「ただいま」
 玄関を開け、リビングへ向かう。
「お疲れー」
 ビールを片手にドラマを見ている母親が応え、その隣で宿題をしている弟は顔を上げた。
 ここ最近見かけないもう一人の親の行方を、弟に尋ねてみる。
「……父さんはまだ帰ってないの?」
「今日も遅いらしいよ。社畜だから」
 そう答えると、弟は宿題を再開する。
「社畜……」
 嫌だね、私はそうなりたくな……って、私はどこへ向かうんだろうなぁ。この変化の乏しい清流に漂ってると、誰もがそこへ向かう気がする。
「あ、姉さん、宿題終わるまで待っててよ」
「……何が?」
「昨日言ったじゃん。アニメの感想」
「あれ本気だったの?」
「本気だよ」
「……分かった。じゃあ頼もうかな」
 せっかくのお誘いだし。思春期で反抗期な弟のご厚意を無下にする程の愚姉ではない。
「お、仲いいじゃん」
 すると、ドラマがCMに入ったのを見計らい、茶化すように入ってくるのは社畜ではない親。
「まぁね。ラブラブだから」
 私は適当にあしらって、弟の宿題を終わるのを待つ。
 ラブラブの発言に、弟は一瞬動きを止めたが、何でもないように宿題を再開した。
「……」
 何だろう、この無駄な時間。先にお風呂にでも……いや、せっかく昨日作ったツイッターアカウントがあるし、アニメの感想とか見てみようかな。丁度、昨日で最新話まで見てるから、ネタバレされてても平気だし。
「どれどれ……ん?」
 結構、実況盛り上がってるんだ。いいな、楽しそう。私もリアルタイムで話してみようかな。まぁ、フォロワーいないんだけども。
 お、このアカウント、分かってるじゃん! そうそう、ただ悪くなるんじゃなくてセクシーになってるのがいいんだよね。そして、そのギャップが笑えるんだ。
 よし、フォローしちゃおう。
 私は他にも同じようなアニメファンを片っ端にフォローしていく。
 やっばい。楽しくなりそう。
「終わったよ、姉さん」
「お、じゃあ、海の部屋にでも行こう」
「えっ、それはちょっと嫌なんだけど」
「どうして? 別にエロ本漁ったり、パソコンの履歴を見たりしないよ?」
「……その発想、本当にやりそうで引くんだけど……」
「もう、分かったよ。じゃあ私の部屋でいいかな……ここにいるとドラマに集中してる母さんから苦情が来るから」
「そうだね」
 何故か嬉しそうな弟を伴って、自分の部屋に向かう。
 そして、小一時間ほどアニメの熱を語ったが、別にアニオタじゃない弟は「ふーん」「へー」しか繰り返さないので私の熱も冷め、挙句の果てにベッドに座った弟によって、布団をぐちゃぐちゃにされる始末。
 うん、やはりツイッターで呟くのが良さそうだね。