「ねっむ……だっる……」
 私はそう言いながら教室へと入っていった。結局あの後、ツイッターアカウント作ってしまった。何をどうやるのか全く決めてないけど、とりあえず作ってみるだけ作ってみた。
「な、春樹。今日の帰りゲーセンでも行かね? 部活休みじゃん?」
 自分の席に座って、スマホをポチポチしてると、ハイテンションな声が聞こえてきた。
「悪い。今日は塾なんだよ」
「おぉ、さっすが春樹。試験受けないと入れない塾だろ? やべぇな、やる気じゃん!」
 何がヤバくて何をやるのか問い詰めたいけど、そうか……今日、川崎くんは塾か……
「何……してるの?」
「ん?」
 すると、私の隣の席に座る神宮司くんから声をかけられた。珍しい……神宮司くんが話しかけてくるなんて。私は学校でスマホはあまりいじらないから、気になったのかもしれない。
 彼は冴という名前に神宮寺という名字を持つクラスメイト。その名字と名前の威厳さは乙女ゲーで攻略キャラをやるか、当て馬ポジションになりそうだけど、残念ながらそのどちらでもない。むしろ真逆で、人見知りで口下手でずっと本を読んでいる物静かな図書委員男子だったりする。
 切れ味の鋭い眼光と、長身で細味だけどしっかりした体格、そして何よりも中性的で綺麗な顔立ちはイケメンでもあるんだけど、人見知りの性格と雰囲気が暗いせいか、あまり人と仲良くやってるところは見たことがない。まぁ、それは私もだけど。
 例外は私くらいで、去年も同じクラスで席が隣。お互いが陰キャ同士ってのもあり、少しずつ仲良くなった感じである。
「神宮司くん……も、アニメ見るんだっけ?」
 こちらを向いて質問する神宮司くんに、静かな口調で答える。でも彼は微妙に視線をずらして目を合わせないようにしているのはさすがだ。分かるよー。私も同類だから、人見知りにとって目を合わせるスキルは難易度が高いよね。
「うん……見る」
「だよね……うん、実は、アニメの共有する相手がいなくて寂しくてね……だからツイッターで投稿するか、または実況するかで悩んでるんだ」
「なる……ほどね」
 そう言いながら神宮寺くんは私をじっと見つめる。いや、見つめてない。視線は外して目を合わせないようにしている。
 それにしても神宮寺くんと会話する時は、私も静かな口調で話をしてしまう。こうやってお互いがボソボソと静かに間を取りながら話すのは、滑稽だなと思う。でも陰キャ同士だしこれが礼儀ってものよね。
「……俺が聞いてあげるよ?」
 しばらくして、彼はポツっと話す。いや、うん。ありがとう。神宮寺くんならそう言ってくれるかなとは思ってた。でも……
「ちなみに、今期は何見てるの?」
「プリキュ○とアイ○ツ」
「……ですよね」
 うん、見事にジャンルが異なるよね、というかそのイケメンで低年齢層向けの作品を見ているギャップが凄い。いやいや大人でも好きな人はいるし、悪い作品じゃないだろうけど、私は見ていない。
「うん、ジャンルが違うから、話は合わないかもって思って」
「……そっか」
 私の指摘に納得顔をする神宮寺くん。だけど残念そうな表情してるなぁ……神宮寺くんも友達がいないから、何かしら話したかったのかも。でもプリキュ○は見てないんだよ。
「私は自己満足的なのもあって、話して誰かに伝えると言うかは、言いたいだけ、ってのもあるかも」
「……じゃあ、ツイッターが最適?」
「ん、そいういうこと」
 更なる本音でコーディングをし、フォローしてるように見せかけると、私はまたスマホに目を向ける。いやぁ、今日は長いこと人と話したなぁと思いながら。