「うっわ……もうこんな時間……」
 リビングで録画してたアニメを見ていると、いつの間にか午前零時を過ぎていた。今期は豊作なので、一話切りはおろか三話切りのアニメも存在しない。このまま全話視聴になりそうだ……
「……姉さん?」
 すると、もう寝たと思っていた弟がリビングに顔を出す。
「ん? 海? まだ起きてたの?」
「いや、煩くて寝れないんだって……二階までキモい笑い声が聞こえてくるんだけど、勘弁して」
「マジで……そんなにキモイんだ……いや、あまりにも面白くてさ、主人公が魔界学校に通ってて、真面目だったのに急に悪落ちして――」
「あ、そういうのはいいから」
「えー、今見たばっかりのアニメの感想を言いたいのに」
「明日、学校で誰かと話せばいいじゃん」
「学校にアニメの感想を言い合えるやつ、いないんだよね……」
「キモオタ同士つるむ相手いないの?」
「キモオタ言うな……いないんだよ……」
「……ふーん」
 そうなんだよ……心当たりはないこともないんだけど、そもそも人と関わるのが面倒だし。それにあの人とは微妙にジャンルが違うんだよね。
「……分かった。じゃあ俺が聞いてあげるよ。でも夜中じゃなくて休みの日とか、平日なら宿題終わった頃とか」
「ん? 弟よ。私にデレた?」
「デレてないけどね……友達いなくて面倒臭いって思っただけだから」
 何気に弟は辛辣なんだよね……反抗期なのかな? でも、せっかくデレてくれたことだし……
「じゃあ頼もうかな……明日以降で適当に時間ある時で喋りたくなった時にしよう」
「適当過ぎない?」
「お礼に、海が見てる映画の感想を私に言ってもいいよ」
「……え? あれ恋愛映画だったんだけど……姉さんは恋愛の機微なんて分からないんじゃ……」
 だから辛辣うっ……でも、何も言い返せないね。
「うん、確かによく分からない気持ちかもね……キスでもすれば分かるようになるのかなぁ」
「……姉さんは恋愛の前に、人に興味を持つべきだよ」
 蔑むジト目は悪くないんだけど、実の弟にやられるとちょっとヘコむ。
「でも、そういう行動を無理やりにでもしない限り、姉さんは人と関われないだろうから……アリなのかな……」
 弟は思案顔で、私を本気で案じてしまった……ってそこまで私は酷いのか?
 と、一瞬だけそう思ったものの、心当たりは山のようにある。そもそも他人は嫌いだし、関わりたくない。
 いや……でも逆に、他人と恋愛やキスなんて、簡単に行えそうな気もする。何故ならその対象に全く興味が無いので、嫌われても蔑まれても罵倒されても、何とも思わないから。
 でも、もしかしたらそれを行うことで――
「――強引にやれば、私も変われるのかな」
「姉さん……そんなの冗談だから止めてね。姉さんが逮捕なんて……警察署まで迎えに行くの嫌だから」
 割とリアリティのある返答だった。そんなやり取りをして、弟は二階に上がって行った。
 アニメの感想かぁ。こういうのは視聴直後で言わないと、興が冷めてから話しても勢いが薄れてしまう。でも可愛い弟の願いだし、時間を見つけて話してやるけども。
 んー。ツイッターで感想をツイートするってのもありなのかな? でもなぁ……私は録画勢だから、間違ってネタバレ見るリスクは避けたいし。録画を止めてリアルタイムにして実況とか? でもリアルタイムかぁ……
 そんなことを考えてると、既に午前一時を過ぎていた。