霊感がある人のそばにいたら移る、という話を聞いたことはないだろうか。
『はじめに』や『第3夜 きみは誰』にも書いた通り、私自身もともと霊感があったわけではなく〝移った側〟だったと思う。姉や幼なじみや元担任など、私の周りに霊感の強い人が多かったのだ。
〝移った側〟とはいえ、強まってしまったのなら〝ある側〟の部類に属するのだろう。最初は部屋で金縛りに遭うだけだったのに、いつの間にか部屋以外でもおかしな体験をするようになってしまったのだ。もはや認めざるを得ない。
そしてそれは、どこまでも伝染していくのかもしれない。
*
高一の夏休みを目前に控えた頃、莉子と一緒に下校している最中、
「あれ? 消えた」
莉子がいきなり道端で立ち止まった。
「何が?」
「今こっちに向かって歩いてる人がいたんだけど、なんとなく気になって見てたら、急に消えちゃったの」
私も前を向いて歩いていたが、人などいなかった。周囲には建物もなく、散歩をするにはうってつけの和やかで見晴らしのいい田舎道だ。
気のせいか、と呟く莉子を横目に、私はちょっとだけ嫌な予感がしていた。
翌日、友達の家から莉子とふたりで帰っていたとき。
「どうしたの?」
莉子が言いながら立ち止まって後ろを向いた。
私は友達の家を出てから今この瞬間まで、ずっと莉子の隣にいるのに。
「こっちの台詞だよ。てかどこ見てんの。どうかした?」
後ろを向いている莉子に声をかけると、莉子は弾かれたように私を見た。
当惑をあらわにしながら、私と後ろを交互に見る。
「あれ……今、急に止まってしゃがまなかった?」
「そんなわけないでしょ」
「あ……そっか。だよね……」
おかしいな、と言いながら首をひねる莉子に「気のせいだよ」と笑いかけながら、嫌な予感がより強くなっていた。
移っちゃったのかもしれない──。
三日目。
友達数人で遊ぶ予定だった私たちは、待ち合わせ場所まで一緒に行く約束をしていた。夕方頃に莉子が私を迎えにきて、着いたよとメッセージを受け取った私はすぐに外へ出る。
すると、莉子が私の部屋の窓をぼうっと見上げていた。
「莉子?」
声をかけると、莉子は目を見張って振り向いた。
「あれ? 今カーテンの隙間からこっち覗いてたから、メッセージ気づいてないのかなと思って見てたんだけど……」
「私だよ。メッセージ読んだときにちょっと覗いたもん」
「ううん、今声かけられるまでずっといた。髪長かったから女の人だと思うんだけど、お姉ちゃんとか?」
「……え? あ……うん、たぶんお姉ちゃんだと思う」
「そっか。そうだよね」
きょとんとしている莉子にはとても言えなかった。
髪の長い女の人なんて、うちには私しかいない──と。
*
莉子はもともと〝霊感〟なんて言葉とは無縁の人間だったという。寮生活が始まるまで、視たことも聞いたことも感じたこともなかったと。寮がよっぽどヤバイってことだよね、と言っていた。この三日間も莉子は〝視えた〟という自覚がなく、単なる気のせいだと解釈しているらしい。
当時は莉子の言い分に納得し、私と毎日一緒にいるせいで移ってしまったのだろうと思っていたが、のちにちょっとした疑問が芽生えた。
思い返せば、寮生活で最初に奇妙な体験をしたのは莉子だったのだ。
莉子は本当に、霊感とは無縁の人間なのだろうか。
無自覚なだけで〝ある側〟の人間は、案外少なくないのではないだろうか。



