「ありがとうございましたー」
 レシートと袋に詰められたアイスとレモンティを受け取ってコンビニを出る。
 いつからだろうか、夜中にコンビニへ行って夜食を買うというだらしない生活を送るようになったのは。
 アイドルやってたあの頃は外出する際はメンバーの皆と買ったグラサンや帽子を身に付けて「身バレ防止対策!」だなんてふざけ合ってたっけ……。
 今でもそんな馬鹿してた日々をふとした時に思い出しては微かな不甲斐なさを感じる。
 不甲斐なさだけじゃない。アイドルという道を踏み外したことによる将来への不安やファンのみんなを裏切ってしまったことに対する申し訳なさ。
 色んな感情が今もなお、霧のように頭に居座って離れようとしない。
 とはいえ、今までアイドル一本で生きてきた私はこれからどうすれば良いのかさえ解らない。アイドル業界のことを網羅しただけでまるで世界の全てを見た特別な人間のような気になっていた。
 今の私を創ったのは傲慢だった私だ。
「はぁ、こっからどうしよ、」
 そう吐露しながら河川敷をトボトボと歩いているとこっちにジャージを着た女の子が走ってくる。こんな遅い時間にランニングだなんて偉いなー。
 などと妙な感心を抱いていると思いっきりその女の子がコケた。それはもう盛大に。
「大丈夫ですか?」
 そう言いながら駆け足で近寄り、手を差し出す。
「大丈夫です! どこも痛くないです!」
 そう可愛らしく高らかな声で無傷であることを訴える。
 その訴えに安堵した私は女の子と繋いだ手を引いて起こして服に付いた砂粒を払う。
 怪我も無いようだしアイスが溶ける前に早く家に帰ろうと会釈をしてから歩き出そうとすると右腕の手首を掴まれた。
「あの! もしかして綾音ちゃんですか?」
 そうたった今知り合ったばかりの人に名を呼ばれた。理由に見当は付いている。けど自分から見当の内容を口にして外したときに恥をかきたくないため受けに回る。
「私のこと知ってるの?」
「勿論です! アイドルやる前のモデル時代から追ってます! 美容院の待ち時間中に見た雑誌で初めて見て可愛すぎてそれからずっと……ごめんない! 話し込んじゃって、」
「いや、アイドル辞めてから声かけられること殆ど無かったからめっちゃ嬉しいよ」
「あの! 一つお願いを聞いてくれませんか?」
「勿論良いよ! 久し振りのファンサ? なのかわかんないけど張り切っちゃうぞ!」
「私、アイドル目指してるんです! 綾音ちゃんみたいにモデル上がりでも何でもないけど、でも綾音ちゃんの姿見たら無性にやりたくなっちゃって……今度、新人アイドルライブの一次応募があって、そこで踊る踊りを観てほしいです!」
 あぁ、この子なら受かるなと直感的に思えた。容姿も声も勿論良い。でもそれ以上にこの子に宿る熱意の熱さが私にまで届いている。
 これまでの熱情をぶつけられた以上、答えざるを得ない。