採掘場を出発したキャンピングカーは、どんな悪路も楽々進む。オフロード車も真っ青なその走りを見れば、日本の企業が飛びつくかもしれない。
しかし車両の構造には、魔法と言う未知のテクノロジーが使われている。日本の技術者は、どうしてこれで走るんだと頭を抱えるだろう。
「ペスカちゃん、この車揺れないのは良いんだけど、お尻痛いね」
「材料が揃ったら、クッションを作ってあげるから待ってて」
「パノラマビューは良いけど、落ち着かないね」
「外からは見えないんだから、気にしないの」
「ペスカちゃん、何でこの車動いてるの?」
「もぅ! いちいちうっさい空ちゃん」
「いや、ペスカちゃん。僕も疑問に感じるよ。こんな大型の車両で、おまけに変な大砲積んでるのに、揺れを感じないし、悪路だって簡単に進む。あんな適当なスプリングのサスペンションで、ショックが吸収できる訳ないよ」
「翔一君、グチグチ言うとモテないよ。全部、物理衝撃吸収魔法のおかげだよ。だから、多少の揺れなら吸収するし、横風にも煽られないの」
助手席に座っていたペスカは、背もたれに顎を乗せる様な恰好で、後部座席に座る空と翔一を相手にしていた。
キャンピングカーについては、ペスカ自身が満足できる作品になったと自負している。だからこそ一般人には、そのテクノロジーが理解を超えているのだ。
そして鼻息を荒くしペスカは言葉を続ける。
「そもそも、整った空調。ベッドとトイレとシャワーにキッチンまで付いた、完璧な車に文句言わないでよ」
「ペスカちゃん、一周回ってファンタジーだね」
「空ちゃんに同感だよ」
「あ~、何か馬鹿にしてる~!」
「そんな事無いよ、ペスカちゃん」
「そうだよ。僕は感心してるんだ」
「うっせぇよお前よら! 運転に集中出来ねぇだろ!」
冬也に叱られ、三人は黙り込む。そして、冬也はぶっきら棒に言葉を投げた。
「空ちゃん、けつが痛いならベッドに座ってろ」
「お兄ちゃん、女の子にけつって」
ペスカの額にデコピンが炸裂し、ペスカは助手席から飛び出して、車内をのたうち回った。
このキャンピングカーは、車と呼ぶにはお粗末な作りだが、戦車顔負けの性能だった。
ボディは物理と魔法二つの衝撃吸収魔法により、攻撃を受け付けない。更に、空のオートキャンセルを封じた魔石を配置し、車に結界を施している。
そして、翔一の探知を封じた魔石を利用し、全面のスクリーンにマナの使用を映し出せる様になっている。
上部の二門の魔攻砲は、独立操縦コックによって三百六十度、二門別々の方角へ砲撃が可能となっていた。
実験の結果、結界を施された車は、翔一が数百の炎弾を放っても傷一つ付かなかった。
「まぁ、お兄ちゃんの神剣で、結界が壊されかけたけどね」
ペスカはデコピンの仕返しに、嫌味を言う。冬也は申し訳無さそうに頭を下げ、空と翔一に笑いが起きた。
「そうだお兄ちゃん、そこの魔石を起動させて」
ペスカに従い、運転席近に設置された魔石を起動させる。すると、前方のスクリーンに地図が映し出され、冬也は驚きの声を上げる。
「うぉ。地図が出た! なんだよ、ペスカこれ」
「フフン。ナビだよ! 車と言えばカーナビでしょ!」
「ペスカちゃん、カーナビはTVモニターに映るもので、フロントガラスに映るものでは無いよ」
「翔一、だまっとけって。ペスカはこう言うSFっチックなのが好きなんだ」
「翔一君の探知を応用したオートナビ! 凄いでしょ!」
「ペスカ。すげぇけど、俺は、地図読めねぇぞ」
「そんなおバカなお兄ちゃんの為に、ジャン!」
ペスカが魔石を操作すると、左右のスクリーンに地図が映し出された。
「どうだ、エッヘン! お兄ちゃんが運転してる時は、皆でサポートね!」
「ペスカ。余計な事しねぇで、喋らせれば良いだろ! カーナビって喋るんだろ?」
「喋らせても良いけど、そんなに私の声で案内して欲しいの?」
「やだよ。お前の声だと、道を間違えたら五月蠅く喚きそうだ。どうせなら空ちゃんの、うぐ」
言葉が途切れる程に、ペスカは冬也の脇腹を殴りつけた。そしてペスカは頬を膨らませてそっぽを向く。少し気が咎めたのだろう、冬也は助手席のペスカをチラ見すると、脇腹を抑えて運転を続けた。
平均八十キロの速度で、キャンピングカーは悪路をガンガンと進む。夜は森の中に隠れる様に車を止めて車中泊をする。そして日が昇る頃に、再び出発する。
数日が過ぎ、何度もキャットピープルの集団と遭遇した。しかし集団は、キャンピングカーの速度に追いつけず、戦闘行為には至らなかった。
国境付近の小高い山の頂上付近に差し掛かった所で、ペスカが冬也に車を止める様に指示する。
「なんだよ、ペスカ」
「まあまあ。秘密兵器の出番だよ」
ペスカが一つの魔石を起動させる。すると、車の左スクリーンに映る風景が、どんどんと拡大されていった。冬也を始め翔一と空は、流石に唖然とし口をポカンと開ける。
「遠見の魔法を応用した、望遠機能! そんで、見たかったのはこれ!」
望遠で映し出された風景の一部を、ペスカが指さす。そこには、国境門が映し出されていた。国境門は閉じられ、周囲には武装したキャットピープルが取り囲んでいる。
「なんだありゃ?」
素っ頓狂な声を上げる冬也に、空が続く。
「キャットピープル達が集まってますね」
「空ちゃん、良く見なよ。武装してるんだよ」
ペスカの言う通りに、空はスクリーンを見つめた。国境門を取り囲んだキャットピープル達は、武装し引っ切り無しに何か叫んでいる様に見える。
「ねぇペスカちゃん、反対側の様子は見れないの?」
「この角度からは、無理だね」
ペスカ達のやり取りを察した冬也が、少し車を動かす。国境門の反対では、魚人達が武装して集まっていた。キャトッピープルと同様に、国境門に向かい何か叫んでいる様に見えた。
「なぁペスカ、あれは喧嘩ってレベルじゃなさそうだぞ」
「そうだねお兄ちゃん。やられる前にやっちゃおう!」
「物騒な事言うな、ペスカ!」
「お兄ちゃん、早とちりしないの。空ちゃん、魔攻砲でオートキャンセルいってみよう!」
「馬鹿、大砲撃ったらすげぇ音すんだろ! 聞こえたらどうするんだ?」
「音なんてしないよ。火薬使ってないんだし。それに望遠だから、見えてる風景は十キロ以上先だよ。向こうから見える訳ないじゃん! 馬鹿なのお兄ちゃん?」
「じゃあ帝国の時に、戦車から出た爆音はどう説明すんだ!」
「雰囲気だよ。わざとドカ~ンって音付けたんだよ」
「馬鹿は、お前だペスカ! そう言う事は、先に説明しとけ!」
再びデコピンが炸裂し、ペスカは車内をのたうち回る。その痛みに耐えながら、空に声をかけた。
「と、と、取りあえず、空ちゃん、ごぉ」
「ペスカちゃん、十キロ以上先に魔法が届くの?」
「だ、だいじょ、び」
額を抑えて蹲るペスカに、可哀そうな子を見る様な目で空が問いかける。空は敢えて言わない。多分あのデコピンは、ペスカだから耐えられるのだと。自分がやられたら、頭蓋骨が間違いなく割れる。
空気の読める空は、「あれ痛いんだよね」と呟く翔一にも突っ込みを入れない。工藤先輩は、デコピンを受けたら『エへへって喜びそうだね』とも口に出さない。
空は、黙って魔攻砲の発射管の前に座り、スコープで狙いを定める。マナを魔攻砲にマナを充填させてレバーを引く。
魔攻砲から放たれた光は、十キロ以上先のキャットピープル達の頭上で、拡散し降り注ぐ。オートキャンセルを受けたキャットピープル達は、周辺をキョロキョロと見回している。
「神から精神汚染を掛けられていたら、多分これで解けたはずだね。続いて、魚人側にもご~!」
空は再びスコープで狙いを定め、マナを充填させてから放つ。魔攻砲から放たれた光は、魚人側の頭上で拡散し降り注いだ。キャットピープル同様に、魚人達もキョロキョロと周囲を見回し、落ち着かない様子が見られた。
「お兄ちゃん、どう思う?」
「あれだな、トール達の時と同じ」
ペスカに問われた冬也が、腕を組み答える。そこに翔一が質問を投げかけた。
「冬也、トールって誰だ?」
「そうか、翔一は知らなかったか? トールは、これから向かう大陸に有る、帝国って所の兵士だ。神に洗脳された奴だよ」
「キャットピープル達と同じ様にか?」
「そうだ。洗脳が解けた後は、何が起きた? って感じになるんだ」
「そうすると、キャットピープルだけじゃ無くて、魚人達も洗脳されてるって事か?」
彼等も洗脳されているとなれば、魚人の国へ入っても大陸を渡る情報が入るどころか、狙われる危険性が有る。その事に気が付いた翔一は眉をひそめる。
「もうこの際思い切って、神様を呼び出しちゃう?」
「どう言う事だよ、ペスカ?」
「捕まるなり、何なりして、元凶の神様呼び出して、決着付けるって事だよ」
ペスカの提案に、息を呑む空と翔一。しかし、冬也は満更でもない様子で頷く。
「そうだな。派手にやっちまおう」
「ちょ、ちょっと、簡単に言わないで、冬也さん」
「そ、そうだよ、やるにしても、作戦は慎重に。もう数十キロ南に、ドッグピープルの国との国境沿いがあるし、そっちに行くって手も」
冷静にさせようとする空と翔一に向かって、ペスカはいつに無く真剣な顔つきで答える。
「多分だけど、もう時間が無い気がするんだ。凄く悪い予感ってやつ。だから、直ぐに決着をつけたいんだよ」
「ペスカに賛成だ。俺も嫌な予感がする。大事な物を失っていく嫌な予感だ」
冬也も真剣な眼差しで、ペスカに同意する。空と翔一は、軽くため息をついた。
「あのね、捕まるって言ってもどうするの? あの人達正気に戻ったんじゃ?」
「おぅ! ソウデスネ!」
「誤魔化さないで、ペスカちゃん。工藤先輩、何か良い案有ります?」
「そうだね。国境門にこのまま行って、事情を聞くのはどうかな? 何で国境門に集まってたのか判るだろ? それに神の洗脳が解けたと仮定するなら、彼らは引き返すはずだ。その後、彼らは僕らの情報を広めるはず。その後の反応次第で対応を考えるってどうかな?」
「翔一君、話し長っ!」
「翔一、まどろっこしい!」
翔一の提案に空は頷くが、ペスカと冬也は首を横に振る。
「二人共、急がば回れだよ」
ペスカは嫌々といった雰囲気を隠さず、翔一に答えた。
「仕方ない。国境門で話を聞く所までは、翔一君の提案でいこう。これ以上の手間を増やしたく無いから、事情だけは聞こう」
冬也はペスカの言葉に頷くと、操縦桿を握りキャンピングカーを国境門へ向けて走らせた。
しかし車両の構造には、魔法と言う未知のテクノロジーが使われている。日本の技術者は、どうしてこれで走るんだと頭を抱えるだろう。
「ペスカちゃん、この車揺れないのは良いんだけど、お尻痛いね」
「材料が揃ったら、クッションを作ってあげるから待ってて」
「パノラマビューは良いけど、落ち着かないね」
「外からは見えないんだから、気にしないの」
「ペスカちゃん、何でこの車動いてるの?」
「もぅ! いちいちうっさい空ちゃん」
「いや、ペスカちゃん。僕も疑問に感じるよ。こんな大型の車両で、おまけに変な大砲積んでるのに、揺れを感じないし、悪路だって簡単に進む。あんな適当なスプリングのサスペンションで、ショックが吸収できる訳ないよ」
「翔一君、グチグチ言うとモテないよ。全部、物理衝撃吸収魔法のおかげだよ。だから、多少の揺れなら吸収するし、横風にも煽られないの」
助手席に座っていたペスカは、背もたれに顎を乗せる様な恰好で、後部座席に座る空と翔一を相手にしていた。
キャンピングカーについては、ペスカ自身が満足できる作品になったと自負している。だからこそ一般人には、そのテクノロジーが理解を超えているのだ。
そして鼻息を荒くしペスカは言葉を続ける。
「そもそも、整った空調。ベッドとトイレとシャワーにキッチンまで付いた、完璧な車に文句言わないでよ」
「ペスカちゃん、一周回ってファンタジーだね」
「空ちゃんに同感だよ」
「あ~、何か馬鹿にしてる~!」
「そんな事無いよ、ペスカちゃん」
「そうだよ。僕は感心してるんだ」
「うっせぇよお前よら! 運転に集中出来ねぇだろ!」
冬也に叱られ、三人は黙り込む。そして、冬也はぶっきら棒に言葉を投げた。
「空ちゃん、けつが痛いならベッドに座ってろ」
「お兄ちゃん、女の子にけつって」
ペスカの額にデコピンが炸裂し、ペスカは助手席から飛び出して、車内をのたうち回った。
このキャンピングカーは、車と呼ぶにはお粗末な作りだが、戦車顔負けの性能だった。
ボディは物理と魔法二つの衝撃吸収魔法により、攻撃を受け付けない。更に、空のオートキャンセルを封じた魔石を配置し、車に結界を施している。
そして、翔一の探知を封じた魔石を利用し、全面のスクリーンにマナの使用を映し出せる様になっている。
上部の二門の魔攻砲は、独立操縦コックによって三百六十度、二門別々の方角へ砲撃が可能となっていた。
実験の結果、結界を施された車は、翔一が数百の炎弾を放っても傷一つ付かなかった。
「まぁ、お兄ちゃんの神剣で、結界が壊されかけたけどね」
ペスカはデコピンの仕返しに、嫌味を言う。冬也は申し訳無さそうに頭を下げ、空と翔一に笑いが起きた。
「そうだお兄ちゃん、そこの魔石を起動させて」
ペスカに従い、運転席近に設置された魔石を起動させる。すると、前方のスクリーンに地図が映し出され、冬也は驚きの声を上げる。
「うぉ。地図が出た! なんだよ、ペスカこれ」
「フフン。ナビだよ! 車と言えばカーナビでしょ!」
「ペスカちゃん、カーナビはTVモニターに映るもので、フロントガラスに映るものでは無いよ」
「翔一、だまっとけって。ペスカはこう言うSFっチックなのが好きなんだ」
「翔一君の探知を応用したオートナビ! 凄いでしょ!」
「ペスカ。すげぇけど、俺は、地図読めねぇぞ」
「そんなおバカなお兄ちゃんの為に、ジャン!」
ペスカが魔石を操作すると、左右のスクリーンに地図が映し出された。
「どうだ、エッヘン! お兄ちゃんが運転してる時は、皆でサポートね!」
「ペスカ。余計な事しねぇで、喋らせれば良いだろ! カーナビって喋るんだろ?」
「喋らせても良いけど、そんなに私の声で案内して欲しいの?」
「やだよ。お前の声だと、道を間違えたら五月蠅く喚きそうだ。どうせなら空ちゃんの、うぐ」
言葉が途切れる程に、ペスカは冬也の脇腹を殴りつけた。そしてペスカは頬を膨らませてそっぽを向く。少し気が咎めたのだろう、冬也は助手席のペスカをチラ見すると、脇腹を抑えて運転を続けた。
平均八十キロの速度で、キャンピングカーは悪路をガンガンと進む。夜は森の中に隠れる様に車を止めて車中泊をする。そして日が昇る頃に、再び出発する。
数日が過ぎ、何度もキャットピープルの集団と遭遇した。しかし集団は、キャンピングカーの速度に追いつけず、戦闘行為には至らなかった。
国境付近の小高い山の頂上付近に差し掛かった所で、ペスカが冬也に車を止める様に指示する。
「なんだよ、ペスカ」
「まあまあ。秘密兵器の出番だよ」
ペスカが一つの魔石を起動させる。すると、車の左スクリーンに映る風景が、どんどんと拡大されていった。冬也を始め翔一と空は、流石に唖然とし口をポカンと開ける。
「遠見の魔法を応用した、望遠機能! そんで、見たかったのはこれ!」
望遠で映し出された風景の一部を、ペスカが指さす。そこには、国境門が映し出されていた。国境門は閉じられ、周囲には武装したキャットピープルが取り囲んでいる。
「なんだありゃ?」
素っ頓狂な声を上げる冬也に、空が続く。
「キャットピープル達が集まってますね」
「空ちゃん、良く見なよ。武装してるんだよ」
ペスカの言う通りに、空はスクリーンを見つめた。国境門を取り囲んだキャットピープル達は、武装し引っ切り無しに何か叫んでいる様に見える。
「ねぇペスカちゃん、反対側の様子は見れないの?」
「この角度からは、無理だね」
ペスカ達のやり取りを察した冬也が、少し車を動かす。国境門の反対では、魚人達が武装して集まっていた。キャトッピープルと同様に、国境門に向かい何か叫んでいる様に見えた。
「なぁペスカ、あれは喧嘩ってレベルじゃなさそうだぞ」
「そうだねお兄ちゃん。やられる前にやっちゃおう!」
「物騒な事言うな、ペスカ!」
「お兄ちゃん、早とちりしないの。空ちゃん、魔攻砲でオートキャンセルいってみよう!」
「馬鹿、大砲撃ったらすげぇ音すんだろ! 聞こえたらどうするんだ?」
「音なんてしないよ。火薬使ってないんだし。それに望遠だから、見えてる風景は十キロ以上先だよ。向こうから見える訳ないじゃん! 馬鹿なのお兄ちゃん?」
「じゃあ帝国の時に、戦車から出た爆音はどう説明すんだ!」
「雰囲気だよ。わざとドカ~ンって音付けたんだよ」
「馬鹿は、お前だペスカ! そう言う事は、先に説明しとけ!」
再びデコピンが炸裂し、ペスカは車内をのたうち回る。その痛みに耐えながら、空に声をかけた。
「と、と、取りあえず、空ちゃん、ごぉ」
「ペスカちゃん、十キロ以上先に魔法が届くの?」
「だ、だいじょ、び」
額を抑えて蹲るペスカに、可哀そうな子を見る様な目で空が問いかける。空は敢えて言わない。多分あのデコピンは、ペスカだから耐えられるのだと。自分がやられたら、頭蓋骨が間違いなく割れる。
空気の読める空は、「あれ痛いんだよね」と呟く翔一にも突っ込みを入れない。工藤先輩は、デコピンを受けたら『エへへって喜びそうだね』とも口に出さない。
空は、黙って魔攻砲の発射管の前に座り、スコープで狙いを定める。マナを魔攻砲にマナを充填させてレバーを引く。
魔攻砲から放たれた光は、十キロ以上先のキャットピープル達の頭上で、拡散し降り注ぐ。オートキャンセルを受けたキャットピープル達は、周辺をキョロキョロと見回している。
「神から精神汚染を掛けられていたら、多分これで解けたはずだね。続いて、魚人側にもご~!」
空は再びスコープで狙いを定め、マナを充填させてから放つ。魔攻砲から放たれた光は、魚人側の頭上で拡散し降り注いだ。キャットピープル同様に、魚人達もキョロキョロと周囲を見回し、落ち着かない様子が見られた。
「お兄ちゃん、どう思う?」
「あれだな、トール達の時と同じ」
ペスカに問われた冬也が、腕を組み答える。そこに翔一が質問を投げかけた。
「冬也、トールって誰だ?」
「そうか、翔一は知らなかったか? トールは、これから向かう大陸に有る、帝国って所の兵士だ。神に洗脳された奴だよ」
「キャットピープル達と同じ様にか?」
「そうだ。洗脳が解けた後は、何が起きた? って感じになるんだ」
「そうすると、キャットピープルだけじゃ無くて、魚人達も洗脳されてるって事か?」
彼等も洗脳されているとなれば、魚人の国へ入っても大陸を渡る情報が入るどころか、狙われる危険性が有る。その事に気が付いた翔一は眉をひそめる。
「もうこの際思い切って、神様を呼び出しちゃう?」
「どう言う事だよ、ペスカ?」
「捕まるなり、何なりして、元凶の神様呼び出して、決着付けるって事だよ」
ペスカの提案に、息を呑む空と翔一。しかし、冬也は満更でもない様子で頷く。
「そうだな。派手にやっちまおう」
「ちょ、ちょっと、簡単に言わないで、冬也さん」
「そ、そうだよ、やるにしても、作戦は慎重に。もう数十キロ南に、ドッグピープルの国との国境沿いがあるし、そっちに行くって手も」
冷静にさせようとする空と翔一に向かって、ペスカはいつに無く真剣な顔つきで答える。
「多分だけど、もう時間が無い気がするんだ。凄く悪い予感ってやつ。だから、直ぐに決着をつけたいんだよ」
「ペスカに賛成だ。俺も嫌な予感がする。大事な物を失っていく嫌な予感だ」
冬也も真剣な眼差しで、ペスカに同意する。空と翔一は、軽くため息をついた。
「あのね、捕まるって言ってもどうするの? あの人達正気に戻ったんじゃ?」
「おぅ! ソウデスネ!」
「誤魔化さないで、ペスカちゃん。工藤先輩、何か良い案有ります?」
「そうだね。国境門にこのまま行って、事情を聞くのはどうかな? 何で国境門に集まってたのか判るだろ? それに神の洗脳が解けたと仮定するなら、彼らは引き返すはずだ。その後、彼らは僕らの情報を広めるはず。その後の反応次第で対応を考えるってどうかな?」
「翔一君、話し長っ!」
「翔一、まどろっこしい!」
翔一の提案に空は頷くが、ペスカと冬也は首を横に振る。
「二人共、急がば回れだよ」
ペスカは嫌々といった雰囲気を隠さず、翔一に答えた。
「仕方ない。国境門で話を聞く所までは、翔一君の提案でいこう。これ以上の手間を増やしたく無いから、事情だけは聞こう」
冬也はペスカの言葉に頷くと、操縦桿を握りキャンピングカーを国境門へ向けて走らせた。