♢【親子丼とジントニック】
夕食時に私が親子丼を食べていると、ちらっと私の夕食を見た女性が何か思いつめた表情で下を向いて注文していた。
「親子丼ひとつ」
ぼそっとした声で注文した。カウンターに座り、おしぼりで手を吹く。哀愁漂う中年女性という感じでどこか寂し気で満たされない何かを感じているようだった。
「親子丼って親子で成り立ってるのよね」
低く暗い声で女性は話しかけていた。
「まぁ、たまごと鶏肉だから親子丼って言われていますよね」
樹さんが応答する。
「ねぇ、ここでは仇討ちしてくれるのよね?」
「まぁ、うちは、「怨み晴らしや」でもありますからね」
「息子が殺されたの」
「おねがいしてもいい? いくらなの?」
「お代は特にいただいていません。僕らの仕事なので」
「実は、体罰で数年前に殺されたのよ。そして、それをあざ笑う人たちを呪いたいのよね。殺してくれるの?」
「うちは、殺しはしていないんですよ。ただ、半分寿命をいただき、社会的に殺すんです。生き地獄を味わってもらうんですよ」
樹さんは相変わらず優しい顔で恐ろしい説明をする。
「原則一人につき一人が敵討ちできるシステムなんだ」
エイトが仕事を終えて、こちらにやってきた。
「じゃあ複数に仇討ちするならば、夫に頼んでもいいの?」
少し女性の表情が華やぐ。
「ああそうだな、あんたの夫が寿命半分やってもいいなら、完全なる仇討ちはできるけどな」
「寿命全部私があげたら? 完全な復讐はできるの?」
完全なる復讐とは殺すという意味なのだろう。普通の人間がこんなにも憎悪と怨恨で心から復讐心があふれるのだ。それは、ここに来る客にはよくあることなのかもしれない。
「全部寿命はいただけないんだ。俺らは半妖だからさ」
「わかったわ。体罰教師の生き地獄よろしくね。これ、彼の勤務先と名前と住所も書いてきたわ」
女性は少し嬉しそうにメモを手渡す。
「そうか、でも、俺ら依頼主からの念で、怨んでいる相手のことがわかるんだよな。だから、メモ用紙はいらねーよ。もし、嘘ついて誰か雇っても、そいつが怨んでいないなら請け負えないシステムなんだ」
エイトはスマートに説明をする。なるほど、そういったシステムは私も初めて知ったよ。毎日依頼主が来るわけではないが、夕食どきに割と依頼人のお客さんが来ることが多い。しかし、私に何か止めることはできないのだろうか? でも、それを止めさせたら半妖がこの世界で生きられない取り決めがあるなんて、エイトの人生は呪われているようだ。でも、自らのさだめに真摯に向き合う彼は強いのかもしれない。文句ひとつ言わずに執行する。怨みがこの世の中から消えることは難しいだろう。人間が生きている限り人間関係がネット上でも近所でも学校でも職場でも消えることはないのだろう。
「親子丼、私の息子が好きだったのよね、想い出のメニューなのよ」
親子丼をみつめながら昔を思い出している様子の婦人。
「誰でも我が子はかわいいけどさ、親によっては虐待したり殺人に至ることもある。死んだ子供から依頼されることもあるんだ」
「そうなの? すごいのね。死人と連絡取れるなんて。やっぱり死神様だわ。うちの子から依頼来てない?」
女性は前に体を乗り出して質問を始める。
「きっと仇討ちをしたいと思ってないんだろうな。そういう人間もいるってことだ」
それを聞いて、母親は黙ってしまった。
「きっとあの子は優しいのよ。だから、私がやらないと。仕方がないの」
ほかほかあつあつの親子丼を一気に食べる。この母親は、うまみやこくを感じることもなく、おいしいものをおいしいと感じないで食べてしまったかのようだった。
「よろしくね」
そういったときに、エイトが母親から銀色の光を奪った。それは契約だ。ジントニックを一気に飲み干して、母親は帰宅した。
夕食時に私が親子丼を食べていると、ちらっと私の夕食を見た女性が何か思いつめた表情で下を向いて注文していた。
「親子丼ひとつ」
ぼそっとした声で注文した。カウンターに座り、おしぼりで手を吹く。哀愁漂う中年女性という感じでどこか寂し気で満たされない何かを感じているようだった。
「親子丼って親子で成り立ってるのよね」
低く暗い声で女性は話しかけていた。
「まぁ、たまごと鶏肉だから親子丼って言われていますよね」
樹さんが応答する。
「ねぇ、ここでは仇討ちしてくれるのよね?」
「まぁ、うちは、「怨み晴らしや」でもありますからね」
「息子が殺されたの」
「おねがいしてもいい? いくらなの?」
「お代は特にいただいていません。僕らの仕事なので」
「実は、体罰で数年前に殺されたのよ。そして、それをあざ笑う人たちを呪いたいのよね。殺してくれるの?」
「うちは、殺しはしていないんですよ。ただ、半分寿命をいただき、社会的に殺すんです。生き地獄を味わってもらうんですよ」
樹さんは相変わらず優しい顔で恐ろしい説明をする。
「原則一人につき一人が敵討ちできるシステムなんだ」
エイトが仕事を終えて、こちらにやってきた。
「じゃあ複数に仇討ちするならば、夫に頼んでもいいの?」
少し女性の表情が華やぐ。
「ああそうだな、あんたの夫が寿命半分やってもいいなら、完全なる仇討ちはできるけどな」
「寿命全部私があげたら? 完全な復讐はできるの?」
完全なる復讐とは殺すという意味なのだろう。普通の人間がこんなにも憎悪と怨恨で心から復讐心があふれるのだ。それは、ここに来る客にはよくあることなのかもしれない。
「全部寿命はいただけないんだ。俺らは半妖だからさ」
「わかったわ。体罰教師の生き地獄よろしくね。これ、彼の勤務先と名前と住所も書いてきたわ」
女性は少し嬉しそうにメモを手渡す。
「そうか、でも、俺ら依頼主からの念で、怨んでいる相手のことがわかるんだよな。だから、メモ用紙はいらねーよ。もし、嘘ついて誰か雇っても、そいつが怨んでいないなら請け負えないシステムなんだ」
エイトはスマートに説明をする。なるほど、そういったシステムは私も初めて知ったよ。毎日依頼主が来るわけではないが、夕食どきに割と依頼人のお客さんが来ることが多い。しかし、私に何か止めることはできないのだろうか? でも、それを止めさせたら半妖がこの世界で生きられない取り決めがあるなんて、エイトの人生は呪われているようだ。でも、自らのさだめに真摯に向き合う彼は強いのかもしれない。文句ひとつ言わずに執行する。怨みがこの世の中から消えることは難しいだろう。人間が生きている限り人間関係がネット上でも近所でも学校でも職場でも消えることはないのだろう。
「親子丼、私の息子が好きだったのよね、想い出のメニューなのよ」
親子丼をみつめながら昔を思い出している様子の婦人。
「誰でも我が子はかわいいけどさ、親によっては虐待したり殺人に至ることもある。死んだ子供から依頼されることもあるんだ」
「そうなの? すごいのね。死人と連絡取れるなんて。やっぱり死神様だわ。うちの子から依頼来てない?」
女性は前に体を乗り出して質問を始める。
「きっと仇討ちをしたいと思ってないんだろうな。そういう人間もいるってことだ」
それを聞いて、母親は黙ってしまった。
「きっとあの子は優しいのよ。だから、私がやらないと。仕方がないの」
ほかほかあつあつの親子丼を一気に食べる。この母親は、うまみやこくを感じることもなく、おいしいものをおいしいと感じないで食べてしまったかのようだった。
「よろしくね」
そういったときに、エイトが母親から銀色の光を奪った。それは契約だ。ジントニックを一気に飲み干して、母親は帰宅した。