高三の夏、いつもの六人でまたまた心霊スポットへ行くことになった。向かう先は『明るい朝に』と同じ廃墟だ。心霊スポットに行きすぎてネタ切れだったため、もはや暇つぶしくらいの感覚で同じ場所に何度も行くようになっていた。候補自体はいくらでもあるのだが、残るは日帰りじゃ行けない距離にあるところばかりだったのだ。
 廃墟の前に車を停めて降りる。柵を越えると、廃墟の前に庭が広がっている。室内だけではなく庭にもガラスの破片がまんべんなく散らばっていて、一歩進むたびにジャリジャリと音が鳴る。
 何度も足を運んでいる場所であり、さらに今思えば心霊スポットそのものに免疫ができてしまっていた私たちは、目的が肝試しであることすら忘れかけて普通に会話をしながら流れ作業みたいに歩いていく。
 ひとつだけいつもと違ったのは、庭の真ん中でみんな一斉に立ち止まったこと。
 何か聞こえたわけでもない。
 誰かが声をかけたわけでもない。
 本当に突然、みんな一斉に。
「なんで止まったの?」
 誰かが言った。私以外の四人が「わかんない」と答える。私は答えもせずに、ずっと廃墟の中心にある大きな扉を見ていた。
 本当に、なんとなく見ていた。
「……女の声聞こえない? あと、足音も」
 瑠衣が言った。
 私も聞こえたけどそれはあまり気にならなくて、ただ呆然と扉を見ていた。
 しばらくして、どうして気になるのかやっとわかった。
「てか……近づいてきてない?」
 おかしいのだ。
 外灯もなければ車も通っていないのに、白い影が扉の前を行ったり来たりしている。ふらふらと、ゆらゆらと。
 我に返ったのは、みんなの悲鳴が聞こえた時だった。たまたま莉子と手を繋いでいたおかげで逃げ遅れずに済んだが、声と足音はどんどん近づいていた。
 私たちは全員走っている。追ってくる足音はとてもゆっくりだ。それなのに、どんどん足音が大きくなっている。どんどん近づいてくる。おそらくあと少しで追いつかれてしまうくらい、音が近くなってくる。
 柵を飛び越えて車に乗り込む。上がった息を整えながら、いまだ私は白い影が気になって仕方がなかった。
「大丈夫だよ」
 私の声に、みんなが一斉に振り向く。
「たぶん、あの柵から出てこれないんだと思う」
 つい無意識にさらりと言ってしまった私に、みんなは「ならよかった」と安堵の息をついたが、数秒後に悲鳴が響いた。どうやらみんなは声と足音が聞こえただけで、白い影など見えていなかったらしい。
 なぜか私にだけはっきり見えていたようだ。
 柵の前に立ち尽くしてこちらを見ている女の人が。