アニメツイートも順調に日課となり、少しずつ「いいね」も貰え始めた。
フォローもフォロワーも少ないけど、反応があると嬉しいね。
少しの満足感と、最近感じる違和感と共に、自転車を駐輪場に停め、塾への階段を登る。教室へ入り自席の隣をチラッと確認すると、感じてる違和感の元凶は既に座っていた。
「……最近、イラついてない?」
今日も視線を合わさず、隣のイケメンに声をかけた。
「……よく見てんな」
少し驚いたかのように、川崎くんはこちらを見る。まぁ、私はそっちを見ないけど。恥ずかしいし、人見知りだし。
あれから、学校では表面上はいつものさわやかイケメンなんだけど、所々に出る毒が表面化してる。その毒が私への対応と同じものになり、それが顕著になってきていた。
余程あの女子が私みたいに見下され始めたのかと思ったけど、他の人たちへの対応でも毒が出始めていた。これは家庭環境の不満がいよいよ切羽詰まったものなのかと思い始めた。
「まぁ、別に興味は無いんだけど」
「ハハ……だろうな」
軽口を叩きあうが、お互い本音。マスゴミのように面白おかしくネタとして見たいのか、コンサルのように問題を解決どころか混乱させようとか、そういうのではない。興味も無い。ただの世間話の一つ。
川崎くんは俯くと盛大に溜め息を吐いて、のんびりとした口調で話し出す。
「生きるのが面倒になってな……って言っても別に自殺とかしたい訳じゃない。なんつーか、何でこんな面倒ばかりなんだっていう」
「……」
「ただ生きてるだけなのに、何故もっと楽になれないのかなっていう憤り? みたいな?」
直接的に母親がどうとか、父親がどうとか、環境がどうとか、そういう発言ではなかった。そのような具体的な一つ一つは取るに足らず。だがそれらが積み重なることで、もっと大きな問題へと昇華しているのかもしれない。
何故そこまで言われなきゃいけないのか、未来は本当に暗いのか、頑張り続けないと生きられないのか、他人の目を気にしてずっと牢獄に囚われなければならないのか。
なので、親が干渉を止めれば、あるいは、親が過度な期待をしなければ、と、最初の問題のそれらを解決しても根本的な問題は解決できなくなった。
「じゃあ、逃げたら?」
だから、あくまで私を例えにアドバイスをしてみる。
「……え? 逃げらないじゃん」
「ん? だって今も逃げてんじゃん」
私はいつも退路を確保する。それは自分を守る言い訳だったり、自分を保つための相手との距離だったり、内容は様々だ。
でも、それが悪いことなんて思わない。何故逃げちゃ駄目なんだ? 何故戦わなきゃいけないんだ? でも"逃げちゃ駄目な場面"くらい知っている。でもそれは"逃げるために戦う場面"だからだ。戦うことを肯定するな。逃げることを肯定しろ。みんなそんなものだろう? 逃げ道を確保しないと潰れるだろう? 逃げてることを自覚しないために戦ってるだろう? だから戦うんだろう?
私は何も言わない。何も告げない。こんなクソみたいな考えは伝えない。これ以上は面倒だし、授業も始まる。
「……」
何かを考える川崎くんは黙ったまま俯いた。
いつものように、講師の声とシャープペンの反響が教室内で輪唱する。今日も時間の経過と共にお互いの意識はゼロ地点へ回帰する。関係性は進まない。
――はずだったが、今日はちょっと違った。
授業が終わり、いつもならそのまま挨拶もせず、目も合わさず帰るんだけど、川崎くんがこちらを向いて軽い調子で告げた。
「実はさ、俺……サッカー、すっげー嫌いなんだよ」
本気で嫌そうな顔をするサッカー部エースの発言を聞いて、私は笑いが堪えなくなり、口を抑えてその場をすぐ離れた。
え? 何あれ? どんなカミングアウト!? 何故私にそれを言うの?
駐輪場まで一気駆け下り、自転車に跨ぐ。ペダルを漕ぎながら彼のカミングアウトに、思い出し笑いをしてしまう。
「陰キャの私に、卑屈な内容で合わせてくれた?」
「自虐的に自分も見下したくなった?」
カミングアウトの理由をいろいろ考えてみるものの、どれもしっくりいかなかった。
まぁ面白かったからいいけども。
フォローもフォロワーも少ないけど、反応があると嬉しいね。
少しの満足感と、最近感じる違和感と共に、自転車を駐輪場に停め、塾への階段を登る。教室へ入り自席の隣をチラッと確認すると、感じてる違和感の元凶は既に座っていた。
「……最近、イラついてない?」
今日も視線を合わさず、隣のイケメンに声をかけた。
「……よく見てんな」
少し驚いたかのように、川崎くんはこちらを見る。まぁ、私はそっちを見ないけど。恥ずかしいし、人見知りだし。
あれから、学校では表面上はいつものさわやかイケメンなんだけど、所々に出る毒が表面化してる。その毒が私への対応と同じものになり、それが顕著になってきていた。
余程あの女子が私みたいに見下され始めたのかと思ったけど、他の人たちへの対応でも毒が出始めていた。これは家庭環境の不満がいよいよ切羽詰まったものなのかと思い始めた。
「まぁ、別に興味は無いんだけど」
「ハハ……だろうな」
軽口を叩きあうが、お互い本音。マスゴミのように面白おかしくネタとして見たいのか、コンサルのように問題を解決どころか混乱させようとか、そういうのではない。興味も無い。ただの世間話の一つ。
川崎くんは俯くと盛大に溜め息を吐いて、のんびりとした口調で話し出す。
「生きるのが面倒になってな……って言っても別に自殺とかしたい訳じゃない。なんつーか、何でこんな面倒ばかりなんだっていう」
「……」
「ただ生きてるだけなのに、何故もっと楽になれないのかなっていう憤り? みたいな?」
直接的に母親がどうとか、父親がどうとか、環境がどうとか、そういう発言ではなかった。そのような具体的な一つ一つは取るに足らず。だがそれらが積み重なることで、もっと大きな問題へと昇華しているのかもしれない。
何故そこまで言われなきゃいけないのか、未来は本当に暗いのか、頑張り続けないと生きられないのか、他人の目を気にしてずっと牢獄に囚われなければならないのか。
なので、親が干渉を止めれば、あるいは、親が過度な期待をしなければ、と、最初の問題のそれらを解決しても根本的な問題は解決できなくなった。
「じゃあ、逃げたら?」
だから、あくまで私を例えにアドバイスをしてみる。
「……え? 逃げらないじゃん」
「ん? だって今も逃げてんじゃん」
私はいつも退路を確保する。それは自分を守る言い訳だったり、自分を保つための相手との距離だったり、内容は様々だ。
でも、それが悪いことなんて思わない。何故逃げちゃ駄目なんだ? 何故戦わなきゃいけないんだ? でも"逃げちゃ駄目な場面"くらい知っている。でもそれは"逃げるために戦う場面"だからだ。戦うことを肯定するな。逃げることを肯定しろ。みんなそんなものだろう? 逃げ道を確保しないと潰れるだろう? 逃げてることを自覚しないために戦ってるだろう? だから戦うんだろう?
私は何も言わない。何も告げない。こんなクソみたいな考えは伝えない。これ以上は面倒だし、授業も始まる。
「……」
何かを考える川崎くんは黙ったまま俯いた。
いつものように、講師の声とシャープペンの反響が教室内で輪唱する。今日も時間の経過と共にお互いの意識はゼロ地点へ回帰する。関係性は進まない。
――はずだったが、今日はちょっと違った。
授業が終わり、いつもならそのまま挨拶もせず、目も合わさず帰るんだけど、川崎くんがこちらを向いて軽い調子で告げた。
「実はさ、俺……サッカー、すっげー嫌いなんだよ」
本気で嫌そうな顔をするサッカー部エースの発言を聞いて、私は笑いが堪えなくなり、口を抑えてその場をすぐ離れた。
え? 何あれ? どんなカミングアウト!? 何故私にそれを言うの?
駐輪場まで一気駆け下り、自転車に跨ぐ。ペダルを漕ぎながら彼のカミングアウトに、思い出し笑いをしてしまう。
「陰キャの私に、卑屈な内容で合わせてくれた?」
「自虐的に自分も見下したくなった?」
カミングアウトの理由をいろいろ考えてみるものの、どれもしっくりいかなかった。
まぁ面白かったからいいけども。