「冴ちゃん遅かったね僕もう一曲歌い終わっちゃったよ」
「そう」
翔の目を顔を見れなかった。
「先輩何か具合悪いですか?なんか顔色悪い気がしますけど」
「そんなことないよ」
「冴ちゃんがそういう時は全然大丈夫じゃない時だよ!!具合悪いならもう帰ろう?」
「具合悪いんじゃないよ大丈夫だから」
「じゃあなんでそんなに顔色悪いの何か言われた?そいつ社会的に消すから誰か言って?」
「何も言われてないよ」
こいつの家はお金持ちだから社会的に消すなど簡単にできるのだろう。昔から翔はこういうところがある。
「顔色悪いのは認めるんだね」
「別に言う事じゃないし私の問題だから」
相談する事じゃない。迷惑をかけたらどうしよう。私1人で解決しなきゃいけない。
「それは違います先輩」
ずっと隣で聞いていた陽斗くんが口を開けた。真剣な目で。
「もし何か引っ掛かっているのなら分かり合いたいですし一緒に悩みたいですし解決したいと少なくとも俺は思います」
「そうだよ相談したほうが心が軽くなるかもしれないじゃん冴ちゃん」
なぜか涙が出てきた。顔を見せられない。きっと今の私の顔はひどい。

「私のお母さんが会話できるくらいに回復したらしいだから一度会ってみないって病院の先生から言われた」
「私の中の母親は悪いイメージしかないけど唯一の家族でもあるから心の中でぐるぐるしてる」
また手が震えてきた。止まってほしいと思ってもなかなか止まらないことにイライラする。
「冴ちゃんの好きにしていいと思うけど」
震えてる手に翔が手を乗せてきた。温かい。人の温もりだ。
「僕は冴ちゃんを隣で絶対守るよ今度こそ傷付けない」
「俺も同じ気持ちです」
陽斗くんも静かに手を重ねてきた。2人の言葉が秋の風に対して温かく、私の心を赤子の手で包むように沁みた。
「2人のおかげで答えが決まった」
翔と陽斗くんが隣にいるなら心の中でぐるぐるする必要もない。私が出した結果は自分にとってマイナスになるかもしれない。症状が重くなるかもしれない。でもそれでも今このタイミングで先生が私に母親のことを言ってきたのは何か意味があるのかもしれない。私はいつまでも過去にすがって変われない理由づけにしちゃいけない。変わらないといけない。克服しないといけない。あの頃と決別して。

「私お母さんに14年ぶりに会ってみるよ」