今日も今日とて自席でボーッとする一日の始まり。
 ナンバリング名だけが売りの学校だが、実はそれなりの進学校でもある。ほぼ全員が大学進学を狙い、国公立を狙う人も多いので、授業中は皆まじめに受けている。
 なので、挙動不審な動作は結構目立つ。私の席が廊下側の最後尾だから見つけやすいってのもあるんだけど、窓際に位置するギャルな佐々木さんは、机の下でスマホをポチポチいじってる。現国の先生はいちいち注意しないだろうから、それを考えて上での行動なんだろうけど。インスタで自撮り上げたりしてるんだろうな。と、外見上の特性をそのままイメージしてしまうことに我ながら短絡的だなと自嘲した。
 休み時間になり、私は席を離れる。廊下側だとトイレに近いから楽で良いね。
「――っと」
 教室から出たところで、川崎くんが他クラスの女子生徒と話していた。危うく突っ込むところだった。
「あ、悪い。ここ出入り口だったな。ちょっとずれようか」
 私の俊敏な動きを見て、川崎くんは謝り、そして女子生徒と共に横へずれる。なんてジェントルな人だ。私はそれに何も応えずさっさとトイレに向かう。他クラスの女子は憤るが、川崎くんが優しく宥めている。そう、彼は誰にでも優しく、謙虚で、紳士である。
 私のような陰キャに対しても、同じように接する。だがそれだけだ。私は必要以上に踏み込まないし、川崎くんも私に対しては必要以上に踏み込まない。まるで、これが正しいクラスメイトの距離感であると相互認識をしているような間柄だ。なんのこっちゃ分からないけど。
 トイレからの帰り。我が教室を覗く他のクラスの男子生徒が多数いた。いや、クラスだけじゃなく学年が違う男子も混じってる。下級生とか……上級生怖くないのかな?
 まぁ、でも見慣れた光景ではあるので、何を見ているかなんて、簡単に想像ができる。黒髪ロング美人の白石さんだ。
 彼女を遊びに誘っても、明るい笑顔で丁寧に断られる。話しかけても、その態度も距離感も全員に対して均一。そこがアイドルっぽいという所以でもある。
 人によって態度が違ったり、男子に向けて思わせぶりな態度なんてしたら、女子から煙たがれるだろう。だが白石さんは誰に対しても同じ距離を保つので、嫌がらせされたり、嫌われたり、というのは無く、逆にあのようにアイドルとして客席から眺められてるという訳だ。ただ、話す分には普通に明るく応えてくれるので、あの客席はさながらトーク会待機列といった感じだろう。
 そんなことを思いながら教室へ戻る。案の定、彼らの視線の先には白石さんがいて、中には会話したことを自慢気に話す人もいた。
 そして、今はギャルな佐々木さんと、チャラな谷川くんと一緒で三人で何かを話していた。
「だろ!? 分かる分かる! それな!」
 さっきから同意の単語しか言ってないし……朝の同意と全く一緒だし。おかしいな。あの陽キャ軍団見てると、うちの学校の偏差値って低いんじゃないかって思ってしまう不思議。
 こんな目立つ四人が同じクラスになったので、学校へ行きたくないオーラが去年よりも増している。学校で絡むことはないから別に良いんだけど、それでも面倒なんだよね。