母親との面会はそこで終わった。私は扉を閉めて戻る。なぜ母親があんな風に変わってしまったのか。私には分からなかった。
「冴に謝りたいって言ってたんだずっと前から」
あの人が‥?椅子に座りリラックスしている私に先生が言ってきた。私の前に先生がいて隣に翔と陽斗くんがいる。
「だから会わせてもいいかなって判断したんだけどごめん」
「何に対してのごめんですか?久しぶりに会ったあの人は随分変わってましたけど14年ぶりに家族に会えたので心が明るくなりました」
これは本心だ。結果的には何も変わらなかったのかもしれないけどこれからも会い続ければ‥そういう願いを込めたい。
「あの人は本当に反省してるんだと思うよ、冴に酷いことをしたこともあの日のことも全部、冴がこれからも会いたいというなら先生は全力でサポートするよ」
帰り際にそんな言葉を残した。あの日から今までずっと私を支えてくれたのに。本当に先生は偉大だと思う。

「寒っ‥」
病院の自動ドアが空き、外の風が入ってきた。秋の夜だからか、風が想像以上に冷たかった。
「大丈夫冴ちゃん?はいこれあったかい飲み物」
「いつの間に買ったの」
「外寒いかなと思ってさっき買ってきたばっかりだよ」
「俺の上着どうぞ」
「え‥でも‥」
「大丈夫です俺体温高いので」
そんなことは聞いたことないが。言ってた通り2人はいつまでも隣にいてくれた。私の手が震えていたら手を握ってくれたし、決して私の嫌なことは口に出さなかった。

「2人ともありがとう」

ありがとうとは多分こんな時に言う言葉なのだろう。その時風が吹いて私の小さな声は耳に届かなかったのかもしれないが2人は目を丸くしてこっちを向いた。
「ほら行くよ」
私は何もなかったかのように足を動かした。雲が晴れてきて日差しが強くなった。でも風は冷たい。