これは高二の夏休み、瑠衣の家でお泊まり会をした時のこと。
夜に野木くんから連絡が来てドライブしようと誘われた。暇をしていた私たち四人はすぐに承諾して、迎えに来てくれた野木くんの車に乗った。助手席には仁くんもいて、計六人で談笑しながら、野木くんが適当に車を走らせる。二時間ほど経ってから帰ることになり、通ってきた道とは別のルートで地元へ戻る。
途中、窓の外に見覚えのある景色が広がっていた。
「ここ、あの心霊スポットらへんじゃない?」
莉子が言うと、他のみんなが「ほんとだ」と反応する。
そこもまた地元民しか知らないマイナーな場所だ。元はなんだったのかわからないが、二階建ての小さな廃墟である。オカルトマニアのふたりがこの機会を逃すはずもなく、当然寄っていこうという流れになった。
今まで何度か入ったことがあるし、何か起きたこともない。何より霊感ゼロの超鈍感コンビがいるのだ。私はあまり気負いせずに了承した。
そして予想通り何事も起きないまま一周し、すぐに帰宅した。
瑠衣の家に戻った私たちは、深夜までリビングでテレビを観ていた。
途端、分厚いものを引きちぎったような、ものすごく鈍い音が鳴り響いた。
全員が一斉に小さく悲鳴を上げる。次に目を見張って絶句しながら、四人で顔を見合わせた。シンと静まり返ったリビングに、テレビの音だけが響いていた。
ややあって、音の正体を突き止めるようにみんなでリビングを見渡す。
「……うそ」
いち早く音の正体をつかんだ瑠衣が呟いた。いや、おそらく見当がついていたのだろう。私たちは瑠衣の視線を追った。
「え……なんで? ありえなくない?」
震える声で言った莉子に、私たちは答えられなかった。いや、声が出なかったと言った方が正しい。
瑠衣の家には、なぜか勝手に開いてしまう扉がある。壊れているわけではない。カチャ、と音を立ててしっかり閉まるのに、放っておくとなぜか開くのだ。
ドライブへ行く前に、なんかあの扉ちょっと怖いよね、と話しながらガムテープで止めておいた。ほとんど使っていない物置部屋なので、開かなくなっても問題ないだろうと布のガムテープをがっつり貼ったのだ。
それなのに。
扉が開いている。
ガムテープが引きちぎられている。
ありえない。
恐怖のあまり、私たちは家を飛び出した。
しばらく経ってから勇気を振り絞って瑠衣の家へ戻ったが、見間違いのはずもなくやはりちぎられていた。放置するのもなんだか怖くてガムテープを貼り直した。それから朝まで、ガムテープが破れることはなかった。
*
私はただのホラー好きで心霊的な知識はないからよくわからないが、いくら霊だとしてもガムテープを引きちぎるなんてよほどの力が必要なんじゃないだろうか。いわゆる悪霊のようなものの仕業ではないのだろうか。それとも、単なるお調子者の悪戯なのだろうか。
瑠衣いわく、あんなことが起きたのは後にも先にもあの一度だけだったらしい。この体験が、事前に肝試しに行っていたせいなのかはわからない。
どちらにしろ、瑠衣の家にはいったい何がいたのだろう。