冬也に抱き着き、ペスカは泣き止まない。そんなペスカを冬也は撫でてあやす。そして二人に、空と翔一が走り寄る。しかし空と翔一は、不安に表情を曇らせる。
空と翔一は、女神の結界に守られ全てを見ていた。
二柱の神共に、現れた時に肌が粟立つのを感じた。今も未だ震えが止まらない。最初の神に感じたのは、禍々し恐怖。次の神に感じたのは、圧倒的な強者からのプレッシャーだ。
自分達が無暗に手を出して良いレベルを超えていた。もし、結界から一歩でも外に足を踏み出せば、命は無かっただろう。そんな確信を持てる程、狂気じみた空間が広がっていた。
拙い自分達にもわかる、あれこそ理不尽な神の力だ。そんな神二柱との戦いは、理解し難い程に凄まじかった。
激昂し慟哭し、ペスカと冬也はどんな想いで戦ったのだろう。そしてペスカと冬也は、果敢に挑み、神二柱を打ち滅ぼした。
神二柱を倒した。そんな奇跡に驚くよりも、ペスカと冬也の事が心配であった。体は無事なのは、何よりである。それよりも、大切な友人を失う事が、どれ程の喪失感であろうか。二人に駆け寄っても、かける言葉が見つからない。
「二人共、無事だったか。良かった」
冬也は優しく微笑んで、空と翔一を見つめる。何故、そんな優しい笑みを浮かべる事が出来る。空と翔一は冬也に軽く頷き、二人をただ見つめる事しか出来なかった。
この二人を支えた想いは何だったのだろう。世界を守る正義感か、亡き友人への弔いか、それとも別の何かが有ったのだろうか。
今もペスカは、感情を露に泣き続ける。神アルキエルに向けたペスカの殺気には、恐怖すら感じた。悔しさに震える姿は、涙を誘った。
友人の死を知らされた後の冬也には、凍える様な冷たさを感じた。理不尽な暴力を理不尽に消し尽くす。どれだけ身と心を削れば、そんな力を出し得たのだろう。
空と翔一は、掛ける言葉が見つからない。ただ、冬也は二人に優しく微笑む。
「良いんだ。ありがとう」
空と翔一は、思わず涙を零した。そしてペスカも涙を流しながら、空と翔一に頷く。堪らず空と翔一は、ペスカと冬也を抱え込む様に抱きしめた。
ほんの一時、四人が固まり抱きしめ合う所に、怒声が聞こえる。
「冬也君。貴方ねぇ、何て力の使い方してるのよ!」
女神ラアルフィーネが、顔を顰めて近づいて来る。
「聞いてるの! 冬也君! 危ない力の使い方しないでって言ってるのよ!」
「ラアルフィーネさんか。何がだよ」
「あのね。神気を碌に扱えない癖に!」
「あぁ。でも、奴を倒すにはそれしか無かった」
「馬鹿! 少しでも力の調整を間違えたら、この辺一帯が消滅していたのよ! それに剣に神気を集めてたら、他は無防備でしょ! アルキエルに勝つつもりあったの?」
「当たり前だ! そもそも、あれは勝負にすらなってねぇ。なぁ、ラアルフィーネさん。神様ってのは、地上では力を制限させられてるんじゃねぇのか?」
「そうよ。神の神気は、生物に影響を与える。良くも悪くもね」
「あれは、力の差でも、技量の差でもねぇ。勝負以前の問題だ。俺は奴の本気を出させなかった。だから生きている。それだけだ」
淡々と答える冬也に、女神ラアルフィーネが深い溜息を吐く。その時だった。彼方から声が聞こえた。
「そうですね。危ない所だった。ともすれば、この大陸全土がタールカールの二の舞となる所でしたね」
「セリュシオネ! 貴女まで何しに来たのよ!」
「ラアルフィーネ。随分なお言葉ですね。私はフィアーナの指示で、そこの子供達を探していたんですよ」
「何故ここがって、聞かなくてもわかるか?」
「そうですよ。これだけ派手に神気が放たれれば。まさか背信の二柱を、人間が倒すとは思いませんでしたが」
更に一柱、神の出現に空と翔一の表情が引き締まる。しかしペスカは、涙を拭い女神セリュシオネに頭を下げる。
「女神セリュシオネ、お久しぶりです」
「頭を上げなさい、ペスカ。それで、そこの君がフィアーナの息子かな?」
「そう言うあんたは誰だよ!」
「確か冬也君だったね。君はもう少し、礼儀を学ぶべきだね」
冬也は訝し気に女神セリュシオネを睨む。しかし、女神セリュシオネは、冬也の視線を気に留めず辺りを歩き回り、転がる二つの球を拾った。
「ラアルフィーネ。これは、私が回収していきます」
「ちょっと待てよ。それをどうする気だよ?」
女神ラアルフィーネに向いていた視線を、女神セリュシオネは冬也に向ける。
「半神なら、知らないのも仕方ない。これは神格と言う物。神の根幹を成す物だよ。君達が倒した神々は、背信により神格剥奪が決定されている。神格剥奪は、生と死を司る私の役目だ」
「セリュシオネ、ちゃんと神格剥奪するの? まさか、アルキエルを蘇らせる気は無いわよね。あなた達、仲良かったじゃない」
女神ラアルフィーネの言葉に、冬也が殺気立つ。ビリビリとする神気が辺りに広がる。咄嗟に女神ラアルフィーネが庇わなければ、空と翔一は気を失っていただろう。
「おい! それが目的なら、そいつを渡す訳にはいかねぇな」
「駄目! お兄ちゃん!」
「止めんなペスカ! こいつが糞野郎共を復活させられたら、どうすんだ!」
「お兄ちゃん、抑えて! セリュシオネ様を倒したら、生命の輪廻が途絶えちゃう」
女神セリュシオネに近づこうとする冬也を、ペスカが必死に食い止める。深い溜息をついた女神セリュシオネが、女神ラアルフィーネに視線を送った。
「止めて下さい、ラアルフィーネ。貴女の不用意な一言で、子供が殺気立ってます。そもそもアルキエルは、勝手の良い駒ですよ。アルキエルの神格を奪っても、別に戦いの神が生まれます。新たな神を手駒にすれば良いだけです」
「それもそうね。ごめんね~、冬也君。未来の妻に免じてここは抑えて~」
「誰が未来の妻だ! 意味がわかんねぇよ。俺はどいつを、ぶっ飛ばせば良いんだ?」
「お兄ちゃん、落ち着いて。ラアルフィーネ様、お戯れが過ぎますよ」
ペスカは必死に、冬也を宥めて落ち着かせる。女神セリュシオネは、更に深い溜息をついた。
「全く、酷い三文芝居に巻き込まれたものだ。目的を忘れたら、フィアーナに叱られる所です。あぁその前に」
何かを思い出した様に、女神セリュシオネは、懐から虹色に輝く球を取り出す。
「生憎、肉体の再生は叶いませんでしたが、君達と最後の別れ位はさせてあげようと思い、連れて来ました」
女神セリュシオネが呟くと、虹色に輝く球は人の体を成していく。そこには一人の男が立つ。光に溢れ表情は良く見えない。しかしそこに立つのは紛れも無く、失った友人の姿だった。
ペスカと冬也は目頭が熱くなるのを感じる。男はゆっくりとペスカに近づき、膝を突き頭を垂れる。
「ペスカ様。ご命令を守れず、申し訳ありません」
ペスカの瞳からは、滂沱の涙が溢れる。ペスカは言葉を詰まらせ、ただ首を横に振る。
そして、男はゆっくりと頭を上げ立ち上がり、冬也に視線を向ける。
「冬也、見ていたよ。強くなったな」
「シグルド、シグルド、シグルド~!」
冬也から、涙が溢れる。神々との戦いにおいて、冬也は怒りを捨て心を凍らせた。だが、目の前にいる男を前に、熱い涙が溢れる。激情に駆り立てられ、叫び声を上げる。
「神を倒した男が、そんなに泣き喚くものじゃ無いよ」
「それはお前がいたからだ! シグルド、お前はあの糞雑魚に深手を負わせてた。だから、俺達が勝てた。アルキエルにも」
「違うよ冬也。あれは、君達の勝利だよ。よく頑張ったな。それに、ありがとう」
冬也の目から涙が止まらない。シグルドは、冬也の肩を軽く叩く。
「君と出会えた事を誇りに思う。君と友人であった事が私の宝だ、冬也」
「俺もだ。俺もだ。シグルド!」
シグルドは、再びペスカに体を向けて、頭を下げる。
「何も守れませんでした。何も」
「そんな事無い! シグルド、あんたは良くやったよ。良く戦ったよ」
掠れた声で、ペスカは叫ぶ。
「私は、貴女達の様に勇敢で有りたかった。貴女達の様に守れる強さが欲しかった」
ペスカは首を横に振る。
「ねぇシグルド。あんたの様な奴の事を勇者って呼ぶのよ。勇敢な者と書いて勇者」
「ペスカ様……」
「高潔なる勇者シグルド! 此度の任務、誠に大儀で有った!」
「有難きお言葉です。ペスカ様」
肉体を持たぬシグルドに涙は流れない。しかし、シグルドの目には光る物を感じる。晴れやかな笑顔は、やり遂げた男の笑顔その物だった。
やがてシグルドの体が崩れていく。
「どうやら時間の様です。ペスカ様、冬也。後はよろしくお願いします」
「うん、わかってるよ」
「あぁ、任せろ」
シグルドは最後に微笑むと、完全に形を崩し、元の虹色に輝く球になった。
「「シグルドぉぉぉぉぉぉ~!」」
ペスカと冬也の叫び声は、天まで届く様に響き渡る。
「こんなに虹色に輝く魂魄は、なかなか無いんだよ。確かに勇者かもしれないね」
「セリュシオネ様……」
「この魂魄は、私が責任を持って転生させるよ」
「頼むよ。セリュシオネさん」
ペスカと冬也は、涙を拭わずセリュシオネに頭を下げる。
勇敢に散った魂に安らぎを。どうか、その魂に幸運が訪れる事を。
ペスカと冬也は願わずにはいられなかった。
「ペスカ、行こう。俺達は、あいつの分まで世界を救う!」
「うん。お兄ちゃん。行こう!」
ペスカ達は向かう。戦い止まぬラフィスフィア大陸へ。
友の想いを胸に。危機迫る仲間を救いに。
世界を守る為に。
空と翔一は、女神の結界に守られ全てを見ていた。
二柱の神共に、現れた時に肌が粟立つのを感じた。今も未だ震えが止まらない。最初の神に感じたのは、禍々し恐怖。次の神に感じたのは、圧倒的な強者からのプレッシャーだ。
自分達が無暗に手を出して良いレベルを超えていた。もし、結界から一歩でも外に足を踏み出せば、命は無かっただろう。そんな確信を持てる程、狂気じみた空間が広がっていた。
拙い自分達にもわかる、あれこそ理不尽な神の力だ。そんな神二柱との戦いは、理解し難い程に凄まじかった。
激昂し慟哭し、ペスカと冬也はどんな想いで戦ったのだろう。そしてペスカと冬也は、果敢に挑み、神二柱を打ち滅ぼした。
神二柱を倒した。そんな奇跡に驚くよりも、ペスカと冬也の事が心配であった。体は無事なのは、何よりである。それよりも、大切な友人を失う事が、どれ程の喪失感であろうか。二人に駆け寄っても、かける言葉が見つからない。
「二人共、無事だったか。良かった」
冬也は優しく微笑んで、空と翔一を見つめる。何故、そんな優しい笑みを浮かべる事が出来る。空と翔一は冬也に軽く頷き、二人をただ見つめる事しか出来なかった。
この二人を支えた想いは何だったのだろう。世界を守る正義感か、亡き友人への弔いか、それとも別の何かが有ったのだろうか。
今もペスカは、感情を露に泣き続ける。神アルキエルに向けたペスカの殺気には、恐怖すら感じた。悔しさに震える姿は、涙を誘った。
友人の死を知らされた後の冬也には、凍える様な冷たさを感じた。理不尽な暴力を理不尽に消し尽くす。どれだけ身と心を削れば、そんな力を出し得たのだろう。
空と翔一は、掛ける言葉が見つからない。ただ、冬也は二人に優しく微笑む。
「良いんだ。ありがとう」
空と翔一は、思わず涙を零した。そしてペスカも涙を流しながら、空と翔一に頷く。堪らず空と翔一は、ペスカと冬也を抱え込む様に抱きしめた。
ほんの一時、四人が固まり抱きしめ合う所に、怒声が聞こえる。
「冬也君。貴方ねぇ、何て力の使い方してるのよ!」
女神ラアルフィーネが、顔を顰めて近づいて来る。
「聞いてるの! 冬也君! 危ない力の使い方しないでって言ってるのよ!」
「ラアルフィーネさんか。何がだよ」
「あのね。神気を碌に扱えない癖に!」
「あぁ。でも、奴を倒すにはそれしか無かった」
「馬鹿! 少しでも力の調整を間違えたら、この辺一帯が消滅していたのよ! それに剣に神気を集めてたら、他は無防備でしょ! アルキエルに勝つつもりあったの?」
「当たり前だ! そもそも、あれは勝負にすらなってねぇ。なぁ、ラアルフィーネさん。神様ってのは、地上では力を制限させられてるんじゃねぇのか?」
「そうよ。神の神気は、生物に影響を与える。良くも悪くもね」
「あれは、力の差でも、技量の差でもねぇ。勝負以前の問題だ。俺は奴の本気を出させなかった。だから生きている。それだけだ」
淡々と答える冬也に、女神ラアルフィーネが深い溜息を吐く。その時だった。彼方から声が聞こえた。
「そうですね。危ない所だった。ともすれば、この大陸全土がタールカールの二の舞となる所でしたね」
「セリュシオネ! 貴女まで何しに来たのよ!」
「ラアルフィーネ。随分なお言葉ですね。私はフィアーナの指示で、そこの子供達を探していたんですよ」
「何故ここがって、聞かなくてもわかるか?」
「そうですよ。これだけ派手に神気が放たれれば。まさか背信の二柱を、人間が倒すとは思いませんでしたが」
更に一柱、神の出現に空と翔一の表情が引き締まる。しかしペスカは、涙を拭い女神セリュシオネに頭を下げる。
「女神セリュシオネ、お久しぶりです」
「頭を上げなさい、ペスカ。それで、そこの君がフィアーナの息子かな?」
「そう言うあんたは誰だよ!」
「確か冬也君だったね。君はもう少し、礼儀を学ぶべきだね」
冬也は訝し気に女神セリュシオネを睨む。しかし、女神セリュシオネは、冬也の視線を気に留めず辺りを歩き回り、転がる二つの球を拾った。
「ラアルフィーネ。これは、私が回収していきます」
「ちょっと待てよ。それをどうする気だよ?」
女神ラアルフィーネに向いていた視線を、女神セリュシオネは冬也に向ける。
「半神なら、知らないのも仕方ない。これは神格と言う物。神の根幹を成す物だよ。君達が倒した神々は、背信により神格剥奪が決定されている。神格剥奪は、生と死を司る私の役目だ」
「セリュシオネ、ちゃんと神格剥奪するの? まさか、アルキエルを蘇らせる気は無いわよね。あなた達、仲良かったじゃない」
女神ラアルフィーネの言葉に、冬也が殺気立つ。ビリビリとする神気が辺りに広がる。咄嗟に女神ラアルフィーネが庇わなければ、空と翔一は気を失っていただろう。
「おい! それが目的なら、そいつを渡す訳にはいかねぇな」
「駄目! お兄ちゃん!」
「止めんなペスカ! こいつが糞野郎共を復活させられたら、どうすんだ!」
「お兄ちゃん、抑えて! セリュシオネ様を倒したら、生命の輪廻が途絶えちゃう」
女神セリュシオネに近づこうとする冬也を、ペスカが必死に食い止める。深い溜息をついた女神セリュシオネが、女神ラアルフィーネに視線を送った。
「止めて下さい、ラアルフィーネ。貴女の不用意な一言で、子供が殺気立ってます。そもそもアルキエルは、勝手の良い駒ですよ。アルキエルの神格を奪っても、別に戦いの神が生まれます。新たな神を手駒にすれば良いだけです」
「それもそうね。ごめんね~、冬也君。未来の妻に免じてここは抑えて~」
「誰が未来の妻だ! 意味がわかんねぇよ。俺はどいつを、ぶっ飛ばせば良いんだ?」
「お兄ちゃん、落ち着いて。ラアルフィーネ様、お戯れが過ぎますよ」
ペスカは必死に、冬也を宥めて落ち着かせる。女神セリュシオネは、更に深い溜息をついた。
「全く、酷い三文芝居に巻き込まれたものだ。目的を忘れたら、フィアーナに叱られる所です。あぁその前に」
何かを思い出した様に、女神セリュシオネは、懐から虹色に輝く球を取り出す。
「生憎、肉体の再生は叶いませんでしたが、君達と最後の別れ位はさせてあげようと思い、連れて来ました」
女神セリュシオネが呟くと、虹色に輝く球は人の体を成していく。そこには一人の男が立つ。光に溢れ表情は良く見えない。しかしそこに立つのは紛れも無く、失った友人の姿だった。
ペスカと冬也は目頭が熱くなるのを感じる。男はゆっくりとペスカに近づき、膝を突き頭を垂れる。
「ペスカ様。ご命令を守れず、申し訳ありません」
ペスカの瞳からは、滂沱の涙が溢れる。ペスカは言葉を詰まらせ、ただ首を横に振る。
そして、男はゆっくりと頭を上げ立ち上がり、冬也に視線を向ける。
「冬也、見ていたよ。強くなったな」
「シグルド、シグルド、シグルド~!」
冬也から、涙が溢れる。神々との戦いにおいて、冬也は怒りを捨て心を凍らせた。だが、目の前にいる男を前に、熱い涙が溢れる。激情に駆り立てられ、叫び声を上げる。
「神を倒した男が、そんなに泣き喚くものじゃ無いよ」
「それはお前がいたからだ! シグルド、お前はあの糞雑魚に深手を負わせてた。だから、俺達が勝てた。アルキエルにも」
「違うよ冬也。あれは、君達の勝利だよ。よく頑張ったな。それに、ありがとう」
冬也の目から涙が止まらない。シグルドは、冬也の肩を軽く叩く。
「君と出会えた事を誇りに思う。君と友人であった事が私の宝だ、冬也」
「俺もだ。俺もだ。シグルド!」
シグルドは、再びペスカに体を向けて、頭を下げる。
「何も守れませんでした。何も」
「そんな事無い! シグルド、あんたは良くやったよ。良く戦ったよ」
掠れた声で、ペスカは叫ぶ。
「私は、貴女達の様に勇敢で有りたかった。貴女達の様に守れる強さが欲しかった」
ペスカは首を横に振る。
「ねぇシグルド。あんたの様な奴の事を勇者って呼ぶのよ。勇敢な者と書いて勇者」
「ペスカ様……」
「高潔なる勇者シグルド! 此度の任務、誠に大儀で有った!」
「有難きお言葉です。ペスカ様」
肉体を持たぬシグルドに涙は流れない。しかし、シグルドの目には光る物を感じる。晴れやかな笑顔は、やり遂げた男の笑顔その物だった。
やがてシグルドの体が崩れていく。
「どうやら時間の様です。ペスカ様、冬也。後はよろしくお願いします」
「うん、わかってるよ」
「あぁ、任せろ」
シグルドは最後に微笑むと、完全に形を崩し、元の虹色に輝く球になった。
「「シグルドぉぉぉぉぉぉ~!」」
ペスカと冬也の叫び声は、天まで届く様に響き渡る。
「こんなに虹色に輝く魂魄は、なかなか無いんだよ。確かに勇者かもしれないね」
「セリュシオネ様……」
「この魂魄は、私が責任を持って転生させるよ」
「頼むよ。セリュシオネさん」
ペスカと冬也は、涙を拭わずセリュシオネに頭を下げる。
勇敢に散った魂に安らぎを。どうか、その魂に幸運が訪れる事を。
ペスカと冬也は願わずにはいられなかった。
「ペスカ、行こう。俺達は、あいつの分まで世界を救う!」
「うん。お兄ちゃん。行こう!」
ペスカ達は向かう。戦い止まぬラフィスフィア大陸へ。
友の想いを胸に。危機迫る仲間を救いに。
世界を守る為に。