「わたしも、好きだよ」

 精一杯の告白のつもりだった。

 けど、ダメだった。
 どうしても、いつも通りの男女の友情、発動しちゃったんだよね。

「え、なに? 何が好きだって?」
「それ。天然‘K。美味しいよね」

 河川敷の、大きな橋が作る影の下。
 地べたに座る裕貴(ひろき)の隣に腰を下ろすと同時、彼の向こうに立てられたペットボトルを指差して言っちゃった。
 ソレだけ影から出ちゃってるけど、面白そうだからそれは言わないでおく。

「お、瑞希(みずき)も天然‘K派だったか。一周回ってやっぱコレだよな」

 『天然水で作った飾り気のないサイダー』
 昔ながらの素朴な味で国民みんなに愛される定番サイダー。

 でも、うん。分かってる。お互いに。

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 きっとわたしも赤いんだろうな。

 わたしだけじゃなくって裕貴(ひろき)も天然‘Kが確かに好きなんだろうけど、お互いに、好き合ってる。はず。たぶん。
 わたしは確かに裕貴(ひろき)が好きだし、たぶん裕貴もわたしを好き。なはず。だと良いな。


 裕貴とわたしは小学校も同じだけど、幼馴染と言えるほどには幼い頃に馴染んだ訳ではない。
 仲良くなったのは中学生の頃からだ。

 クラスの何人かが仲良くなって、その中に裕貴もわたしも居たってだけ。
 みんなでバカやって騒いで、あの頃が一番楽しかったかも知れないな。


 仲良しグループの半分くらいが同じ高校に進学して、最初の四月。問題が発生――いや、大問題が発生した。

 あろうことか、このわたしに、付き合ってくれと申し出る猛者が現れたのだ。
 しかも中学からの仲良しグループの男――陽太から。

 陽太は明るくさっぱりしたバカだから、決して彼氏にするのに悪くはなかったんだけど。
 わたしはその頃確かにもう、裕貴(ひろき)への恋心に気付いてたから。
 陽太には悪いけど、これからも仲良くしてねと添えてきちんとお断りした。

 ごめんね陽太。

 裕貴も明るくさっぱりしたバカで、陽太と違って空気が読めて、顔がわたし好みなんだ。
 もちろんそれだけじゃないけれど、わたしは裕貴以外と付き合う気はなかったから。

 けど明るくさっぱりした一人目のバカは、明るくさっぱり言っちゃったんだ。

『ちくしょーフラれた! こうなったら俺より良い男と付き合えよ瑞希! 頼むぜ!』

 この言葉を受けて、空気の読める方の明るくさっぱりしたバカは尻込みした。
 もし自分がわたしと付き合ったら、陽太が自分より下――つまり自分が陽太より良い男になってしまう――陽太を傷つけてしまう、と。

 明るくてさっぱりしてようが、バカばっかりだ。男は。

 でもわたしも、割りと空気が読めちゃうヘタレだから。
 ビビってバカな男どもに合わせちゃってた。

 だからアレがわたしの精一杯の告白。
 結局わたしもバカなんだ。

 ほっぺた赤くした二人がサイダー(天然‘K)が好きだとただ伝えあう、これがバカでなくってなんだと言うんだ。


 天然‘Kを手に取った裕貴(ひろき)がコクリとひと口飲むと、うへぇと嫌そうな声を上げた。

「ぬっる。まっず。天然‘Kだけ影から出てたわ」

 分かる。いくら天然‘Kでもぬるいのは不味い。

「瑞希、飲んでみ、不味いから」
「ばっか。飲まないよそんなの」

 しかも、ね。
 間接――……ね。

「俺も、好きだ、ぞ」

 唐突な裕貴のセリフに、ぼんっ、とふたりして頬染めて。
 バカだなぁ、って思いながらも差し出された天然‘Kを受け取って。少し躊躇ってひと口飲んで。

 案外と空気の読めるわたしなんだけど、言ってやったんだ。

「ホントぬるくてまっずいね」

 ヘタレてる場合じゃないからね。

「でも――やっぱり好きだよ」

 ちゃんと、精一杯の告白。

「わたし。ひろ――」
「いや待って。瑞希はヘタレててくれ。その先は、俺が言うから」

 笑っちゃうくらい顔赤いよ裕貴。
 冷たい天然‘K買ってきてあげようか。ふひひ。