本作の編集作業を始めて一週間が経とうとしていた。
執筆自体は、仕事の時もこれくらいスムーズに書けたら苦労しないのになと悲しくなるくらいに楽しくできているが、私は少し困っていた。
中学生編をアップし終えた頃に聞こえた「パキ」だか「カチ」だかが、あれからも度々聞こえるのだ。
私は人がいると集中できないので、基本的には夫が不在の時に執筆をしている。よって夫ではない。
家鳴りとは、こんなにも頻繁に起きるものなのだろうか?
何より、昔幼なじみ──瑠衣が言っていた言葉も引っかかっている。
──霊が気づいてほしい時って、こんな音出すんだよね。
どんな音だったかは未だに思い出せないが、似たような音だった気がしてならないのだ。
家鳴りか、あるいはラップ音か。
私はホラー好きと宣言しておきながらお恥ずかしいのだが、それほど心霊現象に詳しくない。『ノック』にも書いた通り、ただ映像を見たり話を聞いたりしてちょっとゾッとしたいくらいのものである。ラップ音についても、それがどんな音なのかよく知らないのだ。
気になって調べてみたところ、家鳴りとなんら変わらなかった。もはや呼び方が異なるだけではないのか。しかも比較的新しい家で鳴りやすいのだという。
──なんだ、怖がって損した。いや、損ではないけど。むしろよかったんだけど。
今後書いていくつもりだが、今の私には霊感がほとんどない。よって心霊現象からも程遠い人間になっている。何年間もそうだったのに、突然大したきっかけもなしに霊感が復活することなどないだろう。……たぶん。
やはり執筆中は多少なりとも恐怖心があり、音に敏感になっていただけだろう。その音が本作の執筆中にばかり聞こえる気がするのも、おそらく気のせいだ。たまに二階から「ドン」と大きな音が聞こえるのも、きっとラップ音の一種だ。
ホッとすると同時にやや拍子抜けした私は、引き続き本作の執筆に取りかかった。