通学で毎日通っているはずなのに、全然気が付かなかった。

一分一秒でも早く、灼熱地獄から解放されるために必死こいて自転車を走らせているせいか。

もう少し周りを見る余裕を持たないと損をするって、こういう事なのかもしれないな。


「……藤原君?」

「え?」


自嘲して、本の続きを読もうかと思った時、不意に声をかけられてそちらを振り返った。

そこにいたのは、トートバッグを肩からかけた女の子。

彼女の肩にかかる髪が、ふわっと風で揺れる。

私服だったから、一瞬誰だかわからなかった。


「あー……桜木さん?」

「そうだよ。そんなにわかりにくかった?」


僕の反応が可笑しかったのか、桜木さんはクスクスと笑った。


「あ、ごめん。私服姿見た事なかったし、髪もいつもと違うから……」

「あ、そうだよね。学校じゃあんまり下ろさないから……隣、座っていい?」

「どうぞ」


僕の隣を指さし、桜木さんが聞いてきたので、頷いた。