――心葉の家からの帰り道。
私と桐島くんは二車線道路の脇の街灯を浴びたまま肩を並べて歩いた。
お互い心葉の家に来た時とは全く別人のように明るい笑顔に。
「まさか来た方法と帰る方法が逆だったなんてな」
「ほんとほんと! そこまで思い浮かばなかったよね。何が正しいかさえわからずに情報を嗅ぎ回ってたよね」
「しっかし、石井教授の話がガセネタだったなんてな〜。お前が来なくて必死こいてた時の自分が虚しくなるよ」
「あの時は本当にごめんね。でも、私を待っている間にずっと心配してくれてたんだよね。えへへ……、ありがと」
胸の中がほんわりと暖かくなりながら感謝の気持ちを伝えると、
「堀内……、あのさ」
それまで明るい声だった桐島くんの声のトーンが急に変わった。
……いや、声だけじゃない。
瞳の中も他のことを忘れさせてしまうくらい私の意識を吸い寄せてくる。
風に髪がなびいて頬がコショコショとくすぐられても、それを感じさせないくらいに……。
「えっえっ、なに……かな……。そんなにかしこまっちゃって……」
動揺してるのを隠したかったけど、そこまで器用じゃない。
次第に心拍が上がって顔が火照っていくような感覚に。
「俺……さ、お前がいなかったらここまで頑張れなかった。楽な方へ逃げて不満を解決するつもりだったよ。そうすれば苦労しなくて済むから。……でも、お前の背中がそれは違うと教えてくれた。例え話を聞いてもらえなくても、伝え続ける姿勢が大事なんだってことを」
「桐島くん……」
「そーゆーところを見てたら、なんって言うか……。自分も変わらなきゃいけないって思った。そう思わせてくれたのはお前のお陰。すげぇ感謝してる」
まっすぐに見つめられる瞳に、私のハートビートは狂っていく。
褒められて嬉しいと思う反面、自分もその思いを伝えなければならないと思った。
「桐島くんだって、ここへ来てから色んな提案をしてくれたじゃない。お陰でずいぶん助けられたよ。落ち込んだ時は励ましてくれたし、パラレルワールドから帰らなかった時に佐神先生に責められそうになってた時は助けてくれた。これが私にとってどれだけ支えになっていたか……」
「堀内」
ここで突然彼の音色が代わり、私の心臓はピクンと跳ねた。
「えっ」
「もし、元の世界に戻ることが出来たら俺たち……」
ドックン……、ドックン……。
この流れはもしかして、もしかして……、もしかすると……!
”告白”なのでは……?!
私は期待するあまり無理やり飲み込んだ唾でゴクリと喉を鳴らしたが、
「…………いや、なんでもない。忘れて」
これだけ盛り上げといて急な空振りに。
思わず私の膝がカクンとなる。
……いま絶対に告白ちっくな流れだったよね。
「忘れて」……なんて、嘘でしょ。
私も答える気満々でいたのにっっ!!
「えええっ?! いま何て言おうとしたの? そこまで言ったから続きが気になるでしょ!!」
「べっべべべ、別にっ!! ……大したことじゃねぇし」
彼はカアアッと赤面したまま後ろを向く。
その反応を見た途端、好奇心が沸き立っていき余計に続きが聞きたくなった。
「嘘っっ! 絶対大したことだったぁ~っっ!! ねぇ、いまなにを言おうとしてたの? 教えてよ〜っ!!」
「そっ、それよりさ……、明日佐神にさっきの件を伝えなきゃな。きっと驚くと思う!」
「ちょっとちょっと、ごまかさないでよ〜。続きを聞かせてぇえ〜っっ!!」
――いま最高に幸せ。
元の世界に帰る方法が見つかったし、桐島くんとの関係も良好(?)だし、あとは萌歌と仲直りして一緒に元の世界に帰るだけ。
仲間のお陰もあって悩みが一つ一つ解消されていき、残す問題は一つになった。
だから、もう一踏ん張りしなきゃね。
帰る意欲が満々になっていたせいか、この時は忘れていた。
この世は順調に物ごとを進ませてくれないということを……。