「千鶴星那…っと。よし、書けた。」

 今、私が書いているものは、クラブ入部届。四日間のクラブ体験を経て、吹奏楽部に入部することにした。

(まあ、吹奏楽部以外のクラブには見学に行ってないんだけどね。)

 明日には担任の先生に提出して、晴れて吹奏楽部に入部することになる。

「オーボエ、吹きたかったなあ…」

 とはいえ、担当がもう三人もいるのであればどうしようもない。二年ほど待てば何とでもなるだろう。

「結局、六華も結乃も吹奏楽部に入るのよね…」

 六華は電子楽器が使えるのなら吹奏楽部でいいと言い出し、結乃は弓道部の大変さを目の当たりにしてしまい諦めたとのこと。

「やるならクラリネットかなあ…」

 折角なら”あの人”に頼むか。

「電話、かかるかな…」
『おお、おほしか。』
「りく助、ちょっと頼みたいことがあるんだけど…」
『——ああ、分かった。おほしの頼みなら何とかしてやろう。』
「ありがとう。また連絡する。」

 ♢ ♢ ♢

「今年は15人の新入部員が来てくれました。はい、拍手。」

 放課後、新入部員歓迎会が開かれた。

(結構多いのね…変に緊張しちゃう…)

 一通りの説明を受けた後、新入部員だけ部屋に残された。

「最後に、この吹奏楽部に伝わるある魔法をかけよう。」
(…は?)

 そんな訳がない。ここはただの中高一貫校。魔法使いだなんている訳がない。そうだ、これは比喩表現に違いない。魔法だなんてそんな…

「目は閉じておけよ。3、2、1…」

 先生が指揮棒を構えたその瞬間、辺り一面に光が放たれた。赤、黄、緑、そしてこの前見たものと同じような、青。

「よし。もう良いぞ。」
「え…?何も変化はないですけど…」
「何が起きたの?」

 ざわざわとする部屋。

「これはお遊びの魔法なんかじゃない。正真正銘、本物の魔法だ。まあ、レパートリーはこれしかないけどな…」

「「「「「「「「「「「「「「「え⁈」」」」」」」」」」」」」」」

 きれいにはもった。

「詳しいことは、まあいつか話すが…一応魔法が使えるんだよ。」

 驚きでしかない。こんなことなんて本当にあるんだ。

「みんなも楽器が演奏できるようになれば、きっとこの魔法が花開くだろう。今日からの目標は『最高の演奏をたくさんの人に届ける』だな。」

 初っ端からとんでもない展開だ。本当にここはただの中高一貫校なのか本気で疑いたくなる。今、私の身の回りで起こっていることが全て信じられない。

「あ、星那がまた…」
「本当だ…保健室の先生に説明するのが面倒なのに…」
(六華…結乃…ごめん。)

 またふわふわしてきた。頭の容量がキャパオーバーしそう。

「あー、君か。この前得体のしれないものを見て気を失った者というのは。」
「え?なぜそれを…」
「そりゃあ、学校の先生同士で共有するべき問題だからな。」
(え?)
「あの得体のしれない光こそが、私たち吹奏楽部の魔法だよ。」

 その瞬間、またしても先生の指揮棒が光った。

「この魔法が何かを救うことはない。だが、人々に感動を与えることはできるのだよ。」
(なんか強者っぽさを感じる…)

 この吹奏楽部、何だかおかしなことが起こっている気がする…そう思ってしまった星那であった。