全二十四話を掲載したが、いかがだっただろうか?
『肝試しはほどほどに』でも書いたが、すべての話を信じてくれとは言わない。そもそも心霊現象を信じない派の方もたくさんいると思う。ただ創作物として楽しんでくれたり、夏の風物詩を味わってくれたり、ちょっとゾッとしたりしてくれる程度で構わないのだ。
 とにもかくにも、少しでも楽しんでいただけたのなら作家冥利に尽きる。

 ところで、表紙の注意書きを読んでくださっただろうか?
『※読んでいる最中や後に何かが起きても、著者は一切責任を負えません。』──そんな、ありきたりな文言だ。
 これは掲載を始めた当初は書いておらず、途中で書き足したものだ。
 ただ読者に恐怖心を芽生えさせるため、はたまた煽るために添えたものではない。紛うことなき私の本心であり、文字通り注意であり、そして不安であり、心配でもあった。
 本作の執筆中に思い出してしまったのだ。いや、思い出されてしまったと言った方が正しい。
 WEB小説サイトの片隅に眠っていた作品を見つけた時はどうしても思い出せなかった、本作を〝非公開〟に──いや、途中で投げ出したあげく〝封印〟した理由を。

『Interval』を読んで察した読者もいるのではないかと思うが、過去に本作を執筆していた当時も似たようなことがあったのだ。そして『ナビ』での体験が決定打となり、執筆を中断したのだった。
 この体験は単に〝そういった場所〟を通ってしまったからであり、本作を執筆していたからだという確証はもちろんないし、むしろ無関係の可能性も大いにある。
 それでも「やめた方がいいかも」という漠然とした不安が消えなかったのだ。
 本作を読んでくださった方々は、少なからずホラーがお好きなのだろう。ならば、こんな話を聞いたことはないだろうか?
 怖い話をしていると寄ってきてしまう、と。
 私はただでさえ姉に〝引き寄せやすい体質〟だと言われていた。もろもろ含めると、正直に言えば書き続けることが怖くなってしまったのだ。切り離して考えることは難しかった。実際に、本作の執筆を始めるまでは長いこと恐怖体験をしていなかったのだから。

 今回は『ナビ』のように決定的な体験こそしていないが、『Interval』に書いた通り少なからず異変が生じている。すべて気のせいだろうと言われればそれまでだし、私自身もそうであってほしいと思う。
 ただ『Ⅲ』を書いた直後から、私がホラーを書いていることなど知らず、ましてや読んでなどいない夫まで妙なことを言うようになったのだ。
 詳しい内容は省くが、ざっくり言えば「最近ちょっと変なことが起きる」くらいのもので、間違っても命に関わるほどではない。とはいえ、少しずつ悪化していることは確かだった。
 夫はホラーが大の苦手で、なおかつ恐怖体験をしたことなど一度たりともないという。なので怖がり方が尋常ではなくシンプルに可哀想だし、今後「ちょっと変なこと」がさらに悪化して万が一にも家族に悪影響があってはならないので、これ以上はやめておこうと判断せざるを得なかった。
 前回も今回も、私の身に異変が起きたのは、私が体験者であり語り手だから。そして夫に関しては、単純に私と同居しているからだろう。
 夫と愛犬には悪いことをしたな──と考えているうちに、ある疑問が芽生えた。
 ということは、私は今でも〝引き寄せやすい〟のだろうか、と。

 そもそも、当たり前だが、怪談話を見聞きしたり〝そういった場所〟に足を運んだりした全員が奇妙な体験をするわけではない。例えば『ナビ』で登場した峠も、友達を含め私の周りには何度もその道を通ったことがある人はいるが、奇妙な体験をしたことは一度もないという。
 それは私の周りの人間だけではなく、極端に言えば、たとえどれだけ心霊スポットに足を運ぼうと何も起きない人の方が大多数だろう。
 私に霊感が備わったのは〝ある側〟の人間に囲まれていたから。ずっとそう思っていた。実際に離れた途端に奇妙な体験をすることが格段に減ったのだから、それは間違いではなかったのだと思う。
 だけど考えてみれば、霊感が強い人のそばにいるからといって、もちろん全員が移るわけではないのだ。
 いつか姉に言われた〝引き寄せやすい体質〟に関しても、霊感が備わってしまったことによる副作用のようなものだと思っていたが、はたして本当にそうだったのだろうか?
 もしも〝備わった〟のではなく、もともと少なからず持っていたものが単に〝強まった〟だけだとしたら?
 あるいは、眠っていたものが何らかのきっかけによって呼び起こされたのだとしたら?

 そこまで考えて、思う。
 それは私に限った話ではないのでは、と。

 例えば心霊系の番組や動画を観ている時、怪談話を聞いている時、読んでいる時、不意に背筋がゾッとすることはないだろうか? その後もしばらく悪寒が続くことはないだろうか? 自分以外に誰もいないはずの場所で、変な音が聞こえたことは? 気配を感じたことは? 人影を見たことは? ……。
 ほとんどの人が私と同じように〝気のせい〟だと言い聞かせているのではないかと思う。
 だけど、本当に気のせいだと言い切れるだろうか?
 ただ霊感を自覚できるほど〝強くない〟だけで、少なからず持っている可能性はないだろうか?
 もしもそうだとしたら、知らず知らずのうちに〝引き寄せている〟ということはないだろうか?
 かつて私の元担任が言っていたのは、そういうことだったのかもしれない。
 ──霊っていうのは、自分に気づいてる人の前に現れるものだから。
 逆に言えば、気づいていない人の前には現れないのだ。

「前回も今回も、私の身に異変が起きたのは、私が体験者であり語り手だから。そして夫に関しては、私と同居しているからだろう」──前述した通り、今の今まではそう思っていた。
 いや、できればそうであってほしい。
 けれど、もしもそうではないとしたら?
 申し訳ないことに断言はできない。
 ただし、過去に中断した理由を思い出したのがあまりにも遅すぎた。とっくに本作を公開してしまっていたのだ。
 しかもPV数を見れば、すでに読んでくださっている読者がいる。昔のように突然非公開するのも憚られたので、今回は注意書きしたうえで『自己責任で読んでいただく』という方法を取らせていただいた。
 読者の身に何も起きないことを、心より祈っている。