三浦が、病室を出て行った。迷惑なやつだ。
くだらないことをわざわざ僕に伝えてきた。
まぁ、このゼリーをもらえたから一緒に食べればよかったと後悔しているけど。
もう少し、聞きたかったな。
我妻は、一学期に僕をいじめた張本人だ。
何が気に食わなかったのか、徹底的にいじめられた。
この左腕にある丸い傷も彼のダーツバレルを刺された時のもの。
それが、二番目に過激だったかな。
一番は、みんなの前で殴られて黒板の前で横たわった時か。あの時は、その後西崎が止めたことで恥をかいたわけだ。
彼女にも迷惑かけたし。
そんな彼女は、今、窓の外の景色を見ている。
「ねぇ」
彼女が、窓側から僕に体ごと向ける。
「我妻君が事故死って聞いてどう思った?」
「……」
目を逸らし、下を向く。
羨ましかったと正直に言えるわけがない。
「何もあんなこと言わなくていいと思わない?」
「……そうだね」
「学校に来れる体ではないんでしょ?」
「そうだね」
「三浦君が、きたってことはさ他の人も連れてくるかもしれないよ?」
三浦は人と仲良くなるのが得意だ。だから、今度は誰かを連れてくるかもというわけだ。
「面会拒否、しておいたら?」
心配してくれる西崎。
彼女の優しさに何度心が救われて、何度心を殺したくなったか。
もうこの地獄で彼女の優しさを感じたくないというのに。
生きていれば、地獄を味わう。
得体の知れない地獄の未来がやってくる。
恐怖は拭えない。
「そうしておくよ」
彼女を見て、にこりと微笑む。
今、ちゃんと笑えているだろうか。
不安だ。僕は、苦手なのだ。
笑顔を作ること、優しさに触れること、許されているこの感覚が。
家族は僕を否定してきた。
笑顔がきもい、優しさがうざい、許されると思うなという拒否反応。
軽蔑されて、侮辱されて、憤ってストレスの吐口にされて。
我妻もそれでいえば、そうだ。
この世は地獄だ。誰かの嫉妬が、八つ当たりしてきて、殺しにくる。
みんな僕をナイフで刺してくるのに、殺してはくれない。
この世界には、死にたくても死ねない僕みたいな奴がいるのに、我妻はトラックに撥ねられて死んでった。
羨ましい。
ノック音が聞こえて、返事をする。
扉が開くと、そこには真島がいた。
「オッスー」
「うい、どうも」
適当に返すと彼はいつもの調子でゲーム機を開いた。
「やろうぜ」
「いいね!」
西崎がいう。
病室にあるテレビにゲーム機を接続して、大画面でやる。
キャラクターを選び、それで戦うゲームは最初、西崎はやったことないらしく苦戦していたが今となってはそれなりに強い。
「真島、本当お前はバレてないんだな」
「当たり前だろ!学校になんかバレるかよ」
部活がない日は当然のごとくやってくる彼だが、その日は大抵学校にゲーム機を持ってきている。
そして、ここでゲームをする。
いまだにバレないのが恐ろしい。
三浦のような人間がいれば、勘付かれて先生に告げ口なんてこともありえるだろうに。
「クラス大変なのに、いつも通りで安心したよ」
「……」
彼は、操作をやめたのかその隙をついてワンキルする。
「知ってるの?」
「さっき、三浦が来て教えてくれた」
「三浦が?」
「ごめん、私が連れてきちゃった」
「でも、あいつは」
「そうだね。でも、気にしないよ。どうでもいい」
「どうでもいいって……」
グラグラと揺れていそうな彼の心情に水を差す。
「この病室で、目が覚めてさ体が動かなくて。看護師が状況を説明してくれて、お前たちがきて。嫌な人に会わなくなってから、僕は他のことがどうでも良くなった」
「楽しいことだけをしたいもんね、今は」
西崎が、ニコニコという。
「あぁ、だから、今はそんなの気にせずゲームしようぜ」
「そうか。なら、いいか」
揺れも落ち着いたところでキャラを変える。
コンボ技を真島に決めて即ワンキル。
「殺すときは、ちゃんと殺すよな」
テンションが戻ったのか、彼がいう。
「当たり前だろ!」
彼が報復しにくるので、僕は必死に逃げた。
戦わずとも逃げることができるのなら、逃げるべきだ。
逃げる場所も無くなった時に、戦えばいい。
ここにきてから思うようになったことだ。
何もない時間というのは、あったほうがいい。
自分が今どうしたいか冷静に考えられるから。
「あ、今じゃん」
カウンターを画面端に向けて決めたことで、彼は退場となった。
「強いって」
「待って、わたしひとりじゃん!」
彼女の使うキャラを追いかけて、軽く殴り蹴り、じわじわと削る。
彼女がアワアワと焦るので、面白かった。
「待って、やだ!死んじゃう!」
掴み技で焦らすと、声にならない声を出して必死になっている。
ゲームで必死になれるなんて羨ましいくらいだ。
さっきと同じ容量で彼女の使うキャラにダメージを負わせ、コンボ技を決めて場外に運ぶ。
「あぁ、やっぱ強いわ。勝てねぇ」
そんなこと言いながら、楽しんでいると時間は過ぎていき解散となった。
翌日、僕は暇で本を読んでいた。
朝、看護師が来て、昼にも看護師が来て、夕方、ノックの音が聞こえた。
西崎にしては早いなと思っていると返事をする前に入ってきた。
僕はその時、昨日の西崎の言葉を思い出した。『面会拒否』しておかなかった僕の地獄が始まった。
くだらないことをわざわざ僕に伝えてきた。
まぁ、このゼリーをもらえたから一緒に食べればよかったと後悔しているけど。
もう少し、聞きたかったな。
我妻は、一学期に僕をいじめた張本人だ。
何が気に食わなかったのか、徹底的にいじめられた。
この左腕にある丸い傷も彼のダーツバレルを刺された時のもの。
それが、二番目に過激だったかな。
一番は、みんなの前で殴られて黒板の前で横たわった時か。あの時は、その後西崎が止めたことで恥をかいたわけだ。
彼女にも迷惑かけたし。
そんな彼女は、今、窓の外の景色を見ている。
「ねぇ」
彼女が、窓側から僕に体ごと向ける。
「我妻君が事故死って聞いてどう思った?」
「……」
目を逸らし、下を向く。
羨ましかったと正直に言えるわけがない。
「何もあんなこと言わなくていいと思わない?」
「……そうだね」
「学校に来れる体ではないんでしょ?」
「そうだね」
「三浦君が、きたってことはさ他の人も連れてくるかもしれないよ?」
三浦は人と仲良くなるのが得意だ。だから、今度は誰かを連れてくるかもというわけだ。
「面会拒否、しておいたら?」
心配してくれる西崎。
彼女の優しさに何度心が救われて、何度心を殺したくなったか。
もうこの地獄で彼女の優しさを感じたくないというのに。
生きていれば、地獄を味わう。
得体の知れない地獄の未来がやってくる。
恐怖は拭えない。
「そうしておくよ」
彼女を見て、にこりと微笑む。
今、ちゃんと笑えているだろうか。
不安だ。僕は、苦手なのだ。
笑顔を作ること、優しさに触れること、許されているこの感覚が。
家族は僕を否定してきた。
笑顔がきもい、優しさがうざい、許されると思うなという拒否反応。
軽蔑されて、侮辱されて、憤ってストレスの吐口にされて。
我妻もそれでいえば、そうだ。
この世は地獄だ。誰かの嫉妬が、八つ当たりしてきて、殺しにくる。
みんな僕をナイフで刺してくるのに、殺してはくれない。
この世界には、死にたくても死ねない僕みたいな奴がいるのに、我妻はトラックに撥ねられて死んでった。
羨ましい。
ノック音が聞こえて、返事をする。
扉が開くと、そこには真島がいた。
「オッスー」
「うい、どうも」
適当に返すと彼はいつもの調子でゲーム機を開いた。
「やろうぜ」
「いいね!」
西崎がいう。
病室にあるテレビにゲーム機を接続して、大画面でやる。
キャラクターを選び、それで戦うゲームは最初、西崎はやったことないらしく苦戦していたが今となってはそれなりに強い。
「真島、本当お前はバレてないんだな」
「当たり前だろ!学校になんかバレるかよ」
部活がない日は当然のごとくやってくる彼だが、その日は大抵学校にゲーム機を持ってきている。
そして、ここでゲームをする。
いまだにバレないのが恐ろしい。
三浦のような人間がいれば、勘付かれて先生に告げ口なんてこともありえるだろうに。
「クラス大変なのに、いつも通りで安心したよ」
「……」
彼は、操作をやめたのかその隙をついてワンキルする。
「知ってるの?」
「さっき、三浦が来て教えてくれた」
「三浦が?」
「ごめん、私が連れてきちゃった」
「でも、あいつは」
「そうだね。でも、気にしないよ。どうでもいい」
「どうでもいいって……」
グラグラと揺れていそうな彼の心情に水を差す。
「この病室で、目が覚めてさ体が動かなくて。看護師が状況を説明してくれて、お前たちがきて。嫌な人に会わなくなってから、僕は他のことがどうでも良くなった」
「楽しいことだけをしたいもんね、今は」
西崎が、ニコニコという。
「あぁ、だから、今はそんなの気にせずゲームしようぜ」
「そうか。なら、いいか」
揺れも落ち着いたところでキャラを変える。
コンボ技を真島に決めて即ワンキル。
「殺すときは、ちゃんと殺すよな」
テンションが戻ったのか、彼がいう。
「当たり前だろ!」
彼が報復しにくるので、僕は必死に逃げた。
戦わずとも逃げることができるのなら、逃げるべきだ。
逃げる場所も無くなった時に、戦えばいい。
ここにきてから思うようになったことだ。
何もない時間というのは、あったほうがいい。
自分が今どうしたいか冷静に考えられるから。
「あ、今じゃん」
カウンターを画面端に向けて決めたことで、彼は退場となった。
「強いって」
「待って、わたしひとりじゃん!」
彼女の使うキャラを追いかけて、軽く殴り蹴り、じわじわと削る。
彼女がアワアワと焦るので、面白かった。
「待って、やだ!死んじゃう!」
掴み技で焦らすと、声にならない声を出して必死になっている。
ゲームで必死になれるなんて羨ましいくらいだ。
さっきと同じ容量で彼女の使うキャラにダメージを負わせ、コンボ技を決めて場外に運ぶ。
「あぁ、やっぱ強いわ。勝てねぇ」
そんなこと言いながら、楽しんでいると時間は過ぎていき解散となった。
翌日、僕は暇で本を読んでいた。
朝、看護師が来て、昼にも看護師が来て、夕方、ノックの音が聞こえた。
西崎にしては早いなと思っていると返事をする前に入ってきた。
僕はその時、昨日の西崎の言葉を思い出した。『面会拒否』しておかなかった僕の地獄が始まった。