私が通っていた中学校の近くには、地元民しか知らないマイナーな心霊スポットがある。
いわゆる自然公園だ。小規模ながらいくつかのエリアに分かれていて、その中のひとつに大きな池がある。昼間は和やかな風景であるものの、夜になると爽やかな池が仄暗い沼に変貌を遂げ、木が生い茂っていることも相まってとても不気味なのだ。
これは中学三年の夏休み、友達と五人で自然公園へ肝試しに行った時のこと。
(念のため補足しておくと、公共施設とはいえ時代なのか管理側が適当なのかなんなのか開放時間が決まっておらず、当時は夜でも普通に入れるようになっていたのだ。夜遊びに関してはどうか大目に見てほしい)
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友達の家に泊まっていた時、誰からともなく肝試しをしようという話になった。
目的地は一番近い場所にある自然公園に決まり、自転車で向かう。公園の入り口に自転車を停めて、例の池のエリアまで歩いていく。
池のエリアの道はとても狭いため、一列に並んで歩くことにした。私は前から三番目、ちょうど真ん中だった。
池の周りは外灯がほとんどなく暗い。携帯のライトを頼りに歩き、エリアの中心部にある目的の池まで辿り着いた。
心霊スポットとはいえ、どこに何がいるとかここで何をすればどうなるとかいう明確な噂があるわけではない。なのでやや手持無沙汰になった私たちはしばらく池を眺めてみたが、水面が風に揺れているだけだった。単に雰囲気を味わえるだけのなんちゃって心霊スポットなのだろう。
どうしようかと相談した結果、ただ黒い池を眺めてさっさと帰るのもなんとなくもったいなかった私たちは、とりあえず池の周りをぐるっと一周することにした。
少なくともこのエリアには私たち以外に誰もいない。話が途切れるたび、しんと静まり返った夜の林に私たちの足音が反響する。なるほどこれは確かに不気味だなと思いながら歩いていると、みんなも同じことを思ったのか、声のボリュームが徐々に上がっていった。
半周ほど歩いただろうか、と辺りを見渡した時。
突如、男の悲鳴が聞こえた。
「──わっ」
思わず小さく悲鳴を上げると、全員が立ち止まって私を見た。
「なに!? びっくりさせないでよ! そういうのいらないから!」
「違うよ! だって今すごい悲鳴聞こえたよね!?」
怖いわけではなく、単に驚いただけだった。他のエリアに私たち以外に人がいるのだと思ったのだ。
耳を済まさなくてもはっきり聞こえるほどの大声だったし、いくらみんなで話していたからといってあの声をかき消すほどの声量を出していたわけではない。何より、真ん中にいる私に聞こえてみんなに聞こえなかったわけが──
「え……何言ってんの? 悲鳴なんか聞こえなかったけど……」
確認し合うように顔を見合わせても、私以外の全員が首を横に振る。
数秒の沈黙ののちにひとりが悲鳴を上げて走り出し、他の三人も彼女に続いた。一番怖いのは声が聞こえた張本人である私のはずなのに、みんなは悲鳴を上げながら出口へ向かってひたすら走る。
危うく逃げ遅れかけながらも必死に走ってみんなに追いついた時。
確かにもう一度聞こえた。
唸っているような、とても低い男の声が。