「で、千鶴はクラリネットとオーボエをしたいと…」
「はい。オーボエは先輩たちが卒業するまで出来なさそうなので、クラリネットで修行して、将来的にはオーボエをしたいなって…」

 そう、私は第一希望にクラリネットとオーボエ、二つの楽器を書いていた。

(オーボエに関しては募集してなかったから、多分先生も混乱しているのよね…)

 こうなることは予想していた。それを覚悟の上で、第一希望に二つの楽器を書いた。

「——ふふ…はっはっは!」
「先生…?」
「いや、すまない…これほど熱意のあるやつは久しぶりに見たからなあ。」
(⁇)
「それと、クラリネットもオーボエも家にあると…」
「あ、はい。」

 そう、私は既に楽器を購入していた。りく助こと、千鶴陸羽。私の父の兄、つまり伯父である人。楽器店に勤務しているため、それなりに楽器のことは分かるらしい。まだ誕生日は先だったけど、『誕生日プレゼント』としてクラリネットとオーボエをりく助に買ってもらった。

「まあ、分かった。しばらくはクラリネットにいることになると思うが、いつかはオーボエに入ってもらおう。」
「⁈はい!」

「あれ?星那戻ってくるの早かったね。」
「そうかな?」
「楽器、どうなったの?」
「それはみんな確定してからって約束でしょ?」

 流石に言えない…クラリネットはまだしも、オーボエまで確定しちゃってるだなんて…

(でも、オーボエは家で練習しないと流石にできないよね…)

 そう、クラリネットとオーボエは何もかもが違う楽器なのだ。吹き方も、指使いも、音域も。

(はあ…たくさん練習しないとなあ…)

 ♢ ♢ ♢

 別室で一通り生徒と会話し終えた宮下は、星那のことを思い出していた。

「まさか、“あの時の私”のような生徒に会えるだなんてな…」

 そう、宮下も学生時代にクラリネットとオーボエを兼任していた。

「というか、色んな生徒と似ているのだよな…」

 宮下が一番似ていると感じたのは、過去の宮下ではなく、主野未来だった。

『主野は絶対にトランペットをしたい、と。』
『…はい。』
『まあ、ここの第一希望の欄に“絶対”って書いているからなあ。』

 主野は今と比べると、元気な感じはあまりなかった。ただ、今も昔も瞳の奥で小さな炎が燃えているようにも感じられた。

「主野と同じように、千鶴の瞳の奥にも何か炎が見えたのは、気のせいかな…」

 主野は残念なことに定員オーバーしているパートを選んでいたので、やむを得ずくじ引きで決定した。だが…

「千鶴の第一希望は定員オーバーもしていないし、熱意があったからな…きっと、ここの吹奏楽部は安泰だ…」

 ♢ ♢ ♢

(オーボエ…クラリネット…オーボエ…クラリネット…)
「——いな?星那?おーい、千鶴?」
「⁈」
「あ、良かった。ずっとぼんやりしてたから。」

 目の前には、結乃。

「大丈夫?体調が悪いとか、そんなのじゃない?」
「あ、うん…ちょっと考え事をしていただけ。」
「ならいいけど!」

 私、さっきまで何を考えていたのかな…?

「もうすぐ六華も戻ってくるはずだし、もう起きておきなよ。」
「うん。」