そこは暗闇で囲われた陰鬱な空間だった。奈落の底から響き渡る様な、悍ましい声が漏れ聞こえる。そこには男女の一組が寄り添っていた。
「供給が一つ絶えたようだね」
「また、あのクソガキ共ですか? 私が行って潰してきます!」
「待ちなよメイロード。奴らはアルキエルまで倒したんだ。行っても確実に潰せる保証はないよ」
「ですが愛しき君。あのクソガキ共が、今でものうのうと生きている。私はそれが我慢なりません!」
「それに神々の監視もきつくなっているからね。新しい勢力とやらも、グレイラスがいなくなって足並みが乱れているみたいだし」
「せめて、愛しき君が半身を取り戻せれば」
「エンシェントドラゴンは思ったより手ごわいようだ。手古摺っている場合じゃないんだけどさ」
「私も助力を……」
「いや、君まで来る必要はない。それに、今は力を蓄える時だ。いずれ奴らはこの手で八つ裂きにする。それまで人間共には、精々踊って貰うとしよう」
ロメリアは自分を消滅寸前まで追い詰め、且つ神二柱を倒したペスカ達に脅威を感じていた。それ故に、グレイラスが起こしたラフィスフィア大陸中の火種を利用した。
混乱を深め、人の悪意や憎悪、狂気や恐怖を増加させ糧にするのが混沌の神だ。
更に力を蓄え、今度こそ自分の存在を脅かした憎き奴らを抹殺しようと闘志を燃やす。そして、ペスカと冬也が切り刻まれ、命乞いをする姿を夢想し、ロメリアは悦に浸る。
「さあ、踊れ人間達よ。世を滅ぼし、我が糧となれ!」
だが、メイロードの気は収まらない。何もかもが気に食わない。特にロメリアが、憎きガキ共に執心するのも全てが気に食わない。
愛しき君は、私の物だ。私だけ見ていれば良い。何故、他の物に目をやる。
「腹立たしい。腹立たしい。腹立たしい。恨めしい。恨めしい。恨めしい。妬ましい。妬ましい。妬ましい。あぁぁぁぁぁ~」
メイロードの腸は煮えくり返る。だがメイロードは、煮えたぎる想いを内へと抑えこむ。来るべき時の為に、大陸を一瞬で消し飛ばす力が、メイロードの身に蓄えられ様としていた。
☆ ☆ ☆
神の住む天空の地、現在は様々な神が右往左往している。
ラフィスフィア大陸に戦乱が広がり混迷を極める中、邪神の居場所は依然として見つからない。大地は荒廃を続け、一部の神はフィアーナに原因が有ると糾弾する。
痺れを切らしたフィアーナは、単身で地上に降りた。司令塔不在の天空の地では、情報は錯綜し正確な判断力を失くしつつある。そんな中、ラフィスフィア大陸にペスカ達を送った、セリュシオネが帰還を果たす。
「フィアーナ、フィアーナは何処です」
「セリュシオネ。フィアーナは地上に行かれましたぞ」
セリュシオネは、深い溜息をついて呟いた。
「あぁ、何て身勝手な行動をするのでしょうか。仕方ない貴方、フィアーナに伝えなさい。アルキエル、グレイラス、二柱の神格を確保しました。これから消滅作業に取り掛かります」
「捕らえたのですね、素晴らしいですな」
「私が捕らえたのでは有りませんよ。半神と人間が、神二柱を倒したのです。それも付け加えて、フィアーナに伝えると良いでしょう。では私は作業に取り掛かるので、連絡は任せましたよ」
セリュシオネは男神に言伝を命じると、その場から立ち去る。天空の地に戻って以来、右往左往と慌てふためく神々の姿を見て、女神セリュシオネは再び大きな溜息を吐く。
「全く、フィアーナが出払った位で情けない。他に統率する原初の神くらい他にもいるでしょうに。だから、ロメリア如きに好き勝手にやられるんですよ。馬鹿馬鹿しい」
セリュシオネは、懐から虹色に輝く魂魄を取り出して見やると、再び独り言ちる。
「本当にね、私は忙しいんですよ。こんな事なら、この魂魄を転生させてやるなんて、約束しなければ良かったですね」
そして深く溜息をつくと、再び呟いた。
「そう言えばもう一つ、これに近い輝きを持つ魂魄が有りましたね。賢帝でしたっけ。あの魂魄に、私の神格を少し与えて眷属化しましょう。少しは能率も上がるでしょう。皆好き勝手にやってるんです。私も好きにやらせてもらいますよ」
☆ ☆ ☆
その一方で女神フィアーナは、エルラフィア王国の教会内で、シルビアと話をしていた。
「何てこと……。我々は神四柱を相手にしなければ、ならないのですか」
「そうよ。急いで南部四国を中心に、土地の活力を上げて来たわ。少しは、兵糧の足しになるでしょう」
「有難いのですが、この戦乱は邪神達のせいですよね? その相手は我々人間には、荷が重すぎます」
「大丈夫よ。ペスカちゃんと冬也君を探させてるから。東京でロメリアと一戦やった後に、こっちに送っといたのよ。ロイスマリアの何処かにはいるはずよ」
「漠然としてますね。ペスカ様達が健在なら、少しは光明が見えるのですが。何処にいるかわからないのでは……」
「その内見つかるわよ。あなた達はその間、頑張って絶えなさい。私は少しずつ大陸に神気を満たしていくわ。その為にも、国中上げて私に祈りを捧げなさいね」
「承知致しました。陛下にもその旨お伝え致します」
「じゃあね、これ以上死人を増やすんじゃないわよ。後、子作りに励む様にね」
そしてフィアーナは姿を消す。しかし、シルビアは困り顔になっていた。「死者を増やすな、子作りに励め」、この混乱中に何を言っている。しかも、神四柱を相手に世界を守るなんて無茶が過ぎる。
だが、女神からの神託を全て陛下に伝えねばと、シルビアは王城へ急いだ。
一方で、セリュシオネから言伝を命じられた男神は、フィアーナを探して大陸を駆け回る事になる。
既にアルキエル、グレイラスの二柱はペスカ達によって倒されているにも係わらず、フィアーナはその事実を知らずに神託を与えた。
現代社会を知っているペスカなら、指を指して笑うだろう。情報の遅れや誤った情報は、誤った行動へとつながる。
情報は敏速かつ正確に。誰もが知っている当たり前の事が、神すらも出来ていない。それは常に自分の領分のみを考える神だからこそ、混乱時に情報ネットワークが取れないのかも知れない。
神が出来ない事が、人間に出来ようか?
エルラフィア王国では、情報の入手に難儀していた。間諜達からは、なかなか情報が齎されず、帝国の情報やメルドマリューネの思惑は、未だ詳細が分からずにいた。その為、エルラフィア王は正確な判断が下せずにいる。
もしあの時、出陣させてなければ。もしあの時、撤退させていれば。そんなIFは現実で通用するはずが無い。神も人も、全てが後手後手に回っていた。
謁見室に到着したシルビアは、国王に女神の神託を全て報告する。国王は頭を掻きながら、ひじ掛けに頬杖をついた。
「神四柱がこの混乱の原因か。予想以上に酷い有様だな。ペスカ殿の行方もわからんとはな」
「陛下、女神フィアーナは、大陸を神気で満たしていくと仰いました。国中で祈りを捧げるのは、迅速に行った方が良いかと」
「そうだな。直ぐに触れを出そう。だが、死人を増やすな、子作りを励めは難しいだろうな。せめて、子作りを推奨する様に触れを出すか」
国王は少し考える様に目を閉じる。
確かに神託にある事は、大地の力を取り戻す為に必要なのだろう。マナの循環を滞らせない為に、新たな命は必要だ。しかし、今やらなければならない事は、それではない。そもそも、新たな命は一日やそこらで誕生しない。そんな簡単なものではないのだ。
しかし神託を無視する訳にはいくまい。国王は、女神フィアーナを国中で大々的に祭る事と、子作り政策を検討する事を大臣達に命じる。その後、暫く逡巡する様にシルビアを見た国王は、重い口を開く。
「シルビアよ。帝国がどうなっているのか、全くわからんのだ。ルクスフィア卿、メイザー卿から連絡が無いどころか、シグルドからの連絡も途絶えておる。其方、様子を見て来てくれんか?」
「承知致しました陛下。直ぐに出立致します」
「どの国に送った間諜からも、情報が届かない現状だ。くれぐれも用心せよ」
「有難きお言葉、肝に銘じます」
「供給が一つ絶えたようだね」
「また、あのクソガキ共ですか? 私が行って潰してきます!」
「待ちなよメイロード。奴らはアルキエルまで倒したんだ。行っても確実に潰せる保証はないよ」
「ですが愛しき君。あのクソガキ共が、今でものうのうと生きている。私はそれが我慢なりません!」
「それに神々の監視もきつくなっているからね。新しい勢力とやらも、グレイラスがいなくなって足並みが乱れているみたいだし」
「せめて、愛しき君が半身を取り戻せれば」
「エンシェントドラゴンは思ったより手ごわいようだ。手古摺っている場合じゃないんだけどさ」
「私も助力を……」
「いや、君まで来る必要はない。それに、今は力を蓄える時だ。いずれ奴らはこの手で八つ裂きにする。それまで人間共には、精々踊って貰うとしよう」
ロメリアは自分を消滅寸前まで追い詰め、且つ神二柱を倒したペスカ達に脅威を感じていた。それ故に、グレイラスが起こしたラフィスフィア大陸中の火種を利用した。
混乱を深め、人の悪意や憎悪、狂気や恐怖を増加させ糧にするのが混沌の神だ。
更に力を蓄え、今度こそ自分の存在を脅かした憎き奴らを抹殺しようと闘志を燃やす。そして、ペスカと冬也が切り刻まれ、命乞いをする姿を夢想し、ロメリアは悦に浸る。
「さあ、踊れ人間達よ。世を滅ぼし、我が糧となれ!」
だが、メイロードの気は収まらない。何もかもが気に食わない。特にロメリアが、憎きガキ共に執心するのも全てが気に食わない。
愛しき君は、私の物だ。私だけ見ていれば良い。何故、他の物に目をやる。
「腹立たしい。腹立たしい。腹立たしい。恨めしい。恨めしい。恨めしい。妬ましい。妬ましい。妬ましい。あぁぁぁぁぁ~」
メイロードの腸は煮えくり返る。だがメイロードは、煮えたぎる想いを内へと抑えこむ。来るべき時の為に、大陸を一瞬で消し飛ばす力が、メイロードの身に蓄えられ様としていた。
☆ ☆ ☆
神の住む天空の地、現在は様々な神が右往左往している。
ラフィスフィア大陸に戦乱が広がり混迷を極める中、邪神の居場所は依然として見つからない。大地は荒廃を続け、一部の神はフィアーナに原因が有ると糾弾する。
痺れを切らしたフィアーナは、単身で地上に降りた。司令塔不在の天空の地では、情報は錯綜し正確な判断力を失くしつつある。そんな中、ラフィスフィア大陸にペスカ達を送った、セリュシオネが帰還を果たす。
「フィアーナ、フィアーナは何処です」
「セリュシオネ。フィアーナは地上に行かれましたぞ」
セリュシオネは、深い溜息をついて呟いた。
「あぁ、何て身勝手な行動をするのでしょうか。仕方ない貴方、フィアーナに伝えなさい。アルキエル、グレイラス、二柱の神格を確保しました。これから消滅作業に取り掛かります」
「捕らえたのですね、素晴らしいですな」
「私が捕らえたのでは有りませんよ。半神と人間が、神二柱を倒したのです。それも付け加えて、フィアーナに伝えると良いでしょう。では私は作業に取り掛かるので、連絡は任せましたよ」
セリュシオネは男神に言伝を命じると、その場から立ち去る。天空の地に戻って以来、右往左往と慌てふためく神々の姿を見て、女神セリュシオネは再び大きな溜息を吐く。
「全く、フィアーナが出払った位で情けない。他に統率する原初の神くらい他にもいるでしょうに。だから、ロメリア如きに好き勝手にやられるんですよ。馬鹿馬鹿しい」
セリュシオネは、懐から虹色に輝く魂魄を取り出して見やると、再び独り言ちる。
「本当にね、私は忙しいんですよ。こんな事なら、この魂魄を転生させてやるなんて、約束しなければ良かったですね」
そして深く溜息をつくと、再び呟いた。
「そう言えばもう一つ、これに近い輝きを持つ魂魄が有りましたね。賢帝でしたっけ。あの魂魄に、私の神格を少し与えて眷属化しましょう。少しは能率も上がるでしょう。皆好き勝手にやってるんです。私も好きにやらせてもらいますよ」
☆ ☆ ☆
その一方で女神フィアーナは、エルラフィア王国の教会内で、シルビアと話をしていた。
「何てこと……。我々は神四柱を相手にしなければ、ならないのですか」
「そうよ。急いで南部四国を中心に、土地の活力を上げて来たわ。少しは、兵糧の足しになるでしょう」
「有難いのですが、この戦乱は邪神達のせいですよね? その相手は我々人間には、荷が重すぎます」
「大丈夫よ。ペスカちゃんと冬也君を探させてるから。東京でロメリアと一戦やった後に、こっちに送っといたのよ。ロイスマリアの何処かにはいるはずよ」
「漠然としてますね。ペスカ様達が健在なら、少しは光明が見えるのですが。何処にいるかわからないのでは……」
「その内見つかるわよ。あなた達はその間、頑張って絶えなさい。私は少しずつ大陸に神気を満たしていくわ。その為にも、国中上げて私に祈りを捧げなさいね」
「承知致しました。陛下にもその旨お伝え致します」
「じゃあね、これ以上死人を増やすんじゃないわよ。後、子作りに励む様にね」
そしてフィアーナは姿を消す。しかし、シルビアは困り顔になっていた。「死者を増やすな、子作りに励め」、この混乱中に何を言っている。しかも、神四柱を相手に世界を守るなんて無茶が過ぎる。
だが、女神からの神託を全て陛下に伝えねばと、シルビアは王城へ急いだ。
一方で、セリュシオネから言伝を命じられた男神は、フィアーナを探して大陸を駆け回る事になる。
既にアルキエル、グレイラスの二柱はペスカ達によって倒されているにも係わらず、フィアーナはその事実を知らずに神託を与えた。
現代社会を知っているペスカなら、指を指して笑うだろう。情報の遅れや誤った情報は、誤った行動へとつながる。
情報は敏速かつ正確に。誰もが知っている当たり前の事が、神すらも出来ていない。それは常に自分の領分のみを考える神だからこそ、混乱時に情報ネットワークが取れないのかも知れない。
神が出来ない事が、人間に出来ようか?
エルラフィア王国では、情報の入手に難儀していた。間諜達からは、なかなか情報が齎されず、帝国の情報やメルドマリューネの思惑は、未だ詳細が分からずにいた。その為、エルラフィア王は正確な判断が下せずにいる。
もしあの時、出陣させてなければ。もしあの時、撤退させていれば。そんなIFは現実で通用するはずが無い。神も人も、全てが後手後手に回っていた。
謁見室に到着したシルビアは、国王に女神の神託を全て報告する。国王は頭を掻きながら、ひじ掛けに頬杖をついた。
「神四柱がこの混乱の原因か。予想以上に酷い有様だな。ペスカ殿の行方もわからんとはな」
「陛下、女神フィアーナは、大陸を神気で満たしていくと仰いました。国中で祈りを捧げるのは、迅速に行った方が良いかと」
「そうだな。直ぐに触れを出そう。だが、死人を増やすな、子作りを励めは難しいだろうな。せめて、子作りを推奨する様に触れを出すか」
国王は少し考える様に目を閉じる。
確かに神託にある事は、大地の力を取り戻す為に必要なのだろう。マナの循環を滞らせない為に、新たな命は必要だ。しかし、今やらなければならない事は、それではない。そもそも、新たな命は一日やそこらで誕生しない。そんな簡単なものではないのだ。
しかし神託を無視する訳にはいくまい。国王は、女神フィアーナを国中で大々的に祭る事と、子作り政策を検討する事を大臣達に命じる。その後、暫く逡巡する様にシルビアを見た国王は、重い口を開く。
「シルビアよ。帝国がどうなっているのか、全くわからんのだ。ルクスフィア卿、メイザー卿から連絡が無いどころか、シグルドからの連絡も途絶えておる。其方、様子を見て来てくれんか?」
「承知致しました陛下。直ぐに出立致します」
「どの国に送った間諜からも、情報が届かない現状だ。くれぐれも用心せよ」
「有難きお言葉、肝に銘じます」