彼はそのまま言葉を続ける。
「それと、滝沢の気持ちは嬉しかったけど、正直今は、自分の気持ちがよく分からない。
 オレの恋愛対象も女性だから、自分の好きだった人が実は男でした、なんていうのは初めてだし」
「まあ、そうだよな」
 普通はないだろう。
 多分、好きになる前に気づくだろうし。

「あの日さあ、オレもじゅりさんに告白しようとしてたのに、お前に違う意味で先越されてさ。
 気持ちを伝える前に失恋した気分なんだよね」
「うん、ごめん・・・」
 当時はそのことに気づいていなかったけど、結果として彼には本当に申し訳ないことをしたと思っている。

 薔薇の棘は、刺さったらやっぱり痛い。
 たとえそれが造花でも。
 自分だけが痛い思いをすればいいと思っていたけど、そう上手くはいかなくて。
 自分本位の考えでしかなかったと後悔してももう遅い。

「だからさ、滝沢とは、まずは友達からはじめたい。
 男の滝沢のことは、何も知らないから。
 それでもいいか?」

 俺は顔を上げて、彼の顔を見た。
 彼は、普段男友達に見せているような、うっすら自信のにじむ微笑みを俺に向けていた。
 
 気持ち悪いと言って、俺の気持ちを拒絶することもできたはずなのに。
「三宅は優しいな」
 どうしたって涙がこぼれてしまう。
 偽物ではないけれど、彼には朝露に見えていてほしいと願うことは許してほしい。
「滝沢は泣き虫なのか?」
 三宅はイタズラっぽく笑って、持っていたハンカチを俺に差し出しつつ、こうも言った。

「ほら、早くスマホ出して。
 連絡先交換しようぜ、電話番号以外の」
「うん!」
 俺は泣き笑いのまま、制服のズボンのポケットに手を突っ込んだ。