「さーえちゃん!!今日も来たよ!だーれだ!!」
この人は唯一私が虐待をされていることを相談していた幼馴染、黒崎 翔だ。あのあと翔が両親に私のことを伝えて翔の両親が通報してくれたおかげで私は虐待から解放された。私が倒れて病院に入院した時翔と翔の両親が見舞いに来てくれた。その時の私は急に二人の大人が病室に入ってきたから私は眉間にしわを寄せたが、その後に翔が見えたことで翔の両親だと紐づけることができた。翔の両親はいい人たちだった。私のことを気にかけてくれていたし、失感情症になった時も、フラッシュバックしている時もずっと支えてくれた。私は初めて親というものは、背中をさすってくれたり、大きな体で抱きしめてくれる存在なのだと感じた。
翔は小学校、中学校、高校、大学、会社までずっと一緒だ。こいつがまとわりついてくるのだ。学生時代もずっと私にちょっかいをかけたり、私の体調を聞いてきたりしてくる。何年経ってもこいつは変わらない。長年こんな感じなのでそろそろやめてほしい。

「翔前見えない」
こいつと真面目に受け答えするともっとめんどくさいことになる。
「冴ちゃん今日もかわいいね」
顔を近づけて言ってきた。顔が近い。目が合う。
「はいはい」
こいつも顔が整っているがこんなめんどくさいことをしているので私の中ではいつもマイナス評価だ。
「そういえば冴ちゃんお昼ご飯‥‥ってえ?誰?冴ちゃんこの人誰?」
私の目の前にいる陽斗くんに驚いている。なぜこいつは今まで気づかなかったのか。
「今日入ってきた柊陽斗くん私が教育係になったの」
「初めまして!柊陽斗です!よろしくお願いします!!」
やっぱり陽斗くんは礼儀が正しい。さっきまで椅子に座って私に相談していたのに勢いよく立って床に頭がつくほど深々とお辞儀した。陽斗くんが困惑している。そりゃそうだ。急にこんな身長の高い男の人が私にかわいいとかちょっかいかけているのだから。
「あこの人は黒崎翔私に昔から付きまとっている変なやつで違う部署だけど昼休みにはこっちに来て毎回一緒に食べてるんだよ」
去年まで翔は同じ部署で席も近くいつも視界に入る関係だったが、今年からはいつも私にちょっかいや話しかけているのを上司が見かねたのか違う部署に異動となった。違う部署に行く時に翔は嫌がっていたが私としては好都合だった。仕事の効率は上がるし。だが昼休みや私が帰る時になったらいつも走って私の所へ来る。やめてほしい。不愉快だ。
「冴ちゃんの母親代わりをしている翔ですよろしくね」
母親代わりなどいつからしているのか。こいつはまともに自己紹介もできないのか。
「母親代わり‥?」
そんなこと言ったから陽斗くんが首を傾げている。

「ていうか冴ちゃんお昼ご飯食べた?」
いつも聞いてくる。食事はそんな大事なのだろうか。1回や2回の食事抜きはよくやらされていた。それが当たり前だと思ってた。
「今日はお弁当忘れたから抜きで午後仕事しようと思ってるけど」
「そんなのダメに決まってるでしょ!!」
勢いよく私の体を揺らしながら言った。揺らす強さが強い。目が回ってきた。
「いい冴ちゃん?お昼ご飯取らないと午後倒れちゃうでしょ!!」
私の肩に手を置いて顔を近づけて大きい声で言ってきた。そんな顔を近づけてなくてもその音量なら絶対聞こえるのに。叱られた。なぜ。
「倒れるわけないでしょだってそれが日常だった‥」
しまった。虐待されていたことは翔から他人に言ってはダメだと言われている。なぜかはわからないが。翔も変な顔をしている。
「もう何言ってるの〜冴ちゃんおもしろーい」
翔が誤魔化した。陽斗くんは何も言っていない。朝は晴れだったのに今外を見てみると雲量が多くなっている気がした。