「……あの、藤原君。それ、読み終わったらでいいから、貸してもらえないかな?!」

「えっ?……ああ。うん。別に構わないけど」

「本当?!ありがと!あ、でも、急がなくていいから。藤原君のペースで読んでくれたら……」

「ああ、うん。なるべく早く読み終えるようにはするよ」

「ありがとう。楽しみにしてるね」


桜木さんは嬉しそうに微笑む。

ミステリーだから、多分一気読みできるだろう。

僕は再び本に視線を落とす。

彼女は僕を見て声をかけに来ただけだから、そのうちいなくなるだろう。

僕といたって、何も面白い事はないし。

そう思いながら本を読み進めるけれど、隣の彼女は一向に立ち去る気配がない。

横目でチラリと桜木さんを盗み見すると、頬杖ついて川の流れを涼しげな表情で眺めていた。