高二の秋にお馴染みの六人でドライブをした帰り、地元近郊では有名な廃墟の前を通りかかった。昔はホテルだったらしい大きな建物だ。
オカルトマニアコンビがこの機を逃すはずもなく、寄っていこうかという話になった。すでに朝方で明るかったこともあり、誰も怖がる様子はなく会話をしながら淡々と進んでいく。
一階を一通り見終えて二階に上がったとき、一番後ろを歩いていた颯ちゃんが急に立ち止まった。
「ちょっと待て、静かにして」
言われた通りに全員が黙る。
ややあって、
「……後ろから足音聞こえる」
まるで私たち以外の誰かに聞かせないためみたいに、最低限の声量で呟いた。
床にはガラスの破片が散らばっていて、歩くたびにジャリジャリと音を立てる。廃墟の中には私たちしかいなかったし、颯ちゃんは一番後ろなのに、さらに後ろから破片を踏む音が聞こえたと言う。
「はあ? こんな明るいのにお化けなんか出るわけねえだろ」
野木くんが言うと、仁くんも便乗して颯ちゃんをからかい始めた。私は足音こそ聞こえなかったが、疑ってはいなかった。颯ちゃんは絶対にこういう嘘をつかないし、ここに〝いる〟ことを知っていたからだ。
瑠衣と莉子は心配そうにきょろきょろと周辺を見回すものの、オカルトマニアコンビは聞く耳をもたずに探索を続行する。颯ちゃんが怖がっていたから交代して、今度は私が一番後ろを歩くことにした。
すると、私の後ろから、ジャリジャリとガラスの破片を踏む足音が聞こえた。
私たちの足音が反響しているのかとも思ったが、だとしたらもっとたくさん響くはずだ。聞こえたのはどう考えてもひとり分の足音だった。
「私も聞こえたんだけど……足音……」
颯ちゃんにつられるように小声で言うと、オカルトマニアコンビが容赦なく笑い飛ばす。
「んなわけねえだろ、おまえ騙されてんなよ」
「怖い怖いって思ってるからだろ」
絶対馬鹿にしてるなこいつら。
肝試しで何が怖いって、結局は先入観と雰囲気だ。この廃墟に〝いる〟ことを知っていた私でさえ明るいおかげで恐怖心はあまりなかったし、オカルトマニアコンビはどれだけ馬鹿みたいに心霊スポットへ行っても恐怖体験をしたことがないという実績もあり、もはや鋼のメンタルを手に入れていた。
悔しいが、確かに聞き間違いや気のせいという可能性は大いにある。当然証拠はないので、悶々としながら来た道を戻っていくみんなのあとに続いた。
だけど、まるで「気のせいじゃないよ」と主張するように、帰りもまた聞こえた。
一番後ろを歩いているはずの私の後ろから、ジャリジャリと、ゆっくりと一定のリズムを刻む足音が。



