陣を切る様に兵達は民を守り、王都内で力を振るう。老人や子供、男や女に係わらず、兵達と力を合わせモンスターに立ち向かう。三万の王都民全てが戦士に変わっていた。
そしてケーリアの腕は全く衰えて無かった。
あっと言う間に、王都内のモンスターを駆逐して、単独で王都を囲むモンスターへと向かい始めた。
二メートルは優に超える大剣を軽々と振り回し、ケーリアは群がるオーク数十体をまとめて斬り飛ばす。
マンティコアやケルベロスの様に、強力なモンスターでさえ一刀両断にした。ケーリアは自分に注意を引き付ける様に、モンスター達の中心で暴れまくる。
「かかって来い化け物共! この大剣で全て斬り尽くしてくれる!」
ケーリアはかつてない程の命のやり取りに、友人達の姿を思い浮かべていた。
「モーリス、お前はきっと無事であろう。きっとどこかで戦っているのであろうな。サムウェル、貴様の事だ。こんな逆境すら温かろう。俺も負けんぞ! 再び会おう!」
この身は鋼。決して折れん、決して砕けん。
ケーリアは己を囮に戦い続ける。果てないモンスターの海、勝てるはずの無い戦い。しかし不屈の魂は、大地を埋め尽くすモンスターの大軍さえたじろがせた。
一方、街を救いながら王都へ進むペスカ達は、王都へ後十キロ先まで近づいていた。止む事の無いモンスターの襲来は、激しさを増していく。
「ペスカ。なんかどんどん増えてねぇか?」
「うん。王都で何か起こってるのかもね。ちょっと映してみよっか!」
嫌な予感がした冬也はペスカに話しかける。そしてペスカはスクリーンに、王都周辺を拡大投影した。そして映し出されたのは、王都を埋め尽くすモンスターの大軍と、その中心で大剣を振り回す一人の男の姿であった。
「う~わ~! 酷っ! ってか、あれケーリアじゃない!」
「ケーリアって誰だ?」
「う~んと、モーリスと同じくらい強い人!」
冬也はスクリーンをしげしげと見つめて頷く。
「確かに鬼つえぇな! でも、ヤバくねぇかあの量」
「そうだね」
ペスカは少し逡巡する気配を見せたが、空と翔一に問いかける。
「ねぇ二人共。後は二人で頑張れる? 私とお兄ちゃんは、あの大軍を何とかして来るよ」
「無理はしないでって言っても無駄よね。気をつけてペスカちゃん」
「そうすると、空ちゃんに運転して貰って、小回りの利くライフルで、僕が個別撃破しようか。任せてよ、後から追いかけるから」
ペスカと運転を変わる空。翔一がライフルで周りのモンスターを撃破する間に、ペスカと冬也は準備を整える。
「大丈夫! ちょっとは数を減らしてから行くよ!」
ペスカはマナを溜めると呪文を唱える。
「焼き尽くせ、燃やし尽くせ! 煌めく暁の焔。ヴァーンヘイル!」
車の周囲百メートルに炎が巻き上がり、竜巻となってモンスターを消し炭にする。
「行くよ、お兄ちゃん!」
「おう。後は任せたぞ二人共!」
「気を付けて! ペスカちゃん、冬也さん」
「後で会おう!」
ペスカと冬也は勢い良く車から飛び出す。車から出て直ぐに、先頭を走る冬也の背に、ペスカが飛びついた。
「何してやがんだペスカ! じゃれてる場合じゃねぇぞ!」
「馬鹿だねお兄ちゃん。あの大軍を少しでも減らすんだよ。広域殲滅魔法を使うから、お兄ちゃんはそのまま走って。それと、お兄ちゃんの神気を貰うね」
「何だか良くわかんねぇけど、俺の神気なら幾らでもくれてやる。しっかりしがみついてろ!」
「うん!」
ペスカは冬也に両足を絡ませしがみつく。そして、冬也の体温を感じると共に、神気を吸い上げた。
「落ちろ流星! 雨の如く降り注ぎ、滅殺せよ! 嵐となって滅ぼし尽くせ~!」
王都上空近くに、直系十メートル位の巨大な光の塊が数百個現れ、落下し始める。光の塊は、モンスターの軍団に直撃し周囲を巻き込む様に爆発し、モンスターを消し飛ばしていく。
光の塊は次々と降り注ぎ、爆発を起こす。爆風は十キロ先のペスカ達にも届く。その爆風は、王都上空を襲っている飛行系モンスターを、吹き飛ばす勢いだった。
ペスカを背負いながら走り、剣を振るう冬也は思わず感嘆の声を上げた。
「すげぇな、ペスカ! かなり数が減ったんじゃねぇか?」
「半分って所じゃない?」
「なんで今まで、あんなすげぇの使わなかったんだよ!」
「あんな魔法使ったら、直ぐにマナを使い果たしちゃうもん。それに町が近くに有ったら、住民ごと巻き込んじゃうし」
「そりゃそうか。所でペスカ、そろそろ降りろ」
「やだ、もうちょい! マナを供給させて!」
なかなか背中から降りようとしないペスカを乗せて、冬也は走る。神気を全身に漲らせた冬也の体は、まさに弾丸の様だった。
目の前に立ち塞がる巨大なモンスターを、次々と薙ぎ払いながら進む。王都まで後少し、王都を囲むモンスターの大軍は、次第に冬也達にも注意を向けていた。
一方ケーリアは、突然降り注いだ光の塊に違和感を感じた。
王都周囲に降り注ぎ、十万を超えるモンスターの軍勢を半数ほどに減らした。あれだけの大魔法を使える者は、この大陸では二人しか知らない。
だが、自分の知る人物は、既に亡くなったはず。もう一人がわざわざ国を跨いで、我が国を救いに来るはずが無い。
誰だ? 敵ならば倒すのみ。だが、あれだけの魔法を操る者に勝てるのか? 訳がわからん。今は目の前に集中せねば。
頭を振るい、ケーリアは集中してモンスターを薙ぎ払っていく。しかし、遥か先にチラリと見えるのは、爆発を巻き起こしモンスターを消し飛ばしていく光景である。
何かが徐々に近づいて来る。否応なしにケーリアの緊張は高まっていった。
一方のペスカ達の進行方向は、流星魔法のせいで大地のあちこちにクレーターが出来ており、とても走りづらい状況が出来上がっていた。流石のペスカも、冬也の背中から降りて自らの足で走り始める。
冬也が先陣を切り、ペスカが援護射撃を行う構図が出来上がる。
クレーターの間を縫う様に冬也が走り、モンスターを両断する。モンスターがクレーターに落ちた隙を突き、ペスカが魔法で攻撃する。
ただ戦いの影響でアドレナリンが過剰に分泌したのか、はたまた冬也から得た神気が過剰な闘争心を生んだのか。ペスカの魔法は過激さを増していく。
「うぉりゃ~! 消し飛べ~! ばにぃっしゅ~!」
「燃えろ、燃えろ、燃やし尽くせ~!」
「うぉ~破壊だ~! こんにゃろ~!」
ペスカは無茶苦茶に魔法を放ち、魔物ごと局地的な破壊を行う。モンスターは段々と数を減らしていった。
「あぶねぇよ、ペスカ。ちっとは加減しろよ! 俺まで巻き込まれそうだろ!」
「お兄ちゃんがグズグズしてるの悪いんだよ! 早く倒してちゃってよ! プチっとやっちゃってよ!」
やがてモンスターを蹴散らして進むペスカ達の先に、大剣の影が見え隠れし始める。そしてペスカは大声で叫んだ。
「お~い。ケーリア~! 助けに来たよ~!」
ケーリアは驚きを隠せなかった。自分の名を呼び捨てにする者、しかも女性の声。そんな女性は、一人しか知らない。それも二十年前に死んだはず。
だが、助けに来たと言う言葉に、内心ほっとしていたのも事実。必死に目の前のモンスターを倒し続けると、目の前に年若い少女と青年が現れた。
「ケーリア。久しぶりだね! だいぶやつれたね~! 無理しないで、後は私とお兄ちゃんに任せなよ」
「そ、其方は誰だ? 何故、俺を知っている?」
「ペスカだよ! 詳しい話は後でね!」
ケーリアは呆然と立ち尽くした。ペスカと名乗る少女と、その少女の兄は、周囲に残ったモンスターを殲滅させていく。途轍もない魔法の才と途轍もない剣の才。どちらも人間技とは思えない程の実力である。
歳も背格好もまるで違う。だがケーリアの直感が告げている。彼女はペスカ殿だ。何が有ったか知らないが、二十年前と同じく、大陸を救いに救世主が現れたのだ。
ケーリアの心は躍った。絶望のどん底で光を見出した思いだった。ケーリアは再び大剣を強く握りしめると、ペスカ達の後を追う様にモンスターを蹴散らしていく。
やがて、空が運転した車が到着し、殲滅戦に参加する。小一時間程で、十万を超えるモンスターは、全て殲滅した。
殲滅し終えた所で、ペスカから大声が発せられる。
「ケーリア、早く王都に結界張るよ! 結界の張り方教えたでしょ!」
「承知しました。ペスカ殿」
ケーリアを強引に車に乗せて、急いで城門を抜け王城に向けて走り抜ける。王城に着いたペスカ達は、ケーリアを降ろし、兵士を集めさせる。
魔石を複数用意させ、王都各所へ配置し、王都を守る結界を作り上げた。
一般の民から多くの死者を出した。だが、皆が生き残りをかけて、心を合わせて勇敢に戦った。
その戦う姿は人々に勇気を与えた。その勇気は、アーグニール中に派生する様に、大きく渦巻いていた。呼応する様に王都でも変化が起きる。
数日前から、王都は数十万を超えるモンスターに囲まれていた。高い城壁も頑丈な城門も今にも壊れそうになっていた。
陸上だけでは無い。高い城壁の上を越えて飛翔するモンスターが襲っている。
神に洗脳され、戦争にかまけていた王や王を守る兵は、民を守ろうとしない。助けを求める声は届かない。王都の民は次々と死んでいく。止む事無く襲い来るモンスター達に住民達は絶望する。
だがその絶望の淵で、何処からか声が聞こえる様な気がした。
抗え! 必ず守ってやる。だから生きろ!
「死んで堪るか~!」
それは、たった一人の声だった。だが、その叫び声は派生する。人から人へと伝播する。やがて王都中から雄叫び聞こえる様になった。
王都民達は、武器を手に取り始める。飛来するモンスターに対し、果敢に立ち向かい始めた。
戦う力を持たぬ一般人の命をかけた抗い。それは力強いモンスターに対し、余りにも無謀な戦い。無謀な戦いに住民達は、次々と蹂躙されて行く。だが必死の抵抗は続く。助けが来ると信じて戦う。
抵抗は無駄だったのか?
違う。その声は、その想いはしっかりと届いていた。神に深く洗脳された王達を目覚めさせた。その王によって、アーグニール王国を守る最強の盾が蘇った。
投獄されていた、ケーリアが釈放され将軍職に返り咲く。そして王都に残った兵をかき集めて、王都中心でモンスター退治を始めた。
多勢に無勢。確かに数十万を超えるモンスター。地を埋め、空を覆い尽くすモンスターの大軍に、たった数十名の兵で何が出来る。
何よりも、変わり果てたケーリアの姿に、王都民は一様に驚いた。かつて剛腕で知られたその腕や足はやせ細り、頬は瘦せこけている。
そんな体で何故立てる。
そんな体で何が出来る。
だがその目は戦う意志に溢れ、体は闘気に満ち溢れる。その背中は熱く語る。
全て俺が守ると。
戦うのはケーリアだけか? それとも数十名の兵なのか? 違う。王都に住まう民、兵、王。全てが果敢にモンスターに立ち向かった。
王が先陣を切る様に兵達は民を守り、王都内で力を振るう。老人や子供、男や女に係わらず、兵達と力を合わせモンスターに立ち向かう。三万の王都民全てが戦士に変わっていた。
そしてケーリアの腕は全く衰えて無かった。
あっと言う間に、王都内のモンスターを駆逐して、単独で王都を囲むモンスターへと向かい始めた。
二メートルは優に超える大剣を軽々と振り回し、ケーリアは群がるオーク数十体をまとめて斬り飛ばす。
マンティコアやケルベロスの様に、強力なモンスターでさえ一刀両断にした。ケーリアは自分に注意を引き付ける様に、モンスター達の中心で暴れまくる。
「かかって来い化け物共! この大剣で全て斬り尽くしてくれる!」
ケーリアはかつてない程の命のやり取りに、友人達の姿を思い浮かべていた。
「モーリス、お前はきっと無事であろう。きっとどこかで戦っているのであろうな。サムウェル、貴様の事だ。こんな逆境すら温かろう。俺も負けんぞ! 再び会おう!」
この身は鋼。決して折れん、決して砕けん。
ケーリアは己を囮に戦い続ける。果てないモンスターの海、勝てるはずの無い戦い。しかし不屈の魂は、大地を埋め尽くすモンスターの大軍さえたじろがせた。
一方、街を救いながら王都へ進むペスカ達は、王都へ後十キロ先まで近づいていた。止む事の無いモンスターの襲来は、激しさを増していく。
「ペスカ。なんかどんどん増えてねぇか?」
「うん。王都で何か起こってるのかもね。ちょっと映してみよっか!」
嫌な予感がした冬也はペスカに話しかける。そしてペスカはスクリーンに、王都周辺を拡大投影した。そして映し出されたのは、王都を埋め尽くすモンスターの大軍と、その中心で大剣を振り回す一人の男の姿であった。
「う~わ~! 酷っ! ってか、あれケーリアじゃない!」
「ケーリアって誰だ?」
「う~んと、モーリスと同じくらい強い人!」
冬也はスクリーンをしげしげと見つめて頷く。
「確かに鬼つえぇな! でも、ヤバくねぇかあの量」
「そうだね」
ペスカは少し逡巡する気配を見せたが、空と翔一に問いかける。
「ねぇ二人共。後は二人で頑張れる? 私とお兄ちゃんは、あの大軍を何とかして来るよ」
「無理はしないでって言っても無駄よね。気をつけてペスカちゃん」
「そうすると、空ちゃんに運転して貰って、小回りの利くライフルで、僕が個別撃破しようか。任せてよ、後から追いかけるから」
ペスカと運転を変わる空。翔一がライフルで周りのモンスターを撃破する間に、ペスカと冬也は準備を整える。
「大丈夫! ちょっとは数を減らしてから行くよ!」
ペスカはマナを溜めると呪文を唱える。
「焼き尽くせ、燃やし尽くせ! 煌めく暁の焔。ヴァーンヘイル!」
車の周囲百メートルに炎が巻き上がり、竜巻となってモンスターを消し炭にする。
「行くよ、お兄ちゃん!」
「おう。後は任せたぞ二人共!」
「気を付けて! ペスカちゃん、冬也さん」
「後で会おう!」
ペスカと冬也は勢い良く車から飛び出す。車から出て直ぐに、先頭を走る冬也の背に、ペスカが飛びついた。
「何してやがんだペスカ! じゃれてる場合じゃねぇぞ!」
「馬鹿だねお兄ちゃん。あの大軍を少しでも減らすんだよ。広域殲滅魔法を使うから、お兄ちゃんはそのまま走って。それと、お兄ちゃんの神気を貰うね」
「何だか良くわかんねぇけど、俺の神気なら幾らでもくれてやる。しっかりしがみついてろ!」
「うん!」
ペスカは冬也に両足を絡ませしがみつく。そして、冬也の体温を感じると共に、神気を吸い上げた。
「落ちろ流星! 雨の如く降り注ぎ、滅殺せよ! 嵐となって滅ぼし尽くせ~!」
王都上空近くに、直系十メートル位の巨大な光の塊が数百個現れ、落下し始める。光の塊は、モンスターの軍団に直撃し周囲を巻き込む様に爆発し、モンスターを消し飛ばしていく。
光の塊は次々と降り注ぎ、爆発を起こす。爆風は十キロ先のペスカ達にも届く。その爆風は、王都上空を襲っている飛行系モンスターを、吹き飛ばす勢いだった。
ペスカを背負いながら走り、剣を振るう冬也は思わず感嘆の声を上げた。
「すげぇな、ペスカ! かなり数が減ったんじゃねぇか?」
「半分って所じゃない?」
「なんで今まで、あんなすげぇの使わなかったんだよ!」
「あんな魔法使ったら、直ぐにマナを使い果たしちゃうもん。それに町が近くに有ったら、住民ごと巻き込んじゃうし」
「そりゃそうか。所でペスカ、そろそろ降りろ」
「やだ、もうちょい! マナを供給させて!」
なかなか背中から降りようとしないペスカを乗せて、冬也は走る。神気を全身に漲らせた冬也の体は、まさに弾丸の様だった。
目の前に立ち塞がる巨大なモンスターを、次々と薙ぎ払いながら進む。王都まで後少し、王都を囲むモンスターの大軍は、次第に冬也達にも注意を向けていた。
一方ケーリアは、突然降り注いだ光の塊に違和感を感じた。
王都周囲に降り注ぎ、十万を超えるモンスターの軍勢を半数ほどに減らした。あれだけの大魔法を使える者は、この大陸では二人しか知らない。
だが、自分の知る人物は、既に亡くなったはず。もう一人がわざわざ国を跨いで、我が国を救いに来るはずが無い。
誰だ? 敵ならば倒すのみ。だが、あれだけの魔法を操る者に勝てるのか? 訳がわからん。今は目の前に集中せねば。
頭を振るい、ケーリアは集中してモンスターを薙ぎ払っていく。しかし、遥か先にチラリと見えるのは、爆発を巻き起こしモンスターを消し飛ばしていく光景である。
何かが徐々に近づいて来る。否応なしにケーリアの緊張は高まっていった。
一方のペスカ達の進行方向は、流星魔法のせいで大地のあちこちにクレーターが出来ており、とても走りづらい状況が出来上がっていた。流石のペスカも、冬也の背中から降りて自らの足で走り始める。
冬也が先陣を切り、ペスカが援護射撃を行う構図が出来上がる。
クレーターの間を縫う様に冬也が走り、モンスターを両断する。モンスターがクレーターに落ちた隙を突き、ペスカが魔法で攻撃する。
ただ戦いの影響でアドレナリンが過剰に分泌したのか、はたまた冬也から得た神気が過剰な闘争心を生んだのか。ペスカの魔法は過激さを増していく。
「うぉりゃ~! 消し飛べ~! ばにぃっしゅ~!」
「燃えろ、燃えろ、燃やし尽くせ~!」
「うぉ~破壊だ~! こんにゃろ~!」
ペスカは無茶苦茶に魔法を放ち、魔物ごと局地的な破壊を行う。モンスターは段々と数を減らしていった。
「あぶねぇよ、ペスカ。ちっとは加減しろよ! 俺まで巻き込まれそうだろ!」
「お兄ちゃんがグズグズしてるの悪いんだよ! 早く倒してちゃってよ! プチっとやっちゃってよ!」
やがてモンスターを蹴散らして進むペスカ達の先に、大剣の影が見え隠れし始める。そしてペスカは大声で叫んだ。
「お~い。ケーリア~! 助けに来たよ~!」
ケーリアは驚きを隠せなかった。自分の名を呼び捨てにする者、しかも女性の声。そんな女性は、一人しか知らない。それも二十年前に死んだはず。
だが、助けに来たと言う言葉に、内心ほっとしていたのも事実。必死に目の前のモンスターを倒し続けると、目の前に年若い少女と青年が現れた。
「ケーリア。久しぶりだね! だいぶやつれたね~! 無理しないで、後は私とお兄ちゃんに任せなよ」
「そ、其方は誰だ? 何故、俺を知っている?」
「ペスカだよ! 詳しい話は後でね!」
ケーリアは呆然と立ち尽くした。ペスカと名乗る少女と、その少女の兄は、周囲に残ったモンスターを殲滅させていく。途轍もない魔法の才と途轍もない剣の才。どちらも人間技とは思えない程の実力である。
歳も背格好もまるで違う。だがケーリアの直感が告げている。彼女はペスカ殿だ。何が有ったか知らないが、二十年前と同じく、大陸を救いに救世主が現れたのだ。
ケーリアの心は躍った。絶望のどん底で光を見出した思いだった。ケーリアは再び大剣を強く握りしめると、ペスカ達の後を追う様にモンスターを蹴散らしていく。
やがて、空が運転した車が到着し、殲滅戦に参加する。小一時間程で、十万を超えるモンスターは、全て殲滅した。
殲滅し終えた所で、ペスカから大声が発せられる。
「ケーリア、早く王都に結界張るよ! 結界の張り方教えたでしょ!」
「承知しました。ペスカ殿」
ケーリアを強引に車に乗せて、急いで城門を抜け王城に向けて走り抜ける。王城に着いたペスカ達は、ケーリアを降ろし、兵士を集めさせる。
魔石を複数用意させ、王都各所へ配置し、王都を守る結界を作り上げた。
一般の民から多くの死者を出した。だが、皆が生き残りをかけて、心を合わせて勇敢に戦った。