7月に入り、期末テストが近づいていた。
尚樹くんは、テスト勉強をうちのカフェでするようになっていた。
とは言っても、俺も同じ学校の高校生である。
期末テストがあるのも同じなので、テスト期間前は家業の手伝いが免除になるのだ。
うちの家は、主に父さんと母さんがキッチン担当で、姉ちゃんと俺がホール担当になっているが、俺たちのテスト期間の間だけは母さんがホール担当をすることになっていた。
(もともと、姉ちゃんと俺がバイトする前は2人だけで経営していたわけだし)
つまり、テスト期間はカフェで彼に会うことがなくなったのだ。
そのことについては、直接尚樹くんから「最近はカフェで働いていないんですか?」と質問されていたため、俺は仕方なく「テスト時期なんです」と答えた。
彼からは「学生なんですね!」という返事が返ってきて、一体「じゅり」は何歳だと思われていたのか分からなくなったが。
彼に対して複雑な感情を持ち始めていたこともあり、俺としては彼に会わないでいられる時間を少しでも確保できたことで、自分を冷静に振り返って感情の整理ができると考え、むしろほっとしていたくらいだったのだ。
だけど、その自分の考えが甘かったことを思い知らされることになる。
俺は、「じゅり」として自分が優位に立つ時間を失っただけで、彼を追い求める時間だけが増えたことに考えが思い至らなかった。
学校で一方的にこちらだけが尚樹くんを探している。
でも、彼はそれに気づかない。
俺は学校では彼の中でいないものとして扱われる。
その時間だけ積み重なっていくことが、こんなにも自分の精神をじりじりと追い詰めるとは思わなかった。
端的に言おう。
これ以上その状態に耐えられそうになかった。
それはなぜか。
尚樹くんのことをもっと知りたい、もっと話したい、もっとありのままの滝沢柊二である自分のことを知ってほしいという欲望があふれてきてしまっていたから。
これまで、俺自身の恋愛対象は女性だった。
そのことを軽く忘れそうになって、ふとした時にぐっと立ち止まる。
彼は俺と同じ同性の男子だ。
その彼に対してこの欲望をぶつけたくなる感情の名前を、もちろん知っている。
けれど、俺自身がその事実を受け入れられない。
向こうは「じゅり」としての俺しか知らないのに。
彼にこの気持ちが受け入れられる、なんていう現実がありえないことへの絶望感がどっと押し寄せてきて、とてもじゃないけど自分の気持ちを直視することができないでいる。
彼を騙している罪悪感がその根本的な原因であることは重々承知していた。
その罪悪感が、この間にどんどん膨らんでいって、いつ爆発するかも分からないなとも感じていた。
同時に、尚樹くんから無条件に好意を寄せられている「じゅり」に対して、嫉妬心すら芽生えている事実にもまた、自分のことながら困惑を隠しきれないでいる。
尚樹くんは、テスト勉強をうちのカフェでするようになっていた。
とは言っても、俺も同じ学校の高校生である。
期末テストがあるのも同じなので、テスト期間前は家業の手伝いが免除になるのだ。
うちの家は、主に父さんと母さんがキッチン担当で、姉ちゃんと俺がホール担当になっているが、俺たちのテスト期間の間だけは母さんがホール担当をすることになっていた。
(もともと、姉ちゃんと俺がバイトする前は2人だけで経営していたわけだし)
つまり、テスト期間はカフェで彼に会うことがなくなったのだ。
そのことについては、直接尚樹くんから「最近はカフェで働いていないんですか?」と質問されていたため、俺は仕方なく「テスト時期なんです」と答えた。
彼からは「学生なんですね!」という返事が返ってきて、一体「じゅり」は何歳だと思われていたのか分からなくなったが。
彼に対して複雑な感情を持ち始めていたこともあり、俺としては彼に会わないでいられる時間を少しでも確保できたことで、自分を冷静に振り返って感情の整理ができると考え、むしろほっとしていたくらいだったのだ。
だけど、その自分の考えが甘かったことを思い知らされることになる。
俺は、「じゅり」として自分が優位に立つ時間を失っただけで、彼を追い求める時間だけが増えたことに考えが思い至らなかった。
学校で一方的にこちらだけが尚樹くんを探している。
でも、彼はそれに気づかない。
俺は学校では彼の中でいないものとして扱われる。
その時間だけ積み重なっていくことが、こんなにも自分の精神をじりじりと追い詰めるとは思わなかった。
端的に言おう。
これ以上その状態に耐えられそうになかった。
それはなぜか。
尚樹くんのことをもっと知りたい、もっと話したい、もっとありのままの滝沢柊二である自分のことを知ってほしいという欲望があふれてきてしまっていたから。
これまで、俺自身の恋愛対象は女性だった。
そのことを軽く忘れそうになって、ふとした時にぐっと立ち止まる。
彼は俺と同じ同性の男子だ。
その彼に対してこの欲望をぶつけたくなる感情の名前を、もちろん知っている。
けれど、俺自身がその事実を受け入れられない。
向こうは「じゅり」としての俺しか知らないのに。
彼にこの気持ちが受け入れられる、なんていう現実がありえないことへの絶望感がどっと押し寄せてきて、とてもじゃないけど自分の気持ちを直視することができないでいる。
彼を騙している罪悪感がその根本的な原因であることは重々承知していた。
その罪悪感が、この間にどんどん膨らんでいって、いつ爆発するかも分からないなとも感じていた。
同時に、尚樹くんから無条件に好意を寄せられている「じゅり」に対して、嫉妬心すら芽生えている事実にもまた、自分のことながら困惑を隠しきれないでいる。