「会おうと思います先生お母さんに」
「そっか決断してくれてありがとうね」
「いえ決断できたのは幼馴染と後輩のおかげです」
「素敵な仲間に囲まれてるんだね」
『素敵な仲間』そう言われて顔が緩んでないか心配になる。今日の通院の日に母親と会うと決めた。翔と陽斗くんは約束してくれた通り私についてきてくれた。またひどいことをされたら絶対守ると。

「この部屋だよ」
今までどこに入院しているか知らなかった。私の診察されているところから結構距離があった。ここに来るまで歩き方を一瞬忘れてしまった。
「扉を開けたらお母さんがいるよここまで勇気を出してくれてありがとう冴」
扉を開けたらお母さんがいる。そう思うとこの扉がいっそう大きく感じる。また考えてしまう。やはりこの選択を選んだのは間違いだったのだろうか。
「大丈夫だよ冴ちゃん僕がいるでしょ?僕も一緒に中に入るから」
勝手に手を繋いでいた。今は心が休まる。
「先輩‥」
陽斗くんは眉を下げてこちらをみている。こんな顔を見たのは初めてだ。
大丈夫。私はあの時と違い1人じゃない。大丈夫、大丈夫、大丈夫。

コン、コン、コン
扉を3回叩く。
「失礼します」
扉を開ける。人影があった。窓の外を見ている。横顔だけでもわかった。14年ぶりの家族だと、母親だと。

「誰?もしかして‥冴?」
こちらに気づいたのか昔とは違った目をこちらに向けた。私はこの時間がスローモーションに感じた。
「は、はい」
どう返せば怒られないのか考えた結果がこれだ。昔と違いだいぶ髪が伸びている。所々に白髪がある。顔と手のしわが私の記憶の数と合わない。久しぶりに会ったお母さんの見た目を見ると改めて14年という年数の凄さを感じた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
見た目だけではなく性格も変わったのだろうか。頭をベッドまでつけて謝っている。昔だったら絶対こんなことはされなかった。何に対して謝っているのだろう。虐待のこと?あの日のこと?それとも私に対してじゃないの?死んだあなたの旦那さんに対して?私も情報を処理できなかった。久しぶりに会ったお母さんはこの後も永遠に謝っていた。