全二十四話を掲載したが、いかがだっただろうか?
『肝試しはほどほどに』でも書いたが、すべての話を信じてくれとは言わない。そもそも心霊現象を信じない派の方もたくさんいると思う。ただ創作物として楽しんでくれたり、夏の風物詩を味わってくれたり、ちょっとゾッとしたりしてくれる程度で構わないのだ。
 とにもかくにも、少しでも楽しんでいただけたのなら作家冥利に尽きる。

 ところで、表紙の注意書きを読んでくださっただろうか?
『※読んでいる最中や後に何かが起きても、著者は一切責任を負えません。』──そんな、ありきたりな文言だ。
 これは掲載を始めた当初は書いておらず、途中で書き足したものだ。
 ただ読者に恐怖心を芽生えさせるため、はたまた煽るために添えたものではない。紛うことなき私の本心であり、文字通り注意であり、そして不安であり、心配でもあった。
 本作の執筆中に思い出してしまったのだ。いや、思い出されてしまったと言った方が正しいかもしれない。
 WEB小説サイトの片隅に眠っていた作品を見つけた時はどうしても思い出せなかった、本作を〝非公開〟に──いや、途中で投げ出したあげく〝封印〟した理由を。

『たまに金縛りに遭ったり、ちょっと不思議な出来事が起きたりすることもゼロではなかった。よってここに書けるような体験も皆無ではない。』
 最終話『ナビ』に、私はそう書いた。この文は原作にはなく、私が編集中に書き足したものだ。実際に、非公開にしていた原作は全三十二話あった。ならばなぜ今回は八話も削ったのか。
 私自身が、これ以上書かない方がいいと判断したからだ。
 本作を読んでくださった方々は、少なからずホラーがお好きなのだろう。ならば、こんな話を聞いたことはないだろうか?
 怖い話をしていると寄ってきてしまう、と。
 これで察していただけるとありがたい。──と言いたいところだが、丸投げでは煮え切れない方もいるかもしれないので、軽く触れておこうと思う。

 本作の編集を始めてからこの『おわりに』に至るまで、約二週間かかっている。最初は懐かしさとホラー好きの血が騒ぎ、夢中になって書いていたが、途中から異変が生じたのだ。
 執筆を始めて数日が経った頃、家の中から物音が聞こえるようになった。最初はいわゆる家鳴りだと思っていたが、さらに数日が経つと、リビングで執筆している時に二階から『ドン』という音が聞こえるようになった。それも一度や二度ではない。
 私は夫と愛犬と暮らしているが、音が聞こえた時、愛犬は私の隣で眠っていたし夫は外出中だったため二階に人などいるはずがない。
 就寝中、金縛りではないが体に不快感を覚えて目が覚めてしまうことや、変な夢を見ることが立て続けにあった。愛犬とリビングで寝れば、深夜に愛犬が部屋の隅に向かって低く唸りだしたこともあった。
 やがて、私がホラーを書いていることなど知らない夫までもが「変な夢を見る」と言うようになった。さらに深夜にふたりで眠っている時、突然テレビが大音量でついたことが二度あった。

 ここまで書けば察しがついていると思うが、過去に本作を執筆していた当時も似たようなことが続いたのだ。そして最終話『ナビ』での体験が決定打となり、執筆を中断したのだった。
 すべて気のせいだと言われればそれまでだし、私自身もそうであってほしいと思う。だけど前述した通り、私は今、夫と愛犬と暮らしている。万が一にも家族に悪影響があってはならないので、これ以上はやめておこうと判断した。

 とはいえ、封印した理由を思い出した頃には、すでに本作を公開してしまっていた。読んでくださっている読者がいるのだ。昔のように突然非公開するのも憚られたので、今回は非公開にするでも未完のまま放置するでもなく、話数を削ってやや無理やりではあるが完結させることにした。そして注意書きしたうえで『自己責任で読んでいただく』という方法を取らせていただいた。

 私の身に異変が起きたのは、私が体験者であり語り手だからかもしれない。
 いや、できればそうであってほしい。
 読者の身に何も起きないことを、心より祈っている。