「ここって、意外と涼しいんだね」

「えっ?……ああ、僕も今日初めて来たけど、静かで涼しいって知った」


声をかけられて、再び本から桜木さんの方へ視線を向けながら答える。

何も話さない、沈黙の時間が苦痛と思わないのか。

よくしゃべる人だから、沈黙が耐えられない人だと勝手に思ってたけど。

桜木さんは楽し気な表情で話を続ける。


「自然の涼しさって快適だね。水の音がまた心地よさを引き出してるっていうか」

「……確かに」


いつも自転車で通り過ぎていたこの場所だったけれど、こんなにも快適な場所だったなんて。

桜木さんも初めて知ったみたいだし、意外と誰にも知られていないのかもしれない。


「……」

「……」


二人並んで、川の流れを黙って見つめる。

ここだけ世界から切り離された、異空間かのようにすら思えるほど静かで穏やかな時間。