「ふわぁぁ……」
翌日の昼休み。母親に作ってもらった弁当を自席でつつく。
昨日はゲームもやってない、アニメも見てない。なのにこんなに眠いのは弟のせいだ。
「……神宮寺くんは寝不足とかならないの?」
隣の席で文庫本を読みながらサンドウィッチを食べている人見知りに向けて声をかける。
「……俺は……そこまで……」
「そっか、そうなんだ……」
「……」
「……」
――以上。
まぁ、私たちの会話って基本的にこんな感じで、キャッチボールが続かない居心地の良さだ。
さて、自販機でコーヒーでも買って来よう。このままだと午後の授業で爆睡してしまう。
私は食べ終わった弁当を仕舞うと、財布を持って立ち上がる。
廊下へ出ると、他クラスの女子と話す川崎くんがいた。相変わらずモテるんだよね。
「ごめんな、その日は予定が入ってるんだよ」
「えー、いいじゃん! 本当にダメなの!?」
「いや、悪ぃ悪ぃ。その次の週なら開いてっからさ」
「そうなんだ……うーん、その週は難しいんだよねぇ……」
廊下を歩き、背後でのやり取りが聞こえてくる。
デートの誘いを断れるだけの胆力があって羨ましい。もし誰かに誘われたりしたら、全身が固まって、何もしゃべれなくなると思う。まぁ誘われることなんてないだろうけどね。
それにしても、いつもより対応がおざなりに感じた。まるで私に対する口調みたい。私と同じように"見下し"始めたのかな?
それ以前に、この前も母親のことで愚痴ってたし、溜まってるものもありそうだけど……
階段で一階に降り、体育館横の自販機へと向かう。学食の方が種類も豊富だが、目的はブラックコーヒーだけなので、近いこちらを選択した。
――ん? 先客がいる。
あれは谷川くんだ。一人でいると静かなんだよね。
谷川くんはスポーツドリンクを買って、体育館の方へ向かう。私は目線で見送った後、自販機でブラックコーヒーを購入した。ブラックコーヒーの種類は一つしかないので選ぶ必要がなく楽で良い。
冷たいアルミ缶を手に取った後、私は体育館横から教室へ戻るため、一階渡り廊下を歩く。
「あ……」
小さい声に気付き、そちらへ視線を投げると、白石さんが校舎の横から歩いて来るところだった。その百メートルくらい後ろには、見慣れない男子生徒が歩いてくる。その互いの表情を見るに「また告白されて振ったんだ」とおおよその当たりを付ける。
それにしても昼休みとか、せめて放課後にしてほしい。まぁ白石さんは速攻で帰るから、仕方ないかも知れないけど。さて、私は巻き込まれてはゴメンだと、さっさと視線を元に戻し教室へ急いだ。
「ふぅ……」
溜め息と共に椅子に座り、そのまま背もたれに背中を預ける。
「視線の中に知ってる誰かが入ってくると疲れるな……」
私の独り言に隣人がこちらを見ると、何度も同意の頷きをする。相変わらず視線は外れてるけども。
そして放課後となり、ようやく帰れる! と思ったところで委員長が全員に召集をかけた。
今月下旬に開催される総体についてだ。
「ごめんな、みんな時間を取らせて」
そう発言する委員長は我らが川崎くんだった。
さわやかイケメンスマイル(語彙力)にそう言われちゃ、もう何も言えないよね。
私はいつもの陰キャ如く、下を向いて軽く聞いてるスタイル。
「総体の参加や応援について、みんなどこへ行くかまとめてと頼まれたんだ」
各種会場を黒板に記載する副委員長の誰か。
それを見たクラスメイトは、何処へ行こう、行きたくない、などなど騒がしくなる。
川崎くんは一言一言を丁寧に、そして絶妙な声量を強弱させることで、群衆を惹きつけ、ある程度決まっていた結果へ各自を誘導する。
部活に入ってる人はそもそもその場所へ参加するし、そうじゃない人は家の近くや友達と一緒に行く場所になるし、ある程度予想が付くのかも知れない。川崎くんは正しく臨機応変に場を収めていく。
「じゃあ、これでいいか」
川崎くんは皆にそう告げると、クラス全員が賛同し、さらに意気込みを強くしてテンションを上げていく。
「ありがとう! これで解散でいいよ!」
笑顔で、明るく、皆に元気よく手を振った。昼時の"ちょっとした口調"は鳴りを潜め、自信に溢れた、塾で見せる私への対応とは全く異なるいつもの紳士の川崎くんだった。
私は身の程を良く知っている。だから見下されようが、雑な扱いを受けようが、逆にそれが心地良い。無駄な期待、無駄な人間関係、無駄な感情、無駄な時間。それらを一切抱えることがないのだから。
私が他人に興味を持たず、雑に扱っているのがそのまま自分へと向かう。だから私は止められない。雑に扱うのも、興味を持てないのも、均一化するのも。そして、放課後の臨時ホームルームは解散となった。
「……授業の一環だから出なきゃいけないってのが面倒だよね」
隣の帰宅部図書委員にそう言うと、激しく首を上下に振り、同意を示していた。
翌日の昼休み。母親に作ってもらった弁当を自席でつつく。
昨日はゲームもやってない、アニメも見てない。なのにこんなに眠いのは弟のせいだ。
「……神宮寺くんは寝不足とかならないの?」
隣の席で文庫本を読みながらサンドウィッチを食べている人見知りに向けて声をかける。
「……俺は……そこまで……」
「そっか、そうなんだ……」
「……」
「……」
――以上。
まぁ、私たちの会話って基本的にこんな感じで、キャッチボールが続かない居心地の良さだ。
さて、自販機でコーヒーでも買って来よう。このままだと午後の授業で爆睡してしまう。
私は食べ終わった弁当を仕舞うと、財布を持って立ち上がる。
廊下へ出ると、他クラスの女子と話す川崎くんがいた。相変わらずモテるんだよね。
「ごめんな、その日は予定が入ってるんだよ」
「えー、いいじゃん! 本当にダメなの!?」
「いや、悪ぃ悪ぃ。その次の週なら開いてっからさ」
「そうなんだ……うーん、その週は難しいんだよねぇ……」
廊下を歩き、背後でのやり取りが聞こえてくる。
デートの誘いを断れるだけの胆力があって羨ましい。もし誰かに誘われたりしたら、全身が固まって、何もしゃべれなくなると思う。まぁ誘われることなんてないだろうけどね。
それにしても、いつもより対応がおざなりに感じた。まるで私に対する口調みたい。私と同じように"見下し"始めたのかな?
それ以前に、この前も母親のことで愚痴ってたし、溜まってるものもありそうだけど……
階段で一階に降り、体育館横の自販機へと向かう。学食の方が種類も豊富だが、目的はブラックコーヒーだけなので、近いこちらを選択した。
――ん? 先客がいる。
あれは谷川くんだ。一人でいると静かなんだよね。
谷川くんはスポーツドリンクを買って、体育館の方へ向かう。私は目線で見送った後、自販機でブラックコーヒーを購入した。ブラックコーヒーの種類は一つしかないので選ぶ必要がなく楽で良い。
冷たいアルミ缶を手に取った後、私は体育館横から教室へ戻るため、一階渡り廊下を歩く。
「あ……」
小さい声に気付き、そちらへ視線を投げると、白石さんが校舎の横から歩いて来るところだった。その百メートルくらい後ろには、見慣れない男子生徒が歩いてくる。その互いの表情を見るに「また告白されて振ったんだ」とおおよその当たりを付ける。
それにしても昼休みとか、せめて放課後にしてほしい。まぁ白石さんは速攻で帰るから、仕方ないかも知れないけど。さて、私は巻き込まれてはゴメンだと、さっさと視線を元に戻し教室へ急いだ。
「ふぅ……」
溜め息と共に椅子に座り、そのまま背もたれに背中を預ける。
「視線の中に知ってる誰かが入ってくると疲れるな……」
私の独り言に隣人がこちらを見ると、何度も同意の頷きをする。相変わらず視線は外れてるけども。
そして放課後となり、ようやく帰れる! と思ったところで委員長が全員に召集をかけた。
今月下旬に開催される総体についてだ。
「ごめんな、みんな時間を取らせて」
そう発言する委員長は我らが川崎くんだった。
さわやかイケメンスマイル(語彙力)にそう言われちゃ、もう何も言えないよね。
私はいつもの陰キャ如く、下を向いて軽く聞いてるスタイル。
「総体の参加や応援について、みんなどこへ行くかまとめてと頼まれたんだ」
各種会場を黒板に記載する副委員長の誰か。
それを見たクラスメイトは、何処へ行こう、行きたくない、などなど騒がしくなる。
川崎くんは一言一言を丁寧に、そして絶妙な声量を強弱させることで、群衆を惹きつけ、ある程度決まっていた結果へ各自を誘導する。
部活に入ってる人はそもそもその場所へ参加するし、そうじゃない人は家の近くや友達と一緒に行く場所になるし、ある程度予想が付くのかも知れない。川崎くんは正しく臨機応変に場を収めていく。
「じゃあ、これでいいか」
川崎くんは皆にそう告げると、クラス全員が賛同し、さらに意気込みを強くしてテンションを上げていく。
「ありがとう! これで解散でいいよ!」
笑顔で、明るく、皆に元気よく手を振った。昼時の"ちょっとした口調"は鳴りを潜め、自信に溢れた、塾で見せる私への対応とは全く異なるいつもの紳士の川崎くんだった。
私は身の程を良く知っている。だから見下されようが、雑な扱いを受けようが、逆にそれが心地良い。無駄な期待、無駄な人間関係、無駄な感情、無駄な時間。それらを一切抱えることがないのだから。
私が他人に興味を持たず、雑に扱っているのがそのまま自分へと向かう。だから私は止められない。雑に扱うのも、興味を持てないのも、均一化するのも。そして、放課後の臨時ホームルームは解散となった。
「……授業の一環だから出なきゃいけないってのが面倒だよね」
隣の帰宅部図書委員にそう言うと、激しく首を上下に振り、同意を示していた。